第7話「天空の宮殿」




-1-




『意地ぃ張らねえとなあっ!!』


 《 飢餓の暴獣 》を発動し、新たなステージへと至った俺が雄叫びを上げる。対するは《 進化する魔人 》で変身中のベレンヴァール・イグムート。

 掟破りともいえる変身バンク中の攻撃だが、変身前に仕留めなければ即終了という場面だ。ベレンヴァール本人も卑怯とは言うまい。

 《 ブースト・ダッシュ 》での神速の肉薄から怒涛の連携。強制起動まで使用した限界を超えた連続攻撃の締めは《 クイック・トリガー 》。飛び道具は当たらないという俺のジンクスを跳ね返して胸に巨大な穴を穿ちはしたものの、ベレンヴァールは生きている。

 俺の手は正真正銘ここまでだ。ベレンヴァール本人が無理矢理体を動かして、心臓ごと寄生したパラサイト・レギオンを抜き取らない限り敗北は必至だっただろう。決着後に自動蘇生するところまで、お互いに既存の常識を無視した戦いだったといえる。


 動画再生中は全員が無言。戦闘が終わり、動画が終了しても画面の前は無言が続く。

 正直、こうして第三者視点で見ると俺も絶句する他ない。何やってんだ、俺。異常ってレベルじゃねーぞ。

 俺の過去の戦績は強敵ばかりでいつも無茶ばかりしてきたが、これはそれらを飛び抜けて無茶苦茶だ。最近倒したオーク・チャンピオンさんの健闘が慎ましやかなものに思えてくる。


「…………」


 チラリと覗いたダダカさんの顔は渋いものだ。別に怒っているわけでもないだろうが、賞賛する表情には見えない。どちらかというと、難題に対して答えが出せないでいるという感じだ。

 リハリトさんは甲冑を着けたまま顔が見えないので何を考えているかは分からない。同席してもらったベレンヴァールと、ついでにキメラも含めて感情が読み辛いメンツだから、発言の口火を切るのが困難だ。何言えばいいんだろう。


 年の瀬も近くなった十二月三十日。領主のパーティを今日の夜に控え、俺はダダカさんに呼び出されて< アーク・セイバー >の訓練場にいた。

 用件は[ 静止した時計塔 ]の戦闘動画の鑑賞。どうやらあの戦いの記録は動画としても残っていたらしく、サルベージに成功したらしい。

 特殊な位置づけの動画である事は間違いないので、トップクラン幹部といえども無条件で閲覧させるわけにはいかず、いくつかの条件が提示された。

 その条件は一定以上の冒険者ランク……実質大手クランの幹部級である事と、攻略に参加した俺たち全員の了解だ。美弓などは個別に許可を取り付けたらしいが、俺とベレンヴァールは訓練も兼ねてこうして足を運んでいる。

 キメラが立ち会っているのはラディーネから要請された別件のついでなので、直接関係はない。大人しく一緒に動画を見ているが、本人が興味を持っているかどうかも分からない。


「……前々からお前さんの異常性は分かっていたつもりだったが、ここまでとはな」


 重苦しい空気の中、最初に口を開いたのはダダカさんだ。周りからも否定の言葉はない。それは俺を含めてこのメンツの心境を代弁したものという事だろう。


「ですよねー。自分でやっててなんですけど、何やってんだって感じですよ」

「……お前さん、その様子だと分かってないな」


 重い場を和ませるために軽く同意すると、ダダカさんからそんな言葉が返ってきた。特に何考えてるのか良く分からないリハリトさんとキメラはこの際置いておくとして、ベレンヴァールも俺を見て呆れた表情をしている。

 ……あれ? 何か見落としてるんだろうか。


「無茶苦茶やってるのは分かりますが、それはベレンヴァールも一緒でしょ?」


 《 バーニング・テリトリー 》と《 ダーク・テリトリー 》は《 領域魔術 》の範疇なので既知のものかもしれないが、《 刻印術 》、体を変化させての攻撃、挙句に蘇生は常識外れもいいところだろう。もう使えないみたいだが、クラス< 魔王 >の能力と思われるスキル群も尋常じゃない。

 変身前の時点ではトップクランの幹部よりは格が落ちるかもしれないが、直接対峙した感触では変身が完了していた場合はそれを上回っていた可能性すらある。なんせ、変身始めただけで命の危険を感じて《 飢餓の暴獣 》が発動したくらいなのだ。


「ダダカ氏が言いたい事はそうではないだろう。戦闘前の時点でお前の情報があったわけでもないから、有り得ない事ではないと思っていた……だが、これはな」

「動画で見て初めて分かる事があったって事か?」


 操られていたとはいえ、直接対決したベレンヴァールがこう言うという事はやはりおかしな部分があるのだろう。

 高難度とはいえスキルじゃないだろうし、あきらかに未知の物といえば……まさか、< ラディーネ・スペシャルII >か?


「聞きたい事も言いたい事も色々あるが、この戦闘の中で最も異常なのはお前さんの強制起動だ」


 全然違った。


「……強制起動自体は既知のものって聞いたけど」

「強制起動自体はな。そこのリハリトはその第一人者のようなものだから、この異常性は余計に分かるはずだ」

「ソウダナ……理解デキナイ」


 無口なリハリトさんが口を開いたと思ったら、俺が異常である事の肯定である。

 遠征の最中仕入れた情報によると、リハリトさんは近付いただけで辺境伯が泣き叫ぶほどの非常識な存在だ。そんな本家デーモン君でさえ、俺の強制起動は異質なものに見えるというのだろうか。

 《 見様見真似 》の習得者は多くはないものの一定数存在する。この場合は強制起動自体の問題ではないんだろうが、何を問題視しているのだろうか。


「フィロスが使った武器カテゴリ拡張、ハーフエルフの嬢ちゃんの人形や《 魂の一矢 》は一般的ではないが、理解できる。《 刻印術 》やその他諸々のベレンヴァールが使ったスキル群も、別世界のものだから未知なだけで説明自体はつく。お前の《 飢餓の暴獣 》も元々が未知の部分を多く含んでいるから、スキルレベルが上がって強制起動ができるようになったとしても……さほどおかしな事ではない。マイナスコストをLv9まで許容できているのは異常と言うしかないが、これも既存のルールの延長戦上に存在するものだ。理解できなくはない」

「……じゃあ、何が引っかかってるんですか?」


 もう、大体の要素は出た気がするんだが。ここまでの要素だけでも大概だ。


「強制起動は相手側にメッセージが出力されない。だから俺は最後の連携で使ったのは習得済みのスキルだと思っていたんだが……。お前はこの訓練の前に見せてもらった情報の中にないスキルを使っていた。そして、強制起動自体ここで初めて使用したという事は、これらは完全に未使用の技という事だ」


 強制起動かどうかは相手側には表示されないのか。という事はフェイントにも使えそうだが……今は関係ないな。


「そうだな。確かに《 夢幻刃 》や《 瞬閃 》、《 旋風斬・逆風の太刀 》と……あと《 サイクロン・ソバット 》を使ったのは初めてだ」

「最もおかしな部分はそこだ。お前さん、どうやってスキル連携を成立させた?」

「どうやってって……新人戦の時にその場で習得して連携した《 旋風斬・二連 》と同じ要領で……」


 アレもその場で覚えて連携したものだ。……あれ?

 そこまで言われてようやく気付いた。


「……なんで俺、連携できたんだ?」


 スキル連携は発動タイミング、溜め時間、モーションなど多くの要素が絡んでくるものだ。これらの要素は人によって、習熟度合いによって、関連スキルによって差が出る。わずかにステータスが変動しただけでも、コンマ秒の世界で発動させるスキル連携のタイミングはまったくの別物に変貌するのだ。普通なら武器、ステータス、パッシブスキルに変動がある度にタイミングの再調整を行う必要がある。少しズラされただけでスキルが不発になるのは、クラン対抗戦で夜光さんが見せた通りだ。

 明確な認識とシビアなタイミングを要求されるスキル連携は、本来二つ三つ程度を目処に発動させるものだ。五つ以上の連携なんて実戦投入できるような領域じゃない。習熟してても発動は難しいし、当然覚えたばかりのスキルで発動できるものでもない。

 それを……覚えたばかりどころか習得すらしていない、強制発動自体が初のスキルで連携した?


「新人戦の《 旋風斬・二連 》もまあ……おかしいんだが、あれは《 旋風斬 》をガードされた直後という限定された発動条件を含むからか、連携難度自体はそう高くない。モーションも《 旋風斬 》と変わらんし、確率は低かろうが"絶対にない"とは言えないだろう。八連撃目という前提があるから、それでさえ真似できる奴はおらんだろうが……」


 言われてみたら、あの時点で相当無茶してるんだな。……しかし、今回のはそれどころじゃない。


「……だが、今回のは確率云々の話では済まされん。……お前さんが使った事がない、しかもこんな超高難度のスキルでマイナス補正を受けたまま多段連携を決めたんだぞ」


 そうだ。単発で強制発動させるならともかく、高度な理解が必要な連携に組み込めるはずがない。

 マイナス補正を受けてるって事は習熟されていないどころか使える段階にすらないという事なのだから。いくら俺が奇天烈な戦法を得意とするって言ったって無理がある。《 夢幻刃 》なんてマイナス9だぞ。


「天文学的な難易度になる超多段連携の中で、使った事のないスキルを組み込んで連携させる事は事実上不可能だ。才能とか運で片付けていい領域じゃない」

「……なんで使えたんだ?」

「それはワシらが聞きたいところだな」


 ……極限状態だったのは間違いないし、《 飢餓の暴獣 》の後押しもあった。多分、あの謎ギフトも発動している。だけど、それを実現する効果はこれまで確認していないものだ。未だあやふやな効果しか分からないが、それでもこれまで感じたものと毛色が違う事は分かる。

 俺は何故あの時、使えると確信を持って発動させた? そもそも、どんな条件を満たせばそれが可能になるんだ? まさか、新人戦の時も同じ現象が発生していたのだろうか。


「ワシはお前さんのギフトは事象の確率操作とかそういった効果を持ったものだと想定していた。新人戦の内容を考慮すればそういった類のものじゃないかとな。……だが、これはそれでは説明がつかん。1%を100%にするのも無茶な話だが、これは0%から100%に書き換えているようにしか見えん。それがどれだけとんでもない事かは分かるだろう?」

「……ああ」


 存在しない選択肢を無理矢理持ってきたアドベンチャーゲームや、将棋の盤の上に突然置かれたチェスの駒というほど理不尽なものじゃないが、これはそれに次ぐレベルのものだろう。

 データ上存在はするが、バイナリを書き換えでもしない限り本来発現しない現象。バグを使用していきなりエンディング画面を出すような馬鹿げた現象だ。誰も挑戦しようとも思わないような事を確信を以て実現している。……俺はTASさんか何かだったのか。


「一体、どんな代償を払ってこれを成立させてるんだろうな。ワシには想像もつかん」

「……代償」


 スキルは必ず何かしらの制約が存在する。HPやMPの消費、溜め時間、硬直時間、回数の制限、発動後のペナルティ、本人の能力や技量といった前提条件も制約と言っていい。いつかトカゲのおっさんにも言われたが、これらの制約が厳しいほどスキルは強力になる。《 飢餓の暴獣 》も発動条件はかなりシビアだ。

 あの謎ギフトの発動条件は俺の死のイメージだと確信している。だが、それだけなのか? たったそれだけでこんな事を実現できるのか?


 ……俺は、自分でも知らないうちに、何かとてつもなく巨大な代償を支払ってはいないか?


「お前さんが分からなきゃ誰にも分からんだろうな。さすがにダンジョンマスターも想像できないだろう。まったく、ベレンヴァールも大変な奴を相手にしたもんだな」

「むしろ俺はその理不尽に助けられたほうなんだが。……不可解ではあるな」

「お前の世界に説明が付きそうな知識とか持ってないか? 近い事を実現するスキルとか」

「そんな知識はない……が、案外ロクトル……俺の友人の学者なら解明してしまうかもしれんな。ここにいない奴の話をしても仕方ないが」


 ロクトルって、こいつが偽名に使っていた名前の事か。ラディーネやディルクみたいな奴がいたって事かね。

 このタイミングで俺たちが動画を見ているって事は、クラン対抗戦で会った時点でディルクも見ているはずだ。あの時は入団絡みの話がメインだったが、話題に挙げないのは……手掛かりもないって事なんだろうな。


「そもそも、無限回廊のシステムに関してはこちらの方が解明は進んでると思うぞ。挑戦している規模が違う上にダンジョンマスターのような存在もいなかったはずだ。《 刻印術 》に関しても魔族由来の技術でしかない」

「この件に関してはダンジョンマスターや情報局、あと実験区画の連中も乗り出してくるだろう。お前さん、来年頭はモルモット扱いかもしれんな」

「勘弁してくれよ……」


 ないとは言い切れないのが辛いところだ。ダダカさんが当初予想していたという確率操作だけでも、ダンマス帰還の重要な手掛かりになる。無数に存在する可能性の中から一つを絞り込む事ができるなら、それはなんとしてでも欲しい力だろう。どう活かすかはともかく、あの人がそれをまったく考えてないとは思えない。

 極端な話、来年の今頃はボーグの仲間入りしてる可能性も……。せめて生殖機能は残して下さい。


「本来ノ予定トハ違ウガ、なかなか興味深イ話ダッタ」

「なんじゃ、お前動画見に来たんじゃなかったのか」


 リハリトさんがここにいる事にそんな疑問は抱いていなかったが、この動画が目的じゃなかったのか。

 < アーク・セイバー >はクランとしての仕事納めも終わってるらしいし、わざわざ訓練場まで来たって事は、ベレンヴァールに興味でもあったのかな。


「コノ前ノ麻雀ノ取リ立テダ。オ前モ剣刃モ借金抱エタママ年越シは嫌ダロウ」


 ……予想の遥か斜め上を行く用件だった。


「……ちょ、ちょっと待ってもらえんかな。ワシ、今月の小遣いカツカツでな」

「奥方ニハ言ワナイデオコウト思ッタンダガ……」

「それは勘弁してくれっ!? 払う、払うから」


 何やってんだ、この人たちは。


 と、リハリトさんはダダカさんから金を回収するとそのまま訓練場を出ていった。このあとは剣刃さんの所に行くらしい。

 去って行く後ろ姿は決して敗残者には容赦しないという鋼鉄の意思を感じさせるものだった。

 俺たちの目の前には、打ち拉がれたダダカさんの巨体が横たわっていた。訓練で立ち会ったわけでもないのに完全ノックアウトである。

 ……どんだけ負けたんだよ。まさか小遣い少ないって事はないだろうに。


「……トップクランと聞いていたが、随分とアットホームな職場なんだな」


 ベレンヴァールの感想はどこかズレていた。




-2-




 気を取り直して、当初の予定だった訓練に移行する。


「……来月の二十五日までどうしよう」


 ……約一名、灰になりかけた人もいるが放っておこう。

 俺、絶対ここのメンツと麻雀しねえ。


「他のメンバーとの顔合わせの場は別に用意するが、ちょうどいいから紹介しておこう。こいつがウチのキメラだ」

「よ、よろしく。何かと思っていたが、クランメンバーだったのか……」


 低い唸り声を上げながら伸ばしてきた手で握手をするキメラとベレンヴァール。

 ほとんど喋らない奴なのでその風貌と合わさって怒っているようにも見えるが、キメラは基本的に温和な性格だ。俺の観察眼によれば今日は機嫌が良さそうだ。蛇の腕がキシャーキシャー鳴いているのは、初対面の相手を前に場を和ませようとしているのである。

 ……ベレンヴァールは引き気味だが、同じレア種族同士どこか通じるものがあったのかもしれない。


「モンスターが社会進出しているのは散々見てきたが、冒険者もいるんだな」

「モンスターの冒険者はいるが、キメラはモンスターじゃないぞ……だよな?」


 聞いてみたら一拍子置いて頷いた。


「……まさか、こういう種族が社会を形成しているのか。なんて種族なんだ?」

「良く分からない生命体だ。多分、本人すら分かってない」


 一応、種族:融合生物となっているが、そんなカテゴリがこいつ以外に存在するのかは怪しい。そういった意味ではモンスターよりもよっぽど意味不明な存在だ。

 [ 静止した時計塔 ]で戦ったパッチワークや変身後のグラスと共通している部分もあるが、あれも良く分からない相手だしな。

 聞かれたキメラも首を傾げている。……お前の風貌で小首を傾げても可愛らしくはならないぞ。


「異世界人っていう強烈な特徴を持っててもウチでは埋もれる程度だから、そういう意味では気兼ねしなくていいかもな」

「……少し不安になってきた」


 気持ちは分からないでもないぞ。俺はすでに逃げられないところまで来ているから道連れになってくれると助かる。


「ウチも個性的なメンバーが多いが、お前さんのところは飛び抜けてるの。狙っとるのか?」

「狙ってないです」


 借金取りに受けたダメージから復活したのか、ダダカさんが話の輪の中に入ってきた。

 < アーク・セイバー >は大所帯だから中にはそういうのもいるというだけで、ウチのほうが密度は遥かに上だぞ。


「それで、お前さんの今日の主題はこいつの訓練だったか?」

「ええ、武器の適性と方向性の相談がしたくて」


 ダダカさんがいうこいつとはキメラの事だ。本人の方を向くと、黙って頷いている。

 昨日ラディーネから聞かされたのだが、キメラは最近ウエポンスキルに興味を持っているらしい。

 基本、キメラの戦闘はモンスタースキルに偏ったもので、場面に合わせて体の部位を変化させて形状に合ったモンスタースキルを使用する。それでも十分と言っていい戦力だが、せっかく腕が複数あるのだから武器も使えたほうが便利だろうと、迷宮都市でもトップクラスの武器適性を持つダダカさんのところに連れてきたのだ。[ 静止した時計塔 ]の動画の件のついでである。


「手足を触手にしたり、翼生えたり、ゴブリンの腕を爆弾代わりに吐き出したりしますが、武器は上手く使えないんですよね」

「腕がそんだけあれば色々できそうなんだがな……。とりあえず、色々試してみるか。話は通じてるんだったか?」

「はい。あんまり上手くないですが一応会話もできます。……そういえば、前にラディーネが何か意思疎通用のアイテムを用意したとか言ってたような……」


[ (`・ω・´)ゞ ]


「え……」


 なんか急にキメラの近くに半透明なウインドウのようなものが浮かび上がり、掲示板で見かけるような顔文字が表示されていた。

 なにこれ……。


「まさか……お前さんがこれを表示しとるのか?」

[ +Ъ(・`ω・) ]


 肯定らしい。いや、なんで顔文字やねん。そもそも、お前そんなお茶目なキャラちゃうやろ。


「……この世界は色々すごいな」


 ベレンヴァールはすでに理解を放棄していた。これを世界の基準にしてはいけない。


 この顔文字機能、やはりキメラの意思で空中に投影しているらしい。予め決まったパターンの顔文字しか使えないので文章は構成できないが、コミュニケーションの一助となればとラディーネに持たされたそうだ。顔文字表示できるなら[ YES ]、[ NO ]くらいは使えそうなものだが、それは登録されていないそうだ。もう狙っているとしか思えない。


「……まあ、何もないよりは意思疎通し易いと考えるべきか」

[ (*´ω`*) ]


 意味もなく表示させるくらいには本人も気に入ってるみたいだから、問題はないだろう。言語障害というわけでもないから、どうしても必要な時は喋るだろうし。

 あと、その顔文字は流行らない。


[ (*´∀`*) ]

「おい、やめろ」


 ちょっとカメラ止めて!




 ……ふー、なんて危険な奴なんだ。さすがにその顔文字は洒落になってない。

 何故だかは決して分からないが、何かとてつもなく凶悪な存在の介入を許してしまうところだった気がする。何故だかは決して分からないが。大事な事なので二回言いました。

 その顔文字は永久封印確定だな。




 謎のコミュニケーションツールのせいで話が脱線してしまったが、キメラの武器訓練である。

 < アーク・セイバー >の訓練所という事で武器は一通り揃っているので、色々使わせてみた。

 剣、槍、斧、槌、弓のようなスタンダードな武器から始まり、三節棍、鞭、鎖、網などの特殊なもの、盾なども使ってみる。

 ウエポンスキルの実演を踏まえた訓練だが、改めて見てもダダカさんの武器適性の多さは異常だ。最近は俺も色々使うようになってきたが、練度も多様性も格が違う。斧や槌などの大型武器がメインだが、それ以外の武器種もとりあえず使えるという段階ではなく、どれも並以上なのだ。


「すさまじいな……グレン氏や夜光氏も相当な実力だと思ったが、戦況に合わせてなんでも使えるというのはまた違った強みという事か……」


 キメラが多数の武器を前に悪戦苦闘をしている合間で、ベレンヴァールとダダカさんが軽く手合わせをしていた。模擬戦とも呼べない打ち合いだからなんとも言えないが、一見ハイレベルな応酬ではある。


「ワシの場合、武器の扱いに偏ってる上に魔術はそれほどでもないがな。剣刃のように特化して得意な武器があるわけでもない。お前さんも大剣に限るならすぐに抜かされるだろう」


 それは、現時点ならまだベレンヴァールの得物である大剣の技量一つとってもダダカさんのほうが上という事でもある。ベレンヴァールも大概規格外だが、それでもトップクラン幹部と直接渡り合うだけの実力ではないという事なのだろう。

 とはいえ、ベレンヴァールの戦闘力は武器だけによるものではない。乱用はできないが《 刻印術 》という切り札もあるし、騎乗戦闘も得意だという。本来パーティの中で< 遊撃士 >が担当するような索敵、罠への対策などを含め、大抵の場面で対応が可能というのもソロでずっと戦ってきた強みだ。逆にチームプレイはほとんど鍛えられていないというのは今後の課題だろう。

 ……それでも単体戦闘力はウチの誰よりも上なんだろうがな。サージェスならワンチャンあるだろうか。


「そういや、ベレンヴァールは元の世界から何も持って来れなかったんだろ? 今後使う武装の調達先も考えないといけないよな」


 いくらダンジョン内でロストとはいえ、それは異世界の話だ。まさか《 アイテム・ボックス 》の中身が、迷宮都市の質屋に流れ着いてるなんて事はないだろう。


「聞く限りしばらくは量産品で問題なさそうだが、どこかでは調達したいところだな。元の世界にはダンジョンで使える武器の専門店などなかったから少し楽しみだ」


 宇宙開発が始まってるって事は、文明レベル的に主流の武器は銃になるんだろうか。素の身体能力で剣はないよな。


 その後、俺も混じって模擬戦方式で訓練を続けたが、こうして手合わせすると練度の違いがはっきりと出て悔しくなる。純粋な武器の技量では二人とも俺の遥か先にいる存在だ。

 ダダカさんは多数の武器種による万能性という意味なら極地に立っているような人だ。俺がその手の技術でダダカさんに追いつく事は難しいだろう。

 いつか剣刃さんが言っていた事だが、俺は武器の扱いについて特別優れた才能を持っているわけではない。

 今のところ俺とダダカさんの戦闘の方向性は似通っているが、俺の適性に合わせて軌道修正が必要だろう。朧げながら見えている俺の戦い方はきっとそういう正統な強さではなく、もっと歪で尖ったものだ。奇天烈だろうが、歪だろうが足掻いて生き抜いて先に進む強さが俺の進む道だと思っている。

 そして、俺よりも武器の扱いが苦手な奴はいる。


「お前さん、あんまり器用じゃないな」

[ (´・ω・`) ]


 キメラはダダカさんの辛辣な評価を受けてしょんぼりしていた。いや、見た目はそんな風でもないが、顔文字的に。

 色々試してはみたものの、キメラの武器適性は低評価と言わざるを得ない。鞭など使用に特殊な技術が必要になるものは軒並み適性がなく、弓や投擲武器の命中率は俺以下。腕は多くても、複数の腕で使う槍などの両手武器も苦手なようだ。ガウルが使うような金属爪は有効だが、元々モンスターの爪を出せるのでそこまで意味はない。剣を持たせても鈍器のような使い方になってしまうので、鈍器のような単純な片手武器を複数の手で振り回すのがいいというのが最終的な結論である。

 一日の付け焼き刃でウェポンスキルが習得できるとはキメラ自身も思っていないだろうが、先は長そうだ。


 また、武器の扱いとは直接関係ないが、キメラは戦闘中に顔文字を表示させて相手を笑わせるという反則地味た戦法を確立した。

 ……くそ、なんて卑怯な奴なんだ。あんな不意打ち、絶対笑うに決まってるだろ。




「元々モンスタースキルだけでも戦える上にウエポンスキルまで使えたら鬼に金棒だが、そう簡単にはいかんという事だな」

「そういえばその……こいつは防具はつけないのか?」


 ベレンヴァールの疑問は、キメラが冒険者であると知った者なら抱く疑問だろう。

 冒険者は獣人だろうがリザードマンだろうがパンダだろうが、よほどの事がない限り防具を着ける。例外はサージェスや< マッスル・ブラザーズ >くらいで、後衛職でも何かしらの防御手段は身に着けているものだ。キメラの場合はそのよほどのケースである。言ってみれば常に全裸だ。


「体が頻繁に変わるから合わせられないんだよ。こいつ、腕増やしたり羽生やしたり自由自在だぞ」

「そうか……いや、実演はしなくていいぞ」

[ (´・ω・`) ]


 自慢したかったのだろうか。


「盾は持ってるだけでも役に立ちそうだな。今度のアタックで試してみるか」


 頻繁に体の形状が変わるせいで限定的にしか使用できない鎧や兜と違い、盾はキメラの装備できる数少ない防具といえる。盾を使うにも技量は必要だから専門の盾職とはいかないが、自分の身を守る選択肢としては有りだろう。前に突っ込む事が多いので、フレンドリーファイアの予防にもなる。


「お前さん、ひょっとして皮膚の硬化も可能なのか?」


 ダダカさんの疑問に応えるように、キメラの皮膚の色が変わった。見た目はトカゲのおっさんの皮膚みたいだが、何かの生物のものだろうか。


「うーむ。ワシの知人でガルドという奴がいるんだが、そいつが使う物質変化系のスキルが向いてるかもしれんな」


 ……ガルド?


「ガルドって< 要塞 >ガルデルガルデンの事か?」

「なんだ知っとるのか。< ウォー・アームズ >時代の同僚でな。全身岩の岩石巨人という種族で、体の一部を鉱物に変化できる。事前に体内に取り込んでおく必要があるらしいが、こいつのはそれに近いものだろう」


 生物と鉱物って違いはあるが、確かに近そうだ。……いや、確認したいのはそっちじゃない。


「ダダカさん、< 要塞 >さんがどこにいるのか知ってるのか? 今探してるんだけど」

「どこって……あいつは< ストーンヘンジ >所属だぞ。出不精だからクランハウスにいるんじゃないか?」


 居場所どころか、クランが解散した事も知らないらしい。

 説明すると、呆れたような、納得したような微妙な表情をされた。


「ふむ……《 念話 》も通じんな。冬眠しとるんじゃないか? 野ざらしでも特に問題ないだろうが、一応ワシのほうでも探しておこう」

「見つけたら弟子のティリアが探してるって伝えてもらってもいいですかね。もしくは一報もらえれば……」

「弟子? ああ、お前さんのところの確か……ティリアティエルとか。言われてみれば、名前の付け方からして同じ地域の出身だな」


 確かに似たような名前が並んでるからそれっぽい。前世持ちがいるこの世界で命名ルールなんてあってないようなものだが、地方独特のルールのようなものはあるだろう。師弟なんだから同郷でもおかしくはない。




「さて、そろそろ閉めるぞ。今年最後だから戸締まりせにゃいかん」

「ここって、生体認証じゃないんですか?」

「ただの決まり事だ。そもそも、< アーク・セイバー >の年内の稼働日は終わってるから、ここ借りるのもわざわざ手続きしとるんだ」


 大きな組織故のルールって事か。


「ここの冒険者はそういった休みを決めているものなんだな」

「ベレンヴァールのところはそういう決まりはなかったのか?」

「俺やロクトルは許可もらって勝手に潜ってただけだし、犯罪者の刑罰で使用している場合は所属している国の法次第だ」

「なんというか、同じ無限回廊の話とは思えんな」

「……二つの実例しか知らんが、異端なのはここなんじゃないか」


 ネームレスの情報くらいしか比較対象がないが、ベレンヴァールの意見が正解だろう。

 この規模で組織立って攻略してる世界はちょっと想像がつかない。確認しようもないが。


「まあ、行き来できない異世界の事は置いておいて、この街はそういうルールがあるって事だ。ダンジョンに入れんし、ギルドも最低限しか稼働してない……そうか、単身ダンジョンで稼ぐわけにも、ギルドで日雇い探す事もできんのか……」


 金の話か。リハリトさんはあるだけ全部回収していったのだろうか。


「年明けてからならなんとでもなるんじゃないですかね」

「……それだと、ウチの子供のお年玉が用意できん。さすがに体裁が悪いってレベルじゃないぞ」

「……は?」


 あれ、ダダカさん子供いたんだ。


[ Σ(・∀・;) ]

「え……ああ、そうですよね。妻帯者だから子供いても変じゃないですよね」

「なんじゃい。ワシに子供がいるのがおかしいのか。グレンはおらんが剣刃にも娘がいるぞ」


 それは知っているが。ダダカさんのような巨大な体格からは、剣刃さん以上に家庭のイメージが想像できない。やっぱり奥さんもデカイ人なんだろうか。


「……まずい。誰かに借りるにしてもリハリトは論外だし、剣刃は無理だろうな……。よし、ワシはこれからグレンの家に泣きつきに行くが、お前さんたちも行くか? あいつの場合、人の目が多いほうが見栄張って上手くいきそうだ」

「いや、俺もベレンヴァールもこのあと領主館でパーティなんで準備しないと。キメラはフリーのはずですけど……残しておきます?」

「そいつの風貌じゃ脅しにしかならんわ……領主館?」


 ダダカさんの表情が怪訝なものに変わった。


「多分グレンさんも行くと思いますけど、聞いてませんか?」

「……遠征の件でパーティに出席するとは聞いていたが、迎賓館でも都市庁舎でもなく領主館とは……年末に難儀なイベントに遭遇しとるな」

「やっぱり厄ネタですかね。着の身着のままで行っていいって話なんですが、スーツとか着ていったほうがいいですか」

「必要なら向こうさんが用意するから服装は問題ないだろうが、通り道になる四神宮殿の雰囲気に気圧されんようにな。ちょいとハンパじゃないぞ」

「えーと、領主館ではなく?」

「そっちはただの屋敷だから相手次第だ。四神宮殿は……通り抜けるだけでも気疲れするから、ワシだったら勘弁願いたいな」


 ダダカさんがそんな事を言う施設ってどんなんだよ。


「まあ、お気楽なパーティとはいかんだろうが、危険はないはずだ。四神に威圧されて漏らしたグレンみたいにならなければ、いい思い出になるだろう」

「そんな黒歴史知りたくなかった」


 個人の尊厳に関わる部分だから黙っててあげて欲しかったな。




-3-




「……早まったかな」


 一旦ベレンヴァールと分かれ、今日のパーティに参加するメンツに転送施設地下の駐車場でダダカさんの話を伝える。

 この場にいるのは俺とユキとサージェスの三人だ。ベレンヴァールとグレンさん、夜光さん、フィロス、ゴーウェン、美弓とニンジンさんは向こうでの合流となる。ブラックは……まあ馬だし出席はしないだろう。

 ユキは遠征に直接関係ないのだが、特別枠としてサージェスと共に名指しで招待されていた。つまり半分強制に近い。

 実はサンゴロも招待されていたらしいが、ベレンヴァールの話だと辞退したようだ。誰に聞いたわけでもないが、サティナは出席するんだろうな。


「なるほど……つまり逆に考えれば粗相してしまっても許されると。文字通り超高位存在の前でとなるとなかなか体験できないシチュエーションです」

「サージェスはオムツ穿いていったほうがいいね」


 気圧されてなくても漏らしかねないからな。オムツ穿いてても意味ないと思うぞ。




 そんないつも通りの会話をしながらしばらく待っていると、駐車場に黒塗りの高級車が姿を現した。おそらくは迎えの車だ。


「うわ……また如何にも高級車って感じだね」


 いつぞやのものと同じタイプなので、ダンマスが人を呼ぶ時は基本的にこれなのだろう。

 少なくとも日本人的な感覚でスタンダードとはいえない。俺も慣れないし、フィロスほどではないがユキもビクビクしている。

 逆にサージェスは平然としていた。こいつは、特定の事以外は本当に無関心である。


「お迎えに上がりました」


 運転席から姿を現したのは以前見かけた狐のメイドさんだった。良く分からないが、この人は専属のメイドさんか何かなのだろうか。

 促されるまま自動的に開いたリビング風の後部座席へと乗り込む。当然、誰も乗っていないと思っていたのだが、そこには先日トカゲのおっさんを血祭りにあげた若侍がいた。


「よお」

「ど……どうも、夜光さん」


 予想していなかった唐突な再会である。

 ……なんでここにいるんだろう、この人。向こうで合流じゃなかったんだろうか。


「まあ、座れよ。取って食ったりはしないから。そっちの連れも自己紹介は移動しながらにしよう。なんか飲むか?」


 そう促され、一度ユキとサージェスに目配せしてから車内に乗り込んだ。二人ともこうして会うのは初対面だが、夜光さんの事は把握しているはずだ。

 おそらく向こうも下調べはしているだろうが自己紹介は必要だろうと、流れに合わせてユキとサージェスを紹介した。


「えー、えーとユキです。はじめまして……」

「夜光だ……って、なんで俺こんなに警戒されてるんだ?」


 それはクラン対抗戦で見せた残虐非道っぷりが原因じゃないですかね。あんたが血祭りに上げたおっさんは俺たちの恩人でもあるし。


「どうも、変態紳士のサージェスです。遠征では叶いませんでしたが、同志には一度お会いしたいと思っていました」

「お、おお……」


 サージェスのほうは食いつきが良かった。おそらく反対側の属性を敏感に感じ取ったのだろう。

 初対面なのに同志呼ばわりされた夜光さんは困惑するばかりだったが、まさかドS認定されてるとは思うまい。




 車が気付かないうちに走り出して窓を開ける定番プレイでユキを驚かせたあと、改めて夜光さんと向かい合う。……何話せばいいんだろうか。

 とりあえず何か飲むか……ってユキは冷蔵庫開けて物色しているな。もう馴染んでやがる。


「あー、個人戦は残念でした」

「そろそろ勝ちたかったんだがな。あいつまた強くなってるからやり辛いったらない。剣刃さんのほうが相性が良さそうだ」


 先日のクラン対抗戦個人戦は、おっさんが準々決勝で脱落したあとは順当な結果に終わった。ベスト4に残ったのは第四シードまでの上位四人。最終的な順位までがシード順そのままだ。

 夜光さんは< 流星騎士団 >の< 猛虎 >リグレスと準決勝で当たり敗北。三位決定戦では勝ったものの、ライバルには水をあけられた形となった。

 そのリグレス氏も決勝で敗退。剣刃さん相手に奮闘はしたが、老獪の極みにいるような相手ではまだ実力が足りなかったという事になる。

 夜光さんの戦法が通用しないと言われていたリグレス氏は、脳筋という事前情報そのままの人だった。大雑把なのかそれともそういう戦術なのか判断に困るところだが、多少タイミングをずらしても関係なく武器を振り回してくる。状態異常だろうが気にしない。高笑いしたまま常に前進を続ける猪突猛進型の純アタッカーだ。俺の戦歴でいえば、近いタイプはオーク・チャンピオンだろうか。暴走機関車が如き突進力は単純であるが故に、夜光さんの繊細な戦術では対策が困難なのだろう。

 < 流星騎士団 >の切り込み隊長の名に相応しい強者といえる。……あの突進力にアーシャさんたちのフォローが加わればさぞかし強力だろうな。


「何も考えてないようで対策はしてるし、未見の手で奇襲かけても即応してくるから面倒臭いんだよ。……死なねえかな、あのバカ」


 ライバルである以上に、夜光さんとの因縁は深そうである。


「それで、なんで俺たちを待ち構えてたんですか? 向こうで合流って聞いたんですけど」

「出席者に< アーク・セイバー >組が多いからな。ぼっちが嫌だったからっていうのじゃ理由にならないか?」

「夜光さんが気にするとは思えないですけど……。ぼっち嫌なら誰か連れて行ってもいいんですよね?」

「それはお断りされたんだよ。年末の忙しい時期な上、行く先が伏魔殿ならぬ万魔殿だからな。真っ当な神経してるなら怖くて近寄れない」

「万魔殿って……」


 仮にも迷宮都市の中枢、亜神の領域を魔の巣窟呼ばわりである。

 サージェスはともかく、ユキは真っ当な神経してないと言われて不満そうだ。


「ああ、知らなけりゃ警戒もできないだろうからな。君にもすぐに分かるさ」

「はあ……」


 ダンマス以外の亜神と対峙した事がないユキにはピンとこないのだろう。俺的な基準だと、ネームレスみたいなのがたくさん待ち構えてるイメージなんだが、それなら確かに万魔殿だ。


「まあ、想像通りそれは建前だ。本音は、如何にも何かありそうだから、常に厄ネタの中心にいる渡辺君に同行しようかなと」


 トラブルメーカー扱いとはまた熱い風評被害である。事実とはいえ認めたくはない。訴訟も辞さない覚悟だ。


「……やっぱり何かありますかね。主催者がダンマスじゃなくて領主なのも気になりますし」

「それは君らが元日本人だからだろ。あの人やたら日本贔屓だし、話を聞きたいんじゃないか?」


 ……あれ、そういう理由なの? ユキを指名してきたのも、それが目的とか。


「危なっかしい人だが、間違っても悪人じゃない。謀をする前に行動して、小さなミスで躓いてダンジョンマスターに怒られる人だ」

「……ひょっとして、実際に会った事が?」

「あるぞ。俺の生まれ故郷を滅ぼした人だからな」

「ぇほっ、おほっ! ほ、滅ぼしたっ!?」


 夜光さんのあまりな発言にジュースを飲み始めていたユキが噴き出した。

 あーあ、ジュースは市販品だけど、カーペットは高いんじゃないか?


「だ、大丈夫か? ……まあ、どう情報を集めてもやらかしてたのはウチの国で取り繕いようもないんだが、滅ぼすのはやり過ぎだよな。おかげで大陸が戦国時代に突入した」

「戦国時代て……どこの話してるんですか?」


 ラーディンみたいな小国はあるし、そんな中には滅ぶ国もあるだろうが、戦国時代というほど殺伐はしていないだろ。大国二つが覇権を争っているとはいえ、現在この大陸で大きな戦争は起きていない。

 領主が出てくるって事はベレンヴァールみたいに異世界の話でもないだろうし。


「クレストっていう王国だ。今も後継を名乗る二つのクレスト王家が南北に別れて絶賛戦争中。俺の実家はそこの公爵家で、一応正統な王族の血縁でもあったから、あそこに残ってたら神輿にされて戦争のど真ん中にいた可能性もあるな。故郷の事なんて、ほとんど覚えちゃいないが」


 聞き覚えのない国だ。帝国との間にある小国群にもそんな名前はなかったと思う。

 咽せてエホエホ言っているユキを見ても知らない顔だ。その隣のサージェスに視線を移すと、こちらは覚えがあるらしい。


「お隣の大陸にある……あった国ですね。行った事はありませんが、周辺国家からは火薬庫のようなイメージで扱われてる国です」

「すごいな。大抵は話通じないから混乱を見て楽しむのがパターンなんだが」


 先生、そういうの良くないと思います。


「ひょっとして、時々話を聞く暗黒大陸ってところの事ですか?」

「あそこには国家は存在しない。あんまり知られてないしこの大陸の国と正式な国交もないが、もう一つ大陸があるんだ」


 そうなのか。あってもおかしくないが、考えた事もなかった。

 ……大陸の外はちょっと遠い世界だよな。王国内だってほとんど移動してないし、国外に出た事もないんだから。


「お互いに認識してないから、大陸の名前もない。知られてないだけで、もう一つくらい大陸があってもおかしくないな」


 クレストはそこにあった国って事か。噂に聞く暗黒大陸は開拓が進んでいないらしいが、こちらは戦国時代するほどには国家が乱立していると。


「ダンジョンマスターたちがオーレンディア王国やリガリティア帝国に対して基本的に不干渉なのも、手を出して余計に面倒な事になったって前例があるからだな。国家の構造ってのは歪で、下手に潰すと変な膿がたくさん湧いて混乱する。いっそ全部滅ぼすつもりならともかく、真っ当に相手するのはちょっと面倒だって事だ。あとから細かい事情を教えてもらって、俺もこの手の話には手は出さないと誓ったよ」


 このお兄さん、なかなか事情通らしい。


「話を戻すと、あの人は良くも悪くも直情的で、回りくどい事をするなら直接乗り込んで行く人だ。今回の用件もさっき言ったように日本の話が聞きたいんだろうさ。……だから、何かあるとしても水の巫女さん絡みの線は薄いな」


 水の巫女……領主の事だから間違ってないが、水凪さんと混同しそうなんだよな。那由他って名前があるんだからそれでいいだろ。


「じゃあ、何が起きるっていうんですか。領主さんが何もしてこないなら、場所が特殊なだけの普通のパーティになりそうですけど」

「何が起きるかなんて分かるわけがない。実際、前情報だけで判断するなら何も起きるはずがない」

「なら、何を根拠に夜光さんはここにいるんですか?」

「勘だ。これでも剣刃さんの直弟子だぞ」


 勘て……。別にその勘が外れていたからといって損はないが、とにかくすごい説得力だ。


「極当たり前に魔が出るならそれも良し。予想してない竜が出てきた場合のボディガードとでも考えておけばいいさ」


 随分と頼りになるボディガードですね。

 そういう夜光さんの声色は、何かが起きると確信しているように聞こえる。ユキを見ると、『まあ、ツナだしね』という顔をされた。解せぬ。


「あの、夜光様……四神様方を魔呼ばわりはちょっと」

「あ、すいません」


 ここまで口を挟んでこなかったが、運転席の狐さんにもちゃんと聞こえていたらしい。後部座席の小窓を開けながら声をかけてきた。

 話をしている内に車は目的地に到着していたのか、車は停止している。その様子だと、どうやら話に区切りが付くまで待っていたようだ。




 車を降りた先は水霊殿。正式名称は最近まで知らなかったが、水凪さんの実家である神社の事らしい。

 車を利用している今回は表からではなく裏からの案内で、地下から続く専用通路を通って外に出ると、そこは神社の裏手にある建物だった。

 遠くのほうに見えるのは水凪さんが掃除をしていた境内だろうか。なんとなくだが、位置関係が把握できた。

 同じダンジョン区画にある建物だし徒歩圏内だから、実は夜光さんとの話の前半で到着していた可能性もあるな。


「結構賑やかだね。初詣の準備かな?」

「年越しの行事で水神の巫女が神楽を舞うので、その舞台設営と屋台ですね」


 案内役の狐さんが説明してくれたが、水凪さんの神楽とか超見たい。MINAGIではない凛々しい姿が拝める事だろう。

 ひょっとしたらオーク麺で見た強烈な姿も上書きしてくれるかも。



 狐さんのあとについて行った先の裏口……というか、多分専用に用意された入り口から神社の中に入り、中で待っていた男性に挨拶をする。この神社……水霊殿当主の神主さん。つまり水凪さんの父親だ。実は何度か会った事もあるが、こうしてちゃんと挨拶するのは初である。水凪さんの父親らしく黒髪の美形だが、正直地味な風貌だ。日本人ではないが、彫りが浅い特徴はそれっぽい。


 そのまま狐さんと神主さんについて建物の奥に向かう。

 長い階段をどこまでも下って行くと、如何にも重要施設ですという風貌の巨大な門が待ち構えていた。

 神主さんの持っていた鍵で開かれた門を潜ると、そこにはもう一つの境内とも呼べそうな地下空間が広がっていた。ただし、奥にあるのは神社ではなく祭壇と転送ゲートだ。


「あれが< 水神門 >と呼ばれる専用の転送ゲートです」


 転送施設のものではなく専用にゲートが用意されているという事は、何かしらセキュリティを考慮したものだろうか。


「あれで四神宮殿ってところに行けるんですか?」

「はい。正確にはその中の水神宮殿という建物に繋がっています」


 ここ、水霊殿と中央区画の火霊廟、生産区画の地霊院、商業区画の風霊堂に設置された四つの転送ゲートがそれぞれの宮殿に繋がっているらしい。

 更には四神宮殿の最奥部にある< 不可思議の門 >を潜ってようやく辿り着けるのが領主館と。……こんなセキュリティは必要あるのだろうか。無駄の極みじゃね?


「ダンマスの趣味かな」


 ユキの呟いた言葉が、おそらく正解なのだろう。

 仮に戦争になったとしても、本拠地である領主館を攻略するためには各区画にある専用の転送ゲートを突破、四神宮殿を抜けて最奥部まで至らないと行けない。それぞれの転送ゲートの使用権限も各神社と四神によって管理されているから、四神が裏切らない限り移動すらできない。

 現在想定できる敵はせいぜい迷宮都市の外壁に辿り着く事すらできない王国軍くらいだから、過剰に過ぎるセキュリテイである。

 趣味以外の何物でもない。


 権限がないため、転送ゲートを潜れないという神主さんを残し、俺たちは< 水神門 >を抜ける。

 専用とはいえ転送施設のゲートとの違いはないが、抜けた先はこれまで感じた事のない澄んだ空気が待ち構えていた。

 どこか和風な雰囲気を醸しだした祭壇。清浄過ぎて逆に刺々しい雰囲気は本来人が踏み入れるべき領域ではないという表れか。

 正に神域。ここにいて空気に触れているだけで自分がひどく矮小な存在になったような、そんな気持ちにさせられる。

 そして、そこには見知った顔が立っていた。


「ようこそ、四神宮殿へ。ここからは四神の巫女筆頭、四神宮水凪が御案内致します」


 見知った顔ではあっても、立場が違えば雰囲気も変わるらしい。

 普段の巫女服ではなくおそらくこの場で着用するために作られた服と合わせ、いつものどこか緩いイメージからはかけ離れた存在感を放っていた。




-4-




 水凪さんの説明によれば、四神宮殿は主に五つの建物で構成されるらしい。

 ここ水神宮殿と、火神宮殿、風神宮殿、地神宮殿の四神の住処たる宮殿と、領主館へと続くゲートの設置された中央宮殿の五つだ。

 中央宮殿を挟んで十字に置かれた四つの宮殿は、各四神が管理する迷宮都市の部門の運営の中枢でもあるため、ギルド長や区画長などの最高幹部クラスであれば足を踏み入れる事もある。

 その一方で中央宮殿に入れる者は非常に限定され、常時入場可能な資格を持つ者は四神とその巫女のみ。当然ダンマスたち領主関係者は別枠だが、こうしてゲストとして呼ばれない限り、それ以外の者が足を踏み入れる事はないそうだ。

 しかし、どうやら狐さんはその例外だったらしく、俺たちを水凪さんに引き渡すと別の場所へと移動して行った。

 ……あの人、本当にどんな立場なんだろうか。


 水凪さんに案内され、俺たちは水神宮殿の中へと進む。終始無言なのは、みんなこの空気に当てられているからなのだろう。

 何か強大なものに包み込まれている雰囲気が建物全体を覆っている。息が詰まるというわけではないが、声を出せばその主に見つかってしまうと。

 いや、ここの主はこれから会う水神だろうから見つかったって問題はないのだが、そういう雰囲気なんだよ。


 エレベーターならぬ昇降台に乗せられ、俺たちは遥か上方へと移動する。

 柵で覆われただけの床が動いてるので視界は良好だが、結構なスピードで上から下へ流れていく景色はこの建物の巨大さを実感させた。

 というか、どこまで行くんだろうか。このまま天井突き抜けて外に放り出されたりしないよな。

 そんな俺の懸念を払拭するように昇降台は止まる。まだ上はありそうだが、建物の中でもかなりの上層部だろう。


「こちらでお待ち下さい」


 降りた先の通路に繋がっていたのは、豪奢かつ華美ではあるが真っ当な応接室だった。

 神域とも呼べる領域の中にあって人間が落ち着くために用意された空間なのだろう。外から見たら多分天守閣みたいなところだと思うんだが、結構洋風である。

 ここに来るまでの雰囲気に比べると確かに幾分かは落ち着くが、それは部屋だけだ。俺は部屋以外のものを見て圧倒されていた。


「こりゃすごいな」


 応接室の部屋半分がテラスを兼ねているのか、そこから四神宮殿の全容が俯瞰できた。

 整然と並び立つ四つの巨大な宮殿と、無機質なまでに区画が整理された中央部の施設群。その中心にあるのが中央宮殿なのだろう。

 平屋の日本家屋が多く、幾何学的に整理された真ん中の区画だけを見れば平安京か何かのようだ。

 圧倒されるものの、それはここまでの雰囲気で予想できた部分でもある。俺が驚愕していたのは四神宮殿を取り囲む景色だ。

 ……何もない。普通は視界に映って然るべき山も、四神宮殿の敷地外の土地もない。


「……雲が近い」


 ユキが呟いたその言葉が、この四神宮殿がどこに存在するかを示している。ここは地上ではなく遥か天空に存在するのだと。


「現在の高度は約三千メートル。元々は拠点制圧用に建造された空中城塞だったそうです。使用された事はないそうですけど」


 観光区画の天空城なんて比較になる規模じゃない。こんな巨大なものが浮かんでいるのか。

 空気も気圧も地上と比べて変化があったようには感じない。おそらくは何か巨大な膜のようなものでガードしているのだろう。

 多分、外からは見えないように偽装もかけられてるんだろうな。相変わらずスケールがでかい事だ。

 こんなもので攻められたら対抗しようがないぞ。


「準備ができ次第謁見の間へ移動いたしますので、皆様は暫しの間お寛ぎを」

「……水凪さんはここにいる間はそのモードなのか?」

「……ええ、と、空気読んでもらえると助かるかなーと」


 お仕事モードではあるが、別段人格が変わったとかそういう事はないらしい。


「まあまあ、せっかくお越し頂いたんだ。無理に肩肘張ってもらう事もないだろう」

「エルゼル様……」


 そのスーツ姿の男は応接室のソファから声をかけてきた。

 視界の中に入っていたはずなのに、一切の気配すら感じさせずに現れた。最初からそこにいたといわんばかりの体で寛いでいる。


「こんにちはお客人。この水神宮殿の主、エルゼルだ」


 この男が迷宮都市の管理者である四神の一人だというのだろうか。

 整い過ぎた容姿と洗練された所作は不気味ではあるが、威圧感はない。俺たちを威圧する気はないという意思表現だろうか。


「あの、エルゼル様? ……一応外部からゲストを招く時は謁見のマニュアルがありましてね」

「彼らは主殿の知己であり、那由他様が直々に招いた客人だ。仕事として来たわけでもないのに無理に緊張させる必要もない」

「はあ……」

「それに、所属しようとしているクランのマスターなんだから、水凪にとっても身内のようなものだろう」


 亜神という事で身構えていたが、話の分かる人らしい。人型だから人間とは限らないが。


「向こうさんもこう言っているんだ。気楽に行こうじゃないか」


 夜光さんはそう言って、水神エルゼルの向かいのソファに座る。大胆とも呼べる行動だが、飲まれかけていた俺たちに配慮して率先して動いてくれたのが分かる。


「しかし、何故夜光がここにいるのかな。君はノーグが担当していたはずだけど」

「後輩のお守りですよ。そもそもどの宮殿に呼ばれるか事前に聞かされているわけでもないですしね」

「それは御尤も。こちらが勝手に決めた担当なんだから、君たちが強制される謂れはないね」

「大体、謁見の間でも中央宮殿でもなく、あなたがその姿で現れるのは普通じゃない。事前に彼らに用事があったって事じゃないですか?」


 夜光さんは何か起きると予想していたが、この時点ですでに普通ではないらしい。


「ご明察だ。ちょっと領主館のほうで異常事態が発生していてね。ここに呼ばれた者には少々手伝ってもらいたい事があるんだ」


 水凪さんの顔色を窺うと、ブンブンと首を振られた。どうやら彼女も知らない話らしい。……厄ネタ確定っすか。


「それは彼ら三人だけに?」

「私はダンジョンマスターから『ここを訪れた者』としか指定を受けていないし、夜光にもお願いするとしようか……ああ、ついでだから水凪も付けよう」

「は?」

「そりゃ光栄ですね」


 上司の無茶振りに水凪さんも絶句である。

 何かあるなら何かあるで今更文句を言うつもりはないが、巫女さんたちはいつ紹介してもらえるんですかね。


「ちょっと話は長くなるから、君たちも座るといい。水凪、お茶を用意してもらってもいいかな」

「か、畏まりました」


 予想していなかった展開に混乱していた様子だったが、水凪さんはお仕事モードに戻るとそのまま退席した。

 俺たちもそのまま夜光さんと同じ側のソファに座る。前にしただけで粗相をしてしまうような威圧感はないが、それでも空気が重いのは存在感によるものだろう。こうして近付くと分かるが、あきらかに人間が放っていい存在感じゃない。……普段のダンマスは気を使ってるんだろうな。


「さて、どこから話したものか……一番最初だと、ラーディンへの遠征からになるが、君たちは当事者だからこれは説明不要だろう」

「そうですね」


 俺や夜光さんはもちろんだが、ユキもサージェスも大体の事情は説明済みだ。いくつか認識阻害がかかった部分もあったが、おおよそは把握している。


「では、君たちが把握していないであろう部分から順を追って説明しよう」


 そこから、遠征後ダンマスが何をやっていたかの説明を受けた。


 まず始めはネームレスの処遇だ。

 世界を渡り歩いて災いを振り撒く黒幕ではあるが、無限回廊の情報源として超級の重要性を持つ以上、ただ殺すという手は取り辛い。

 意外な話だが、あいつは協力要請を素直に受け、ダンマスに未知の情報について提供を始めたらしい。

 そもそもあいつにとっては死も刺激の一つにしか過ぎないだろうから、明確に敵対していたわけでもないダンマスに協力するのに抵抗はないのかもしれない。

 ただ、協力的ではあるものの、情報収集は難航を極める。お互いに持っている情報を把握しているわけではないのだ。まずは何を問うべきかというところから手探りで進めていくしかない。その上、どこまで情報収集をすれば終わりなのかもあやふやだ。


「主殿は頭を抱えたそうだが、他の誰かが代わりに対応するわけにもいかない。迷宮都市で最も多く無限回廊の情報を持っているのは主殿だからね」


 それは仕方ない部分だろう。認識阻害の壁もある以上、ダンマス以外で尋問できる適任者がいない。


「だからというわけでもないが、今日開くというパーティも那由他様の独断で決まった事だった。主殿が知ったのはつい先日。例の召喚術士の少女の件も含め、一日ほど時間をかけて説教されていたよ。我々の立場からすると、那由他様が涙目で説教を受ける姿は居た堪れない気持ちになるから勘弁してもらいたいんだがね」


 説教って……。当初イメージしていた黒幕からどんどんランクダウンしていくな。サティナ同様、ドジっ子なんじゃないだろうか。


「あの……話の腰を折ってすいませんけど、ダンマスとあなた方はどういった関係になるんですか? 同じ亜神なんですよね?」

「同じ……というのは少し語弊があるな。我々は主殿に創られた人工の亜神だから、明確な主従関係にある」

「創られた……」


 ダンマス産の亜神ですか。


「我々は迷宮都市の運営・管理を行うためだけに創られた存在だ。だから、与えられる無限回廊の知識も限定的なものになる。つまり、今回の件に関しては専門外と言わざるを得ない」


 明確な目的があってそのためだけに創られたなら、そりゃそういう事になるだろう。

 ひょっとしたら、無限回廊の攻略にも関わっていないかもしれない。


「だから、主殿もこの件に関しては時間をかけて取り組む"つもりだった"」

「……だった?」

「そう、その予定は先日明確に崩れ去った。……ネームレス以上の存在があちらから現れたんだ」


 ネームレス以上って事は……まさか。



「無限回廊第三〇〇層管理者が直接交渉に現れた」



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