第12話「超すごい魔法使い」




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 < 要塞 >ガルデルガルデンは岩石巨人である。物の堅さをたとえる時、『岩のような』という比喩が使われるが、ガルドはそのまま岩だ。

 岩が動く。関節どころか筋肉も骨も内臓もないのに動く。というか変形する。生命体の基準に真っ向から喧嘩を売っている存在だが、ゴーレムのようなモンスターもいるので魔法世界ではそこまで変でもないんだろう。ちなみにゴーレムというわけでもなく、あくまで岩石巨人族という種族だ。何が違うのかはよく分からない。

 また、とても長生きらしい。本当に生きていると言っていいのか不明だが、数千年単位は余裕で活動するそうだ。

 だから、本人にしてみれば数ヶ月連絡がとれなかったところで大した事ではないのだろう。最近、長寿な種族と知り合う機会が多いが、感覚がおかしくなってしまって困る。こちらは半年で生活環境が激変しているというのに。

 そんな絶賛行方不明のガルドだが、商業区画の神社風霊堂で庭石になっていた。ホームレス化を心配していたら庭石になっていたとか超展開もいいところである。

 経緯としては所属クランである< ストーンヘンジ >が解散してしまい、途方に暮れていたところを風神ティグレアに保護されたという流れらしい。

 ティグレア側の証言によれば、早朝の線路の上で寝ていて大規模な電車遅延を発生させたらしいが、本人はその事実を否定している。まあ、ガルドが嘘ついてるだけだろうが、チョロいティグレアがなんとかしてくれそうなので、俺たちにはどうでもよかった。


 初詣で訪れた風霊堂でガルドを発見し彼の弟子であるティリアに連絡をとった俺たちだったが、一向に合流できそうな気配がなかった。

 主にティリアが俺たちの現在位置も聞かずに飛び出したのが原因なのだが、折り返しても電話に出る気配がない。あとから聞けば、カードを部屋に落としてクランハウスを出てしまったらしい。そんな状態で一体どこを探し回っていたのか分からんが、師匠が見つかったと思ったら弟子が行方不明である。

 途方に暮れた俺たちは、とりあえず今日のところはここに放置して明日改めて迎えに来ると伝えたのだが。


『ふざけんな。持ち主だったらちゃんと引き取っていけ!』


 と風神様に怒られてしまった。

 俺たちは持ち主ではないし、ティリアもガルドの弟子であって保護者ではないのに。そもそも、お前はなんで拾ったんだよとツッコミを入れるのは筋違いだろうか。

 まあ、関係者である事は確かである。仕方ないのでクランハウスに移動させようという事になったのだが、商業区画から歩いて行くにはダンジョン区画は少々遠い。五メートルの巨体とその重量のせいでククルが借りてきた乗用車には乗れないし、使える公共交通機関も限定される。つまり、現実的な方法として大型車を用意するしかないのだが、そこで思い出したのが大型トラックドライバーのイスカンダルである。正月休みでゴロゴロしているところを電話で呼び出して迎えに来てもらう事になった。地味にフットワークのいいパンダである。

 業務に使用しているトラックは私物ではないので料金を支払う必要はあるが、その料金はティグレア持ちになった。なぜそうなったか良く分からないが、善意というわけでもなく会話の流れを巧みに誘導された結果だ。なんとも、チョロ過ぎる神様である。


『寂しいだろうが、また遊びに来るから安心しろ』

『二度と来んなっ!!』


 ティグレアの罵倒を受けながら風霊堂をあとにする俺たち。この頃になると、なんで俺こんな事してるんだろうと疑問に思ったりもしたが、いつもの事だった。

 ちなみに、この時点でティリアはまだ連絡がついていない。師弟揃って行方不明になるのが好きなようだ。


「なるほど、面倒かけとるようだな」


 何故かトラックの荷台部分に同乗する事になった俺は、道中ティリアのこれまでについて説明する事になった。

 ついでにガルドの壮大な昔語りが始まる。


「元々ワシが固有の意識を持ったのが数百年前。現在、暗黒大陸と呼ばれている所の南部あたりにある岩石巨人の集落で生まれたらしい」


 また気の遠くなるような話である。そもそも暗黒大陸の位置関係すら分からない。


「当時、暗黒大陸で幅を利かせていた亜神の抗争に巻き込まれて集落が壊滅したんだが、その際にワシは海に投げ出されての。どっちに行けばいいか分からずに海の底で彷徨う事数百年、この大陸に辿り着いた」

「筋金入りの迷子だな」


 もはや、人間には理解できないレベルだ。そういうものだと割り切ったほうがいい。


「まあ、元々群れる必要のない種族だ。適当なところで寝てたらいつの間にか人間の集落ができててな、ご神体扱いされた。ワシ、どっちかというと精霊なんだがな」

「違いが分からん」

「元々存在したモノが位階を上げる事で成るのが亜神だ。将棋でいうところの成りに近い。精霊は最初からそういう存在として生み出されたモノだ。どちらも星の守護者には違いないが、最初が違う。精霊が亜神になる事もあるから混同するのは仕方ないがな」


 千年以上生きてるだけあって随分と情報通らしい。

 という事は、獣神なんかは元々の姿があって後に亜神になったという事になる。無限回廊という手段を使っているものの、ダンマスたちも似たようなものだろう。この場合、無限回廊は位階を昇格させる舞台装置だ。


「お前さんこそ、随分と詳しいな。この辺の話は迷宮都市でも理解できる奴は少ないんだが」

「色々あるんだ。ダンマスとも知人関係だし」

「管理者殿か。ワシの前に現れた時は何事かと思ったが、あっちも驚いとったな。二十年くらい前の事だ」


 村でご神体をやっていたガルドはダンマスと出会い、その流れで冒険者になったらしい。

 ティリアを弟子にしたのはそれよりもあと、冒険者として一段落つけて里帰りした時の事になるそうだ。


「最初はただの遠征のつもりだったんだが、骨休めとして数年村で過ごす事にした。村でのご神体扱いは相変わらずだったが、昔よくワシの上で昼寝しとったティレアティルトが娘のティリアティエルを紹介に連れて来たのが始まりだ。村の中で話相手になってくれた数少ない人間だったからな」


 ティレアティルトだの、ティリアティエルだの、ガルデルガルデンだの、面倒臭い名前である。

 特に親子二人が紛らわしい。少しだけティグレアの気持ちが分かった。


「でも、迷宮都市に連れて来たわけじゃないよな?」

「あやつを鍛えたのは気まぐれだ。冒険者にするつもりはなかったし、なるとも思ってなかった。そもそも迷宮都市の話もしとらん」


 オークさんに陵辱されるためにこの街を訪れたはずなのになんで冒険者の師匠がいるのかと思っていたのだが、大体の経緯は理解できた。だが、腑に落ちない点がある。


「なんでティリアはあんたに連絡とらなかったんだ? あっちはいる事は知ってたみたいだし、険悪って感じでもない。でも、あんたはティリアがこの街に来た事すら知らなかった」

「ワシに聞かれてもな。迷宮都市に帰る事になった時、置いていった事に怒ってるのかもしれん。移住手続きや説明が面倒でな」

「怒ってるって感じじゃなかったけどな」


 ガルドについて聞いた時のティリアは、どちらかというとバツが悪いとかそんな感じだったと思う。

 この感じだと、勝手に迷宮都市に来たから顔を合わせ辛いという意味でもなさそうだ。


「ところで、ティリアが用意しとるワシの住処ってのはクランハウスみたいだが、部外者が住んでも構わんのか?」

「部外者ならすでに大量のパンダが住み着いてるからな。冒険者として所属してくれるなら助かるけど、それを強制する気はない。そもそもクランとして発足もしてないし」

「クランじゃないのにクランハウス持っとるのか。金持っとるの。今度ワシに宝石貢いでくれんか」


 金はそこまでないが、特殊な状況なのは認める。あと貢ぐ気はない。


「クランハウス手に入れた経緯には、ティリアも大きく関わってるんだ。あいつがいなかったら、多分今の状況はない」

「……あいつがのう。人間は少し見ないだけで変わるものだな」


 そんな事を話しながら、イスカンダルの駆る大型トラックは転送施設へと向かう。

 箱型荷台の中にいると、どこら辺を走ってるのか分からないのが辛いところだ。転送施設地下の駐車場に着く頃には、自分が荷物になったような気すらしてしまった。

 俺以外の初詣メンバーはククルの車に搭乗していたので、そのままギルド会館へ。ここは俺とガルド、そしてイスカンダルだけでクランハウスへと戻る。

 ダンジョン用の転送ゲートはそうでもないのだが、実はクランハウス用に設置される転送ゲートはそこまで大きなものではない。初期状態ではダダカさんが普通に潜れる程度、ガルドのような超巨体は想定されていない大きさだ。このままの状態だとかなり無理をしないと入らないのだが、実は< ストーンヘンジ >解散の話が出たあと、ガルドを受け入れる準備として、ティリアが自費でクランハウスのゲートを拡張している。

 内部も同様で、リビングに繋がっていた通路も天井や幅が広くなり、その途中にティリアの庭直通の入り口も設置された。クランハウス全体をガルドの体格に合わせるのは困難だったので、必要な部分だけ応急処置的に拡張した事になる。とりあえず、入り口とティリアの庭はガルドの移動可能になっているというわけだ。


「おー、ここが新しい住処か。しばらく世話になるぞ」


 実際に世話になる相手はここにいないが、ガルドは堂々と庭のど真ん中に陣取った。手足を引っ込めて座り込むと巨大な岩にしか見えない。

 庭といっても結構広めで、トレーニングとして走り回れるくらいの広さはある。今は巨大な岩以外何もないので本当にただの草むらと土だけの庭だ。見える風景はただの画像である。


「ワシがクランに入れば拡張してええんだったな? GPは余っとるから鉱山造ってもいいか?」


 住み着く気マンマンである。すでに他の選択肢を捨ててかかっているとしか思えない発言だ。


「山を造れるGP持ってるのかよ。鍛冶でもする気か?」

「いや、食う」


 農場や牧場でも造るノリだった。岩石巨人は一味違う。

 年末にダダカさんに聞いていた事でもあるが、ガルドは鉱物を大量に摂取する事で体の一部をその物質に変質させる事ができるらしい。今でも全身を鉄にするくらいは余裕でできるそうだ。でも、変質した部分を削り取っても元の岩に戻ってしまうらしい。


 しばらくそんな話をしていると、慌てた様子でティリアが戻ってきた。随伴者はいない。誰から聞いたのか、それともカードを取りに戻ってきて気付いたのか。


「久しいな我が弟子よ。元気そう……今にも死にそうだな」

「はぁっ、はぁっ、ぜはっ、はいっ! 久しっ、ぶりです」

「いや、とりあえず落ち着けよ」


 ダンジョンでもないのに酸素欠乏症気味になってるぞ。顔が紫色だ。どんだけ全力疾走してるんだよ。


「……落ち着きました」

「よし、じゃあリテイクだ。最初からどうぞ」

「久しいな我が弟子よ。元気そうだな」

「はい、師匠もお元気そうで」


 本当にリテイクするあたり、ノリのいい連中である。


「あの頓痴気な趣味は相変わらずらしいが、そろそろ成就の兆しくらいは見えてきたか?」

「放っておけば勝手に増える師匠に言われたくないです」


 ガルドからしてもティリアの性癖は理解できないものらしいが、そのガルド本人も真っ当とは言い難い。

 先ほどまで話していた限り、岩石巨人は分裂するらしい。鉱物を食べて体積を増やし、それが一定を超えると新しい巨人になるそうだ。クローンというわけでもなく新しい生命である。もっともそれは数百年、数千年の単位の話であって、人間の時間感覚で気付いたら増えているという事はないようだ。気長な種族である。

 ガルドは男性の意識を持つが、本来岩石巨人に雌雄の差はない。だから当然人間の生殖に興味などない。ティリアや風神ティグレアをエロトークでからかっているのは、単純に反応を楽しんでいるだけなのだろう。


「あの、師匠。クランなくなったならウチ来ませんか? 師匠は家がなくても気にしないでしょうけど、醜聞というものがありまして」

「まさか、お前に醜聞云々言われる日が来るとは思わんかったわい」


 そうね。サージェスほどじゃないにしても、醜聞の塊みたいな奴だしね。


「そこの男から話は聞いとるよ。クランの話もな。だが、お前ワシを避けとったんじゃないのか? 迷宮都市に来ても連絡一つなかったし」

「ええまあ……。それは自分の中で折り合いをつけました。師匠の偽物をバラバラにしてスッキリしましたし」

「……偽物がなんだか知らんが、物騒だのう」


 それは[ 鮮血の城 ]第四関門の事だろう。たしか師匠が相手だったと言っていたはずだ。


「というか、そもそもなんで師匠を避けていたのか……よく覚えて……あれ……」

「物忘れの激しいやつだのう。まあいい……おいツナ坊よ、世話になる」

「ツナ坊って……。世話になるってのはここに住むって意味か? それともクランメンバーとして入団するって事か?」

「両方だ。かなり前から< アーク・セイバー >のダダカからも誘われとったが、こちらのほうが面白そうだ」


 ダダカさんから誘われてたのか。あの人、< ストーンヘンジ >が解散した事も知らなかったんだけど。


「まあ、積もる話は後日という事で、今日のところはゆっくりしてくれ。師弟で話したい事もあるだろうし、俺は席を外そう」

「あの、できればリーダーさんがいてくれると助かるんですけど。師匠は終始あんな感じなので、経緯がさっぱり掴めないんです」

「心外だな」


 本人に聞けと言いたいところだが、確かにガルドは適当な事を言いそうだ。

 というわけで、経緯の説明は俺がする事になった。細かい部分にはガルドの補足が入るが、概ね荷台で聞いた事だ。そして、師弟でしか分からない雑談へと内容がシフトしていく。

 とりあえず、数ヶ月に渡るガルドの迷子事件は解決したと思っていいだろう。後処理にしてもギルドへの説明はククルがするだろうし、俺が話をするのはダダカさんくらいだろうか。それも別に必須ではないから、明後日の挨拶で会った際でもいいだろう。




「ツナー、お客さん。転送施設で龍の人たちと会ったんだけど、通しちゃってよかったよね?」


 しばらく経って、庭の入り口からユキが新たな客人を連れて現れた。年末に会ったばかりの異世界の龍人三人だ。


「ああ、こっちの話はほとんど終わってるから問題はない。明けましておめでとう」

「新たな年を迎えた時の挨拶らしいですね。渡辺様、明けましておめでとうございます」

「明けましておめでとう」

「サッカーしようぜ」


 なんか最後の奴だけ違うぞ。

 よく見ると、銀龍の手にはサッカーボールがある。無言で二人からぶん殴られているが、そういうポジションなのは知ってるので今更だ。


「まったく、この子はもう……」

「馬鹿ですまん」

「おおお……痛え。なんだよ、会う奴会う奴全員に明けましておめでとうってもう飽きたよ」


 まあ分からんでもないが、そういう挨拶だしな。


「挨拶はともかく、なんでサッカーやねん」

「おお、年末のビンゴってやつでボールもらったんだ」


 ああ、そんな景品もあったな。各メーカーの新製品って事で、景品に並んでた気がする。ゴーウェンがもらった車もその景品だったはずだ。


「すごいんだぜ、俺が全力で蹴っても壊れねえんだ」

「そりゃすごいが、いきなりサッカーって言われても人数いねえだろ。そもそもルール知ってるのか?」

「ルールは良く分からないけど、リフティングってやつは覚えたぞ」


 ……ダメだ。何人でやるスポーツかすら知らなそうだ。


「よし、ワシがゴールを用意してやろう。PKだ」

「うお、なんだかすげえのがいる。ピーケーがなんだか知らねえけど負けないぞ」


 弟子のティリアを放置して、ガルドが話に乱入してきた。

 どういう理由で入れていたのか知らないが、《 アイテム・ボックス 》からサッカーゴールを出して、銀龍とPKを始めてしまう。初対面で挨拶すらしてないのに仲がいいね、君ら。


「あの子は本当にもう……」

「ウチの馬鹿がすまん」

「別にいいけどな。……二人もサッカーしに来たのか? 確かにスポーツも立派な交流だとは思うが」

「いや、そもそもサッカーが何かも分からん。俺の用事はもう少し真っ当だが……少し長引くので姉上から先でいい」

「そうですね。実は初詣という行事があるという事で、渡辺様をお誘いに」


 今、その初詣から帰って来たばっかりなんだが。タイミングが悪い。


「水霊殿なら近いし、連れてってあげれば?」


 ユキがフォローを入れてくるが、自分は行く気なさそうである。


「俺の話は帰って来てからでいいから、姉上と行ってくるといい」

「玄龍は行かないのか?」

「……行くつもりだったが、アレを一人残して行くのはな」


 指差す先にはガルドとPK合戦に興じる銀龍。


「くそーきたねえぞっ! ボール通る隙間ねーじゃねーか!」

「ふわははは、これが頭脳戦というやつよ」


 ゴール前に横になったガルドはキーパーとして鉄壁である。デカ過ぎてボールが通る隙間がほとんどない。しかも、任意で動くから手に負えない。それは果たしてPKなのか、という感じなのだが、本人たちは楽しそうだからいいんだろう。……保護者は必要だ。


「ユキ、空龍を水霊殿に連れて行くから、二人の相手を頼む」

「ああうん、分かったよ。軽くメンバー紹介とかしておく」


 ティリアでもよかったが、銀龍たちの事を知らないのに相手させるのもな。今もオロオロしてるし。




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 さて、本日二度目の水霊殿である。というか、ここ数日訪問する頻度がやたら高い。

 俺は空龍と二人で、朝にユキと通った道を歩く。空龍の着物は普段なら目立つだろうが、正月なら違和感も少ない。


「こちらでは、男女二人で出かける事をデートと呼ぶと聞きましたが、これはデートで良いのでしょうか」

「あーうん、いいんじゃないか? 厳密に定義するような言葉でもないし」


 デートと呼ぶにはもう少し色気のある展開が欲しいな。


「そういえば、渡辺様はお母様に会ったとか」

「ああ、デカ過ぎてビビった。……なかなかに壮絶な過去も聞かされたよ」

「崩壊前の世界については私も話でしか知りませんが、こういった町並みから感じる文明の息吹はそれに近いものなのだと感じます」

「何もないって言ってたけど、住む場所くらいはあるんだろ?」

「過去の遺跡で形を留めているものを集めて暮らしているような状態です。水もなく草木の一本すら生えていないんですよ」


 死の大地ってところか。超兵器である龍でなければ住めない環境だな。


「ダンジョンにしても、こちらのダンジョンマスターのように文明的なものは構築できません。おそらくは管理者の資質によるのでしょう」


 この街が造られた方法は未知のままだが、ダンマスだから造れたって事なんだろうか。……喋る家畜とかも?


「行き来できるようになれば少しずつマシになるだろうさ」

「それもなかなか難しいところです。私たちには差し出せる対価がありません。対等な関係を築こうとしているのに、これは致命的です」


 課題というには大き過ぎる問題で、空龍だけが考えてどうにかなる事でもないが、放置していい話でもないだろう。

 世界の交流っていっても、単純に貿易するってわけにはいかないか。売れる商品があるわけないし、足りない資源があるかどうかも分からない。戦力っていうのは一番の候補だが、こちらにはダンマスたちがいる。不足しているのは無限回廊の権限と情報くらいだ。


「そんな中で代表に選ばれるんだから、空龍も大変な立場だよな」


 俺も大概だが、彼女が大変なのも間違いない。


「大変ですし責任も大きいですが、実は楽しいというのが本音ですね。知らない文化、知らない種族、知らない行事に触れる事はこれまでに感じた事のない充実感があります。そういった話を聞かせれば、お兄様たちも羨ましがるかと」

「初詣も?」

「はい。周期もまったく異なりますので、年始も何もありませんが」

「あー、そりゃそうか。地球とここが同じだから勘違いしてたな」

「そもそも、そういったイベント事が皆無ですので」


 なんか、今更ながらに責任重大だと思えてきた。

 最初考えていた外交問題とかそういった事ではなく、空龍たちに何かを伝えるという事はこれからの彼女らの在り方に深く関わってくる。変な事を教えて、それがスタンダードになったら大変だ。……ウチみたいな変な連中ばかりのところに絡ませていいんだろうか。ダンマスも皇龍も、そこら辺考えてないんじゃないか?

 サッカーのルールも……影響なさそうなのは別にいいか。


「渡辺様が気負う必要はありませんよ。私たちは子供ではありませんから、それがどんなものなのか、しっかり自分で判断して受け入れます」

「空龍はともかく、銀龍を見てるとそんな気がしないんだけど」

「あ、はは……代わりに私がしっかりするので。ええ、姉として」


 超不安なんだけど。


「とりあえずは初詣ですね。色々教えて下さい」

「じゃあ、知ってるとは思うけど基本的な部分から説明しようか……」


 初詣という風習について簡単に説明していく。

 ただ、この世界の事は俺もよく分からないので日本の知識がほとんどだ。そもそもの話、元々この世界に初詣の概念はないだろうし。

 少なくとも故郷や王都で聞いた事はない。


「だから、初詣っていっても表面的なものを再現しているだけと思ったほうがいい。今から行くのも水神エルゼルの分社みたいなところだし、本人に会ったほうがご利益あるんじゃねえ?」

「そのエルゼル様から初詣について聞いたのですが」


 神様本人が参拝しろって言ってんのかよ。斬新だな。


「そもそも宗教というものがよく分かってなくて……。私たちの世界では遙か昔に存在していた概念としか」

「あの神社も宗教って呼ぶには適当過ぎるからな。別段面白くもないだろうが、機会があったら説明するよ」

「よろしくお願いします」


 俺も……というか日本人はそういう方面に疎いから上手く説明できる気もしないけど。多分、ユキのほうが詳しいだろう。

 この世界にしても、教会があるから何かしらの宗教があると思っていたのだが、最近知った話ではどうも特定のものがあるわけでもないらしい。過去に前世持ちが持っていた宗教観や教義がごっちゃになって、基礎的な部分からバラバラ。信仰されている神様は共通なのだが、その対象がなんと「システム」である。もしも外にいた時に聞いたら目が点になっていただろう。

 英語でも外来語でもいいが、システムという言葉を知らなければ神様の名前に聞こえるのかもしれない。大多数の人間にとって教会はステータスを確認しに行くところだから、あまり間違っていないといえばそうだが。一応ご利益があるともいえるし。


「文化的な事を学びたいっていっても色々あるけど、何かこれっていうのはないのか?」

「目に入るものすべてが新鮮ですが、今のところ私たちの興味の対象はバラバラです。銀は娯楽的なもの、玄は人間の戦闘技術、私は音楽や絵画を好む傾向があるようです」

「あるようですって……自分の興味の事だろ」

「先ほども言いましたが、私たちの世界は本当に何もありません。何も知らず、何も生み出せず、ただ戦う事だけしかできない。もちろん銀がお馬鹿さんだとか、玄が生真面目だとかそういう性格の違いはありましたが、こちらに来なければ自分が何を好むのかさえ知らないままだったでしょう」


 ある程度は想像していたが、本気で何もないんだな。単に無趣味ってだけじゃなく、それ以前の段階だったのだ。


「ですが、食事はみんな好きですね。これだけでも人の形をとって良かったと思えるほどに」

「年末のパーティで見かけた時はお前ら食ってばっかりだったよな。皇龍から龍は食事しないって聞いたけど、その姿だと栄養の摂取は必要なもんなのか?」

「生命維持に必要かという意味なら不要です。私たちはこの形態でも食事も睡眠も必要としません。けれど、それが必要ないからといって切り捨てるのはもったいないと思いませんか?」

「……なるほど、真理だな」


 それは、とても大切な事だと思えた。おそらく空龍は自覚していないだろうが、それは無限回廊に挑戦し続ける超越者たちに対する一つの答えだ。

 必要ない。だからしない。だから切り捨てる。そうして無駄を排除して出来上がるのは丸い怪物だ。行き着く先はネームレスや唯一の悪意のような自動的な災害なのだろう。出自や立脚点が違っても、そうなる可能性は俺たちにも存在するのだから、忘れてはいけない事だと思う。


 そうして、水霊殿の境内に向かう階段へとやって来た。客足は朝よりも多く、すこしうんざりするほどだ。

 空龍は着物に合わせて少し歩き辛そうな靴を履いていたので、紳士っぽく手を引いて登る。これくらいの役得はあってもいいと思うんだ、うん。

 そして少し長い階段を登り、鳥居の説明をしながらそれを潜る。

 季節のイベントとはいえ、本来何気ない場所、何かが起こるとは思えない状況だ。




 だから、油断していたのだろう。一瞬にして切替わる空気に反応が遅れた。


「……渡辺様」


 先に気付いたのは空龍だ。とはいえ、少し見渡せば誰でも気付くような違和感である。

 空間から気配が消えた。境内に人がいない。先ほどまですれ違っていた参拝客の影も形もない。出店はあるが店員はいない。そして、俺たちを待っていたように佇む少女が一人。


「どもども、こんにちわー。時間帯的にこんばんわ? どっちでもいいけど、はじめましてワタナベ・ツナさん」


 会った事のない女だ。知識の中にも該当する対象は存在しない。

 身長は女性にしては高いだろう。魔術士が使うローブに身を包んでいるのは、この神社ならさほど珍しい姿ではないが、状況が怪しすぎる。

 消えた参拝客と出店。それはいつかの偽物の東京を連想させた。


「……はじめまして」

「あれ、あんまり動揺してない。心臓に毛が生えてるとは聞いてましたけど、超常現象ですよー」


 怪しさや唐突さに反して、ノリは軽かった。強制イベントみたいだが、少なくともすぐに襲ってくる気配はない。


「この手の現象には慣れてるんだよ。で、あんたは何者だ。敵か?」

「敵じゃないですよー。ただちょっとお話したいなーって思ってたんですが、タイミングが掴めなくて。あ、私エリカっていいます。怪しいもんじゃないですよ。いや、怪しいのは怪しい?」


 怪し過ぎるだろ。これで怪しくなかったら、どんな奴が怪しいんだってレベルである。

 殺気はまるで感じないが、以前こんな状況を再現した奴は、何の感情も持たずに相手を滅ぼせる奴だ。警戒を解くわけにもいかない。


「エリカだか誰だか知らんが、お前まさかネームレスじゃないだろうな」


 口調はまるで違うが、あの東京を再現したのはあいつなのだから否が応でも連想してしまう。

 サティナの体を乗っ取っていたくらいだ。寄生生物なら宿主を替えるだけで、今の状況を作り出せる。


「ねーむれす? 名前なら、言った通りエリカですけど」


 ……違うらしい。とぼけてるにしてはアホっぽ過ぎる顔だ。

 まあ、可能性は低いと思っていた。ダンマスの手から逃れられるとは思えないし、聞いている限りその気もなさそうだ。それにあいつはこんな演技はしないだろう。そもそもの話、俺の事を覚えているかどうかも怪しい。……となると。


「……空龍、こいつも皇龍の関係者か?」

「え? いえ、初対面ですが」


 同じ無限回廊管理者として皇龍絡みという線でもないらしい。本当に何者だよ。


「私もその方は初めて見ましたね。どちらさんですか? 今日は一体なにを」

「デートです」

「で……デート? ……なるほど、そういうのもあるのか。行動に一貫性がないとは聞いてたけど、これほどとは……おそるべし、ワタナベ・ツナ」


 なんか、感心されてるでござる。


「まさか、お前もデートのお誘いか? 今なら実は熱狂的なファンなんですって言い訳で納得する事も検討するが」

「いやいや、デートに興味はありますが、残念ながらその機会はなさそうです。とりあえず今日のところはご挨拶と助言を」


 目的がさっぱり見えてこない。見ず知らずの相手に助言されても警戒しかできないだろ。だいたい、なんの助言をするっていうんだ。


「なんの事やら分からないと思いますが、時間がないので簡潔に二つだけ。一つ目、あのユキさん?に気を付けて」

「ユキ?」


 なんだ。ダンマスにも言われたが、ユキに何かあるのか?


「も一つ。こちらが本題で、リリカ・エーデンフェルデの《 魂の門 》を潜りなさい」

「魂の門?」


 リリカがどこかに門を所有してるって事か? ……まさか、エロい意味だろうか。


「説明してもいいですが長くなるので省略で。本人に聞けば一発です。とりあえず至急の用件はそれだけです……あ、もう一つ、私の事は内緒で」

「というか、お前結局誰なんだよ」

「エリカです。エリカ・エーデンフェルデ。超すごい"魔法使い"ですよ」

「エーデンフェルデ……」


 背が高いので印象はまるで違うが、言われてみればリリカに似ているようにも見える。


「……リリカの姉妹?」

「じゃないですねー。血縁ではありますけど、向こうは知らないと思います。でも、さっきも言いましたけど、今日の事は二人だけ……三人だけの秘密ですからね。そっちの人もバラしちゃ駄目ですよ」

「……はあ」


 空龍はあまりの超展開に心ここに在らずって感じだ。


「……リリカにも?」

「誰にも。別段影響はないと思うんですが、念のため。もしも漏れたら呪いをかけちゃいますよ。こわーい呪いです」

「の、呪いってなんだよ」

「《 勃起するたびに質屋のババアのセクシーシーンが頭に浮かぶようになる呪い 》です」

「やめてっ!?」


 なんて斜め上方向に嫌過ぎる呪いなんだ。恐ろしい。事実上の男性機能喪失じゃないか。もしくはババ専化。


「あっはっは、冗談ですよ冗談。でも、ひょっとしたらそんな呪いがあるかもしれないですよね……あ、時間だ。……まあ、私の正体は次回にでも。でわでわ」


 ピシリ、と空間に亀裂が入り、エリカを巻き込んで世界が崩れていく。

 残されたのは俺と空龍の二人。そして、完全に崩れ去ったあとには見慣れた神社の風景が残されていた。参拝客でごった返している。


「……あー、空龍さん。何がなんだか分からんけど、内緒の方向で」

「ところで、勃起ってなんですか?」

「俺が説明するのもいいが、ちょっと恥ずかしいから銀龍あたりに聞いてくれ」


 真面目な事を応えると、いらん問題を引き起こしそうだ。


「は、はあ……なんだったんでしょうか。こちらの世界では良くある事なんですか?」

「いや、ないけど……俺の周りだと良くあるな」

「あるんですか……不思議ですね」


 空龍はどこかズレていた。




-3-




 妙な乱入者はあったものの、参拝そのものはつつがなく終了した。

 参拝やおみくじよりも出店の食い物のほうが食いつきが良かったのはアレな感じだが、食べ物という分かり易い文化に惹かれるのも分かる。

 神社内ならともかく食べ歩きは行儀が悪いぞと言うと、帰り道の歩行速度が半分になるくらいだ。


「ふむ……これもなかなか……」


 玄龍も、おみやげに買ってきたたこ焼きに夢中になるあたり、とりあえずこいつらは食い物から交流を始めるべきなんじゃないかと思ってしまったのも間違いじゃないだろう。見た目クールな感じなのに、食い物を前にすると眼の色が違う。


「銀龍はどうしたんだ? まだサッカーやってるのか?」

「いや、あまりにゴールが決まらず途中で飽きて、パンダとかいう種族とキックベースというモノを始めた」


 何やってるんだろうな、あいつも。


「お前は混ざらないのか? 空龍は銀龍のところに行ったけど」

「まったくというほどでもないんだが、銀ほどスポーツに興味は惹かれない。人数が足りてないなら参加したかもしれんが」


 パンダいっぱいいるからな。人数は足りるだろう。


「どうも俺は偏ってるらしい。人間の体を動かすという意味では同じだが、興味はこの肉体や動かし方……特に戦闘に寄っている。こちらに来てからはずっと武器を振り回している気がするな。人が積み上げてきた武術というモノはなかなかに面白い」


 それは、龍が生み出された根本理由に最も近い欲求だ。そういう意味だと、一番龍らしいのは玄龍なのかもしれない。


「空龍がお前の事を真面目だって言ってたぞ」

「それはちょっと違う。姉上や銀の奴とは方向性が違うだけで、単純にこの体を使って戦う事が楽しくてしょうがないんだ。俺はこの五体に可能性を感じてならない」


 慣れない体を上手く動かすのは、たとえていうなら転生直後に体を動かす感覚に近いだろうか。

 龍と人間という差異を考えるなら単純比較などできないだろうが。


「というわけで、最初に保留していた話といこう。俺が交流として提案するのもそれに基づくもの。こちらの世界の冒険者、そして我々の本分。ダンジョン攻略だ」


 至極まっとうな提案である。ダンマスからも示唆された内容だ。


「なら、無限回廊の共同攻略でもするか? ダンマスからは許可もらってるぞ」

「それでも構わなかったんだが、聞けばお前はクランという組織の長で、そこには結構な人数が所属しているそうじゃないか」

「まだ立ち上げてはいないが、そうだな」


 何人だっけ? 二十人くらい?


「そんな話をしていたら、火と地の亜神から対抗戦をしてはどうか、という提案が上がった」

「俺たちとお前らの?」


 人数差は大きいが、実力考えるとアリなのか? でも、ガルドやベレンヴァールもいるしな。


「いや、パーティを分けて我々はバラバラに参加する。交流という意味ではそちらのほうがいいだろうと言われた」

「あーなるほど」


 つまり、空龍、玄龍、銀龍それぞれが所属するパーティができあがるわけだ。友好的な交流という意味では、前回の模擬戦よりもよっぽど"らしい"。

 場所は、必要なら[ 四神の練武場 ]に専用のステージを用意してくれるそうだ。参加するのは基本的にクランメンバーと玄龍たち三人。実力差考えなければ三パーティなら作れそうだが……。


「四神それぞれが担当して勝負したいから、どうせなら四チームがいいと言っていたな。一つ、我々がいないチームもできるが、問題はないだろう」

「まさか、人数合わせで皇龍出てこないよな」

「……いくらなんでも母上はないだろう。……ないよな?」


 いや、知らんがな。お前らの母親の話だろう。あんなのが出てきたら、それだけで勝負決まってしまう。


「あとは実力の問題だな。デビュー前から中級まで、はっきり言ってバラバラだぞ」

「そこは、組み合わせも含めて四神殿と相談だな」


 サティナやレーネはなしだろう。いきなりになるが実力の確認も兼ねてガルドにも参加してもらうとして……ギリギリ四チーム足りるか?

 とりあえず、ロッテや肉壁君、リリカには話を通したほうがいい。そろそろ会わなきゃいけないと思っていたんだから、ちょうどいいともいえる。……《 魂の門 》とやらについても聞かないといけないし。


 その後、主要メンバーと協議した結果、このイベントは実施する事になった。

 場所は予定通り[ 四神の練武場 ]。内容は四神に任せる事になるが、どのランクでも幅広く活躍できるステージ構成。チームは四チームで、それぞれに四神の担当が付く。あまり高価なボーナスはないが、順位があったほうが面白いだろうという事で四神のポケットマネーから賞金が出る事になった。

 ユキから最下位には罰ゲームという提案も出されたが、一部から強い反発があって却下された。代わりに奉仕活動が義務付けられるらしいから、負けたくはない。

 チーム構成は参加メンバーが確定した時点で再度検討だが、今のところ有力なのはチームリーダー四人がドラフト的にメンバーを獲得していくという方式が有力である。

 誰がリーダーをやるかについては少し揉めたが、クラン代表として俺とユキは確定。空龍たちは辞退、あとは適性を考えてラディーネとディルクが担当する事になった。……まだ合流してない新人にリーダー任せるのもアレだが、適性はあるだろう。




「なるほど、いいんじゃないですかね。チームリーダー含めてお受けします」


 ラディーネの了解は取り付けて、後日ディルクにも聞いてみたが、こちらもOKらしい。


「ちなみにサージェスさんとかどうだったんですか? あの人、前世はレジスタンスのリーダーだったって聞きましたけど」

「適性はあるんだろうが、その前世が原因でやりたくないらしい。前もパーティーリーダーを断られた事がある」

「なるほど。となると、確かに全体的にリーダータイプが少ないですね。僕もそう向いてるほうでもないと思いますし」

「そうか?」


 現在もらっている情報だけで見ても、適任と言わざるを得ないのだが。

 まあ、能力だけで判断してるし、経歴上実際にリーダーとして動いた経験はそうないだろう。


「単純にリーダーをやった事がないんですよ。まあ、渡辺さん直々のご指名ですし、ここは得点稼ぎとして頑張りましょう」

「摩耶やガウルもできそうだが、あいつらはどっちかというと遊撃戦力として動いたほうが強いからな。クラン設立後もパーティーリーダーやってもらう機会はあると思うから、その練習がてらって事で頼む」

「はい。確かに必要そうですね」


 パーティ人数が六人である以上、リーダーが俺一人では絶対に回らない。ユキと二人でも難しいだろう。

 今後、パーティメンバーを適宜組み合わせるなら今回の四人でも足りないほどだ。


「ところで、結構な人数になってきましたけど、これ以上増える可能性ってありますか? 渡辺さんは多分、少数で回す組織を構想してると思うんですが」

「おそらくここら辺がMAXだ。増えても二、三人くらい。それ以上だとちょっと重い」

「僕もそう思います。トップのほうにいるクランはこの数倍の規模ばかりですけど、それに倣う必要もないでしょう。足並み揃えるのも大変ですし」


 < アーク・セイバー >を見てると攻略の進行を合わせるのも苦労してるのが分かるからな。規模を大きくするのも良し悪しだ。

 この場合、問題は多分七十一層以降。六人パーティ以上での攻略になる可能性だろう。[ 鮮血の城 ]では八人なんてハンパな人数だったが、普通に考えるなら六の倍数が上限になると思う。これが四パーティー二十四人までならいいんだが、それ以上になると戦力が足りないという事になってしまう。

 ……いいか。先の事を考えるなら、定員割れしたとしてもそのまま突破できるくらいでないと。今回トップクランがやったように合同攻略という手だってあるし。そもそも、一番先行してるダンマスたちだって五人だ。


「というわけでだ、ついでにそろそろクラン内の意識確認をしておきたい」

「……というと?」

「冒険者としてやっていく短期、長期目標、得意分野や今後どういう方向性で鍛えていくとかの方針だ。まだ方法は考えてないが、アンケートになるかな」

「……そうですね。全体で共有するかどうかはともかく、渡辺さんは知っておいたほうがいいでしょう。ちょっと僕のを書いてみましょうか」


[ ディルク ]

 ○得意分野:《 情報魔術 》/後方支援全般

 ○成長の方向性:カバー可能な戦域と情報の拡大

 ○短期目標:悪質な嫌がらせをしてくる人への復讐

 ×長期目標:無限回廊の調査


「こんな感じどうでしょう? 頭の○×はクラン内に共有していいかどうかです」

「ああ、単純だけどこれくらいでいいかもな。俺にも言いたくない情報はそもそも書かなければいいと」

「はい。クラスとかの情報はすぐ分かりますし、情報を多くしても書く人が面倒ですしね」


 これをメンバー候補に配って書いてもらうか。


「ところでディルクさん? この短期目標だけど……」

「特に誰と明言する気はないんですが、最近ちょっと意にそぐわない嫌がらせを受けまして。いや、きっとその人も善意だったんでしょうが、けじめはつけないとな、と」


 これは、根に持たれちゃってるのかなーー。


「俺、最近思うんだ……大人って問題に向き合う責任と、分かっていても飲み込む器が大事かなって」

「僕、子供なんですよね。結婚カウントダウン始まってますけど……はは。いや、この件とはまったく関係ないんですけどね」


 やべえ、俺なにかとんでもない事されちゃうんじゃ……。といっても、この目は弁解を聞いてくれそうには見えない。

 ……セラフィーナを更なる意味で味方につけるか。




-4-




「どっちもどっちだと思うな」


 翌日、まだ見ぬメンバー候補最後の一人との顔合わせのために借りた面談室でディルクとの一件を話すと、ユキさんからそんな反応が返ってきた。


「責任取るべきってのは分かるけど、ツナの不意打ちもひどいと思う。後々遺恨残さないでよね」

「あの狂犬に首輪を付けるためには、あれがベストだったんだ……夜道で刺されたくないし」

「いや、それでもさ。……まあ、聞く限り冒険者としての活動には影響しなそうだからいいか」


 まずいな。ディルクの復讐が始まっても、よっぽどの事がなければ止めてくれそうにない。


「それで、確認とれてないのはこのあと会う二人とリリカだけだっけ? ボクはバイト入ってるから、リリカのほうは同席できないけど、大丈夫だよね?」

「あとベレンヴァールたちだな。リリカのはただのついでで引越しの話がメインだから、お前がいなくても大丈夫だ。すぐ終わるだろうし」


 まあバイト時間が被ってるのは偶然じゃないわけだが。だってババアの呪い怖いし。




 というわけで、面談である。

 ノック後にドアが開くと見慣れた赤髪の吸血鬼が現れた。その後ろにはゴブリンがいる。他のゴブリンと見分けはつかないが彼がロッテの弟分だろう。


「ど、どうもお久しぶりです、お兄ちゃん」


 仲介役のロッテは何故かとてもやり辛そうな感じだ。

 こいつ、会う度にイメージが変わるな。そろそろキャラ安定させたほうがいいんじゃないか。


「その……先日は大変恥ずかしい真似をしてしまったようで……色々記憶を消去してもらいたいというか」


 どうやら、あの酔っ払いロッテさんは本人的にも不本意な暴走だったらしい。


「大丈夫だ。誰にも言わないから」

「いや、お兄ちゃんにも忘れてほしいんだけど」


 そんな事言われてもどないせいっちゅうんじゃ。


「そ、そんな事よりさ、紹介してもらいたいんだけど」


 同席しているユキが気を利かせて話を進めてくれた。このままだと話が進まなそうだったので助かる。


「あ、はい。リーゼロッテ・ライアット・シェルカーヴェインです。元モンスターの吸血鬼で最近冒険者デビューしました」

「いや、そうではなく」


 自己紹介は大事だが、お前の事はさすがにユキも知ってるだろ。今紹介が必要なのは後ろのゴブリンだ。


「あー、ごめんなさい。さあ、自己紹介して」

「あの……オイラ事情が飲み込めてないんスけど。これ、なんの面接っスか?」


 おい、ロッテさん? 事情説明すらせずに連れて来たのかよ。


「……説明してなかったっけ?」

「姉ちゃん、最近吸血酔いしてたから説明した気になってたんじゃ……」


 なんというか、ダメダメな感じである。ラスボスやってた頃のロッテさんはどこに行ってしまったんだ。


「あーすまない。新しく立ち上げるクランのメンバー集めだ。ロッテは入団内定済み、でその紹介でどうだっていう状況」

「そ、そう。そういう事なの。忘れてたわけじゃないから」


 もうロッテさんは黙ってたほうがいいんじゃないかな。


「なるほど。……ええと、ゴブサーティワンっス。変な名前っスけど本名で、ギルド職員のゴブザブロウの長男っス」


 三郎の長男だから一加えて三十一になってしまったという事か。狙撃が得意そうには見えないのに。

 俺たちも軽く自己紹介すると、渡辺綱の名前に反応した。どうやら名前を聞いた事はあるようだ。


「知らなかったみたいだけど、ウチでいいのかな? モンスターだけのクランとかもあるんだよね?」

「正直なところ、強くなれるならどこでもいいっス。ここの事はよく知らないけど、姉ちゃんが見つけてくるって事はそういう類だと思うっスから」


 隣でうんうん頷くロッテはドヤ顔だ。お前の株価は急落中なんだが。


「強くなるってのは種族の本能的なもんか? それとも目的があるとか」

「ぶっ殺したい奴がいるんスけど、ハンパじゃなく強いんスよね。あいつ殺せるならオイラなんでもするっス」

「ぶっこ……、物騒だね」


 また、直接的な理由だな。俺も人の事言えないけどさ。


「……ちなみにどんな奴よ」

「ゴブタロウっス。父ちゃんも大概だけど、あの悪魔に比べたらマシっスから。でも、オイラを生け贄にした父ちゃんも許さないっス」


 出てきたのは意外な名前だった。え、ゴブタロウさん何したん?


「ご、ゴブリン肉とかそういう趣味はともかく、基本的にあのゴブリンさん真面目なイメージなんだが」

「あの悪魔、ゴブリン相手だと容赦なくて……」


 その目は遠くを見つめていた。一体ゴブリン界では何が起きているというのか。


「姉ちゃんもそれは知ってるんで、それを実現できる可能性があるクランじゃないかと思ったんスけど」

「あのゴブリンがどれくらい強いか知らんしシステム上殺せるかは知らんが、トップに追いつく気ではいるぞ」


 ゴブサーティワンがどうとったかは分からないが、この場合のトップっていうのは< アーク・セイバー >や< 流星騎士団 >ではなくダンマスだ。


「なら問題ないっス」

「……ゴブタロウさん、ゴブリンにあるまじき強さなんだけど、ロッテちゃん的にゴブサーティワン君は見込みありそう?」

「あると思うけど……謎生物過ぎてよく分からないかな。とりあえず肉壁には最適よ」


 肉壁扱いなのは今更として、謎生物って……ゴブリン以外の何者でもないと思うんだが。


「タンクってこと?」

「タンク系のクラスには適性ないっスけど、しぶといとはよく言われるっス」


 よく分からん。俺みたいなタイプって事か? しぶとさには自信あるぞ。


「お兄ちゃんよりしぶといと思う」

「え、ツナよりって……それしぶといってレベルじゃないんだけど」


 その手の才能は非常にウチ向きといえる。しぶとくてしつこい連中ばっかりだからな。最近は模擬戦やってても完全に仕留めるまで油断できない。


「とりあえず、脳含めて四分割くらいならそのまま戦闘続行できるっス」

「アメーバか!」


 俺と比べる類じゃねーよ。ウチのキメラさんだってそこまでじゃねーぞ。


「縦に真っ二つにしても普通に生きてて、そのまま再生するから肉壁にちょうどいいの。しばらくは二体とも動き続けるし」

「いつもの事だけど、姉ちゃんはオイラの扱いがひどいと思うっス」

「えと……ゴブリンなんだよね?」

「最近は自分でも自信ないっス。ずっとゴブタロウの改造実験受けてきたから、もはや何%ゴブリン部分が残ってるのか……」

「よかったなユキさん、仲間だぞ」

「いや、一緒にしないでよっ!?」


 とんでもねーな、ゴブタロウさん。生命倫理とか全力で捨ててかかってる。


「まだレベル低いっスけど、お役には立てると思うっス」

「どうかな? お兄ちゃん」

「……まあ、ほとんど顔合わせのつもりだったしな。実はすぐ実力を試す機会があるから、そこでよっぽどひどい結果にならなきゃ合格でいい」

「私たちFランクになったばっかりだけど?」

「まあ、特殊イベントって奴だ。お前の[ 鮮血の城 ]ほど殺伐としたもんじゃないが」


 玄龍が提案してきた[ 四神の練武場 ]のイベントについて説明する。


「……ふーん。あそこ、ちょっと興味あったんだよね。面白そう」

「なんかよく分かんないっスけど、ここ、とんでもないクランなんじゃ……」


 俺たちにとっては今更だが、まあすぐ慣れるだろう。改造手術受けるよりはよっぽど健全だと思うぞ。




 そして、その流れでリリカと面談である。ロッテたちはすでに退席済み、ユキさんもバイトの時間で席を外したあとだ。


「えっと……、それで一体これはどういう状況なの?」

「入団前の最終面接みたいなもんだ。色々話さないといけない事もあるし」

「はあ……」


 今更改まって話する間柄でもないから、わざわざ面談するのは奇妙な感じではある。実際、霊の件がなければ食堂でもいいくらいだし。


「とはいえ、リリカの入団自体はほとんど決まりだから、細かい部分からだな。引越しはいつくらいにする?」

「……え、ええぇーと……その……来週……来月とか?」


 なんでキョドるねん。どこにそんな要素があるというのか。


「なんか不都合でもあるのか? 来月だと寮費かかるだろ」

「う……そうだね。頑張る」


 え、何を頑張るの? アレクサンダーたちが手伝ってくれるし、ぶっちゃけ荷物まとめるだけなんだけど。


「実際に一緒のパーティとして活動するのは四月以降だからいつでもいいんだが、パンダはもう住んでるし、ディルクたちも来週には来るぞ」

「その……色々準備があって。今月中にはなんとかする」


 なんだか良く分からないが、言いづらそうな表情だな。深く突っ込まないほうがいいのか?


「次に、今週合同イベントでダンジョン・アタックやる事になってな。スケジュールに無理がなければ参加して欲しいんだが」

「ツナ君たちと? ランク違うけど」

「そこら辺無視して、可能な限りクラン員全員参加って事で。専用にダンジョン用意するから出番ないって事はないと思う」

「分かった。最近色々発見があったから試してみたい事もあるし」


 こっちは即答でOKなのか。引越しを渋る理由が分からん。


「あと、最後に個人的な話なんだが、《 魂の門 》って知ってるか?」


 その言葉に、リリカがギョっという表情を見せた。聞けば分かるというのは確からしい。


「なんで……あ、ダンジョンマスターから聞いたのかな」

「ダンマス? いや……出自は言えないんだが、そうだな……夢でお告げを受けたというか……」

「ゆ、夢!? 夢に出てきたの?」


 その反応は先ほどよりも強く、動揺や焦り、困惑といった感情の入り混じったものに見えた。混じり過ぎて何を考えてるんだかよく分からん。


「もののたとえだ。なんか門を潜れって言われてさ。《 魂の門 》ってなんだか知ってるのか? どこにあるのかとか」

「……何かは知らないの。……えーと、魔術の名前かな。ウチの秘奥義で、今は私しか使えない」


 エロい意味じゃなくて、魔術だったのか。いや、期待してたわけじゃないんだが。


「門っていうなら、それは潜れるものなのか?」

「潜……れるけど、潜れる人は限られてて、術者と魔力の相性が良くないと弾かれる。あと、成功しても失敗しても、一ヶ月くらいは何もできなくなる」

「随分リスキーだな」

「危険なのは間違いない。ツナ君みたいな人なら大丈夫かもしれないけど、常人だと潜るだけで発狂する」


 そんなものを潜らせてどうしようっていうんだ。


「話題に出した俺が言うのも変に感じるだろうが、そもそもなんのために使う魔術なんだ?」

「魂の真理に触れる事で魔術への親和性を強化する……のが基本的な目的かな」

「魔術士の修行に使う感じか。……基本的じゃない目的は?」

「分からない。そもそも、私が制御できるのも第一門……最初の段階だけで、奥に触れる事で何があるのかも……」


 なにか、良く分からない未知の部分が繋がったような感触を覚えた。……いや、この場合は繋げられたか。

 正体は分からないが、それが必要なものであるという確信がある。だけど、それ以上に何かズレているような……。なんだこれは。


「まあ、すぐには無理そうだから、近いウチに使用を検討してくれ」

「……ツナ君が潜るの?」

「潜る。もう少しちゃんと説明受けてからになるけど、それは確実だと思う。どうしても無理っていうなら……」

「ううん、分かった。なんか釈然としないけど……」


 それは俺も同じである。……できれば、その前に一度あいつに会っておきたいところだ。

 正体不明。本人から口止めされてるが、直接的じゃなければ聞いてもいいんだろうか。あの呪いもさすがに冗談だろうが、可能性がわずかでもあったら耐えられない。……ええい、ままよ。


「全然話は変わるが、リリカって兄弟姉妹っている?」

「え、うん。正式には兄が二人、姉と妹が一人ずつ。認知されてない人を含めたら、把握できないくらいいるはず」

「……把握できない?」

「そこは大貴族の事情というやつで……。下半身のだらしない父親というか……、それでもギルドマスターに比べたら遙かにマシというか……」


 そこら中に愛人がいるんだろうか。この分だと諦められてるようだが、羨ましい話だ。

 となると、エリカもそんなたくさんいる庶子の一人か、そもそも認知されていない子なのだろうか。それならリリカが知らないっていうのも分かるな。血縁的に、姉妹じゃなくて姪ってケースもありそうだし。……貴族のアレコレって良く知らないが、認知されてなくても家名名乗っていいのか?


「勘当同然の身なんで、正直実家の事はあまり話題にしたくないんだけど……」

「ああ、悪い。なんでもないんだ。ちょっと気になっただけだから」


 個人で調べてみるか。……正月休み明けて会館の資料室が使えるようになってからだな。




 と、そんな感じでイベント参加の意思確認を続けていく。ここまでは全員参加の方向で、順調そのものだ。

 そして、ギリギリ足りると思った人員だったが、やはり最後の一人に問題があった。


「いや、俺まだトライアルへの挑戦すらしてねーんだけど」


 ようやく本営業を開始したギルド会館で、その最後の一人であるサンゴロに声をかけてみたのだが、返答はこれである。

 サンゴロはデビューどころかトライアルへの挑戦すらしていない。確かに、これで上級冒険者を含むイベントに参加しろというのも酷な話だ。いや、最初から分かってた事だけどな。


「ボクもやっぱり無理があると思うよ。内部だけでパーティー組んでみたいって気持ちは分からないでもないけどさ」


 ユキさんは一貫して否定的だからな。というか、拘ってるのは俺だけかも。


「一応、まったくの無駄にはならないよう、パーティ間で調整してもらう予定なんだが」

「いやそれでもよ。お荷物ってレベルじゃねーぞ。そんな立場は勘弁願いたいんだが。他にいねーのかよ」

「まあ、いない事はないんだが」


 別に参加者に制限があるわけでもないし、外部から呼べば済む話だ。フィロスやゴーウェンでも問題はないし、一人足りなくてもカバーはできるだろう。だが、あと一人なんだよな。ここまできたらクラン内で四チーム作りたいという気持ちもある。

 サティナは明確に決まったわけじゃないし、先にベレンヴァールとの関係を修復させたい。そもそも彼女もデビュー前である。レーネはユキの問題が一切解決していないので呼ぶわけにいかないだろう。デビュー済みとはいえ、クラン以前の問題だ。ユキさんに殴られてしまう。

 外堀埋め始めてもしない今の段階で正体がバレたりしたらクラン入りが完全に潰える事になるし、それは俺もあんまり望んでない。


「仕方ないよね。ボクもそのポジションは嫌かな」

「せめて半年後とかならな。言っちゃなんだが、俺あの戦争の頃からほとんど変わってねえぞ。ベレンに訓練してもらってるが、年末年始の休止期間でダンジョンにも入れてねえし」

「ツナだったらデビュー前に参加しても違和感なかったかも」

「いや、大将みたいな化物を比較に出されてもな」


 正直、トライアルに挑戦した事もない人間を別のダンジョン……それも機密の塊みたいなところに入れてもいいのかっていう話もある。

 諦めて誰か声かけるか。最悪、二十三人でも……いや、いっそ六人パーティに拘らないって手も……。もしくは、ゴブサーティワンを分裂させるとか……。


「あ……」


 何か思い当たったのか、ユキが声を上げた。


「妙案でもあるのか?」

「あ……うーん……、これはどうなんだろうな……。でも、一応デビューしてるし……本人次第かな?」

「誰だ? クラン外から呼びたい奴がいるとか。それとも入団させたい奴がいるとか」


 入団予定者はこれで全員で、漏れはないはずだ。いるとしたら、俺の知らないところでユキが目を付けている奴とか……。


「ククル」


 ……それは、盲点だ。



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