第13話「孤高の英雄」




 かつて、この国でもこの世界でもない場所に一人の男がいた。

 貧困と圧政を極めた国で親も知らずに生まれ育ち、最後まで国という体制に拘り続けた頑固な男だ。


 彼は幼少期からロクに欲求を持たず、誰にも頑なに心を開かない。開く心さえ持っていないのではないかというほど、寡黙な男だった。

 不言実行。やるべき事を何も言わずに実行し、状況に合わせて必要で最適な行動のみを模索し続けた。

 人らしい欲求は一切見せず、人生のすべてを国民を救うという理想に捧げる。時代が求めた孤高の存在を体現したような、そんな高潔な男だった。

 最終的に助けた民に裏切られ、すべての罪悪を一身に背負って死んだ男の姿は、後にどう語られようが確かに英雄であった。

 少なくとも本人はそう在ろうとしていた。


 そんな男の記憶が蘇ったのは十代後半、今世での人格がすでに完成したあとの事だった。

 記憶が蘇った男……今世ではサージェスと名付けられたその男は、ひどく歪な人格で生来の欲求というものが薄い。

 欲求がない。思考を持たない。中身がない。空っぽの空洞は前世の英雄が抜け殻だった影響なのだろうか。

 後に男も調べた事だが、多数の前世持ちがいるこの世界でも、形成後の人格に記憶が戻る事は多くない。あっても、それによって人格が大きく変化する事は少ないらしい。

 だが、何も持たなかったサージェスは前世の記憶を得た事で、その生き様と渇望を丸ごと飲み込んでしまった。


 孤高の英雄の生き様がどうあっても、サージェス自身には影響はない。空虚な性質はそのままだ。

 前世と知りつつも、英雄が見せたその姿、記憶はどうしても自分と同じ存在とは思えなかったのだ。

 元々、何の目的も目標も持たずにいた自分と、あの孤高の英雄の姿が結びつかない。

 だが、何も持たないサージェスは、それを生きる目標にしようと思った。あの男の代わりに、求めたものを手に入れようと思った。

 空虚な自分が"それ"を求めるのは、悪くない人生だと思えたのだ。これまで自分の人生についてなど考えた事もなかったというのに。


 英雄の記憶と目的を得たサージェスは少しずつ変わっていった。わずかながらでも感情が芽生え、人間らしい変化を見せていく。

 記憶と渇望のついでに変な性癖も付いてきたが、これもなかなか興味深いと感じていた。


 孤高の英雄が求めたものは、人生を賭けた国の行く末。自分が一度壊し再生した国の、その結末を求めていた。


 革命は成就しても、始まったばかりの体制がどう変わっていったのか興味があった。それが可能であるなら知るべきだと感じたのだ。

 ……それは使命感に似ている。

 自分の死がどんな影響を与えたとか、そういう些細な事はどうでもいい。結果、理想の通りの国になっていても、直後に国がなくなっていたとしても構わない。その結末を知る事ができればいい。


 それが、あの孤独な男が最後に残した無念なのだ。




-1-




 家族から見放され、捨てられた過去を持つ私にとって、迷宮都市を来訪する事はさほどハードルが高いものではなかった。

 すべてを捨てる以前に何も持っていない。ただの放浪者だったのだから。

 冒険者ではなかったが、迷宮都市の噂話くらいは耳にしていた。胡散臭い噂話だろうが、可能性があるだけでも赴くべきだと足を向けるには十分な情報だ。

 長い旅になったが、元々急ぐような旅でもない。あの男の記憶を得てから趣味となった研究を続けながら、数年掛けて迷宮都市へと辿り着いた。


 迷宮都市とそこに生きる人たちは、外の世界と違って活力に満ちていた。

 オーレンディア王国の一部と聞いていたのだが、途中寄り道した王都の貧相なイメージとは大違いである。

 極端な性癖を満たしてくれる要素も多分に備えていた。これだけでもここに来た意味があった。

 冒険者としてランクが上がるとできる事が増えるというのだから、これは頑張るしかないだろう。


 当然、目的は忘れていない。

 あの男が求めたものがここで手に入るかどうかは分からないが、ここ以外ではそれが叶わないであろう事は理解できた。

 それを手に入れる手段が見つかるまでは、性的欲求を満たして力を蓄えるとしよう。そうしよう。

 冒険者でこの性癖に理解を示してくれる人は少ないが、同好の士を見つけるのは簡単だった。

 ネットと呼ばれるサービスでもいいし、定期的に発行される雑誌にも同士を募る情報はある。

 外だったら公表しただけで火炙りにされるような国もあるのに、なんと寛容な街だろうか。ここは素晴らしい街だ。


 もちろん、ただこの街にいるだけで目的が叶うわけではない。無限回廊と呼ばれるダンジョンへと挑戦し、その先へ向かう者だけが望みを叶えられるのだという。

 困難な願いを叶えるためには、より深層に至る必要がある。

 外から来た人間には元々冒険者以外の道などないのだから、悩む必要もない。


 冒険者として生きるために、前世のあの男から受け継いだ性癖が役に立った。

 極度のマゾヒストというものは、迷宮都市の中でさえ社会的には問題があるが、戦力的な特性として見た場合は非常に強力だ。

 どんな痛みも、苦難も、すべて快楽に変えられるのは大きなメリットである。

 元々精神的に空虚なはずの私でも、罵倒されたり蔑まれたりするのはなかなか甘美な感覚だ。むしろ何もないから余計にそう感じるのかもしれない。

 私を突き動かす原動力の一つでもあるこれは、過酷な無限回廊の攻略において非常に有用なものだと思っている。

 やはりあの男は偉大であった。


 仲間にも恵まれた。

 最初はただの同志だと思っていたが、行動を共にしている内に、無限回廊の深層に進むために必要なものを持っている事を感じさせた。

 彼ら、……特にリーダーには周りを巻き込んで惹きつける何かがある。

 トライアルの初回突破もそうだが、ダンジョンマスターとの関係、新人戦のマッチング、運命にでも導かれるように話が進む。

 今回の< 鮮血の城 >の試練も含め、最短距離で無限回廊を進む道が用意されているように。

 口ではなんと言ってても、リーダーにも、ユキさんにも私を受け入れてくれる度量はある。この二人と行動を共にする事が、私の目標に近付く最も近い道と思えた。

 そして、その感覚は間違っていなかったようだ。



『サージェス。お前は俺と同じに見える』


 あの新人戦の日。一人になった私に接触してきたダンジョンマスターはそう言った。

 同じといっても、当然性癖の事ではないだろう。彼が言っているのは恐らく生き方の話だ。

 こうして対面して話すと、二人の言う通りダンジョンマスターは壊れかけているのが分かる。故郷に戻るという、たった一つ残された夢の残骸に縛り付けられ、自動人形のようにそれを実行している。

 持っていた物を失った男と、最初から何も持っていなかった男という大きな違いはあるが、その在り方は似ているかもしれない。

 いい機会と思い、彼に私の目的が叶うものなのかを聞いてみた。なにせ、知りたいだけとはいえ、別の世界の事だ。ダンジョンマスターのそれほどでないにしてもハードルが高い事は分かっている。


『今はまだ無理だな。だが、それなら近い内に叶えられそうだ。近いところまでは行ってる』

『そうですか……』


 ……そうか、手が届くのか。

 ダンジョンマスターが言った事は半分も理解できなかったが、それが叶うものだという事は分かった。


『だが、それが叶ったとして、お前はそのあとどうする?』

『特になにも。そうですね……リーダーたちに最後まで付き合うとは思います。……それ以外は、思う存分欲求を満たす日々を過ごすと思いますよ』

『はは、そういうところは違うんだな。……分かった、覚えておくよ』


 それが叶うのなら、手が届くのなら、先へ進もう。たとえ借り物の目標だろうが、これが空虚な自分に宿った唯一の生きる意味なのだから。

 そのついでで、性的欲求も満たせそうだ。


 今回の試練の舞台である< 鮮血の城 >は非常に私向きだ。下調べとして事前に何度か潜ったが、肉体的、精神的に激しい苦痛を伴うものが多い。

 一般の方には人気がなく、ほとんど挑戦もされていないようなダンジョンだが、私ならば何も問題はない。

 下級ランクでしか入れない階層制限が問題だが、試練とやらではもっと厳しいものが用意されるだろう。

 そのためにメンバーを集め、長い訓練を経て、その日がやって来た。



「……ふぅ」


 攻略を開始して、取り敢えずという事で何度か《 自滅 》を起動させてみた。やはり、身に付ける物の機能は知っておくべきだろう。お試しという奴だ。

 実際に使って確信したが、これはなかなかに素晴らしいアイテムだ。攻略の暁にはボーナスとしてもらえないか、リーゼロッテさんと交渉してみよう。

 惜しむらくは、自分のイメージできる範囲でしか死が再現されないため、新しい発見がないという事だ。

 他のメンバーのイメージと共有などはできないだろうか。リーダーやユキさんは前世の事もあるから、そういう事には詳しそうだ。

 しかも、この《 自滅 》には攻略上でも意味がある。私限定だろうが、極度の苦痛を味わう事で性的興奮が高まり《 インモラル・ブースト 》が発動。身体能力が劇的に向上するのが分かった。違うところも劇的に強化されている。

 これは本格的に挑戦する前に複数回起動して、己を高めてから行けという事なのだろう。きっとそういうメッセージだ。

 ダンジョン内であるから、《 フル・パージ 》の使用にも制限がない。これは私の独壇場になってしまいそうだな。リーダー風の言い方ならば、サージェス劇場である。


「……蝋燭?」


 実験を重ねながら第一関門と待機部屋を行ったり来たりしている内に、壁に燭台がかけられているのに気付いた。最初はなかったはずだ。

 元々なかったのだから光源用ではないし、セミナーで良く使うSM用の低温蝋燭とは違う。ここにあるということは何か意味があるという事だ。

 八本あるという事は、これは他のメンバーの状況を見るためのものだろうか。それならば、これが消えるのは《 自滅 》のタイミングを間違って死亡した場合だろう。

 ……これが用意された意図が良く分からない。

 メンバーの中で進んでリタイアする者はいない。あのノーマルさんでさえ、先に進めなくてもリタイアはしないだろう。一つでも消えれば続いてリタイアしたくなる者もいるだろうが、そんなヤワな精神性の持ち主がこんな試練に参加したりしない。

 良く見ると、目盛のようなものがある。……なるほど、進行状況を反映してくれる便利機能という事か。芸が細かい。


 [ 第一関門・明滅の間 ]の内容はなかなかに難易度が高い。

 暗闇の中で拷問具に挟まれながら進むのはなかなか刺激的だ。変化するギミックのパターンを一瞬だけ点灯する灯りを頼りに予想する必要がある。

 《 インモラル・ブースト 》で能力値の補正を受けているとはいえ、少し足を踏み外すだけで甘美な世界が待っていると思うと脚が震える。

 いかんな、リーダーたちは真面目にやっているというのに、私だけが誘惑に負けてはいけない。

 それに、最初からこの難易度であれば、先にはどんな世界が待っているというのか。期待に、いろんなところが膨らんでしまう。


 いくらマゾが痛みに強いといっても、肉体の物理的な限界を超越できるわけではない。死ぬ時は死ぬし、肺や心臓を失えば呼吸はできないし、脚がなければ歩けない。

 真面目にやってもこの試練は高難易度だ。一般の方にはキツイだろう。これは、私のような変態のみが辿れる茨の道だ。

 他のメンバーも、訓練で見せたあの負けん気があれば先に進めるだろうが、その道は困難を極めるはずだ。

 ここは、率先して苦痛を味わうのが私に用意された役割というものだろう。




 -2-




「……誰かに先行されてしまったか」


 第二関門の燭台を前に、急がねばならない事を知る。三人も先行されるとは、せっかちさんもいるものだ。

 決して遊んでいたわけではない。[ 第一関門 明滅の間 ]の難易度が予想以上に高かったのだ。ギミックもそうだが、暗闇に紛れて攻撃してくるモンスターが厄介だ。

 他のメンバーが同じような難易度を抜けてきたというのなら、先行している三人は大したものだ。

 待機時間はまだ残っているが、これは急ぐべきだろうとゲートを潜る。

 ルールを見るのを忘れてしまったが、これはあとで見ればいい。情報があろうが、一回で突破できるほど甘くはないだろう。まずは知識なしでこの身に受けてみるというのも乙なものだ。


「おや……」


 通路に誰かが蹲ってるのが見えた。ノーマルさんだ。そういえば、中で合流できると言っていたな。

 よりにもよって、この試練で最も頼りにならなそうな彼女が相方か。リーダーやガウルさんは期待のルーキーと言っていたが、私は彼女に非凡なものを感じない。他のメンバーと比べてあまりにも普通なのだ。

 一見普通に見えるフィロスさんやゴーウェンさんたちにも感じられる強い渇望、強い意思というものを感じない。


「何故そんなところで蹲ってるのですか。摩耶さん」

「……サージェスさん」


 HP全損すれば、待機部屋に戻るはずだ。何故こんなところにいるのか、状況が分からない。

 奥にあるのは階段。柱を中央とした螺旋階段で、先が見えない構造だ。この階段の先に何かがあるというのか。


「一人より、二人のほうが攻略も捗るでしょう。さ、行きましょうか」

「……いやだ」


 断られてしまった。……これはアレだろうか。私のような変態とは一緒に行きたくないと。

 それなら、もう少し気の利いた罵倒の仕方を教えて差し上げねばなるまい。あとでレッスンしてあげないと。


「……こんな試練、正気でいられない」


 違った。どうやら試練の内容が困難で、越えられそうもないと塞ぎこんでいたようだ。


「ここは一体どんな内容なのですか? 私なら大抵のモノは大丈夫ですから、なんなら盾にしてもらっても結構ですが」

「……説明が書いてあったでしょう?」


 読むのを忘れてしまったんですよ。確かに不注意だから強くも言えないんですがね。


「ここは[ 階段の間 ]。あそこから続く階段を登ればいいだけの試練です。敵もいません」

「モンスターもいないんですか。では、鉄球でも落ちてくるとか、そういったギミックでも」

「それなら良かったんですが。……ここは、階段を一つ登る度に体の一部を失います。指、手足、眼球、骨、臓器。……実際になくなるわけじゃないみたいですが、痛みと喪失感はあります」


 なるほど、自らの一部を供物として差し出して階段を登っていくと。ノーマルさんには勇気のいりそうな試練だ。


「一気に駆け上がればいいのでは?」


 実際に負傷するわけではないのだ。そうだとしても、次の待機部屋で治るなら大した話じゃない。

 モンスターに食われる事だってあるのが冒険者だ。その程度の負傷は日常茶飯事だろう。


「……一段ごとに時間制限があって、時間が経つまで次の段に上がれません。階段を上がるほど、その時間制限は長くなります」


 ちらりと階段を見る。

 一段が大きいのはそのためか。制限時間の間は見えない壁で仕切られているとか、そういう事なのだろう。となると、後戻りもできなそうだ。


「それで、あなたは諦めてしまったと?」

「仕方ないでしょうっ!! みんなあなたのような被虐体質ってわけじゃないっ!!」


 弾けるような彼女の怒声は、これまで聞いた事がないものだ。それはそうですが。……そうですね、ここなら一人でも問題なさそうだ。


「では、先に行きます。そこで蹲るだけならそれでもいいでしょう。あなたには荷が重かったという事です」


 ノーマルさんが無理をして進むことはない。


「あなた以外の誰がこんなものを越えられるっていうのよっ!?」

「だからあなたはノーマルなんですよ」

「のー……」


 言っている意味が分からないようだ。私がノーマルと言ってるのは別に性癖の事だけじゃない。


「あなたは確かにエリートなんでしょう。まともな神経してる連中の中で、上位にいて喜んでる……ここでは、井の中の蛙と言うんでしたっけ?」


 皮肉じみた笑いを浮かべて挑発する。

 こんな狂ったダンジョンを踏破しようとしてるんだから、正常でなんていられるわけがないでしょう。無限回廊という大海を越えるためには、蛙のままではどうしたって無理が出る。


「は……はは、そんな事を言われたのは初めてですよ」

「ノーマルさんたちのエリートならそうでしょうね。……なら私が言ってあげましょう。あなたには才能がない。リーゼロッテが言う、冒険者としての強さを持っていない」

「く……」


 言い返せるわけがない。だって、今まさに躓いているのだから。


「私以外にはその才能があると。全員……七人ともこれくらいなら越えてみせると、そう言うのですか」

「はい。……おそらくあなたは大した目標も、目的も、強い欲求も持っていないのでしょう。私にはこの先に……無限回廊の先に向かう目的がある。他のみんなも程度の違いこそあれ、そういったものを抱えてるはずだ」


 強い欲求がない人間は、必然的に下級、中級で甘んじるのが迷宮都市の仕組みだ。そこで止まる者が深層に行っても先に進めないだろう。


「……あなたは論外ですが、ユキさんは分かる。強さを求める事を目的とするなら他のみんなも分かる。でも……渡辺さんはどうなんですか。あの人は大した目標を持っていないと聞いています」


 論外とは失敬な。私にだってちゃんと目的はあります。

 ただ、リーダーは……そうですね。あの人には強い欲求や願望らしきものは感じられない。


「リーダーは……分からない。……でも、越えて行くでしょうね」

「何故そう言い切れるんですか」


 なんででしょうかね。


「それは私にも分からない。あの人だけは本当に訳が分からない。人並みの生活をしたいなんて、あんなささやかな願いで先に進めるはずがない。強くなりたいという原始的な願望も大して持ち合わせていない。ユキさんの願いを叶える手助けをすると言っていますが、人の手助けを目的にしてあんな強い意思を持てるはずがない。……でも、前に向かえる。そんな気がする。……そんな気にさせる何かがある」


 何の目的もなく、あれだけ立っていられるのはおかしい。私はあの人が最も異常に見える。


「くそっ!!」


 摩耶さんが壁を殴りつける。

 お前は足りないからそのままそこにいろと言ってるのに等しいのだ。負けず嫌いには堪えるだろう。私に殴りかからないのは、言ってる事が正しいと感じているからだ。

 でも、あるいはその負けん気で先に進む事はできないでしょうか。……リーダーじゃあるまいし、難しいでしょうがね。


「では、私はもう行きます。あなたはノーマルのまま、そこで蹲っているといいでしょう。……"負け犬"相手に誰も文句なんて言いませんよ」

「…………く、そ」


 私はもう先に向かおう。

 とりあえず種は蒔いた。これで何かが芽生えるようなら、彼女も先に向かえるだろう。

 駄目で元々なのだ。……それができるなら、立派にアブノーマルの仲間入りです。歓迎しましょう。




 振り返る事はせずに、階段へと足を踏み入れる。

 体感して分かったが、この[ 階段の間 ]は本当に趣味が悪い。

 一段進むごとにどこかが欠けていき、次の段を登るまで時間制限を設ける事でそれをしっかり認識させる。認識したあとで、次の一歩を踏み出すのは自分だ。

 この試練は、痛みや喪失感に耐える事よりも、体の一部を自ら差し出せる精神力を試しているのだろう。

 モンスターに食い千切られるとか、そういうものとはまた違う苦しみと葛藤がある。

 思った通り階段には前後に見えない壁があるので、しばらくは前進も後退もできない。この壁が消えるまでにかかる時間はかなり長い。

 そして、壁が消えてから次の段へ移動するのにも時間制限があるらしく、システムメッセージにカウントダウンが表示される。

 試していないが、予想するにこの時間が切れると一番下まで戻されるのだろう。……だから摩耶さんはあんなところにいたのだ。


 ここは私向きだ。難なく突破できる。

 治る事が保証されているのだから、私でなくても他のメンバーなら突破できるだろう。ここで躓くのはノーマルさんだけだ。

 捧げる箇所はランダムらしいので、どこを持っていかれるかは分からないが、歩けなくなるような状態にならない限りは突破できる。

 二十五段目に血痕があった。捧げた箇所は痛みと共に機能を失い黒い靄に覆われるが、血が落ちる事はない。だから、これは葛藤で壁を殴るかして自ら流したものなのだろう。

 ……なんだ、意外とやるじゃないか、ノーマルさん。


 おそらくゴールは近い。階段は螺旋状になっているのでここからでは見えないが、ゴールが見えればまだ頑張れたのかもしれない。

 こうして、絶妙な配置で設計しているあたり、設計者の底意地の悪さを感じさせる。

 ゴールが見えない状況で数時間もこの苦痛を味わうのだ。勇気を出して一歩進んでもゴールが見えなければ、それは果てしない距離に感じるだろう。

 だが、それは設計者の罠だ。

 突破させない事を目的とするなら、こういったギミックはそれこそ無限に続いてもおかしくないが、ここは違う。

 突破してみせろというのだから、ちゃんと攻略できるよう作ってある。体の部位がすべてなくなるような段数を設置したりはしない。

 ほら、その証拠に数段上がるだけでもうゴールが見えてきた。


 最終段を踏み上がると、体の欠損が元に戻った。長い事失っていた状態だったので、逆に違和感があるほど元通りである。

 登ってきた階段を振り返ると、なんて事はないただの階段だ。一段一段が非常に時間を取られるだけで大した試練じゃない。

 彼女も少し狂うだけで突破できる苦難だ。……その少しが難しいのかもしれないが。




-3-




[ 第三関門 尖塔の間 ]

 第二関門とは逆に、次の[ 尖塔の間 ]は私向きではなかった。裏切られた気分だ。難易度が高く、苦痛が少ない。落ちる恐怖と、骨の鳥に啄まれるくらいしか楽しみがない。なんて楽しくない試練だろう。こんな事なら階段を行ったり来たりすれば良かった。

 ……いかんな、目的を履き違えるところだった。

 こんなつまらない試練は早々に突破して、さっさと先に向かいたいのだが、攻略は難しい。

 中層までは良い。だがその先がひたすら困難だ。挑戦一回あたりのスパンも短いし、私は一体何回落ちる事になるのだろうか。


「あれ、サージェス」

「……ユキさん」


 攻略に手間取っていると、ユキさんが第二関門を抜けて合流してきた。

 後ろから来ているはずのゴーウェンさんがいない事で、挑戦者がランダムで振り分けられる事を知る。

 つまり、ノーマルさんがあれを突破してきても、ここに来るとは限らないという事だ。


「サージェスも第二関門の人とはぐれたの?」

「いえ、私は置いてきました」

「……なにそれ」


 軽く事情を説明する。

 ユキさんは摩耶さんを置き去りにした事に腹を立てていたが、むしろ無理矢理連れて来る方がひどいだろう。ノーマルにはあの試練でさえ困難だ。


「分かった。じゃあ、賭けをしようか」

「また罰ゲームですか」


 アレ、あまり私は嬉しくないんですが。


「サージェスは摩耶が追いついて来たら、ちゃんと謝りなさい」

「それは……構いませんが」


 むしろ追いついてくるなら、そのほうがいいのだ。私の感覚が間違っているという事でも、それを認めるのは何も問題ない。


「もしも追いついてこなかったら、そうだね……僕とツナがサージェスの行ってるセミナーに参加するよ」

「なるほど、それは素晴らしいですね。是非賭けましょう。……ですが、勝手にリーダーを賭けの対象にしてしまっていいのですか?」

「怒るかもしれないけど、ツナなら絶対に摩耶が来るって信じる。だから僕も信じるよ」


 そう言い切るユキさんの目はあまりに真っ直ぐで、とてもまぶしく見えた。

 自分がではなく、リーダーが信じるだろうから来ると信じる、というのはなかなかに言える事じゃない。

 リーダーの影響を最も強く受けているのは、間違いなくユキさんだ。あるいは、その感覚も間違いじゃないのかもしれない。

 どちらに転んでも良い事だ。ここは乗っておくしかないだろう。



 第三関門は、ユキさんが参加する事で革新的に攻略が進んだ。これはユキさんの得意分野だ。大人しくその恩恵に与ろう。

 先の構造を探りながら数十回の挑戦を経て、ようやく最上階に辿り着いても更に苦難は続く。

 腐敗の状態異常はむしろ得意分野なのだが、場外に飛ばされるのは厄介だ。楽しくない。落ちる感覚にも飽きてしまった。


 ボスに挑戦する事数回。切り札ともいえる《 トルネード・キック 》からの《 ダイナマイト・インパクト 》で亡霊騎士を仕留める事に成功する。

 この連携はお互いのスキルが相乗効果を齎して、かなりの高火力を発揮できる事が分かっているのだが、非常に難易度が高い。特にタイミングがシビアだ。

 習得してからしばらくの間、《 ダイナマイト・インパクト 》は強力な拳打を放つスキルだと思っていたのだが、調べてみるとそれが間違いである事が分かった。これは打撃技であればなんでもいいのだ。拳打でも蹴打でも、なんなら頭突きでもいい。

 発動までに時間がかかるから単発技になりがちだが、スキルの成長に伴ってこの溜め時間が短くなると使い方が変わってくる。

 こうして、発動してから着弾まで時間のかかる《 トルネード・キック 》に合わせ、蹴打が届くタイミングに合わせて《 ダイナマイト・インパクト 》を発動させる事で、相乗効果をもたらすといった事が可能になる。その結果、単純な足し算ではない威力が発揮できる。

 だから、こんな固い甲冑でも粉砕できる。

 ほとんど時間ギリギリで亡霊騎士を仕留めたが、もう時間があまりない。しかも、ここから先は分かれての行動らしい。私はまだ大丈夫だが、ユキさんの消耗が激しいのが気にかかる。脚にかけられた腐敗の進行状況がひどい。


「……大丈夫。まだ間に合うから行くよ」

「……分かりました」


 強がりなのか、真実なのかは分からないが、ユキさんは走って自分の通路へと駆けて行った。私も自分の通路へと移動し、ワープゲート前まで来る。

 ……本当に入ってもいいのか?

 躊躇っていると、下から地響きのような崩落音が聞こえてきた。

 ……駄目だ。これでもしユキさんが抜けて私だけが残った場合、一人での攻略になる。

 上層での動きを見る限り、逆ならまだなんとかなりそうだが、私だけだとマズい事になりかねない。


「くっ……」


 ほとんど博打のような気持ちでゲートを抜ける。




 博打には負けた。

 ユキさんがあとから来る気配がない。第三関門のように、別の場所へ飛ばされたという事もない。見る限り、ここはすべてのメンバーの合流地点だ。

 燭台を見ても、私の蝋燭は短くなっているのにも関わらず、ユキさんの蝋燭はそのままだ。

 まずいな……。ユキさん一人の攻略になってしまう。……いや、まだだ。誰かが追いついてくれば、一人になる事はない。

 最悪一人でも、ユキさんなら時間をかければ突破できるはずだ。

 幸い、第四関門は個人戦のようだ。《 自滅 》の輪は惜しいが、ここは先に進もう。



[ 第四関門 脅威の間 ]


「なるほど、確かに私の脅威だ」


 で私の脅威として顕現したのは、私自身だった。サージェスではなく、前世の自分。英雄と呼ばれた悲劇の男の姿が目の前にある。やり辛い事この上ない。

 あれは他の世界の人間だ。かつてレジスタンスとして戦った際にも、自分の身で戦った事などほとんどない。戦闘においてはただの素人のはず。

 だが、いざ戦闘態勢に入ると、私と同じ構え、同じスキルを使ってきた。

 ……本人ではなく、正しく"私自身"という事ですか。

 コピーならば勝てない道理はない。だが、この苦手意識はなんだ。私がこの男に劣等感を感じてるとでもいうのか。

 確かにこの男は英雄だ。一つの国を崩壊し、立て直した。だが、共感を持てないとはいえ、私自身でもあるはずなのだ。


 何度も敗北して待機部屋に戻された。


「まさか、《 パージ 》まで使ってくるとは……」


 何が悲しくて自分同士で全裸の見せ合いをせねばならないのか。まったく興奮しない。

 ほとんど別の人間とはいえ、あの悲劇の男に攻撃を加えるにはどうしても葛藤が起きる。同じ戦闘能力なら、その葛藤が命取りだ。向こうはこちらの事など認識していないのだから。スキルも身体能力も戦い方も同じで、一方的にこちらだけが苦手意識がある。


『攻撃して興奮したりはしないのか? ほら、MはSを兼ねるっていうじゃないか』


 脳裏に、かつてリーダーが言った言葉が蘇る。

 私にサディストの趣味があれば、あの悲しい男を更に傷めつける事に躊躇しなくて済む。

 何故マゾヒストだけなのだ。両方備えれば無敵だというのに。

 《 ドMの星 》は何も応えてはくれない。




 結局、第三関門のような博打めいた戦法を取り、偶然に近い形で第四関門を抜けた。

 強引に突破しただけだ。多分、ここで得るべき事は得てはいない。……あの男を乗り越えるのは今後の課題だな。


『ようこそ、< 鮮血の城 >の最奥部へ』


 最後の待機部屋に声が響き渡る。そういえば、このまま最終戦に突入するのだろうか。

 それだと私一人になってしまうので、戦力的に不安が有り過ぎる。


「リーゼロッテさんですか」

『はい。第四関門突破おめでとう御座います。最初はお兄ちゃんだと思っていたけど、予想外でした』


 彼女は最初から何やらリーダーへの執着が見られた。呼び方も何故か特別扱いだ。

 あるいは、この試練でリーダー以外がどうなるかは興味はないのかもしれない。

 一応、ユキさんのために用意された試練だったはずなんだが。


「このまま戦闘開始ですか?」

『それでもいいですけど、お兄ちゃんが最初に来ると思っていて、厳密なルール決めをしていなかったんです』


 随分適当なルール設定だ。これまでの関門の内容を考えた人間とは思えない。


「では、リーダーが来るまで待ってもらうというのはどうでしょうか」


 上手い事誤魔化せば、最悪、一人での戦闘は避けられるだろう。

 結局、私の性癖を知らなかったリーゼロッテさんを上手く誘導し、他のメンバーと同じ苦痛を共有するという条件で待つ事が許可された。

 リーゼロッテさんはなかなかノリノリで、騙されている事に気付いてない様子だ。

 《 自滅 》の輪はもうないが、素晴らしいご褒美が待っていた。自分以外がイメージする苦痛まで味わえるなんて。




-4-




[ 第五関門 真紅の玉座 ]



「さあ、これが私からの最後の試練です」


――――Action Magic《 死の追想 》――


 リーゼロッテが発動したスキルで、私の全身が黒い瘴気に覆われた。


「ぐ……はっ……」


 なんだ。なんだこれは……。

 これまでに感じた事のない痛み、いや、これはあの男の受けた拷問処刑の痛みだ……。そのすべてが凝縮されて再現されている。痛みだけならいい。だが、痛みだけではない。最後にあの男が感じた悲嘆、恐怖、絶望がまとめて押し寄せてくる。

 駄目だ。これはまずい。そんな感情は知らない。空虚なサージェスには存在しないはずの感情なのだ。

 未知の感情が体を締め付ける。


「これは……まずい、ですね」


 本当にまずい。痛みもこれまで感じた事のないものだが、それよりも負の感情がマズい。

 雁字搦めになるほど湧き上がる未知の感情に翻弄される。これでは動くどころではない。

 くそ……。私の唯一最大の取り柄が通用しないというのか。


 焦点の合わない視界の中で、リーダーとユキさんも苦しんでいる。

 このままでは全員が戦闘不能で終了だ。パペットドールはすぐそこまで迫っている。


 全員が全員動けないのなら、こんな場面で先頭に立つのは私の役目であるべきだ。

 耐えろ。飲み込め。この異常な痛みと負の感情を取り込んで自分の力に変えろ。

 これまでにもそうしてきた。知らない感情でも苦痛を伴うなら変換できる。私ならそれができるはずだ。


 玉座から、リーゼロッテの蔑むような視線が刺さる。

 その目は敵対する者を見る目でも、試練を与える者の目でもない。この程度か、と冷徹に評価を下す目だ。

 真っ先に脱落しそうな私を嘲笑っているのか。

 普段なら感謝したくなるような視線だが、今はそれが不快でならない。……これも未知の感情だ。

 ……私を舐めるな。


「……舐めるな、私はマゾだ」


 全身がバラバラになりそうな痛みを抱えたまま、無理矢理立ち上がる。

 この程度の痛みはただのご褒美だ。……そう変換した。切り替えた。未知の負の感情だろうが、受け止めてやる。マゾヒストを甘くみてもらっては困る。

 まとわり付く黒い瘴気が、ほんの少しだけ薄まったように感じた。


「うおおおおおっっ!!」


 連携なんてできる状態じゃない。二人が戦闘不能から立ち上がるには時間が必要だ。


――――Action Skill《 トルネード・キック 》――


 先駆ける形で、近付いてきたパペットドールに向け切り込みをかける。

 少しでも距離を取って時間を稼ぐ。敵のど真ん中だろうと知った事ではない。

 これだけ近付いたんだ。もう膝をつく余裕なんてない。追い込まれてから本領発揮するのがマゾヒストだ。

 私は究極なのだっ!!


「だああああっ!!」


――――Action Skill《 ローリング・ソバット 》――


 続けて《 サイクロン・ソバット 》へ繋げるはずが、連携が止まった。

 くそ、まだ意識が集中できていない。もっとだ。もっと痛みを切り替えろ。この程度の痛みを乗り越えずに、あの男を越えられるものかっ!!

 せめてリーダーたちが動けるようになるまで時間を……。


――――Action Skill《 シャープ・スティング 》――


 連携が止まり、わずかな硬直時間を狙って攻撃を仕掛けてきたドールに向け、ユキさんの《 クリア・ハンド 》が飛んできた。

 制御が甘く、ほとんど一直線に飛んできただけだが、それでもドールの攻撃に割り込んでくれた。

 まだ動けていないようなのに、相変わらずフォローの上手い方だ。ありがたい。


「おおおおっっ!!」


――――Action Skill《 サイクロン・ソバット 》――


 ほんのわずかに空いた時間の間隙を縫い、多数のドールを巻き込むようにして蹴撃を放つ。

 単発スキルしか放てなくても、まとめて薙ぎ払ってやる。

 《 クリア・ハンド 》と違い、《 ドール・マリオネット 》は多数の対象を操る代わりにそれぞれはスキル発動ができない。ならば数は多いが、こいつらは烏合の衆だ。


 先ほど瘴気が薄まったと感じたのは間違いじゃない。これは、前世の自分に対する意思の試練だ。強く自分を持つ事で因果の影響を打ち消せる。

 だったら、あの二人がいつまでも倒れているはずがない。


 私を覆う瘴気は未だ濃く、ひどい苦痛と負の感情が絶え間なく襲い続けている。

 こんな状態でも、まともに動けるのが私だけなら、私が頑張るしかないだろう。


「うぐっ!!」


 小さいドールが噛み付いて来た。脚の皮膚が齧り取られる。人間大のパペットドールに気を取られ過ぎて、小型のドールへの対処が遅れた。

 痛みはともかく、今は身体機能を落とすわけに行かない。

 振り払い、同時に襲ってきた人間大のパペットドールを蹴り飛ばす。

 何度薙ぎ倒そうが、部位を砕こうが一向に数が減らない。いくら攻撃を加えても、奴等は立ち上がってくる。

 魔力線を断たない限り動き続けると言っていたが、どれだけバラバラにすれば止まるというのか。


「がああああっっ!!」

「っ、リーダーっ!!」


 後方でリーダーの悲鳴が聞こえた。

 小型のドールに抜けられてしまったのか。まずい、この数相手だとどうやったって小型は抜けられてしまう。


「あああああっ!!」


 再びリーダーの声が上がり、ドールの破砕音が響いた。

 戦いながら目をやると、立ち上がるリーダーの姿がある。変わらず左腕を中心に瘴気が覆い、その顔に浮かぶのは苦悶の表情だが、なんとか立てたようだ。

 右手だけでハンマーを振るい、群がる小型のドールを粉砕する。片手で両手武器を使ってもスキルの補正はないが、それでもそれが正解だろう。リーダーは片手武器の予備をもっていないはずだし、こいつらは斬撃よりも打撃技で攻めるべきだ。

 ユキさんも戦線に復帰した。動けないのは変わりないが、《 クリア・ハンド 》の援護が始まった。

 先ほどから私の周りを小剣が飛び交って、ドールを牽制している。二人ともさすがだ。こういう土壇場に強い。


――――Action Skill《 削岩撃 》――


 無数のドールと格闘戦を続けていると、近くでリーダーのスキルが発動した。

 そうか。両手槌のスキルではなく、両手、片手関係なく使える槌スキルなら発動可能という事か。


「さ……じぇす……、気付いて、るか……」

「何を……」


 戦いながら、今にも倒れそうな苦悶の表情と声でリーダーが話しかけてくる。


「ロッテが……動いて、ない」


 玉座に目をやると、薄ら笑いを浮かべたまま動こうともしないリーゼロッテが目に入った。

 くそ、いつでも殺せるという事か。

 確かに、この中に乱入されたら終わるだろう。だが、それ以上に腹が立った。冗談じゃない。このまま終われるか。


「ろぉっっってっっ!! 高みの見物なんかっ、してるんじゃねえっ!!」


 片手でハンマーを振り上げながら、リーダーが叫ぶ。

 その声に、リーゼロッテの顔が歓喜に染まった。


――――Action Skill《 真紅の血杭 》――


 上空に無数の赤い杭が展開され、私たちを目掛け射出される。《 流星衝 》と似たような広範囲の射撃攻撃だが、これは実体だ。


「ぅぐあああっっっ!!」


 いくつかは振り払えたが、太腿に一本、右腕に一本突き刺さった。

 ユキさんはなんとか避けたようだが、リーダーの被害が甚大だ。見えるだけでも五本は突き刺さっている。

 そして突き刺さった杭から、何かが抜けていくのを感じた。……これは遠隔の吸血スキルか。

 事前に調べた情報では、確かこれにはリーゼロッテのHPを回復する効果があるという話だったが、彼女はまだ無傷のはず……

 ……回復したのはリーゼロッテではなく、パペットドールだった。砕かれた箇所が修復し、バラバラになった個体まで立ち上がってくる。

 くそ、回復効果を共有しているというのか。


「ぐっ!!」


 まずいと思い、刺さった杭を抜こうとしても抜けない。楔が打ち込まれているように何か強力な力が働き、ビクともしない。

 このままではこちらは継続して消耗し、相手は無限に回復する死の軍団と化す。

 リーゼロッテが鎌を振ると、これまで動かなかった三体の大型ドールまでもが動き始めた。近付いてきたその巨体から、腕が振り下ろされる。

 迎撃……いや駄目だ、避けろっ!!

 多数のパペットドールを巻き込み振り下ろされた巨大質量が、床を抉る。

 巻き込まれたのか中小のドールが吹き飛んだが、そのダメージも回復し続けている。迎撃は不可能ではないが、あれを止めるには相応の代償が必要になる。

 そして、二体目、三体目のドールが遅れて拳を振り下ろす。ドールの拳打は私ではなく、動けないリーダーとユキさんに向けて振り下ろされた。


「リーダーっっ!! ユキさんっっ!!」


 回収しようにも距離があって間に合わない。


「ああああああっっっ!!」

「ああああああっっっ!!」


 二人は呼応するように叫び声を上げて、迎撃体勢に入った。


――――Action Skill《 削岩撃 》――

――――Action Skill《 クロス・スラッシュ 》――


 だが、単発のスキルではあの腕は止まらない。拳打とスキルの反動で、二人の体が宙を舞った。距離が離れたが、それを二体のドールが追撃するべく、移動を始める。

 二人を回収しようにも、私の前にもドールがいて、今まさに再び巨大な腕が振り下ろされる直前だ。

 回避じゃダメだ。せめてこいつが攻撃できなくなるくらいのダメージをカウンターで当てなければ、リーダーたちへの救援にも行けない。


「うおおおおおっっっ!!」


 蹴りでは間に合わない。この拳のスピードに合わせるには拳打だ。


――――Action Skill《 ライトニング・ナックル 》――


 相手の手が砕ける感触があったが、私の拳も砕けそうだ。

 だが、動きは止まった。あと一撃であいつを粉砕し、救援に向かう。


――――Action Skill《 トルネード・キック 》――


 錐揉み回転しながら、ドールの胸部へ飛び込む。

 あとは、タイミングを合わせて《 ダイナマイト・インパクト 》を発動させれば、奴がタフでも落とせるはず。

 さっきからロクに連携スキルも発動しない状況だが、大丈夫だ。やれる! マゾの真骨頂を見せてやる!!


――――Skill Chain《 ダイナマイト・インパクト 》――


 スキルが発動したのを確認した。着弾に確かな手応えを感じる。ほとんど博打のようなものだったが、この賭けには勝った。

 二つのスキルで相乗効果を生み出した破壊力はドールの胸部を貫通し、粉砕。そのまま着地して、そのままリーダーたちのいる方向へ駆ける。

 時間を食ってしまったが大丈夫だ。まだ二人は立っている。


――――Action Magic《 フレイム・ウォール 》――


「くっ!」


 駆ける方向に、私たちを分断するように炎の壁が立ち塞がる。立ち上る壁は分厚く、無理に抜けようとすると火達磨になるだろう。

 普段なら喜んで飛び込むところだが、今はマズい。だが、回り道をしようにも、辺り一面火の海だ。

 くそ、まともに動ける私を狙ったのか。ならば強行突破するまで!!


――――Action Skill《 トルネード・キック 》――


 全身に火を浴びながら無理矢理炎の壁を突き抜ける。

 突き抜けはしたが、この炎はまともじゃない。まるで意思を持つかのように私の体へとまとわり付いて燃え上がる。

 なんとか火は消えたが、回転して振り払える《 トルネード・キック 》でなければ大惨事だった。

 駆ける先で戦う二人はまだ生きているが、ほとんど虫の息だ。なんとか致命傷だけは避けているという状態にすぎない。

 ユキさんはまだ動けているが、その動きは精細を欠いている。

 それ以上にリーダーの状況が絶望的だ。まともに対応できず、巨大パペットドールに翻弄されている。


「ぐ、おおおおおっ!!」


 間一髪、リーダーへの直撃が入るその直前で、蹴撃でのインターセプトに成功した。

 ドールはすぐさま、リーダーとその前に立ちはだかる私を排除しようと次の拳を振り上げる。

 なんとかしろ。なんとかしろサージェス! 避けたら後ろにいるリーダーに攻撃が向かう。迎撃しろ。


――――Action Skill《 ダイナマイト・インパクト 》――


 拳に合わせ、単発の拳撃で《 ダイナマイト・インパクト 》を放つ。ドールの拳は止まったが、これだけでは足りない。


「もう一発っ!!」


 アクションスキルは使用したあとに、続けて同じスキルを使用する事はできない。どれだけスキルレベルを上げても、再使用までの時間が発生する。

 しかし、たとえ同じスキルでも、違う部位でなら発動させる事はできるのではないか。何故かそんな確信があった。


――――Action Skill《 ダイナマイト・インパクト 》――


 反対側の腕で《 ダイナマイト・インパクト 》を放ち、ドールの拳を粉砕する。

 それに合わせて私の拳が砕けるのが分かった。最初に撃った反対側の手も危険域だ。

 目の前のドールは反対の腕で更なる追撃をかけてくる。

 どうする。どうすればいい。


「く……おおおおおっっっ!!」


 ほとんど捨て身で、両の腕を使い同時に拳打を放った。

 何をやっている。違う部位ならともかく、そんな方法でスキルが発動するわけ……いや、試した事がなかっただけだ。打撃技で発動するのなら、あるいは右腕でも左腕でもない"両腕"なら、更に連続発動できるかもしれない。

 駄目ならアウトだ。ならば、死ぬ気で成功させろっ!!


――――Action Skill《 ダイナマイト・インパクト 》――


 確かに私の両腕を通じて三度目の《 ダイナマイト・インパクト 》が発動したのを感じた。

 なんだ、やればできるじゃないか。

 ……これで確信した。スキルは考えていたよりももっと自由で、発想次第で違う姿に変える事ができる。誰も想像しないような、そんな活用方法がまだ隠されているはずだ。


 ドールの拳と私の両拳が強烈な反動を以って激突する。ほとんど捨て身の一撃だ。私の両腕の骨が砕け散る感触があった。ドールの拳も砕いたが、まずい……な。

 完全に動かせないわけではないが、腕はほとんど致命傷だ。あとは脚だけか……。腕を粉砕したとはいえ、ドールは健在だ。追撃をかける必要がある。

 必死に堪えてはいるが、ユキさんだって限界だ。すぐにでも救援に向かう必要がある。


「……悪い」


 一人で悲壮な覚悟を決めていると、隣をリーダーが通り抜けていった。

 全身に杭を打たれ、フラフラで足元も覚束ず、やはり左腕は動かないのか瘴気に覆われたままだ。そんな状態でもドールに向かい、歩いて行く。


「ぅらああああっっっ!!」


――――Action Skill《 削岩撃 》――


 リーダーの放つスキルがドールの脚を穿つ。さっきからずっと単発スキルしか使っていないが、もうそれしかできない状況なのだ。

 両手武器用のスキルが使えないのもそうだが、全身ボロボロで連携のタイミングを合わせられるような状況じゃない。何故、そんな状況で戦えるのだ。


「ぐっ……は……」


 ユキさんが、一瞬動きが鈍ったところを捉えられて地面に叩きつけられるのが見えた。直撃。あれはまずい一撃だ。

 追撃の前にユキさんを回収しようと走る。


「ユキさんっ!!」


 ドールの拳が振り下ろされる寸前、間一髪。飛び込む様な形で、ユキさんを回収した。ほとんど動かない腕に激痛が走るが、まだ動く。ユキさんが軽くて良かった。

 だが、安心できたのはほんのわずかな数瞬だ。顔を上げると、ドールは私たちに向けて追撃を行うべく腕を振り上げていた。

 ……迎撃は間に合わない。くそ、まだ一撃なら直撃でもなんとか……


――――Action Skill《 削岩撃 》――


 だが、私たちへの追撃の前にリーダーが立ち塞がり、再び《 削岩撃 》でドールの腕を迎撃した。

 破壊こそできないものの、攻撃の軌道をずらしてみせた。ドールの拳が地面へと叩きつけられ、大きなクレーターができる。

 リーダーは、自分が放ったスキルの反動にも耐えられず、たたらを踏み倒れこむが、そんな状態でもすぐさま立ち上がってきた。


「……リーダー」


 私は、その極限の姿を見て一瞬だけ呆けてしまった。

 摩耶さんにも言った事だが、リーダー、やはりあなたはおかしい。……私はあなたという存在が不可解でならない。


 人間ってそんな強いものではないはずなんですよ。いくら強靭な精神力という土台を持っていたとしても、目標がなければ頑張れない。

 目標の大きさの事ではなく、それが自分にとって如何に大切であるか。何か芯に抱えるものがなければ、極限の中で立てたりはしないはずなのです。

 たとえ死んで生き返るシステムがあろうが、それは変わらない。むしろそんなシステムがあるからこそ、諦めてしまうものでしょう。

 かつて一人の男がすべてをかけて手に入れたものに裏切られ、目標を見失ったように。


「……いい、サージェス。僕はまだ大丈夫」


 助け起こそうとした私を遮るように、ユキさんが立ち上がった。その姿は弱々しいが、確かな覚悟を感じる。

 ユキさんは分かる。理解できる。ダンジョンマスターによれば、魂と肉体の形が一致しないという事はひどく苦痛で、大抵の場合種族や性別を越えた者は持っていた記憶ごと、人格が崩壊する。そうして残るのは本来、そうであったというわずかな"記録"だけだという。

 何の因果かユキさんはその状態に陥っているけれど、それを元に戻そうと頑張るのは理解できる。

 今だって、瀕死で何ができるのか分からないような状態なのに立とうとしている。

 自分の目標のために、自分以外の人間がボロボロになって立ち上がるのを見て、静観していられるはずがない。

 それが欲しかったものでも、誰かに与えられただけのものは結局大切には思えないし、胸など張れない。少なくとも私はそうだ。

 ユキさんだって、どこかでそれが分かっているからこそ、リーダーの姿を見て立ち上がれるのだ。


「……こんな、ところで、落ちてる場合じゃ……ないんだよね」


 そうですね。本当にそうです。

 迷宮都市のシステムなら、諦めなければいつかは夢に届く。だけど、歩みを止めればその分だけそれは遠のく。

 確固たる願いを持っているのならば、夢が遠ざかるのを決して許容できたりはしない。

 アーシェリア・グロウェンティナのような、どれくらい差があるか分からないような怪物を相手にしてさえ、勝ち目がないと分かっていても立てる。

 それに比べれば、現状のなんと温い事か。たとえ全身を切り刻まれようが、腕をもがれようが、死ななければ負けではないのだから。


――――Action Skill《 削岩撃 》――


 リーダーが、再度の《 削岩撃 》でドールの片腕を破壊した。

 だが、マズい。追撃に備えられていない。

 周りが見えていない状況なのか。それとも、ユキさんか私がフォローを入れられると信じているのか。この状況で、どうしてそう信じられるのだ。


 渡辺綱という人間が理解できない。

 いや、種族が変わっても完全に記憶を保持し続けるミユミさんもそうだ。私にはあのダンジョンマスター以上にあなたたちが狂って見える。

 一体、何があればそうなれるのか。前世で一体どんな体験をしてきたのですか?

 リーゼロッテは恐らくどこかでリーダーの本質を感じていたのだろう。彼の、深淵に吸い込まれるような引力に気付いてるのだろう。

 本人も自覚していない、いや、本人のものですらないかもしれないその力に。


「リーダーっ!!」


 届かない。これだけ離れたら《 キャスリング 》も射程外。ユキさんも間に合う距離じゃない。あんな状態でもう一撃もらったら、いくらリーダーでもアウトだ。



――――Action Skill《 インターセプト・ガード 》――



 決死の状況で、スキル発動のメッセージが視界に映った。




-5-




 それは一瞬で、視界の外からリーダーとそれを襲う巨大な腕の間に割り込んで来た。


――――Action Skill《 インパクト・ガード 》――


 華奢な体に似合わない重装甲。ドールの腕を受け止める、使用者の体よりも巨大な盾。

 その姿は、私が来るはずがないと諦めていた仲間の姿だ。


「たああああっっ!!」


――――Action Skill《 シールド・バッシュ 》――


 完全に攻撃を止めたばかりか、金属盾はドールの腕をそのまま押し返して一瞬とはいえ隙を作る。

 方向性が違うとはいえ、さすが同士と褒めざるを得ない。

 そして、極限状態とはいえ、その隙を見逃すリーダーじゃない。


「うおおおおっっ!!」


――――Action Skill《 削岩撃 》――

――――Action Skill《 削岩撃 》――


 リーダーの声に呼応するように、スキルの発動が重なった。二重で槌のスキルがドールに叩き込まれる。

 巨大な槌で横合いから挟み込むように叩き付ける一撃。その巨大な姿は、この極限状態においてなんと頼もしい事か。

 リーダーの《 削岩撃 》は単発で止まってしまったが、その男はここに来て無傷の状態だ。スキル連携が止まるはずがない。


――――Skill Chain《 粉砕撃 》――

――――Skill Chain《 爆砕撃 》――


 返す一撃、更に返す一撃でドールの体が完全に粉砕される。これぞ完全状態で行使される純アタッカーの攻撃力。これでようやく三体が沈んだ。


「ティリア……ゴーウェン……」


 いつの間にか脚が止まっていた。横合いから仲間の名前を呼ぶユキさんの声でそれに気付く。

 完全に諦めていた救援だ。……いや、諦めていたのは私だけか。


「……すいません。遅れました」


 ティリアさんはバツの悪そうな顔で振り返って微笑んだ。

 すぐさま《 フィジカル・ヒール 》を発動し、リーダー、そして私たちの治療を始める。


「あんまり回復量は期待しないで下さい。……それに、その黒い瘴気には効かないみたいです」


 瘴気のほうはどうしようもないが、この土壇場での回復はありがたい。完全回復にはほど遠いが、ボロボロだった腕がまた動くようになったのを感じる。


「ちょー痛え。くそ痛え。……でも諦めるかよ」


 回復を受ける事で今更ながらに傷の痛みを感じたのか、悪態をつくリーダー。

 リーダーの視線の先には、私が仕留めたはずの巨大ドールが立っている。……再生したのか。

 ジリ貧もいいところだ。このままだと、この二体も再生しかねない。

 巨大ドールが暴れるせいで巻き込まれていた中小のドールも近付いてきた。《 真紅の血杭 》で回復したのか、破損した個体はほとんど見られない。


「ツナ、もうあんまり予備ないけど、これ使って」


 ユキさんがリーダーに近付きカードを渡す。おそらく、ユキさんの小剣だろう。

 確かに、片腕ではリーダーが使う武器のほとんどは使えない。ならばその方が片手用のスキルが使える分まだマシ……


「いや、いい」


――――Action Skill《 瞬装:グレートソード 》――


 だが、リーダーはそれを使わずに自らの武器を右手だけで持ち替えた。

 ハンマーはもうボロボロで耐久値が限界に近いのは分かるが、それも両手武器だ。< 童子の右腕 >があれば、振り回すだけならなんとかなるのだろうが……。


「……なんとなく分かった。これも経験済の事だったんだ」


 まさか、これまでと同じように両手用の武器を片手で使おうというのだろうか。

 それはあまりに不格好で、様になっていなくて、訓練中に動画で確認した< アーク・セイバー >の大型二刀流使いのものとは比べるのも烏滸がましい、ただ持っただけの姿だ。

 だが、何故だろうか。その姿は、ずっとそうしてきたかのような、それが当たり前であるかのような、そんな姿にも見える。


「ロッテの舐めプが癪に障る。あいつを引きずり降ろさないで終わらせられるか」


 炎の向こうに、こちらをじっと見て動かないリーゼロッテがいる。確かにこれまで要所要所で手出しはしてきたが、まだ本格的に動いていない。

 ドールの操作で動けないというわけでもないだろう。こちらを舐め切っているのか、それとも何かを待っているのか。

 こちらはこれで五人。ボロボロには違いないが、それでも無傷の二人が合流したのが大きい。

 リーダーの瘴気はいまだ濃く、影響が取り払えていないようだが、私とユキさんの瘴気は大分薄まった。

 再度ドールが復元しても、これならばまだ戦える。



――――Action Magic《 サモン:マリオネット・ドール 》――


 揺らめく炎の先で、ロッテが大鎌を振るうと巨大な魔法陣が発現し、魔力光が立ち上る。

 そこから出現したのは大型のドール四体だ。……まだ増えるのか。


「さて、これでこっちは五人だ。"まだ《 術式切断 》使える奴がいねえ"から、とりあえず正面から食い破るぞ」


 "まだ"。まさか、本当にリーダーは信じているのだろうか。ここにいない残り三人が合流してくる事を。

 ……いや、違うのか。信じていなかったのは私だけだ。ここにいる私以外の全員がそれを疑っていない。

 フィロスさんや、ガウルさん、途中で置き去りにした摩耶さんの姿が頭を過る。

 すごいな、リーダーは。……その気にさせるのが上手い。私も信じてみたくなりました。




「いくぞ、反撃開始だ」


 リーダーが片手で巨大な剣を振る。私たちの反撃がここから始まるのだと言わんばかりに。


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