第5話「遠征依頼」




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 ワイバーンとのリベンジマッチは無事完了した。

 その結果、大量のGP、報奨金、ドロップ品は……水凪さんが食ってしまったが、とにかく色々得る物はあった。

 奴は本来十層~十五層くらい先にいるはずのモンスターである。ついでに討伐指定種として固有の強化もされているため、獲得できる経験値も大きい。

 ……つまり、レベルアップである。


 水凪さんは元々俺たちより高レベルだが、それでもレベルアップはしたという。当然の事ながら、それよりも低いレベルである俺たちにはより大きな恩恵があった。ラディーネたちはわずかに足りないようだったが、俺と摩耶はLv40の大台を超えたのだ。

 冒険者にとって、ベースLv40というのは大きな転換期である。ツリークラスの増えるLv50のほうが影響は大きいのだが、Lv40でもクラスが増える。

 現在俺は< 軽装戦士 >というツリークラスの中で< 剣闘士 >、< 戦士 >という二つのクラスに就いているわけだが、これにもう一つ追加されるという事である。


「サージェスは結局どうするんだ?」

「悩ましいところですが、やはり賢者モードの時に言った< 拳撃士 >ですかね。私は蹴り技主体ですが、最近は拳を使う事も多いですし」

「《 ダイナマイト・インパクト 》を絡めて殴る事は多いよな」


 サージェスは元々蹴りが主体で、拳撃は連携の中に組み込むかアクセント程度にしか使っていなかった。

 パペットドール戦ではあんなでかいのと殴り合ってたからな。左右それぞれの腕、ついでに両腕での《 ダイナマイト・インパクト 》連続起動は記憶に新しい。状況にもよるんだろうが、最近では拳だけのスキル発動も多く見られるので、< 拳撃士 >の選択はアリだろう。少なくとも< ボディービルダー >よりはいいと思う。

 現時点でベースLv40に達しているのはサージェスと俺、そして摩耶だけだ。

 摩耶はすでに三つ目のクラスは< 軽業士 >に決めているとの事だったが、俺たちは何を取得するか悩ましいものがあったので、二人して任意で受講可能なクラス講習会にやって来ているのだ。

 ただ、それで分かった事は現状までの情報と変わらず、再確認程度の意味合いしかなかった。他の受講者も下級ランクばかりである。


「他のクラスへ鞍替えというのも厳しいですね。補正を失うのは影響が大き過ぎます」


 クラスは会館にさえ来ればいつでも変更ができる。こういったキリのいいタイミング、ベースLv40や、ツリークラスが増えるLv50で見直しを行う人もいるらしい。

 クラスというものはよほどの事がない限り変更しない。それこそ、ダダカさんのように現状のクラスでは先に進むのが困難である場合や、固定パーティの重要ポジションが抜けてしまったのでその穴埋めのために、というのが基本だ。ベースレベルは変わらなくてもクラスレベルは一から鍛え直し、しかもそのクラスでLv30の壁を突破できるかも分からない。ギャンブル的でもあるし、再度の鍛錬は間違いなく長期的なプランになる。


「俺たちみたいな前衛、特にお前は肉弾戦メインだから補正がなくなると影響が大きいだろうな」


 クラスの最大の恩恵は一定のクラスレベルに達した際に強制的に習得できるスキルだ。

 俺は自力習得ばかりであまり恩恵を受けていない気がするのだが、通常はこのクラスレベルとスキルオーブによる習得がメインになるらしい。大量の自力習得には例のギフトも関係していると思う。

 だが、クラスの恩恵はそれだけではない。まず、そのクラスが必要とする能力値、前衛だったら< 力 >や< 敏捷 >、魔術士なら< 魔力 >といった具合に補正がかかる。逆にマイナスの補正を受けている能力値もあるので必ずしも良い事ばかりではないのだが、そのクラスに合った能力値がブーストされるというのは大きい。

 クラスを変更してしまうとこの補正までなくなってしまうため、直接身体を動かす前衛は特に影響を受ける事になってしまうのだ。

 極端な話、クラス補正で20%増しのスピードで動いてたのがいきなり0%、あるいはマイナスになった場合、戦闘どころじゃないって事だ。

 急に増えるのにも慣れるのは大変だが、減るのは致命的だ。一時的になら補助魔術や状態異常でも起こり得る事だが、これが常時発生しているような状態に陥ってしまう。

 ついでにクラスの補正は能力値だけに留まらない。スキルレベルには反映されないが、< 剣士 >でいう《 剣術 》などの、そのクラスが主要で使用するようなスキルにも影響しているらしい。< 剣士 >辞めたらスキルレベルは変わらないまでも、少し《 剣術 》が下手になるという事だ。

 これは能力値の補正ルールと同じく明確には判明していない部分のようで、ギルド側でも影響を受けるスキルをはっきりと特定できていないそうだ。

 影響を受けるスキルは、確認されている範囲でなら資料室で調べられるのでそれを見ろという話だった。

 講習時間内にすべてを網羅するは難しいのだろうが、資料室を利用するのにもGPかかるから一番人数の多い< 軽装戦士 >ツリーくらいは説明して欲しかった。

 その他にも、関連スキルの習得率UP、スキルレベルの強化にも補正がかかる。《 戦士の条件 》のようなクラスに就いている事が前提のスキルもあるし、クラスはそう簡単には変更はできないという事だ。変更するなら、本当に一から鍛え直す覚悟がいる。


「リーダーは何か新しい適性クラスは追加されていたんですか?」

「< 軽装戦士 >ツリーだと元々あった< 剣士 >に< 剛剣士 >、< 刃術士 >、< 打術士 >、あと< 侍 >が追加されてた」


 これもまた地味なラインナップである。せいぜいが< 侍 >、ついで< 剛剣士 >が多少レアなくらいでユニークなものは一つもない。

 < パンダ・マジシャン >のようなユニーククラスはいらないが、もうちょっとこう……中二テイスト溢れるクラスはないものか。

 そして、実は< 軽装戦士 >以上に< 重装戦士 >の適性クラスが増えていた事は内緒だ。なんで< 狂戦士 >追加されてるねん。


「リーダーならどれでもメリットがありそうですね」

「だな」


 追加されたクラスは、どれも近接戦闘系クラスだ。補正を受ける得意武器種は違うが、俺は元々複数の武器を使い分けているから影響は少ない。

< 剣士 >の剣、< 剛剣士 >の大剣、もっと範囲が広がった< 刃術士 >の刀刃武器、< 打術士 >の殴打武器、< 侍 >の刀、どれでも意味はある。就けるものなら全部就いたっていい。

 渡辺綱の名を持つ者としては< 侍 >に惹かれるが、刀カテゴリの武器って< 不鬼切 >くらいしか持ってないんだよな。

 迷宮都市で使われ始めたのが遅かったせいで刀はあまり売ってないし、高い。木刀だけ持って< 侍 >ですって言い張るのも恥ずかしい。


「私はもう< 拳撃士 >を取得してしまいましょう。悩むような選択肢ではないですし」

「< ボディビルダー >とかは選択肢に入らないのか?」

「私は筋肉をアピールしたいわけではなく、恥ずかしい部分をアピールして蔑んでもらいたいのです」


 続けて『分かるでしょう?』という視線を送られるが、一ミリも分からん。実はサージェスの同類らしいどこかの次女さんなら共感してしまうかもしれないが。

 サージェスはこういった攻略に直結する部分に関しては意外とストイックだ。詳細は聞いていないが、無限回廊の先に向かう理由が関係しているのかもしれない。

 でも、恥ずかしいクラスの適性が出たら就いてしまう可能性は否めない。あとは、迷宮ギルドの範疇ではないらしいが< 拷問官 >とか……こいつは拷問される側か。


「俺は……保留だな。次回の本格的なアタックまでには決めておこう」


 悩ましいところだが、選択肢がないよりはいい。将来性が広がるって事でもあるわけだし。

 実はLv40になっても三つ目のクラスが出ない人もいるらしい。……元々< 重装戦士 >にあまり適性がないティリアさんとか大丈夫だろうか。




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「高っけ……」


 その日の午後、クラス選択の参考になればとダンジョン区画にある武器屋巡りをしていると、ドワーフが経営している鍛冶場直営の武器屋で刀を見かけた。数自体が少なく武器屋で探しても置いてない事のほうが多いが、探してみればあるものである。


 ガラスのついた棚に飾られているので触って見る事はできないが、確かに日本刀だ。

 使う事はそうそうないとはいえ、日本刀は両刃の長剣よりは日本人が目にする機会の多い武器だ。剣刃さんが佩いているのは見ているが、こうして普通に売られているのを見ると不思議な気分になる。

 しかも、説明文に記載されている武器カテゴリは『日本刀』である。……良く考えたら日本語もそうだが、『日本』の意味分かってるんだろうか。

 棚の手前に張られている性能表を見ると、値段の割に性能はいまいちである。

 刀の特徴は高めの攻撃力、クリティカル発生率、裂傷効果、代わりに低い耐久性だ。買えない事はないが、良く武器をぶっ壊す身としては手が出し辛い。

 ……俺の戦闘スタイルに合わない気もするな。《 不壊 》効果が付いてないと、実戦で使えないんじゃないだろうか。


「お客さん、刀に興味あるのかい?」


 何度見ても性能や値段は変わらないのだが、じっと睨み続けていると後ろから声をかけられた。

 振り返ると背の低い髭が……もとい、髭の長いドワーフが立っている。多分ここの店員か鍛冶場の人だろう。顔よりも髭の面積が大きい。


「ええ、まあ。……あんまり売ってるところを見ないんですけど、数少ないんですかね?」

「最近は< アーク・セイバー >の剣刃に憧れて使い始める奴も多いが、なかなか定着しないな。やっぱり耐久値が少なめなのがいけないのかね。普通の剣とは斬り方も違うし、クリティカル発生率は高いが両手武器で盾も持てないし、安い刀がないってのも入門を妨げる原因だな」


 剣刃さんって、どんなランキングを見ても対人戦最強って扱いだからな。実物を知っているとそんなに憧れないんだが、そういう冒険者もいるんだろう。


「やっぱり安いのはないんですか?」

「ない事もないが……ちょっと特殊な扱いなんだよな。斬れないから入門用くらいにしか使えない」

「……斬れない?」

「金属じゃなくて、木製の刀もどきなんだ」


 木刀じゃねーか。俺持ってるよ。それで刀名乗っていいなら悩まないよ。


「結構いい武器だと思うんだけどな。無機物相手だと厳しいが、肉を斬り裂くあの感触は病み付きになると思うんだが。……兄ちゃん、新しい刀の試し斬られとか興味ないか? バイト料は弾むぞ」

「ノーサンキューです」


 なんだよ、試し斬られって。あんまり関わりあいにならない方がいい人みたいだな。


「商売している人に聞くのはアレな感じですが、他に売ってる店って知ってますか?」

「あんまり知らんなあ。中央区画にある専門デパートか、オークションか……ああ、質屋なら間違いなくあるな。値段的にちょっと奮発して持ち込んだら全滅したってパターンが多いらしい」


 ありそうなパターンだ。ロストマンを見てると状況が容易に想像がつくのがまた悲しいところだ。

 しかし質屋か……ババアに会わないといけないな。下手したらテラワロスとも遭遇してしまう。だが、質屋はアリかもしれない。刀だけじゃなく掘り出し物もあるだろう。ロストマンの熱い眼差しを無視して購入する覚悟があるなら、有効な手段ではある。

 ……オークションかな。




「ユキえもーん、オークションの使い方を教えておくれよ」

「なんだいツナ太君、そんな事も分からないのか。仕方ないな」


 いきなり部屋を訪ねてネタに乗ってくれるユキさんはいい奴である。

 しかもタイミングのいい事に、何故かドラ焼きを食っていた。恐ろしい奴だ。『俺にもくれ』という視線を送ると無視されたが。和菓子専門店のちょっと高いやつらしい。


「で、何か欲しいものでもあるの?」

「日本刀の相場が知りたい」

「日本刀? ……< 不鬼切 >じゃ駄目なの?」

「適性クラスに< 侍 >が出たんだが、木刀で< 侍 >って恥ずかしいだろ」

「妙なところに拘るね。……確かに格好悪いかも」


 ユキさんなら分かってくれると信じていた。こいつは俺よりも形から入るタイプだからな。


「でも、オークションの使い方が分からないって事はないでしょ」

「迷宮ギルド直営の奴ならいいんだが、他にもたくさんあるだろ。会員制のやつとか」


 オーションといっても種類は様々である。

 一番無難なのがギルド直営のものなのだが、これは冒険者しか利用できない。その他、別のギルドでも一般に向けて公開しているものもあるし、一般で経営している専門オークションもある。無料、有料、資格が必要なものなど様々だ。

 ユキは確か色々会員登録していた事を思い出して、部屋まで押しかけたわけである。


「でも、素人さんはギルド直営のオークションを使ったほうが安全かな」


 お前は素人さんじゃないみたいだな。迷宮都市歴は同じなのに、間違いでもなさそうなのが怖いところだ。




 そうして、ユキの知っているオークションサイトをいくつか見て回るが、やはり数が少ない。そして相場が高い

 市場に出回っている数と性能、そして人気指標を見るに、わりと妥当っぽいのが困る。


「やっぱりギルド直営のオークションよりは数が少ないね。手が出そうなのは、大手クランの数打ち品くらいかな」


 < アーク・セイバー >や< 流星騎士団 >お抱えの< 鍛冶師 >が練習として作った物がいくつか出品されているのだが、それであれば多少は安く性能も悪くないようだ。量産品でも使えない事はないだろう。俺の場合、壊れる前提で複数持つという手も取れるし。


「ユニークアイテムっぽいのも一応出てるんだね」

「完全に質流れして、ダンジョンの宝箱から出たとかそういうケースじゃねえか?」


 宝箱から出ても使い道なければ売るだろう。


「あー、これはそう書いてあるね。あとは異常な高値付けて自慢してるだけの人もいる。このRHRTって人とか」


 出品料とかかからないんだろうか。ちょっと格好いいデザインなのがまたムカつく。


「つまり、手に入らない事はないけど、せいぜい練習用の数打ち品で、しかも値段に見合った性能ではないと」

「そうだね。こういうネットオークションじゃなくて普通のオークションもあるけど、内容は変わらなそう。あとは< 鍛冶師 >さんに直接オーダーするとかしかないかもね」


 材料持ち込んだら安くなったりするんだろうか。どんな材料使ってるのか分からんけど、多分普通の鉄じゃねえよな。

 ゴーウェンが< 鍛冶師 >になろうとしているってのは聞いたが、あいつまだ見習いもいいところだし……話した事がある鍛冶師って今日会ったドワーフのおっさんくらいしかいない。

 ……試し斬られしたら安く売ってくれるかな……って嫌だよ。

 < 童子の右腕 >みたいに、偶然俺専用装備ができてプレゼントしてくれないだろうか。……でも、あの隠しギフトはこういう時は働かないんだぜ、きっと。


「専門家だし、剣刃さんに聞いてみたら? いらない武器とかあるんじゃない?」

「言ったらくれそうな気もするが、試練絡みで俺たちへの直接的な支援止められてるから、かなりグレーゾーンじゃね?」

「いや、もらうんじゃなくて、ちゃんとお金払ってさ」


 それはそれでどうだろう。トップの人が保有している物なんて、型落ち品でも超高そうじゃねえ? きっと、家建っちゃったりするんだぜ。


 その後もユキが色々調べてくれたが、結果は芳しくない。剣刃さんを訪ねてみて、ダメだったら< 侍 >は諦めたほうがいいかもしれない。

 Lv60で開放される四つ目のクラスで取得してしまうという手もあるが、その時はまた別の適性クラスがあるんだろうな。悩ましいもんだ。



「ところで、話は変わるんだけどさ」

「なんだ」


 俺の用事も大した事ではないから、話題が変わっても特に問題はないが。


「兎の鳴き声ってどんなのか分かる?」


 本当にこれっぽっちも関係ない話だった。


「良く分からんが……ピーピー鳴いてるのは聞いた事あるぞ」

「うーん、それだと可愛くない」


 いや知らんがな。そんな事言われても兎だって心外だろうよ。


「あとはブゥブゥとか?」

「それだと豚っぽいね……ほら、チッタさんがニャーニャー言ってるじゃない? あんな感じで」

「語尾って事か? あれも別に可愛いとは思わんが……それならピョン……とか……」


 可愛い……か?


『はい、こちらアインだピョン』


 どうしてもあの兎耳スキンヘッドの姿と声が浮かんでくる。くそ、なんて汚染力なんだ……。俺はこれからピョンと言われる度にあの男が頭に浮かぶ仕様になってしまったのか。


「やっぱりピョンが無難か……でも、イメージは最悪だよね」


 ユキも同じ印象らしい。スキンヘッド一人にイメージを破壊されるのか……されてるな。インパクトが強過ぎる。

 あのビジュアルはちょっと反則だ。何気ないところで嫌な事を再認識させられてしまった。


「まあ、ピョンっていう語尾自体は問題ないはずだから、使う人の問題じゃないか?」


 たとえば、みるくぷりんのエリザちゃんだったらとても可愛らしいだろう。少なくともその時だけはイメージを上書きできそうだ。


「でも、なんで語尾よ」

「い、いや、気になっただけだから、うん」


 ミノスじゃないのにミノタウロスみたいな思い付きだろうか。これはダンマスに聞いても答えは出そうにないが。

 新種の兎人族とでも出会ったのか? そいつが謎の語尾を付けていたとか。


 ちなみに、ピョンではなくウサだと< 獣耳大行進 >のサブマスターだ。まったく、迷惑な兎たちである。




-3-




 というわけで、剣刃さんのお宅訪問である。

 事前に確認したら今日は一日いるとの事だったので、早速訪ねてみた。逆に明日からは留守にするらしいので、むしろ今日しか相談できないらしい。


 クランハウス同士なので到着はあっという間だ。ご近所といってもいい。

 < アーク・セイバー >のクランハウスは広いので入り口からは歩く事になるが、受付手続きを含めてドアトゥドアでも三十分もかからない。便利である。

 剣刃さんの家に向かう途中、ベンチで寝ているエルミアさんを見かけたがいつもの事なのでスルーする。どうせ起きないし。

 ダダカさんとの訓練など、このクランハウスを訪れる際は結構な高確率でエンカウントしているのだが、彼女は必ず寝ている。地獄の訓練時のエルミアさんはレアキャラらしい。


「相変わらずでかい家だな」


 ここに来るのは二度目だが、気後れする巨大さである。巨大な日本式家屋。屋敷と呼んだほうがいいかもしれない。多分ダンマスから聞いて再現したのだろう。

 こんな屋敷に住んでいるのは、日本だったらいけない事して金稼いでる政治家か、ヤの付く人くらいではないだろうか。もちろん偏見である。

 正直、日本的な構造を真似たからといっても、勘違いした外国人のように何処かで齟齬が出るような気がするのだが、こうして見ても不自然な点がない。自然なのが不自然だ。


「すいません、先ほど連絡した渡辺ですが」

『はいはい、お待ちしてましたー』


 あまり家の雰囲気に合っていないハイテクなインターホンを鳴らすと、聞きなれない女性の声で返事があった。お手伝いさんか、若しくは前回来た時に会った奥さんだろう。

 あの時会った奥さんは着物の似合う綺麗な人で、剣刃さんと並ぶと年の差を感じさせる夫婦だった。若奥さまとか羨ましい事である。

 剣刃さんは浪人風でおっさん風味だがそこまで年行ってないみたいだし、歳の差は見た目だけの問題だろう。決してロリコンではないと思うぞ、うん。

 見合い結婚だったらしいが、俺にもそういう見合い話来ないかしら。


「ようこそいらっしゃいました」


 入り口で待っていると、出迎えてくれたのは本人でも奥さんでもお手伝いさんでもない、変な着物姿の女の子だった。……誰?


「お父ちゃん、急な用事で本館に呼び出しくらったので、うちが代わりに案内します」


 本館というのは、クランの本部が入っている建物の事だろう。以前、訓練で使ったところだ。それはいいんだが……。


「お父ちゃん? ひょっとして、剣刃さんの娘さんとか……」

「はい。あ、申し遅れました。うち、燐といいます」


 ……マジかよ。超似てねえ。良く見ると奥さんには似てるが、剣刃さんの面影が一ミリもない。

 あの人、こんなでっかい娘さんいたのかよ。……中学生くらいかな? ロッテより年上じゃないか?


「えーと、急な話だったから出直してもいいんだけど」

「いえ、話聞いてるので大丈夫です。あ、すいません、スリッパどうぞ」

「あ、すいません」


 ちょこまかと良く動く子である。つい、出されたスリッパにつられて玄関から上がってしまった。

 前回打上げで来た時は離れにある別館で靴のままだったが、本邸は靴脱ぐのね。


「では、武器庫まで案内するので付いて来て下さい」


 燐ちゃんのあとについて、家の中を移動する。たまたま開いていた部屋を覗けば畳敷で床の間まで見えた。障子の部屋もあるし、完全に日本家屋だ。

 畳を見ていると寝転がりたい衝動に駆られるが我慢だ。……俺の部屋も和式にしようかな。クランハウスの部屋は冬でも寒くないらしいが、炬燵とか置きたいね。


「ちなみに剣刃さんはなんの用事で?」

「詳しくは分からないですけど、すぐ戻ってくるとは言うてました。お父ちゃん、時間にルーズだからアテにならんけど」


 確かにルーズっぽい。子供は親の事を良く見ているものである。




「なんつーか、すげえな」


 案内された部屋の中は日本刀だらけだった。

 但し整頓されているわけではなく雑然としていて、ほとんどが傘立てのような物に刺してある。剣道部が竹刀を置くのに使うようなアレだ。若干だが、竹刀や木刀、槍もあるな。


「ここはほとんど破棄寸前の物ばかりなので、ちゃんとした整理もされていないんです。正直、手入れもちょっと怪しい感じ」

「なるほどね」


 俺でも買えそうな物ってリクエストをしたから、ちゃんとそれに応えてくれたってわけか。


「こんなのでいいんですか? ちゃんとした奴を保管した倉庫は別にありますけど」

「あー、いいんだ。手が出せる範囲って言えばこれくらいだろうし、問題ない」

「でも、お父ちゃんに言えばちゃんとしたやつをくれそうですけど」

「それは微妙なラインだから金は払うよ。今日は直に見てみたかったのと、剣刃さんの目利きが目的だから。……剣刃さんが戻ってくるまで見ててもいいか?」


 ダンマスが提示しているルールもそうだが、あんまり頼るのもアレだ。いつか言われたパワーレベリングみたいな状況になるのも避けたい。

 中身を伴わせるための試練越えて、いざ中級になったらスカスカでしたなんて目も当てられないからな。

 それに実際のところ、今回はそこまでいい物が欲しいわけじゃない。形だけでもちゃんと刃のついた刀が欲しいだけである。耐久値考えるとできれば複数本。


「でも、どれがいくらくらいなのかっていう資料があるわけじゃないんだよな。値段聞くのは剣刃さん待つしかないか?」

「うちに見せてくれればある程度の相場は分かります。刀限定ですけど」

「そりゃすごい」


 日本刀マニアなのかしら。親父がマニアだから似た者同士って事かね。




 適当な棚に置いてあったり、傘立てに刺さっていたり、ただ立てかけられている物をフィーリングで選んで袋から出し、鞘から引き抜いてみる。

 当たり前だが、ダンマスのおふざけとは違いちゃんと金属の刃があった。素人同然なのでこれがいい仕事してるかどうかは分からないが、良く切れそうな刀である。

 あのドワーフではないが、こうして鞘から抜くと無性に試し斬りしたくなるのは何故だろうか。なんだかいけない気分になってしまう。

 部屋に埃が積もっていないのである程度は予想していたが、保存状態はそう悪いものでもない。こんな扱いだが、多分定期的にメンテナンスしているんだろう。ただ、燐ちゃん曰く、立てかけてる時点で最低限以下との事だが、それがなんでかは良く分からん。

 こうして本物を手にして見る事ができるのは、オークションにはない利点でもある。来て良かったかもしれない。


「渡辺さんはどうして刀を使おうと思ったんですか?」


 何本か確認したあたりで、手持ち無沙汰だったのか燐ちゃんが話しかけてきた。俺は物色を続けながら返答する。


「クラス取得で< 侍 >を取得するんだったら、ちゃんとした刀持ってないと格好悪いよなってだけの話だよ」

「刀使ってないのに< 侍 >の適性があったんですか?」

「刀っていうか、木刀を使ってたんだ」

「また、けったいな状況ですね」


 そのけったいな状況を演出したのはダンマスであって俺じゃないぞ。俺だって最初からちゃんとした刀が良かったよ。

 < 不鬼切 >の事を知らないという事は、この子は俺については知らないんだろうな。


「じゃあ、< 侍 >自体には拘りはないとか?」

「ない事もない。渡辺綱なんて名前だからな。名前由来で刀は適性があるかもしれないし。一応 刀術 スキルはあるぞ」


 渡辺綱の時代は侍なんて言葉はないんだろうが、似たようなもんじゃないだろうか。


「お父ちゃんが良く言ってる名前には意味があって、影響を受けるって話ですか?」

「そういや、前にそんな事言ってたな」


 あれは< 不髭切 >の話だったか。

 ロッテの種族が< 鬼 >としても意味を持つって気付けたのはあの話からだが、肝心の刀のほうは結局名前が変わった事くらいしか影響はない。

 名前が変わって性能が変わったかと思えばそれも変わってない。ついでに、フィロス叩いて< 不友切 >にならないかなとか思ったりもしたけど< 不鬼切 >のままだ。あの木刀は意味が分からん。ひょっとして、ユキさん叩かないと駄目なのかしら。


「渡辺綱って、どっかの橋の上で鬼を斬った人の事ですよね」

「良く知ってるな」


 一条戻橋である。確か、剣刃さんも知ってたよな。そういう民話や神話もダンマスが持ち込んだのだろうか。

 こういう日本家屋といい、転移して来たにしては知識がはっきりし過ぎてないかな。頭の中に専門書やウィキペディアでも入ってるんだろうか。


「ウチには日本関連の資料が多いんで、それで見た事があります。同じ名前なんですね」

「前世絡みでちょっとな」


 説明は面倒なのでパスだ。


「えーと、それで渡辺さんは冒険者の方なんですよね」

「あれ、剣刃さんから聞いてないのか? あの人ほどじゃないが、最近はちょっとした有名人だぞ、俺」


 掲示板で個人名のアンチスレが立つくらいだ。


「うち、冒険者絡みの情報はお母ちゃんに止められてて……」

「……なんでまた」


 前会った時は冒険者嫌いとか、そういう感じじゃなかったと思うが。


「お母ちゃん、うちが冒険者になるのが嫌みたいで触れさせないようにしてるみたいなんです」

「あー、分からんでもない」


 親父が超有名人だからそれに憧れるのはおかしな話じゃないが、親としては子供がボロボロになって死んで生き返るのが当たり前な職場に放り込みたいとは思わんだろう。人の親でない俺でも分かる。実際に親からしてみたら心配だろう。


「というか、そういうのはまだ早いだろ。燐ちゃん何歳よ」

「もう十一歳です」


 見た目より若かった。余計に早いわ。


「いくらなんでも早過ぎるだろ。普通十四歳まではデビューできないんだろ?」

「だって、アーシェリアさんとか十歳でデビューしてるし……」


 そんな例外を出されてもな。そんな事言ったら五歳でトライアル突破してる化け物もいるんだぞ。


「まずは冒険者学校入ったらいいんじゃねえ?」

「それも駄目だって言われてて……うち、才能あるのにな……」


 自画自賛ですか。それくらいの年ならありそうね。親とか友達に煽てられてその気になっちゃう奴。

 自称でも、中には前世の従姉妹みたいに本物の才能持ちもいるが、そういうのは少数派だろう。


「じゃあ、渡辺さん勝負して下さい」

「何がじゃあなのか分からんが、その勝負になんの意味があるんだ?」

「現役の冒険者に勝てば、お母ちゃんに話聞いてもらえると思うんです。ウチには道場もあるんで、そこで……」


 別にやったっていいが、いくらなんでも無茶じゃねえ?

 しかも自分の力を試したいとかじゃなく勝つ気みたいだし、トライアルの時の俺と猫耳って差じゃないだろ。



「やめとけ、相手が悪過ぎる」

「お父ちゃん」


 タイミング良く剣刃さんが現れて止めてくれた。どう返事したものかと悩んでいたからちょっと助かる。

 こうして並べて見ても似てない親子だな。


「燐、そいつ中級昇格のレコードホルダーだぞ。下級ランクじゃねえからな」

「えっ……そうだったんですか。安い刀探してるっていうからてっきり……」


 どうやら、勘違いされていたらしい。そりゃ、目の前のおっさんに比べたら駆け出しだし、貧乏だがね。


「なんでもアリの猛獣みたいな奴だからな。現役でもこいつとはやりたくないって奴はたくさんいるんだぞ」

「え、俺ってそんな評価なんですか」

「そりゃお前、あのトライアル動画見てタイマン張りたいとかいう奴はいねえだろ。よっぽど実力差があるならともかく」


 《 飢餓の暴獣 》だから猛獣扱いでもおかしくない……のか? まさか、一般的な俺のイメージって、キメラさんと変わらない?


「その動画見てみたい」

「トライアルの動画だからお前には見せられんが、まー母ちゃんの許可が出たら新人戦の動画でも見せてやるよ。宿題あるんだろ? さっさと部屋戻れ」

「むー」

「むーじゃない。そもそも、万が一こいつに勝ったところで許可なんか出ないぞ」

「なんで反対するの?」

「俺は反対してねえよ。お前の母ちゃんが反対してるんだ」

「お父ちゃんもお母ちゃんを説得してよ」

「ばっかお前、俺がそんな事言えるわけねーだろ。どんだけ尻に敷かれてると思ってるんだ」


 微妙に情けないな。あまり知りたくない一面を知ってしまった。

 その後、数分ほど剣刃さんとやり取りして燐ちゃんは部屋へと戻って行った。宿題とか懐かしい響きである。


「悪いな、見苦しいところ見せちまって」

「それはいいですけど、……尻に敷かれてるんですか?」


 打上げでは仲良く見えたけど、普段は顎で使われてたりするのかしら。暇なら庭の草むしりしておいてちょうだいとか。


「いや、夫婦間じゃそれほどでもないんだが、正直入婿みたいなもんだからな。あいつの親父さんには頭が上がらねえんだ」


 複雑そうな立場なんだな。


「反対してるってのはやっぱりアレですか? 冒険者の職場環境的な……」

「あー、そうだな。俺が死にまくってるのを身近に見ている分余計にな。俺に関しては結婚する時点で諦めてるみたいだが、娘にやらせたくないってのは分かるんだよな。だから強くも言えない」


 俺が親で、子供に冒険者をやらせたいかっていうと……あんまりやらせたくないな。

 他に道がないならともかく、迷宮都市ならどうとでもなるし。最悪、バイトだって外よりはいい暮らしはできる。そもそも、剣刃さんの稼ぎだけでも数代は働かずに暮らせるくらいになっているだろう。


「才能とかはどうなんです? 自分で才能あるとか言ってたんですけど」


 才能が伴っていないのなら、荒療治だがトライアルに突っ込ませて挫折させればいい。

 逆に才能があると厄介だな。才能を活かしたいっていうのは当然の願望だろう。


「……正直なところ、才能はある」

「剣刃さんが断言できるほどに?」

「ああ……、ギフトとスキルのダブルで《 剣術 》《 刀術 》持ちっていうのもなかなかいないが、それだけじゃねえな。巷ではギフテッドって言われてる類の才能だ。もちろん、目に見えてるだけの才能じゃねえ」


 スキルと違い、ギフトは同じものでも効果に差が出る。スキルレベルのような明確な数値がないのもそうだが、そんな中で飛び抜けて強力な効果を持つ者がいる。そういう人を特別にギフテッドと呼ぶわけだが、それがスキルと重複してるのか。

 目で見える範囲だけでも驚異的な才能だな。


「いやマジでやべえ。あいつ冒険者になったら数年で抜かされるかも。やっぱ反対しようかな、後輩ならともかく、自分の娘に抜かされるとか恥ずかしいし」


 恥ずかしいし、じゃねーよ。本気で言ってるわけでもないんだろうが、中年のおっさんが言う台詞ではないな。


「んで、いいのは見つかったか? ここのはいいもクソもないが」

「どれもあまり変わらないですが、あえて言うならこの二本ですかね」


 良し悪しが分かるほど違いはない。だが、実際に持っていいと感じたのはこの二本だ。


「悪くないんじゃねえか? それでも中級の奴が持つには安物だが」

「普通はこれよりいい物を使うんですか?」


 悪くないと思うんだが。武器屋で見たやつより良さ気だと思うぞ。

 二天一流でもないのに二刀流してユキさんに自慢したいくらい。何も言わなくても、物干し竿持って巌流島ごっことか付き合ってくれるだろう。


「お前はあっという間に中級になったから武器を買い替えていくって感覚もないんだろうが、武器は前衛の命綱だからな。大抵は高い物を買うもんだ」

「ロストの可能性があるのに?」

「そうやってロストして、身の丈に合った物を選別していくんだよ。この加減が分かってねえと、保険の分まで高い物を買おうとする」


 なるほど、そうしてクラーダルさんみたいなロストマンになるわけか。上を目指しつつもテラワロスに笑われたくなかったら、身の丈に合ったギリギリのランクの武器を買えと。

 そこら辺の匙加減は確かに養われていないな。ラディーネとか見てると金銭感覚吹き飛んでいくし。


「そこら辺の金銭感覚を鍛えるためにも金はちゃんともらうぞ。討伐指定種倒して報奨金出てるんだろ?」

「もちろん払いますよ。……討伐指定種倒したのつい先日なんですけど、もう知ってるんですね」

「そりゃな。ただでさえ注目されてるのに、Lv40にもなってない奴が第三十一層で討伐指定種倒せば話題にもなるわ」


 そうなのか……この件はまだ掲示板では見かけてないから、一部では先行して話題になってるんだろうか。


「まあアレだ。本格的に< 侍 >鍛えていく気ならそれじゃ足りないだろうから、ぶっ壊れたら言え」

「はい。ちゃんとした刀持ってないのに< 侍 >とか恥ずかしいですからね」

「……そういや、そういう事になるのか。木刀持って侍とか超ダセえ」


 煩いわい。分かってるから探してるんだよ。

 だが、無銘とはいえ刀も手に入れたし、これで問題ないだろう。居合抜きとかもやれてしまうわけだ。……藁束とか買っちゃおうかしら。

 最低限らしい手入れグッズもサービスでもらったが、コレの使い方も調べないといけないな。




「あと別件だが、近日中にダンマスから召集令が出ると思う。報告の中にお前の名前があったから間違いないだろう」

「さっきの呼び出しですか? なんでしょう」

「詳しくは知らんが、面子を考えると、あんまり公にできない内容なんじゃねーか? 前世絡みでダンマスと色々話してるんだろ、お前」

「……そうですね」


 ダンマス、時々聞いてもいないような重要情報も話してくるからな。そういう話なら有り得ない事もないか。


「剣刃さんも召集されてるんですか?」

「いや、< アーク・セイバー >から誰かマスターを一名って話だったから、ウチはグレンが行く事になると思う。ぶっちゃけ面倒臭そうだからあいつに任せるのが一番いい」


 実にひどい扱いである。五人もマスターがいると面倒事も多そうだが、こういう時は便利だな。




 こうして、俺は二振りの無銘の刀と三つ目のクラス< 侍 >を取得した。

 あとで刀の値段を教えられて、想像よりも高くてビビったのは内緒だ。何故あの時ちゃんと値段を聞かなかったのか。

 確かに安かったんだが、衝動買いするような値段ではない。……報奨金なかったら生活費を削る必要があったぜ。ワイバーンありがとう。




-4-




 そうして刀を手にクランハウスに帰ると、リビングのソファに赤い幼女が寝転がっていた。

 < 鮮血姫 >の二つ名を持つ吸血鬼、リーゼロッテさんだ。髪も赤ければ服も赤い。赤いドレスはプライベートモードである。


「あ、おかえりー」


 ロッテは脚をバタつかせながら、顔だけをこちらに向ける。お行儀が悪いから身体くらい起こしなさいな。


「ただいま……って、なんでこんなところにいるんだ」

「青髪の人が開けてくれた」


 ティリアの事か? ……あいつ、串刺しにされた相手に良く対応できたな。


「そのティリアは?」

「あー、そのティリアさん。仕事があるからってどっか行ったよ」


 まだ『姫騎士ティリア2』のイベントでもやってるんだろうか。一応客なんだから放置していくなよ。


「ティリアの事はまあいいけど……今日はどうしたんだ?」


 ただ遊びに来たってわけでも……いや、わざわざ宣戦布告やり直すような奴だから分からんな。


「私、ここに入る事に決めたから。予約」


 予約ってなんじゃい。部屋か?


「クランの事なら……煽ったのは俺だからそれは別に構わんが、お前こっちに実家あるだろ。一人暮らしする気か?」

「モンスター街でも一人で暮らしてたし。部屋は子供の時のままだって話だけど、パパの家には戻りたくなーい。寮出て部屋探すのもめんどいし」


 ……パパ? ヴェルナーの事だよな。……そんな言い方してたっけ?

 エロ吸血鬼が相手だから、帰りたくないってのは分からんでもない。隠しカメラとか盗聴器設置されそうだし。


「部屋はまだ空いてるから問題ないぞ」

「ありがとー、えへへ」


 そういうロッテははにかんだ様な、歳相応の笑顔を見せた。

 やだ可愛らしい。< 鮮血の城 >で血塗れになりながら鎌振り回していた幼女さんにも見せて上げたい。

 ……可愛いのはいいんだが、なんだかこいつさっきから様子がおかしくないか? 顔も赤いし。


「というわけでぇ、全然動けないしー、身体ダルいし、やってらんなーい」


 一体全体、何がというわけなのか。風邪でも引いてるのか? 吸血鬼が風邪引くとか新しいな。


「体調悪いなら帰って寝てた方がいいんじゃないか。ここで寝ててもいいけど……薬とかいるか?」


 冒険者の免疫力が高過ぎて全然使う機会がないのだが、一応共用で常備薬は置いてある。ちゃんと冒険者用に強力な奴らしく一般人は飲んではいけない代物だが、多分モンスターなら大丈夫じゃなかろうか。

 あまり想像できないのだが、一応冒険者も風邪は引くし偏頭痛持ちもいるらしい。ちなみに絆創膏などはない。擦り傷程度ならすぐ治るからな。


「別に風邪じゃないよ。モンスターやめて身体能力落ちてるからダルいだけ」

「ああ、もうモンスター止めて冒険者になってるのか」


 思ったより早かったな。

 やめたという事は、あの超人的な身体能力は失って普通の女の子状態という事か。……吸血鬼には変わりないから普通かどうかは知らんけど。


「あえて言うなら血が足りない。いや~、話に聞いてたのと実際に体験するのは全然違うねー。もーダルくって……たくさん血を飲んだあとの酩酊状態に近いかも」

「血糖値スパイク的な?」

「何それー」


 水凪さんが至ってそうな境地の事である。

 吸血にそんな副作用がある事は知らんが、つまり酔っ払ってるのと同じって事か? 幼女の酔っぱらいってすごいな。

 二日酔いに迎え酒するような感覚だろうか。あんまり良くないと思うんだが、酒じゃないから判断がつかない。血が足りないっていうなら輸血……飲んだほうがいいだろうか。


「スーパーで売ってるんだっけ? 買って来てやろうか。何型がいいんだっけ?」


 何処ら辺のコーナーに置いてるんだろうか。……トマトジュースの隣とか?


「お兄ちゃんがいいな」

「何言ってるのか分からんのだが」

「お兄ちゃんの血を吸わせて」

「…………は?」


 いきなり何を言うんだろうか、この幼女は。蚊か。血ぃ吸うたろか。


「それって、ゴーウェンにやったみたいに掌から吸い上げる奴か? ミイラになるのは嫌なんだけど」

「《 鮮血姫 》モードじゃないとあんなんならないし。それに平時はそんなに必要ないない。普通に噛み噛みするよ」


 イーっと口の奥に生えている小さな牙を見せるロッテ。牙っていうより八重歯みたいで可愛いね。

 ゴーウェンのあれは《 鮮血姫 》が発動していたからとかそういう事なのか。《 飢餓の暴獣 》で腹が減るのが加速するように、血が足りなくなるのだろうか? ……ありそうだな。で、完全に血がなくなると死ぬとかだと、まんま一緒だ。


「吸われて吸血鬼になったりしないなら吸ってもいいけど、首筋とか噛むの?」


 それって、なんかエロくない? ロッテさんがいいならいいんだけどさ。でも、臭いとか言われたらショックなんだけど……首綺麗にしてあるよな?


「ならないならない。大して量はいらないから指でいいよ」

「あ、そうなの」


 ちょっと残念。幼女に首噛み付かれるとか、ちょっと興奮するシチュエーションだったのに。


「指は指でも足の指はいや」

「そんな事は言わん」


 想像したら、クソ変態チックな絵面やがな。指だってどうかと思うのに。

 ロッテがソファから転がり落ち、膝立ちで近付いてきたので俺は右手の人差し指を突き出す。


「いただきまーす」


 そう言ってロッテは俺が差し出した指を咥え込んだ。牙に当たったのかチクリとしたが、普段散々斬られたりしてる身としては大した刺激じゃない。

 ……おお、なんか吸われてる。吸い出されてるぞ。蚊とか蛭では勝負にならないスピードで吸い出されてる。とんでもない吸引力だ。

 これは新鮮な感覚だな。ちょっと癖になりそう。……というか、指咥えてるだけなのに妙にエロい。元から顔も紅潮していたし、なんかもう色々アレな感じである。ここで上目使いなんかされたら、妄想だけで御飯数杯はいけてしまいそうだ。画面演出を加えるならピンクの靄がかかる感じ?

 ……これ、いつまで吸われるんだろう。ちょっと吸い過ぎじゃね? あ、なんか力が抜けて来た。




「何やってるのさ」

「うおっ!!」


 突然後ろから話しかけられて指を引き抜いてしまった。

 振り返ると真後ろにユキがいた。俺と同じように外から帰って来たようだが、これほど接近するまで気付かないとは……。俺もトリップしかけていたのか。

 何もいやらしい事はしていないのに、とても気不味い雰囲気である。


「おー、雪兎だ。こんにちわー」

「え……リーゼロッテ……ちゃん?」


 ユキがロッテの姿を認めると固まった。

 まあ、俺と違ってプライベートで会っていたわけでもなく、いきなり前イベントのラスボスがこんなところにいれば驚くだろう。


「えーと……こ、こんにちは……?」


 どういう事なのかとこちらに説明を求める視線を向けてくるユキ。すまんが、俺も詳しい事は分からんのだ。


「どうしてリーゼロッテちゃんがここに? というか、さっき何してたの? 卑猥な事じゃないよね?」


 ロッテさんは守備範囲に入るにはまだ数年早いぞ。長いスパンで攻略する対象なのだ。


「そんな事するかよ。蚊みたいに血吸われてたんだ」

「蚊って……お兄ちゃんはL型だね。スーパーでも良く買うやつ」


 確かに健康診断では謎のL型だったけど、本当に分かるんかい。


「まあ……吸血鬼だもんね。血吸ってもおかしくはないか」

「雪兎のも吸っていい?」

「えっ!? ちょっ、ちょっと抵抗が……ていうかなんで雪兎? そりゃ二つ名だけど」

「ひょっとして名前知らないのか?」


 でも、俺の名前は知ってたよな?


「あー、モンスターって冒険者の事を二つ名で呼ぶのが流行ってるから癖で……。もうモンスターじゃないけど」

「流行りなんだ。……って、モンスターじゃないの?」

「こいつ、冒険者になるんだって」

「今トライアル中だけど、私もここのクランメンバーになる予定だから」

「え?」


 初耳なんですけど、と抗議の視線を向けてくるユキ。

 ……言ってなかったっけ?


「え……と、ちょっと待って、状況を整理するから……つまり、リーゼロッテちゃんモンスターやめて冒険者になった? で、ここに入る予定と」

「そうそう」

「急展開過ぎてびっくりなんだけど……」

「RPGでも良くあるだろ、ボス倒したあと仲間になるの」

「そうそう」

「そんな認識で良いのかな……」


 頭抱えているが、ユキはプライベートのロッテをほとんど知らないからな。記念祭で逃げて行った姿くらいだろう。


「……まあツナだしね。気にしない事にするよ」


 なんで判断基準が俺やねん。そこはロッテさんやろ。


「えーと、雪兎のお名前教えて?」

「え、うん、ユキ……だけど」

「分かったユキちゃんね」


 ユキ20%だろとか言いたいが、説明が面倒臭いな。ロッテにはあとで教えておこう。


「モンスターって、裏では俺たちの事を二つ名で呼んでるのか?」

「モンスターにはあんまり情報が出回らないしねー。二つ名システムできる前は、適当にあだ名つけて呼んでたよ」


 名前も知らないのだろうか。そういえばモンスターに《 看破 》使われた事ないな。

 種族離れるとおっさんみたいに見分け付かなくなるだろうから、当たり前っていえば当たり前なのか? 俺もオークジェネラルの事、派手なオークとか呼んでたし。


「クソうざい牛とかは、お兄ちゃんの事悪鬼さんとか呼んでた」

「牛……ひょっとしてブリーフさんの事か? 知り合いなのか?」

「知り合いってほどじゃないけど、公園で黄昏れてたら、酔っ払ったその牛に話しかけられた。『リーゼロッテさんちーす。奇遇っすねー』って」


 何その危険なシチュエーション。犯罪一歩手前じゃねーか。


「ブリーフさんチャラいからな。想像できるわ」

「焼肉屋でもそんな感じだったね」


 テレビではちゃんとした言葉遣いだったから、普通の話し方ができないわけでもないんだろう。チャラいのは多分素だろうが。


「あの牛、もうブリーフじゃないよ。ブーメランに昇格したって言ってた」

「え……」


 じゃあもうブリーフさんじゃないの? でも、ユニークネームじゃないし、これからなんて呼べばいいんだろう。……ブーメランさん?

 でも、一昨日もらった焼肉屋の宣伝メールはまだ『ブリーフ』だったぞ。


「ブーメランタウロスってもっと先にいるんだよね。ボクらがトライアルで戦った相手が成長してるってのはなかなか面白いね」


 印象深い思い出だよな。今でも良く勝てたなって思う。


「そういえば、冒険者のトライアルは突破できそうなのか? お前ならブリーフさんでも燃やせるだろ」


 相手はそのブリーフさんじゃないだろうが、基本スペックは似たようなもののはずだ。いくらロッテの身体能力落ちてても弱点は分かるし、対策はできるだろ。


「あー、違う違う、詳しくは言えないけど、モンスターからの転向はトライアルの内容も違うの。ちょっと大変」


 そうなのか。普通のトライアルについてはモンスターだったら知っててもおかしくないから、違って当然なのかな。


「言われてみたら、ミノタウロスが冒険者になる場合とかもあるわけだもんね。ボクらと同じわけないか」


 ブリーフさんがあのトライアル受けたらブリーフ対決になるからな。元ボスが挑戦者として戦うのも変な話か。

 だとしたら何がトライアルボスとして登場するのか気になるところだが……案外冒険者が臨時クエストでやったりするのかもな。トカゲのおっさんとか。


「だから何度か死んじゃって、もーしんどい。初回クリアとか狙ったんだけど、全然ダメダメ」


 再びソファに倒れこむロッテ。


「まだリハビリ期間中なんだろ? もう少し時間おいたほうがいいんじゃないか?」

「冒険者にしてみたらレベル落ちたままチャレンジしてるようなもんだしね」


 たとえば俺だったらLv1の状態で無限回廊攻略しろといわれたら浅層でもキツイ。パンダくらいまでだったらなんとかなるだろうか。


「火力はあるからなんとかなりそうなんだけどねー。どうしても攻撃喰らっちゃう」


 こいつも火の矢とか使って来たし、同じ魔術士としてリリカとかの戦法は参考になったりするんだろうか。

 クラン入り前提なら、どっかで顔合わせしておいたほうがいいよな。向こうは存在自体知らんだろうし。……個別だと面倒だし、一回全員で集まるか?


「トライアル内容が違うなら冒険者じゃ駄目なんだろうけど、一緒に潜るモンスターさんとかいないの?」

「あーうん、それ。それをやろーと思ってた。私だけじゃ厳しそうだから、ちょっと肉壁用意するつもり」

「に、肉壁?」

「二世モンスターの中に最適なのがいるから、その子も連れてくる」


 随分な言われようだが、その扱いで本人は了解してくれるのか?


「そいつはモンスターやめたわけじゃないんだよな?」

「大丈夫、私二世の中で一番のお姉ちゃんだから。命令すれば一発よ。ふふーん」


 種族変えるなんて人生の一大イベントなんだが、そんなんでいいのか。

 ……ロッテがお姉ちゃんってもいまいちイメージが合わないし。妹キャラだろ、こいつ。


「あー、お兄ちゃんの血吸ったら眠くなって来た……ここで寝てもいい?」

「それは構わないが、寝るならちゃんと……俺の部屋に来るか?」

「ロッテちゃん女の子だし、ツナの部屋じゃ色々問題あるでしょ。じゃあ、ボクの部屋に寝かせて来ようか。ちょっとだけ起きて」

「……あーい」


 でっかい欠伸をしながら、ユキに手を引かれてリビングから出て行くロッテ。その姿にラスボスのオーラはない。完全に子供扱いである。

 というか、ユキさんの部屋だと問題はないのか……解せぬ。




-5-




『ちょっと遠征してみねえ?』


 剣刃さんに予告されていた通り、ダンマスから電話があった。

 内緒の話らしいのでクランハウス設置の電話ではなく、ステータスカードへの連絡だ。現在位置は俺の部屋である。


「旅に出てたんじゃないんですか?」

『出てる出てる。超出てるよ。実は今も旅先なんだ。御土産の饅頭とか買っていこうか?』


 超嘘臭い……っていうか嘘だってのもフィロスから聞いて知ってるけどさ。なんて適当さだ。饅頭なんて迷宮都市にしか売ってねえよ。


『で、どうよ遠征。興味ない?』


 依頼内容は遠征という事だが、遠征ってそんな気軽にするもんなんだろうか。興味はあるけど。


「依頼がある事自体は剣刃さんから話は聞いてましたけど、何処にですか?」

「今王国がやってる戦争の前線」


 実にタイムリーな話である。行くことないと思ってたのに。


「それならギルドでも募集してますけど、なんでわざわざダンマスが……」

『色々問題があってだな……表向きはそれと同じ依頼なんだが、こいつは別件だ。詳しくは人集めてから話をするよ』

「という事は、俺だけじゃないですよね。< アーク・セイバー >の人と、あと誰が来るんですか?」

『そんなに動かせる奴がいないから、ミユミと……』


 トマトさんも来るのか……って、え、トマトさんと遠征するの? ……ちょっと嫌なんだけど。


『あとは……ああ、フィロスもだな』

「選出メンバーの基準が分からないんですが」


 どんなメンバーだよ。美弓とフィロスって会った事もないぞ。


『それは集まってから話そう。多分、明日か明後日になると思うが、詳細はメール送るよ』

「分かりました。……ちなみにユキも連れて行ったほうがいいですか?」

『打ち合わせのメンバーイコール遠征メンバーじゃないぞ。とりあえず代表として参加してくれって話だ。あと、俺は旅に出ている事になってるからユキちゃんには内緒で。ギルドからの直接依頼とでも言っておくといいぞ』


 電話かけて来て旅に出ているもないもんだ。事になってるとか言っちゃってるし。


『もしユキちゃん連れて来たら、気配察した時点で逃げるからな』


 ひどい話である。だったら、あんないたずらしなきゃいいのに。

 というわけで、何かが分かったわけでもないが、ダンマスからの直接依頼である。受けるかどうか分からないが、初遠征になりそうだ。ギルドは通さないのでGPは出ないらしいが報酬は期待していいらしい。




「というわけだ」

「うん、とりあえずボクの代わりにぶん殴っておいてもらえるかな」


 早速ユキさんにバラしてみた。予想通りの反応である。

 殴るのはちょっと厳しいだろうな。返り討ちになるどころか、相手にもされない気がする。


「まあ、そんな事で面子絞るようだから、重要案件でもないんだろうな」


 単純に戦力欲しいならもっと大々的に動くだろうし。< アーク・セイバー >から何人か出せば、相手がどんな戦力だろうが片はつくだろ。


「とりあえず詳細聞いてからになるけど、お前遠征になったら行く?」

「強制じゃないなら行かない」


 大体予想通りだが、そんなに王都に戻りたくないのかね。

 ……よくよく考えてみたら、外国に行った息子が性転換手術して帰ってくるようなもんだな。そりゃ嫌だわ。


「多分、ボクはもう一時的にでも王都に戻る事はないと思う」

「お前がそう言うなら、それでもいいのかもな。でも、どこかのタイミングで家族には状況は伝えたほうがいいんじゃないか?」

「うーん……そうかもね……。死んだ事にしてもいいけど、それじゃあんまりだし。どこかのタイミングで手紙くらいなら……」


 息子が娘になりかけてるわけだが、それでもピンピンしてるわけだしな。『元気でやってます』ってだけでも伝えられれば少しは安心するだろ。


「ツナは遠征ついでに故郷に寄ったりしないの?」

「ねえな。近寄りたくもない。だいたい今回戦争してる国と方向違うし」


 調べてみたら、今回の相手のラーディン王国は北にあるのだ。俺の故郷は王都より南だから逆方向である。

 そしてようやく覚えたんだが、この国はオーレンディアっていうらしい。誰も王国としか言わないからちゃんと調べるまで分からなかった。

 王都だったら顔出してもいいかもな。マスターやレベッカさん元気かしら。


「話を元に戻すけど、ダンマスに会うんだったらできれば次の試練の内容も聞いておいてもらえるかな」

「まだ早いんじゃねえ?」


 五つの試練を突破したのは高々一ヶ月ちょい前だ。確か一回につき一年くらいかかる前提なんだよな。


「それなんだけどさ、ダンジョンの中って時間の流れが違うわけじゃない? それで短縮できないかなって」

「……ああ、そういう事か」


 いつぞやの訓練のように何ヶ月も経過する事は有り得る。変化が体感時間によって進むなら短縮可能だ。

 現時点での攻略階層だと三日しか消費できないが、たとえば時間制限のないトライアルに籠ってればあっという間に時間は過ぎるだろう。あんなところにずっと籠もるのはちょっと勘弁願いたいけど。


「やっぱり早く女に戻りたいのか?」

「もうそこまで急いではいないけど、やっぱり指標は欲しいんだよね。目安だけでもいいんだけど」


 攻略させるのが目的なら、短期目標があったほうが効率は上がるだろう。

 ダンマスって意外と抜けてるところもあるから、ちゃんと言ったほうがいいかもな。


「たとえば五十層攻略が次の課題だとしたら、頑張ろうって気になるじゃない?」

「そうだな。一年経ってなくたって、別に先行して権利だけ獲得したっていいわけだしな」

「そうそう」


 前回は攻略直後に変化が始まったが、必ずしも試練突破をトリガーにしないといけないわけでもないだろう。その場に本人がいないのはアレだが、そこら辺の話もちゃんと詰めておこう。

 しかし、次の段階……40%になれば半分近くが女になるわけだが、ちょっと不安もある。《 容姿端麗 》でいろんな人を惑わすようにならないかな。……主に俺とか。ついムラムラしちゃったらどうしようかしら。


「遠征になったら、攻略のほうはどうするの? 結構長丁場になるよね?」

「期間は聞いてみなきゃ分からんが、長いだろうな。そしたら、ラディーネたちのスケジュールと合わせてレベルアップメインで考えておいてくれ。攻略を先行してもいいが、Lv40になるのを優先したほうがいいだろう」


 Lv40に到達しているのは俺とサージェス、摩耶の三人、そして元々到達していた水凪さんだけだ。

 クラスが多いほうが攻略が捗るのは間違いないから、当面の目標はレベルアップだろう。今後の事を考えるなら、ボーグやラディーネの武装の試験を兼ねても良い。


「といってもまた死んだりしたら一ヶ月以上お休みだけどね」

「そこは『安全第一』でな」

「了解」




 安全マージンを取り過ぎて臆病になるような事はしないが、ずっと無理をする事もない。

 必要な時にだけ無理して押し通るのが、今後の俺……俺たちの基本スタイルになるだろう。その見極めをするのは俺の役目になる。


 ……俺が一番無理してる気がしないでもないのだが。



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