第13話「チーム編成会議」




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 冒険者学校は、迷宮都市の教育機関の中でも極めて特殊な位置付けにある。

 元々、外の世界のどこを見渡しても義務教育なんて概念は存在しないが、迷宮都市も教育が義務化されているわけではない。小学校、中学校、高等学校、大学と、前世に近い括りで学校が存在していても、所属は任意だ。迷宮都市出身者は日本と近い感覚で通う事が多いものの、全員が通うわけではないし、逆に迷宮都市に来た外部出身者が通う事もある。

 冒険者学校はそれよりも更に独自性が高く、一般的な学歴としては扱われない。後年創設された幼年部は通常の小学校とほとんど同じ扱いだが、本校はあくまで冒険者という専門家を育てるための育成機関であって、勉強をするところではないのだ。

 年齢も学歴も不問。ただ、一定以上の学力と冒険者の素養、あとは多少高めな学費があれば入学可能、という条件は一見門戸が広く開かれているように見えるが、その実際は厳しいものである。まあ、一定以上というのが日本でいう高等学校卒業程度、というのは科目が限定されているにしてもなかなかにハードな要求だろう。少なくとも、外からやって来た冒険者が容易に潜れる門ではない。

 運動能力も重要だ。冒険者の卵なのだから当然ともいえるが、入学時点でトップアスリートのような身体能力を保有する者も珍しくないらしい。前衛志望でなくても、並以上のフィジカルを備えているのが普通だ。

 就学期間の三年というのも、順当に課題をクリアしていった場合の最短期間である。簡単には進級できないし、留年も珍しくない。卒業試験に至ってはトライアル攻略とイコール、つまりミノタウロスの撃破だ。普通に考えて、いくら専門教育を施したとはいえアレを攻略するのは困難だろう。単純に比較できるものではないが、訓練を積んだからといって日本の高校生、大学生がミノタウロスと対峙できるか、と考えると違いが分かりやすいと思う。

 つまりあの学校は入学するだけでも大したもの、卒業できれば冒険者としてはエリートに分類される類なのである。ディルクやセラフィーナのような極端な例は置いておくにしても、小学校を卒業して即入学したクロたちは飛び級しているようなものだし、普通に入学・卒業した生徒にしても、外で冒険者やっていた連中とは比べ物にならないエリートなのだ。

 それは、迷宮ギルド職員ククリエール・エニシエラも同様である。

 無限回廊十層を単独攻略できないとはいえ、学校を卒業しデビューまで漕ぎ着けたという事実だけで十分優秀だ。眼鏡っ子で喧嘩なんてしそうにない風貌でも、冒険者としての最低条件はクリアしているのだから、一般人と比較できるようなものではない。そこら辺の酔っ払いが間違って喧嘩売ろうものなら、ボコボコにされてしまう事だろう。


「というわけで、今度のクラン内対抗戦に参加してみないか?」

「何がというわけでなのかは分かりませんが、また無茶振りを……」


 脳内での長い前振りのあと、ククルにクラン内対抗戦のメンバー打診をしたところ、返ってきた第一声はおおよそ予想通りのものだった。普通に考えて、冒険者として活動していない相手を引っ張り出すのだから当然ともいえる。

 ただ、今回のイベントに必要な最低条件はクリアしているはずだし、現時点でほとんど一般人なサンゴロよりは遙かに強いだろう。ユキの提案を聞いた時はびっくりしたが、言われてみれば選択肢としてはアリじゃないだろうかと納得もしてしまった。


「気軽な感じでいいと思うぞ。ユキの< 五つの試練 >ってわけでもないし、負けた場合のペナルティも奉仕活動くらいらしいし」


 普通のダンジョン攻略とも言い難い。あくまで主体は異世界交流。身内向けのイベントなのだ。

 対抗戦の形式をとっていようが、何がなんでも勝ちにいくという奴は……いるな、たくさん。ウチ、そういう奴らの温床だ。……少なくともハードな攻略を強要する事はない。


「迷宮都市市民としては、四神宮殿に行くなんてそれだけで途方も無いビッグイベントなんですけどね。渡辺さんには分からないでしょうね……」

「分からん」


 だって、それ以上のイベントがゴロゴロしてるし。

 俺にとって四神宮殿は、重要らしい施設以上のものではない。政府が指定をした立ち入り禁止区域のようなものである。

 四神にしてもあまり神様という感覚はない。主にエルゼルやティグレアが原因だが、面と向かって話ができる相手は超常の存在として認識し辛いだろう。


「ウチのマネージャーやるなら、多分これからも行く事になると思うぞ。四神宮殿だけじゃなくて、それ以外の重要っぽいところにも。そもそも今回だって、参加しなくても現場には来てもらう事になるだろうし」

「それが嘘でも冗談でもないってあたり、本当に大変な事ですよね」

「大気圏外とか興味ある?」

「……聞かなかった事にします」


 今後月に行く用事があるかどうかは分からないが、少なくとも異世界に行く可能性は高い。戦地ってわけでもないんだから、そこにマネージャーが同行する可能性だってあるだろう。遠征の時、クラン関係なく同行していた事を考えるとウチ所属じゃなくても発生するイベントかもしれないが。


「まあ、そこら辺は今は置いておくとしてだ。どうせだったら、クラン内でフルメンバー揃えてみたくない?」

「そうですね。私も元々が冒険者ですから、そういうロマンは分からないでもないです」

「無理強いはしないし参加しても大した旨味もないだろうが、リスクも時間を取られるくらいだ。興味があれば参加して欲しいんだよな」


 ダメな場合は、一人足りないチームに何かしら優遇処置をするか。加減が難しいんだよな。


「実はですね……この話、概要だけですがディルク先輩からも聞いてたんですよ」

「あれ、そうなのか」


 話した時、思ったより驚いてないなとは思ったが、そういう事か。

 あいつもメンバー全員の情報は持ってるし、少し考えればサンゴロを参加させるのに無理がある事も分かるだろう。となれば、次に声がかかるのがククルである可能性に至ってもおかしくない。


「その時にですね、……その、色々言われてしまいまして。まあ、主に私の心構えと今後の立ち位置についてなんですが」

「発破でもかけられたとか?」


 ラディーネから聞く限り、ディルクは冒険者って職業の在り方に強いこだわりを持っている。ある程度仕方ない面があるにせよ、ククルに思うところがあるのだろうか。


「ええ、結構キツイ事をぐうの音も出ないレベルで……反論すらできない正論を投げかけられました。ある意味、それはギルド職員になってから疑念を抱き始めた、冒険者の在り方についての一つの正答です。あと、直接関係ないですが、渡辺さんの卑劣さについての愚痴を少々……残念ながら、どっちも共感してしまいました」

「後者は共感して欲しくなかった……」

「いや、有効なのは分かりますけど、ひどいですよアレ。言い分も分かるので否定はしませんけどね」


 セラフィーナを取り込むためには仕方なかったんだよ。ディルクのマイナス分を考えても、クラン全体としてはプラスだと思っている。

 あのままじゃ、入団したとしても期待の大型ルーキーを十全に活かせない。言ってみれば、これはあの狂犬を真っ当に……いや、真っ当以上に動かす方法を確立したという事なんだ。ディルクの事を餌にすればセラフィーナはその強力な実力以上に頑張ってくれるはず。その下地を整えたのは大きい。つまり俺は間違っていないのである。そう、ファインプレーと呼んでほしい。……って、それは今回の件と関係ない。


「そんなわけで話自体はお受けします」


 少し真面目に説得しようかと意気込んでいたら、意外にも素直に了解をもらえてしまった。事前に説得の材料は用意していたのだが、無駄に終わってしまったらしい。


「いいのか? 正直、駄目元だったんだけど」

「いいんですよ。未練はありませんし、本格的に冒険者に戻るつもりはありませんが、自分の本当の限界を知るいい機会かと。それで、時期はいつ頃になるでしょうか? バックに四神様がいらっしゃるならギルドの仕事も調整できますけど、事前にある程度は話を通す必要があるので」

「詳細は決まってないが、時期は遅くとも一月中。期間は三日間を予定してる。[ 四神の練武場 ]内は時間調整できないらしいからリアルタイムだ」

「有給とらないといけないですね」

「マネージャーの仕事扱いになりそうなもんだが」

「冒険者として参加すると、その辺りが面倒なんですよ。申請は通り易いと思いますけど」


 デスペナルティもアイテムロストもないが、ベースレベルは上がらないし、時間もそのまま経過する。週一のダンジョン挑戦権も必要ない。事前の準備すらあまり必要ない。一般的な消費アイテムはあちらで用意してくれるらしいし、弾薬なども経費扱いだ。期間中の食事も向こう持ちである。ただ、チーム編成は事前に決めないといけない。


「じゃあ、メンツは決まりだな。ククルから所属チームの希望はあるか? まだ編成方法も決まってない状況だけど」

「パンダとは別のチームでお願いします」


 即答である。


「……それ、克服する気とかない? 今後クランハウスはパンダが闊歩するわけだし」


 居候は立ち入り禁止部分を決めるっていう手もあるが、マイケル、ミカエル、アレクサンダーの三匹は冒険者だから制限する理由がない。

 ラディーネから、憂さ晴らししたいならミカエルを燃やしていいって許可はもらってるぞ。


「少し時間を下さい。……恐怖症ってわけじゃないんですが、あの間抜け面がムカつくんですよね。見分けつかないのも問題で、同じ存在にしか見えなくて……」

「どストレートな嫌悪感だな。何回も殺されてるわけだし、分からんでもないが」

「あ、チーム編成に関してもう一つ、ディルク先輩のチームからは外してほしいです」

「……色々言われた件で?」

「向こうはなんとも思ってなさそうですが、やっぱりしばらくギクシャクしそうなんですよね。三日間同じチームというのはちょっと……」


 クランとしてはあまり好ましくない状況ではあるが、何も言い合えない環境よりはいいだろう。全員と関わる可能性が高いマネージャーならなおさらだ。

 ウチは物事をはっきり言う奴が多いから、溜め込みそうな奴のケアは考えたほうがいいかもしれない。……そういう奴、誰かいたっけ? 摩耶は多少その兆候はあったが、それも最初だけだ。……それほどじゃないが、ティリアくらいだろうか。あまり自分から発言しないタイプだ。

 こうして見ると、ウチって我が強い奴ばっかりだな。協調性がないわけじゃないのに、個々人のアクが強過ぎる。そら、中にはぶつかる奴もいるさ。


 そこら辺は今後の課題として、これでクラン内対抗戦の参加メンバーが確定した。

 二十四名。よくよく考えてみたら結構な人数だ。クラン設立しろと言われた当初、俺、ユキ、サージェスしかいなかった事を考えると随分遠くに来た気がする。

 空龍たち三人とククルを含んでいいのか分からないが、これに加えてサンゴロ、サティナ、あと可能であればレーネ、これが今後クランとしての基本体制になる。無限回廊攻略を進める前提で考えるなら、おそらく少数精鋭もいいところだろうが、少人数故のフットワークの軽さを活かしていきたいものだ。


「クラン設立に関しても、とりあえず、可能な限りククルが考えてくれた最速案で突っ走りたいと思ってる」

「自分で言うのもなんですけど、アレ相当無茶なスケジュールですよ」

「いいんだよ。資格と手続き上の問題だけで、どうしても不足してるって部分がないんだ。なら、遅らせる理由がない。差し当たっては、今年度中、ディルクやリリカが中級ランクに合流してくる四月までに無限回廊第五十層を突破して、時間のかかるクランマスター講習の資格を早めに得る事が目標になる」


 所属する人数が足りないとか、GPを稼ぐあてがないとかじゃないのだ。ここまで打ち立ててきた最速記録に比べたら楽なもんだろう。

 となれば、理論上の最速を目指したい。失敗しても多少遅れるだけだが、目指すのは勝手だろう。

 ……トマトさんより早くクラン設立できたりしてな。




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 クラン内対抗戦の懸念事項が消えたところで、それとは別にもう一つ片付けておきたい事がある。俺に呪いをかけると脅しにかけてきた謎の少女の調査だ。

 市民権を持たない者が多数住み着いている王都とは違い、迷宮都市の住民情報はしっかりと管理されている。特権的に情報が隠蔽されている人もいるが、それは本当に一部だけ。エリカは怪しいことこの上ない存在であるが、迷宮都市にいる以上は登録情報は存在するはずだ。

 年末年始の休業が終わり、ギルド会館が一般営業に戻った事で四階の資料室も開放された。ここなら、たとえ冒険者でなくとも名前程度であれば検索できる。ここで情報がないようなら、その隠蔽された一部かそれとも偽名か、という事になるだろう。


「さて、どうしたもんか……」


 結果から言ってしまえば、エリカ・エーデンフェルデという人物は迷宮都市に存在しなかった。

 試しにエーデンフェルデという名で調べてみても、冒険者としての登録はリリカの一件のみだ。エリカ・エーデンフェルデで検索すると、『もしかして:リリカ・エーデンフェルデ』と表示されてしまう。どこの検索エンジンだ。

 それだけではない。帝国、そして王国に登録されている名簿にも見当たらない。エーデンフェルデに似た家名の登録もなく、分家筋にもエリカという名前はない。つまり、貴族として登録されていないという事だ。

 となると偽名という線がありそうだが、それもどうだろうかとは思っている。出自を偽るならそもそもエーデンフェルデと名乗る必要はない。たとえば王国では貴族以外にも家名を持つ者はいるのだから適当に名乗ればいいし、名前だけでもいいだろう。わざわざ足の付き易い大貴族の家名を名乗る意味がない。

 その情報を追って行く過程で、エイサンダリアという家がエーデンフェルデの遠い親戚筋に当たる事を知ったが、これはあまり関係ないだろう。クロのパーティーにいるロロが、リリカのすごく遠い親戚かもしれないというだけのトリビアだ。本人たちが知らない可能性も高い。

 ならばと、エリカという名前だけで調べてみたら数件ヒットしたものの、やはりそれらしい人物はいなかった。


 あいつは一体何者なんだろうか。

 リリカが言うには、《 魂の門 》は門外不出の奥義だ。エーデンフェルデ本家の人間も知らないらしいし、それを偶然知ったとは考え難い。詳細について熟知しているのはリリカ本人と、故人であるリリカの師匠だけ。いつの間に会ったかは知らないが、ダンマスや迷宮ギルドのマスターには話したらしいので、そこ経由の情報というのが一番有り得そうだ。

 あと一点気になっている事がある。エリカ・エーデンフェルデは果たして< 魔術士 >なのかという事だ。

 確か、本人は超すごい魔法使いと言っていた。俺の認識であれば魔術士だろうが魔法使いだろうが大した違いはないのだが、以前リリカから説明を受けた魔術と魔法の違いを前提に考えるなら、< 魔術士 >自身が魔法使いを名乗る事は少々不自然だ。< 魔術士 >にとって魔法とは理屈が説明できないもので……つまり、良く分からないものを使う人ですって自己紹介しているようなものだろう。

 ……なるほど、確かにそんな自己紹介する奴は違う意味で超すごいのかもしれない。恐るべし。……あるいは狙って言ってるのかもしれないな。

 呪いをかけると言いつつ内容が質屋のババアのセクシーシーンというあたり、明確な敵対存在とも思えない。

 いや、確かに俺にはピンポイントで大ダメージを与える呪いではあるし、それが冗談でも尻込みするほどの効果はあるが、いざという時に躊躇するような内容じゃないだろう。……というか、質屋の巨大ババアの事を知ってるって事は、迷宮都市に住んでるって事だよな。それも質屋の用途からして、冒険者である可能性は高いはずなのだ。


「あ、いや……まてよ」


 ふと、もう一つの可能性に思い当たった。

 あいつの登場シーンはネームレスのそれを想起させるものだった。同じものではないんだろうが、あれが別の世界からの干渉だと考えるのはどうだろうか。

 ネームレスや皇龍の世界のように完全な異世界ではなく、もっと近い……この世界と同じ迷宮都市が存在するような平行世界。そこにはエリカ・エーデンフェルデという冒険者が存在し、リリカや俺もいる。それなら強引だが説明は付く。平行世界のルールなんて知らないし、あくまで適当な想像の上に結局あいつが何をしたいのかも分からないから、何も進展してないのだが。

 結局こうして調べても、分かったのはあいつが正体不明という事だけだ。

 ……去り際にまた次回と言っていたから、あいつとはもう一度は会う事になるのだろうとは思う。言動から考えるに、それはおそらく《 魂の門 》を潜ったあと。……その時には、正体をはっきりさせてほしいものだ。




「あれ、渡辺さんも明日の調査ですか?」


 資料室の端末を前に唸っていると、横から見知った相手が話しかけてきた。私服の黒スーツを身に纏った、摩耶だ。

 ……そういえば、明日のダンジョン・アタックに向けてサーペント・ドラゴンの情報を集めてもらっていたな。かなり前に成形された資料をもらったが、調査自体はまだ続けているって事なんだろうか。


「いや、こっちは別件だ。悪いな、任せっ切りで」


 ダンジョン・アタック前の情報収集役は基本的にユキか摩耶、あと時々ラディーネが担当している。

 最初は俺たちも手伝っていたのだが、今は情報収集に適性のある三人が率先して対応する事が多い。情報局所属のディルクが合流すれば、こういった作業はあいつが担当する事になりそうだ。……あいつの場合、収集するまでもなく情報を持ってる可能性もあるが。


「誰かがやるべき事なんで、それは別に。それに、今日はサーペント・ドラゴンの事を調べてるわけでもないですよ」

「違うのかよ」

「そろそろ五十層攻略も考える時期ですからね。八本腕と、第四十一層以降に出現する討伐指定種の情報を中心に、一通り遭遇する危険のあるモンスターを網羅しておこうかなと」

「カラクリ武者か。あいつも面倒臭そうだよな」


 八本腕というのは第五十層のボスで、いつか見たアーシャさんの動画でも戦っていたモンスターだ。

 文字通り八本腕があるカラクリ人形で、縦横無尽に多彩な攻撃を仕掛けてくる。しかも、状況に応じて使用する武器を切り替えてくるという難敵だ。

 すごーく既視感を覚える戦術だが、まんま俺やダダカさんと同じ戦い方である。武器を切り替えてスキル連携してくるところまで同じだ。自分の事でもあるしダダカさんともよく模擬戦をやるわけだから手の内が読めると言いたいところなのだが、厄介な事にあんまり有効的な対応方法がない。夜光さんのようにスキルを無駄撃ちさせる技術があれば別だが、意識的に連携ミスを誘導するのは難しいだろう。八本の腕はバラバラに行動するらしいし。

 ただ、五十層以降でも通用する装備や素材をドロップする事も多いらしいので、フロアボスとしてはかなり人気者である。動画サイトには多彩な撃破シーンのみを編集して繋げただけのネタ動画も存在するくらいだ。なんの参考にもならん。


「アレ、調べれば調べるほど渡辺さんの姿が被って見えるんですよね。追い詰めたら狂化するところとか」

「あんな良く分からないカラクリ人形と一緒にするな。……八本腕はともかく、討伐指定種まで網羅するのは厳しいんじゃないか? 遭遇履歴のない奴は情報ないし」

「それでもある程度傾向は掴めますからね。いつかのワイバーンのような事態を考えるなら、できる限り把握しておかないと。現在唯一の< 斥候 >役なんで、必然的に渡辺さんと同じパーティになりますし」


 現時点でダンジョン探索に必須な< 斥候 >の役割を摩耶以上にこなせる奴はいない。おそらくユキ、ラディーネ、ディルク、アレクサンダーあたりが近い技能を習得、あるいは機能を搭載するだろうが、本職には敵わない。となると、当然初挑戦の層ではスタメンを張ってもらう事になる。戦闘力もあるから外す理由もない。

 今後、他のメンバーが< 斥候 >として摩耶の能力を上回るのはなかなかに難しい。可能性があるのは、未知の部分の多い新人くらいだろう。サティナやゴブサーティワンは適性ないっぽいし、サンゴロがワンチャンあるくらいかな。まずはデビューしないと始まらないわけだが。


「つっても、俺が討伐指定種を呼び寄せてるわけじゃないぞ」

「遭遇率が極端に高いのは事実です。なら最初から遭遇する前提……特に初挑戦する層では遭遇するという心構えでいたほうがいいでしょう。実は明日のアタックでも遭遇するんじゃないかと思ってますよ」

「イベント考えるとデスペナルティ喰らってられないからな。出てこないほうがもちろんいいんだが」


 摩耶の言う通り、出てきそうな気もする。


「いっそ、討伐指定種の撃破記録を塗り替えてみましょうか」

「本職の< バウンティハンター >さんたちには敵わんだろ」


 攻略の片手間で退治している俺たちが、ずっと討伐指定種だけを追ってる人たちに勝つのは難しいだろう。記録更新のボーナスはもらえるならもらいたいけど。


「こちらには、レアモンスターホイホイの渡辺さんがいますし、百十二種討伐の記録くらいすぐですよ」

「毎回遭遇しても二年以上かかるじゃねーか」

「片手間に二年で追いつかれたら、本職の人たちは堪ったものではないですね」


 遭遇したパーティに便乗して傭兵扱いで参加する彼らとは事情が違う。偶発的な遭遇に頼るなら、いくらレアモンスターホイホイでも無理があるだろう。

 一回のアタックで複数体出てこられても困るしな。ワイバーンやオーク・チャンピオンにどれだけ苦戦したか知ってるだろうに。


「……まあ、明日は大丈夫だろう。これまでのパターンからいって、大きなイベントは連続しない。クラン内対抗戦を控えた今ならきっと遭遇しないはずだ」

「本来、遭遇しないのが当たり前なんですけどね」


 そういう事を言っているとフラグが立っちゃうんだぜ。ピコーンって。




-3-



[ 無限回廊 第四十層 ]


 眼前に広がるのは、見渡す限りの水面。壁や床自体がぼんやりと発光するダンジョン内にあっても、水の中は暗く底まで見通せない。覗き込めば引きずり込まれそうな闇だ。

 遠くに目をこらしても対岸は視認できない。事前の情報だと一応端はあるらしいが、ただの壁なので俺たちが足を下ろせる地上部分は実質入り口部分のみという事になる。洞窟の内部だから超巨大地底湖とでも呼ぶべきなのだろうが、夜の海にしか見えない。事前情報があっても、実際に目にした感想はまた別物だ。こうして実際に目にすると、規模の大きさにげんなりとさせられる。

 通常、無限回廊を含むダンジョンのボス部屋は専用に用意されているのだが、ここはフロア全体がボス部屋という扱いらしい。これまでと随分勝手は違うが、俺たちはボスの領域に足を踏み入れているという事になるのだ。

 ただし、肝心のボスであるサーペント・ドラゴンがどこにいるかは分からない。第四十層では、まずこの広いフロアからボスを探す事から始めないといけないのである。探索、捕捉を含めてボス戦なのだ。


「探査のほうはどうだ?」

「聞いていた情報から想像していたよりもずっと広い。ついでに言うと、湖底部は相当地形が入り組んでいる。サーペント・ドラゴンの巨体でも隠れる場所は多そうだ」


 携帯用の小さいモニターと専用端末を手にしたラディーネは、振り返る事なくそう返答した。探査に使用している蟲は自動で動作するので監視する必要はないのだが、何か細かい調整でもしているのかもしれない。

 本来、他の冒険者はこの広大な水中エリアを地道に探索してボスを発見、相手の得意フィールドで戦闘に入らなくてはならない。< 地図士 >だろうが探査用スキルを持つ< 魔術士 >だろうが、その知覚範囲には限界がある。ラディーネという反則気味な探査力がある俺たちはかなり楽をしてるはずだ。遠隔操作可能な蟲はこの状況にはうってつけのアイテムだろう。


「今回で、少なくとも地形は丸裸にしておきたい。サーペント・ドラゴンの巨体と習性から警戒の必要なポイントは絞れるはずだ」


 一箇所で待ち構えてくれるのなら力技で突破するという手もとれるのだが、サーペント・ドラゴンは移動する。それも、対冒険者を想定して自分に有利な状況を作り出す。厄介な事に、サーペント・ドラゴンは自分の子供……なのかどうかは知らないが、小さい海竜を探査に出し、こちらの位置を捕捉してくるらしい。

 探査合戦で負ければ奇襲を許してしまうかもしれないし、不利になれば逃げられる可能性もある。時間内に仕留められなければタイムオーバーで強制帰還だ。ここでは強力な探査能力と迅速な行動、そしてサーペント・ドラゴンを仕留めるための水中戦力が求められる。

 こういった相手有利なフィールドが用意されている関係からか、サーペント・ドラゴン自体の能力は抑えられているらしいが、そんなものは関係なく脅威であり難関だ。


「……これは、予定通り時間制限待ちだね」


 暗い水面を覗き込みながらユキが呟く。

 元々の予定でも今回の攻略で四十層を突破するつもりはなかった。あわよくばなんて期待もしたが、このフィールドでぶっつけ本番をやるほど水中戦闘に自信は持っていない。今回の目的はこの四十層のフロアを直に確認する事と地形の調査、ついでに可能であれば水中戦闘の実戦。そして、そのまま時間切れを待ってギブアップという段取りだ。必要ならぶっつけ本番もやるが、石橋を叩けるなら叩く。

 そもそも、道中の水没したフロアを抜ける程度なら全員が克服しているが、さすがにボス戦に挑むような段階には至っていない者も多い。ガウルなんて、ここに来る途中で溺れかけたからな。

 デスペナルティ喰らって、クラン内対抗戦を延期させて下さいなんて言ったら怒られてしまうだろうし。


「対抗戦のあと、フロアが再構築される手前ギリギリで挑戦だな」

「メンバーは?」

「俺とお前、サージェス、摩耶、キメラは確定。あとは、水中用装備の慣熟訓練が間に合うならボーグだな。ダメならラディーネ」

「防御は捨てて速攻か。……まあ、そうなるよね。ティリアはまだ無理っぽいし」


 この状況でサーペント・ドラゴンに挑むなら、可能な限り情報を収拾した上での速攻にせざるを得ない。それができるメンツだって限られてしまう。

 現時点でまともに水中戦ができるのは最初からある程度戦えたサージェスと摩耶、装備を極限まで減らした俺、水中用の装備にいち早く対応したユキ、水棲モンスターの部位を取り込んで縦横無尽に暴れるキメラくらいだ。というか、この中だとキメラが反則気味に強い。

 次点でラディーネとガウルはなんとか戦えるといったところ。ティリアは装備の関係もあってちょっと厳しいだろう。現時点だと水底を歩くくらいで限界だ。

 ガルドにお願いすれば一発でも抜けられるだろうが、今後の事を考えると避けたほうがいい。それだと水凪さん外してる意味もないしな。


「ラディーネ、ボーグの換装はいつくらいになる?」

「装備自体は完成している。あとは慣熟訓練……ちっ、機雷に接触した。相当見辛いな」


 返答を遮るように、ラディーネの見ていた携帯モニターに変化があった。遠目では画像にノイズが走っているように見える。


「探査蟲が壊されたの? 攻撃?」

「いや、おそらくサーペント・ドラゴンの機雷だ。損害は軽微だから探査に支障はない。どちらかというと冒険者の行動を阻害する類のものらしいから、威力はさほどでもないんだろう」


 水中に配置された機雷はサーペント・ドラゴンの体の一部だ。随分と謎な生態をしていると思うが、皮膚に穴が開いていてそこから射出するらしい。再発動までの時間が長いから、いざ戦闘という時に目の前で大量展開される可能性は低いが、こうして事前設置して探査の邪魔をしてくる。威力が低いとはいえ、生身で喰らえば被害もあるだろう。戦闘中に機雷ゾーンに誘導されたりしたら、戦闘どころではない。

 機雷があるという事はサーペント・ドラゴンがそこを通ったという目印にもなるのだが、向こうもそれは分かっているので手当たり次第にバラ撒く事はしない。そうして、手をこまねいている内に時間が経過すれば機雷が大量に配置されてしまう。ここの攻略制限時間は手前の層と同じ三日だが、そんな時間をかける余裕はない。

 生体の一部を機雷にしてるわけだし、量に限界があればいいんだが、調べてもそんな記録はないんだよな。


「昔から、このフロア最大の難関は敵の捕捉だったらしいからな。攻略方法が確立された今でも、一番の難所はそれだ」


 ちなみに、表向きこの層を最初に攻略したのは< ウォー・アームズ >らしい。その中にはトカゲのおっさんたちも含まれている。爬虫類だからかおっさんは水にも強いし、ペルチェさんに至っては水中は自分のフィールドだから、正に独壇場だったようだ。

 水の中もそうだが、< ウォー・アームズ >のような多種族で構成されたクランは、様々な環境に適応できるという強みがある。ウチも人間じゃない種族が多いんだが、絶対数が少ないから組み合わせるパターンも限られてしまう。


「……ここは人海戦術といこう。予備の蟲をすべて投入して、機雷を設置される時間よりも早くフロアの構造を暴き出す」

「今回は探査目的だからそれでいいと思うが、蟲に機雷を感知させて避けさせたりはできないのか?」

「アクティブ・ソナーを使えば感知できるが、モンスターに捕捉されるからダメだ。これが遠隔操作型かせめて機械式なら、ジャマーで沈黙させるという手もあるんだがな。……見えないわけではないから、探査範囲に設置された機雷の位置情報は収集する。傾向くらいは掴めるかもしれない」


 そう言って、ラディーネは《 アイテム・ボックス 》からバッグを取り出し、予備の蟲の調整を始める。

 ……なんという面倒なフロアだ。SLGだったら一回攻略したら二度と挑戦しない類の面である。俺たちの場合は、全員が抜けるまで攻略しないといけないのだが。


「ユキはトポポさんに話聞きに行ったんだろ? 機雷処理の方法とか聞いてないのか?」

「聞いたし対応方法もあるけど、爆破させたほうが早そう。トポポさんみたいな専門家じゃないと厳しそうだよ」

「相手を捕捉したら誘爆用の装置を投入して強行突破する、というのが現時点で一番現実的なプランだろうな。ボーグに使い捨ての加速装置を付けておくから、本番では全員でしがみついて突入するといい。本番は時間との勝負だから、逃がすなよ」


 ボーグはどこに向かっているんだろうか、という感じである。その内、空飛んだりしそうだ。




「どうだ調子は。そろそろ雑魚狩り始めてもいいか?」

「もう少し待ってくれ。サーペント・ドラゴンの位置が捕捉できていない」


 入り口付近でテントを張っていたガウルが近付いて来た。どうやら設置作業が終わったらしい。

 コテージが展開できれば良かったのだが、ここは地面の面積が少ないので、寝床を確保するにはもう少し小さいテントを使うしかない。……といってもワンタッチのものだからガウル一人でも問題はなかっただろう。時間がかかったのは、摩耶を寝かせてきたんじゃないだろうか。

 今回のアタックは探査が第一目標だが、それだけで終わらせるつもりはない。ボスの索敵範囲外での実戦経験を積むという目的もある。ガウルはボスへの初挑戦に参加しない予定だが、今後の事を考えるなら水中戦に慣れておいて損はない。


「摩耶とキメラは?」

「キメラは焚き火であの魚の切り身を焼いてる。摩耶はまだダウンしてるな。しばらく寝かせといていいだろ」

「まあ、いろんな意味で衝撃的なモンスターだったからね。切り身はまあ、ツナとキメラで食べていいから」

「あんまり食いたくないな……」


 食糧難な時期ならともかく、あんな不気味なやつの切り身とか極力食いたくない。是非キメラと水凪さんにお願いしたいところだ。見た事ない奴だったから、珍味と言えば多少不味くても食べてくれるだろう。


「アレと遭遇したのも摩耶がノックダウンしたのも、俺のせいじゃないぞ」

「いや、別にツナのせいとは言ってないよ。……よく遭遇するなとは思うけど」


 実はこの四十層の手前、三十九層にて、俺たちは摩耶が立てたフラグ通り討伐指定種に遭遇した。……遭遇してしまった。

 ここにいるという事実で無事なのは分かるだろうが、いろんな意味で衝撃的な奴だったのだ。細かく描写しても仕方ないネタキャラだったので、俺の脳内ダイジェストをお送りしよう。



 無限回廊第三十九層は比較的オーソドックスな石造りの迷宮と、その各地に見られる水路が特徴的なダンジョンだった。一部水没した道やその間を遮断する檻のようなギミックもあるが、専用のスイッチを探すか、あるいは力技で突破可能だ。ユキさんの《 斬鉄閃 》が大活躍である。

 探索は順調だった。水中で遭遇する魚型のモンスターにも慣れてきたし、地上部まで出張ってくる爬虫類モンスターや魚人型モンスターは陸に誘き寄せて地道に処理すれば問題はない。

 問題の奴が華麗に登場したのは終盤。ラディーネが蟲で探索したマップの終盤近くである。

 突如として輝くスポットライト。渦を巻く水面から華麗に回転しつつ飛び出して来たそいつは、あきらかに普通のモンスターではなかった。多分討伐指定種なんだが、それも実ははっきりしていない。このあと会館に戻って調べれば分かる事なのだが、あいつはおそらく新種だ。

 姿は巨大な鯉に人間の手足が生えた超不気味な怪人だった。魚人型のモンスターとも違う。エラが大きくなったとか鱗が生えたとか、そういう次元の問題ではない。《 看破 》して分かった名前は< 魚マン >。種族分類は< 魚 >になっていたのだが、あきらかに魚とは違う生き物である。分類上そうするしかなかっただけで、実はまったく新しい種族なのではないかと疑うほどだ。

 あまりに不気味な容貌に俺たちが凍りつく中、摩耶だけが『ほら、言った通りじゃないですか』と勝ち誇っていた。まあ、想像していたのとは斜め上方向に違うのだが、間違ってはいない。立てたフラグは確かに回収してしまった。


 戦ってみれば、討伐指定種といっても強さはさほどではなかった。オーク・チャンピオンやワイバーンと比べても何段か格は落ちるだろう。

 ラディーネの狙撃で怯んだ隙を狙ってユキが強襲。最近体得した《 縄術 》と《 ロープ・アクション 》の補正か、見事に捕縛に成功。

 全然関係ないが、俺の名前を連想してしまうので、ロープなんちゃらというアクションスキルは覚えないで欲しいところだ。

 見事緊縛された魚マンは、摩耶が水凪さんから預かっていた巨大刺し身包丁< 怪魚おろし >で文字通り三枚おろしにされた。あっけないが、それで終わりだと思った。

 だが、三枚におろされても魚マンはまだ死んでいなかった。活造りでピチピチしていたとかそういう段階ではなく、文字通り起き上がってきたのだ。……三枚おろしの状態のまま。

 右身、左身、中骨それぞれに手足が生える。意味は分からないが、敵が三体に分裂した。お前らはそれぞれ魚マンと呼んでいい存在なのか。

 疑問ばかりが残る状況で魚マンたちが奇声を上げ、三枚おろしが起き上がってきた事実と謎の『ギョーッ!!』という奇声に動揺した摩耶がモロに攻撃を受けてしまった。

 一体どうやって倒せばいいのか。あいつら切り身になっても起き上がってくるんじゃないだろうか。という不安を抱え、こんな事前調査目的のダンジョン・アタックで無理する意味がないという思いもあって、俺たちは撤退する事にした。というか、不気味過ぎて相手をしたくない。

 まず、キメラが摩耶を抱えてラディーネと離脱。俺、ユキ、ガウルで殿を努めなから後退する。あまり強くない上に分裂した事で更に弱体化が進む魚マンだったが、やはりいくら切り分けても起き上がってくる。こりゃあかんとガウルが《 ブリザード・ブレス 》を放ち、凍結させたところを離脱した。

 しかし水路に飛び込んだあと、わずかな時間で魚マンたちが追いかけてくる。手足を使ったクロールで追いかけてくるという魚にあるまじき行動だ。超キモイ。

 俺は摩耶から回収した< 怪魚おろし >を使い、最近新しく習得した《 流水の太刀 》で応戦。水中でも抵抗を受けずにスパスパと斬れる水中戦特化のスキルだが、切り身になっても増える魚マンたちにはあまり関係がなかった。むしろ切れ味がいい事で美しい刺し身に変貌しつつある。

 応戦しつつ、後退を続ける俺たちの前にキメラが戻ってくるのが見えた。


[ \(^o^)┌→ ]


 くそ、なんて分かり易い道案内なんだ。水中でも問題なく表示される顔文字に嫉妬すら覚える。

 キメラの誘導に従い撤退する俺たち。後退する中でキメラが切り身を捕食したところ、食われた部分は完全に消失した事に気付く。

 最終的には待ち構えていたラディーネが火炎放射器で炙り焼きにし、焼き魚になったところをキメラが次々と捕食するというショッキングな結末になった。

 骨だけは俺が鈍器でバラバラにしたが、いろんな意味で強敵だった。あまり再会したくない類の敵である。ちなみに、捕食したキメラ的にあまり美味しくはなかったらしい。顔文字しか表現方法なくても伝わった。

 まあ、討伐指定種とはいっても、所詮インパクトだけの一発屋だ。ちゃんと倒したから次回は出てこないし、すぐに忘れ去られる運命だろう。鯉だったから、ひょっとしたら五月五日に飾られたりする事もあるかもしれないが、その程度の相手である。


「……超キモかったよね」

「夢に見そうだ」


 ある意味、グラサンパンダ以上の衝撃体験だった。


 というわけで、メインの第四十層探索よりも第三十九層の出来事のほうが印象深かった今回のダンジョン・アタックだったが、これ以上は特筆する事なく終わった。

 探査を続け、フロア構造を把握。補足したサーペント・ドラゴンが近くにいない時期を見計らって水中に潜って実戦訓練を行い、ラディーネが試作した水中戦用装備も概ね問題なく活用できたので、結果は上々といったところだろう。

 水中で使用者を自動追尾する小型のライト。超小型の酸素ボンベ、水中暗視ゴーグル、腰と腕に装着する移動用ウォータージェット。防水加工した衣服や防具。ゴーグルとライトは併用すると目が潰れる危険があるが、上手く使えば水中戦だろうがかなり有利に戦える。これらの装備はユキがずば抜けて適性があったのか、地上での戦いと遜色ないレベルで縦横無尽に動き回る事ができている。肝心の水泳はようやく一人前レベルだが、十分だろう。

 今のところ、最大戦力はキメラだ。水棲系モンスターの部位を取り込んだキメラは、装備がなくても水中を自由自在に移動する。よりグロテスクになった外見は、どこかの邪教の儀式で召喚されそうなレベルだが、見慣れた俺たちには魚マンのほうがよっぽど不気味なのだ。


 会館に戻って報告したらククルに微妙な顔をされたが、これもすでに日常といえる。

 あと、やっぱり魚マンは新種の討伐指定種だった。発見ボーナスももらえたので、結果的には万々歳だ。




-4-




 日が変わって、ギルド会館二階の会議室。クラン内対抗戦の打ち合わせである。


「さて、それではチームメンバーの編成を行いたいと思う」


 ここにいるのはクラン内対抗戦で各チームのリーダーを務める四名。俺、ユキ、ラディーネ、ディルクだけだ。本当は書記役としてククルあたりがいたほうがいいのだろうが、今回は参加メンバーなので公平を期すために欠席である。

 備え付けのホワイトボードにはユキの書いたチームリーダーの名前が一列になっている。ここに、決定したメンバーを追加していく形になるのだろう。便宜上、俺がAチーム、ユキがBチーム、ラディーネがCチーム、ディルクがDチームである。別にディルクの頭文字だからDだとか、俺が特攻野郎だからという理由はない。


「ではまず基本的なルールのおさらいからだ。質問があったら都度聞いてくれ」


 最初に今日までに決まったクラン内対抗戦のルールを説明する。とはいっても大体は伝達済みの事なので、細かい補足が入る程度である。


 開催場所は[ 四神の練武場 ]。四神が今回のために用意したダンジョンが舞台だ。

 参加者二十四人が六人パーティの四チームに分かれての攻略になり、中では別行動となる。通常のダンジョンと同じく中で会う事はないが、構造はランダムではなく固定型で、すべて同じらしい。

 各チームには四神がオブザーバーとして参加する。攻略には参加しないが、質問などは受け付けてくれるそうだ。誰がどのチームのオブザーバーになるかは、チーム分け提出後に四神側で決めるらしい。

 一位のチームには賞金として六百万円が送られる。山分けなら一人百万円。これは二位以下の担当となった四神がポケットマネーで支払うそうだ。神様のご褒美として考えるとアレだが、臨時収入としてはかなり大きい額だろう。逆に、最下位のチームは担当の四神と一緒に一週間の奉仕活動が待っているらしい。四神もとんだとばっちりである。

 開催期間は三日間。[ 四神の練武場 ]は時間調整が効かないのでリアルタイムで三日である。

 順位決めは採点方式だ。一日ごとに採点が行われ、合計得点で順位が付けられる。モンスターの撃破、マップの踏破率、罠の破壊、特殊アイテムの入手など、点数の獲得手段多岐に渡り、そのすべては明かされない。加点された内容は点数と併せて告知されるらしいので、色々試してみろという事なのだろう。

 規格を合わせる必要のある弾丸などは特例として許可されているが、消費アイテムは基本的に持込不可。基本的なものは四神側が用意、中で適宜補充可能だが、補充ごとに点数が差し引かれる。つまり、減点となるから無駄遣いはできない。ただ、一日ごとに別途最小限のアイテム支給はあるらしい。

 中には拠点が用意されていて、寝泊まり、飲食、消費アイテムの補充などはここで行う。ダンジョンの転送ゲート前にコテージを張るのと同じ要領である。

 この拠点から遠く離れるほど、モンスターのレベルや罠の数などのダンジョン攻略難度が上がる。拠点付近は無限回廊第十層程度の敵らしいので、低レベル帯のメンバーでも狩る事はできるだろう。

 少し特殊なのがチーム員それぞれに設定された個別攻略時間で、一人が一日に挑戦できるのは八時間と決まっている。この時間を過ぎると強制的に拠点へと転送されるらしい。

 デスペナルティこそないが、死亡した場合も拠点行きとなる。ただし、この場合その日の残り時間は消失し大幅に減点されてしまう。

 また、いつでも拠点に転送可能なアイテムが用意されるので、どちらにしても帰還方法を心配する必要はない。ただし、これを使用した場合もリタイヤ扱い。その日の残り時間を失う事になる。


「具体的な配点は事前に教えてもらえるのかな?」

「非公開だ。基本的なモノはイベント開始時点で発表。それ以外は加点要素は発生をトリガーにして閲覧可能になるから、それを見て効率を判断しろって事だな。一日の終わりには、他のチームの詳細も見れるらしい」

「という事は、何か特殊な加点方法を見つけても、翌日までは秘匿できるわけだね」


 ユキの言う通り、加点の詳細情報は別チームに伝わるまでに最大一日弱かかる。その内容によっては翌日に狙われるだろうから、怪しいと睨んだ行動を最終日にまとめて行うという戦略もあるだろう。


「個々人に時間制限が設けられているという事は当然、別行動もアリですよね? 僕とセラの時間をずらすとか」

「アリだ。攻略時間をずらすのは任意だし、使い切る必要もない。極端な話、拠点から出ずに一日を終える事もできる」


 死んだら大幅に減点ってのは分かっているのだから、安全策として拠点から出ないというのも一つの手だ。下級ランクでも問題なく狩れるエリアがある以上、無意味だろうが。

 なんとなくだが、ディルクはセラフィーナを単独行動させるつもりのような気がする。


「活動時間を翌日へ持ち越しする事はできるのかね?」

「なしだ。八時間消化できなかった場合でも翌日にはリセットされる。ついでに、攻略中でも日が切り替わる時には拠点に転送されるから、連続して十六時間籠もる事もできない」

「別メンバーへその時間を移譲する事は?」

「それもなしだ。あくまで、メンバーそれぞれに割り振られた権利と思ってくれ」

「ふむ。では、自立行動可能なアイテムを置いて拠点に戻るのはアウトかな」

「ちゃんと聞いてあるぞ。お前が使う蟲とか、あるいは召喚獣なんかの自立行動可能なものは所有者が帰還した時点で一緒に拠点に戻る。中でのアイテムの所有権移譲は不可。すべて事前申告をしろってさ」


 ラディーネがやりそうな事だから、予め聞いておいた。つまりこれは事前の審査さえ通れば、普通に使う分には許可しているという事でもある。ちなみに自転車などの乗り物も持ち込んでいいそうだ。自転車でダンジョン攻略する気はないが。


「さて、追加の質問がないならメンバー選出に入りたいと思う」


 少し間をおくが、追加質問はなさそうだ。


「選出の方法はどうしましょうか。チームリーダー四人の中で僕だけレベルが極端に低いですけど、何か救済処置ありますかね?」

「順番にウェーバー方式で一人ずつ決めていく予定なんだが、救済処置が欲しいならディルクが一番手でいいぞ」

「それはどうも。言ってみるものですね」


 ユキとラディーネからの異議もない。

 一方でレベルが横並びな俺たち三人は選択順をじゃんけんで決める事になり、二番は俺、三番はラディーネ、最後はユキの順になった。

 ただ、これだとユキが不公平だという抗議が上がったので、俺たち三人に関してのみ一枠指名するごとに指名順を逆転させる事になった。

 かなり変則的な指名ルールになるが、ディルクの救済措置を含めて全員が納得したので問題はないだろう。

 最初はディルク、俺、ラディーネ、ユキの順。その次はディルク、ユキ、ラディーネ、俺の順だ。ラディーネが毎回三番手だが、これも本人から文句はなかったので問題はないだろう。いわゆるお祭りイベント、更にはそのメンバー選出だけの話だからかもしれない。


「じゃあまずチームリーダーに次ぐ二枠目。玄龍から龍の三人はチームを分けて欲しいって要望があったから、そこから決めようか」

「三人だと一人足りないけど、最後のチームはどうするの? 放棄した場合はそれ以外から決めるとか」

「それでもいいが、同じ異世界組って事でベレンヴァールもここに入れようと思う。多分全員強いが、実力がはっきりしてない連中って括りだな」


 つまり、二枠目は空龍、玄龍、銀龍、ベレンヴァールの四人からの選択式になる。

 この中で力関係が分かるのは三龍の中では空龍が一番強く、ユキと水凪さんのタッグを圧倒できるという事、状況はよく分からないが玄龍はサージェスを完封したという事。銀龍は実力こそあるものの人間の体に慣れておらず、ポテンシャルを活かし切れていないという事。ベレンヴァールは俺と戦った時に見せたいくつかのスキルは使えないものの、素の状態で無限回廊深層をソロで攻略する実力者という事。銀龍、玄龍は判断が難しいが、残りの二人は現時点で判明している情報だけでも上級に足を踏み込んでいるのは間違いない。


「では、一番手の僕のチームはベレンヴァールさんを指名しましょう。人型戦闘の慣れは大きいですし」


 ホワイトボードのDチーム、ディルクの下にベレンヴァールの名が加わった。

 続いてAチームの俺の下に空龍、Cチームのラディーネの下に玄龍、Bチームのユキの下に銀龍の名前が並ぶ。

 まあ、ここは誰を選んでも大差はないだろう。個々の実力に差はあるだろうが、単純戦力のみで決まる勝負でない以上、すべてのチームにチームプレイ慣れしていない戦力が加わったという以上の意味はない。全員情報が不十分だから、誰と組み合わせたら噛み合うかの判断も難しい。


「じゃあ次の枠なんだけど、パンダも分散したいんだがいいか?」

「別にいいけど、何か理由でもあるの?」

「それほど強い理由ってわけでもないんだが、ククルの参加条件がパンダと別チームって話だから、その四人……一人と三匹で分ければ固まらないだろ」


 ククル以外の参加メンバーからも、事前に希望する条件などのアンケートを収集している。

 チームごとにそこまでの差はないが、モチベーションに繋がる部分だ。すべてが納得できるチーム構成にはできないと思うが、どうせなら希望しているメンバーを入れたいというのもあるだろう。アンケート結果については、参考としてここにいる四人に配布済みだ。

 ちなみに、俺のチームを明確に第一希望に挙げたのは空龍、玄龍、ロッテ。ユキのところは摩耶と水凪さん。ラディーネのところはボーグとキメラ、あとはククル。ディルクのところはセラフィーナとリリカ、と結構バラつきが見られた。

 その他のメンバーからは特定のチーム希望は挙がっていないが、ゴブサーティワンはロッテと別のチーム、銀龍とベレンヴァールは俺以外のチーム、ククルはパンダとディルク以外のチーム、マイケルはミカエルのいないチーム。摩耶とロッテはサージェスのいないチームという希望が挙がっている。普段組んでない奴と組んでみたいという前向きな理由と、人間関係に問題のある相手と組みたくないという思惑が透けて見えるな。


 というわけで、特に反対意見もないようなのでパンダ枠を決める事になった。

 ディルクはマイケル、ユキはミカエル、そして、続くラディーネはアレクサンダーを指名すると思ったのだが……。


「なら、マネージャーはウチがもらおう」


 と、ラディーネはククルを指名してきた。戦力的に考えるならパンダのほうが上なのだが、ラディーネはククルの使い道に心当たりがあるのかもしれない。

 最後にアレクサンダーを俺のチームに加え、あとは自由指名だ。残りの三枠を十二名の中から指名する事になる。指名順も再び元通りである。


 ……さて、問題はここからだ。

 空龍、アレクサンダーと、ここまでは俺が想定していた中でベストとも呼べる結果になっているが、ここからはどうしても取捨選択が必要になる。

 この場合、優先的に確保しなければいけないのは、足りない部分を補える者だろう。

 たとえば、俺は直接戦闘の技能を持つがサポート技術は持たないし、逆にディルクのような純後衛はどうしても前衛が必要と、パーティーによってその条件は異なる。パーティとしての形を整えないとダンジョン攻略は支障が出るし、今回のイベントも点数を稼ぎ辛い。モンスター討伐やマップ探索、アイテム収集のどれかを優先して一点特化で点数を稼ぐというのは配点方法が分からない現状では取り難い方針だし、各パーティーの実力差がそこまで大きくならないであろう事を考えるなら潰しの利く構成が望ましい。

 最初に龍三人とベレンヴァールを分散した事で、どのチームも最低限の戦力は確保できている。となると、サポート要員を優先的に確保したいところだが、ここで問題が一つ。自由枠十二名の中で、ガルドのレベルが突出しているのがどうしても目を引く。元々準一線級のクランで戦っていたのだから当然なのだが、この戦力を他所に持っていかれるのは厳しい。単純な戦力だけでなく経験も豊富だろう。

 次に優先度が高いのは同じように俺たちの平均よりも高レベル帯に属する水凪さんだが、彼女の場合はレベルだけでなくそのサポート能力も大きい。一人で後衛火力、補助、回復がこなせるというのは大きなアドバンテージだ。

 あとは摩耶も優先的に確保したいところだな。アレクサンダーが罠解除など< 斥候 >役のスキルをいくつか保有しているが、さすがに本職には劣る。

 というわけで、ガルド、水凪さん、摩耶の三人は全員が優先的に狙ってくると考えていいだろう。次点で、タンクと回復を兼任できるティリアだろうか。

 難しい扱いなのはボーグ、キメラ、セラフィーナの三名だろう。前者二名はラディーネ、セラフィーナはディルクと組む事で最大効果を発揮するが、あえてチームを分けさせる事で弱体化を狙うという方法もある。ただ、これは最大効果を望めないという意味では諸刃の刃でもある。セラフィーナを指名したら、拗ねて攻略に支障が出るのが目に見えるようだ。絶対不機嫌になるし。


 そして四枠目の指名。ディルクが指名したのはある意味予想通りのセラフィーナだった。あいつの実力は未だ測りかねているところがあるが、他チームに取られて分散される事を警戒し、ガルドや水凪さんの指名よりも重要と考えたという事である。

 次は俺だが、悩んだ結果ガルドを指名した。ウチのチームは俺が準タンクをこなせるからタンクの優先度は高くないが、あの高レベルは魅力である。あの超巨体を活かせる場面もあるかもしれない。

 続いてラディーネはキメラ、ユキは水凪さんを指名して四枠目の指名は終わった。残りは各チーム二人。

 ここで、俺の背中に電流が走る。

 ……あれ、ヤバくね。


「五人目は……この中だと、ガウルさんですかね」


 ディルク以外の指名権を交互にした事で、次の俺の指名は最後だ。その次はまた俺が二番目になるが、最後は消化試合に近い。その順番と、残りのメンツを考えるとバランスが……。


「じゃあ、ボクは摩耶を指名で」

「ウチはティリア君にしよう」


 ガウルはともかく、摩耶とティリアが消えたのが痛い。残りのメンツがダメって事はないが、ウチに足りないところを補えていない。

 ユキを見ると、俺が焦り出しているのが分かったのかニヤニヤしている。あいつも各チームの最終形が見えたという事だ。


「さ、サージェスで」


 五枠目が埋まった。

 これで残りはボーグ、リリカ、ロッテ、ゴブサーティワンの四人。誰を確保しても探索、回復、補助に欠ける構成になる。普段ならともかく総合力が試される今回に限ってはマズイ。何やってるんだ、俺。ガルドの高レベルに目を眩ませてるんじゃねーよ。どう考えてもウチに必須なのは摩耶だろ。


「最後は一番慣れてるリリカさんにしましょうか」


 ……どうする。実力だけを考えるならボーグだが、三日間という期間で整備不良を起こす可能性がある。自己メンテナンスできるにしても限界はあるだろう。ならば、超生命体ゴブサーティワンが持つ未知のポテンシャルに賭けるか。いや、それならレベルダウンしたにしてもある程度把握しているロッテのほうが……。


「ツナ?」

「……ロッテにする」

「じゃあ、ウチはボーグだな」

「最後はゴブサーティワンか。まだ良く分からないけど、中で慣れるしかないね」


 こうして、クラン内対抗戦のメンバーは決まった。ホワイトボードに記載されたメンバー表は次の通りだ。


 チームA:渡辺綱、空龍、アレクサンダー、ガルデルガルデン、サージェス、リーゼロッテ

 チームB:ユキ、銀龍、ミカエル、水凪、摩耶、ゴブサーティワン

 チームC:ラディーネ、玄龍、ククリエール、キメラ、ティリアティエル、ボーグ

 チームD:ディルク、ベレンヴァール、マイケル、セラフィーナ、ガウル、リリカ。


「これで決まり、と。概ね理想に近い構成かな。ボクと摩耶で色々できそう。銀龍も似たような事できるみたいだし」

「ウチも問題ないな。ボーグとキメラを確保できれば、大抵の場面には対応できる」

「このメンバーだとラディーネ先生が怖いですね。採点方法にもよりますが、マップ探索の速度で追いつける気がしない」

「……じゃ、じゃあこれで決まりだな。イベント前に一度、チームごとに集まる場でも設けよう」


 正直、やり直しを要求したい。したいが、さすがに通るとは思えない上に見苦しい事この上ない。クランマスターがやっていい事ではない。他の三人から抗議があれば便乗してやり直す事ができるかもしれないが、全員不満なさ気だ。くそ。

 このチームだって決して弱いとは思わない。むしろ、個々のポテンシャルは高いメンバーだろう。これが単純にダンジョン攻略してボスを撃破しろという内容だったらなんとでもしてみせる自信はある。だが、これはチーム対抗戦だ。最終的に攻略を完遂すればいいというわけではなく、採点を争う競争力が必要となる。

 他のチームがバランスが取れているように見える中、ウチの構成だけが歪だ。個々はともかく、総合力で勝っている気がしない。


 というか、こうしてチーム分けを見た場合、どうしようもない事に一番警戒すべきなのはチームリーダーだと分かる。俺以外の三人とも汎用性が高く、他のメンバー構成に左右され難い能力を保有しているのだ。

 特に、戦闘だけでなくマップ探索や罠対策に関してラディーネやディルクが規格外もいいところだ。各種機械を運用するラディーネの反則ぶりは良く理解してるし、ディルクも把握しているだけで十分反則気味な索敵能力を持つ上に、大量に切り札を隠し持っているのは明白である。

 ユキはまだ常識的な範疇だが、この条件だと何をやってくるか分からないという怖さがある。ついでに摩耶とタッグを組んだ事で無視できない機動力を発揮するだろう。多分、銀龍ともかみ合っている。


 見渡すと、決まったチームで勝利へのシミュレーションを始めたのか、三人ともあきらかに目の色が違う。

 ユキは当然として、ラディーネもディルクも確実に負けず嫌いだ。見れば分かる。しかも、ディルクは俺を最下位にする手段があるなら迷わず行動してくるだろう。

 目が合うと馬鹿にされているような気がした。……いや、多分被害妄想なんだが。


 ……これは、早急に対策が必要だ。



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