第1話「迷宮都市案内」
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「攻略した」
その日、一人でギルドの食堂の飯を食っていると、どこかで見たちびっ子がやってきた。
トライアル絶賛挑戦中のはずの魔女っ子リリカさんである。登場のパターンがまったく一緒だ。
いや、表情が違う。ドヤ顔だ。どこで覚えたのかピースサインまで。……全然一緒じゃねーな。
「ども」
随分久しぶりの気もするが、新人戦以来何度も会っている。あまり時間も経っていない。
「相席いい? 今後について、色々聞きたい事があるんだけど」
「どうぞどうぞ」
なんか、無理矢理同じやり取りをしているような気がするが、気のせいだろう。
別にコピペというわけでもないぞ。断じて違うんだからねっ。
「そういや、自己紹介してなかったな。渡辺綱だ」
「リリカ。リリカ・エーデンフェルデ……って自己紹介はしたから。もー、何回するの、このやり取り!」
そらすまんね。二度ある事は三度あるっていうしさ。もうしないよ。
「悪いな。やっておかないといけない気がしてさ。こう……宇宙的なパワーに動かされて」
「一体、何を受け取っているというの」
メタ的な超パワーだ。これには如何に強靭なメンタルを持っている俺でも逆らう事はできない。
「それはまあいい。攻略ってトライアルの事か? 結構かかった気もするが、かなり早いほうだよな」
「まあ、君たちに比べれば遅いよね。体験した今となっては、一日とかほんと無茶苦茶だよ」
そこは自分もおかしいと思っている。大体は、ウチの兎さんがいけないのだ。
「初心者講習は今月のに間に合ったのか?」
「う……間に合ってない。デビューは来月になるって」
モロにタイミングを逃した感じだな。
そういや、ちょっと前にデビュー講習やってたっけ。ものすごい人数が受講していたのを見た。
となると、リリカは俺たちの三ヶ月後輩になるわけだ。
俺たちはこの一ヶ月間、無限回廊の攻略は進んでいない。
中級昇格試験すら発行されていないため、Eランクの上限である第三十層より先は挑戦不可なのだ。新人戦まで溜まりに溜まった書類を片付けていたというのもある。
E+、つまり中級昇格の前段階となるランクに上がるために必要なGPは、本来数ヶ月~一年かけて稼ぐべきもので、本来はその期間を使って第三十層までを攻略する。俺たちの場合は、さっさと第三十層までを攻略してしまったためにEランクに昇格してしまったが、これはあまりない事らしい。……まあ、おっさんたちの手助けもあったしな。
聞いた話だと、アーシャさんも中級昇格までは半年かけてるらしいし、これでも早いペースなのだろう。ゴブタロウさんからも、ちょっと落ち着きなさいと言われたし。
だから、元々攻略済のサージェスを入れずに、ユキと二人で無限回廊の第十一層から第三十層までをちゃんと自分たちの力を攻略しようとしているのだが、これがあまり上手く行っていない。他のダンジョンで開催されたタイムアタック大会やイベント的なものに参加したり、途中でユキが死んだり、用意していた武器が壊れたりで、結局第二十五層までしか進んでいないのだ。
必須ではないものの、これはちゃんとやっておきたいと思っているので、中級昇格の規定GPが貯まるまでにはなんとかしたい。
二人だけで攻略というのもそろそろ無理があると思っているので、同じように第二十五層まで攻略を進めたフィロスたちと合流するのがいいかもしれない。あいつらもガウル外してるみたいだし。
あんまり遅れるようなら、目の前のリリカを入れてもいいだろう。こいつもソロだ。
「そういえば、結局ソロでクリアしたのか?」
「え、うん、そうだね。一回だけペア組んで挑戦したけど上手く行かなくて」
そらすごい。第十五層あたりでブリーフじゃない普通のミノさんとも戦ったりするが、あれも結構強いのだ。今でも倒すのは結構時間がかかる。
「じゃあ、一ヶ月間近く暇になったって事か。訓練するくらいしかやる事ないよな」
「所持金がそろそろ心許なくなってきたんで、日雇いの仕事とか紹介してもらったんだけど、レジ打ちとか良く分からない」
ギルドも純ファンタジーの住人にレジ打ち薦めるなよ。
そういえば、結局俺もバイトとかしてないな。基本的に訓練、講習、書類地獄と、とんでもなくストイックな日々だ。修行僧か、思考放棄したリーマンみたいだ。びっくりする話だが、コレでまだEランク昇格の手続き終わってないんだぜ。
「俺もバイトはしてないんだが、他にどんな募集があった?」
「えーと、私でも意味が分かったのは、引越しとか、商品の棚卸しとか、コンビニ? の店員とか。ここ、代筆とか写本とかの仕事ないんだね。私、外ではほとんど写本一本だったから、大変だよ」
そら平成日本みたいな印刷技術がある街で、写本はないだろうな。プリンタもコピー機もあるし。
「収入的に、下級冒険者は結構バイトも必要らしいな」
「ツナ君は必要ないの?」
「まったくって事はないが一応それなりに稼いではいるし、トライアル攻略動画の売却金がデカイよな。あれがなかったら、バイトしてたと思う」
冒険者の収入は千差万別だが、下級の内はその金額は寂しいものだ。
物価も違うので安易に比較はできないが、必要経費除けば、ダンジョン攻略の稼ぎだけなら平成日本でせいぜい年収二〇〇~三〇〇万クラスである。
一週間の内六日はほとんど自由に使えるし、GPを金銭に変える事もできなくはないので、無理をしなければなんとかなるくらいだ。
まあ、武器・防具、アイテムの購入など必要経費はかけるだけ楽になるので、何かしらの副収入はあったほうがいいだろう。
一方で、中級以上になると同ランクでも年収も幅が出てくるので、一概にはこうだとは言えなくなってくるらしい。タクシー運転手のこんなに稼いでる人もいるんですよ、という募集と一緒だ。
ちなみに、アーシャさんの年収見た時は、あまりの圧倒的金額に鼻血が出るかと思ったぜ。つい、求婚に走ろうかと思ってしまった。
「まあ、まだリリカは魔法使いだからマシな方なんじゃないか。前衛だと装備にかかる費用がかなり大きいし。こないだ見せてもらった限りだと、魔法って触媒とか使ってないよな」
「そう。外だとほとんどの場合、術式の増幅で触媒が必要になるんだけど、ここではあまり必要ないみたい。私が使うのも全部が全部触媒不要ってわけでもないんだけど。むしろ、永続的に増幅してくれる魔導石とかが普通に売ってるからいらないのかも。……外だと一生物なんだけどな」
魔法使いは想像を絶するくらい金持ちだと聞いていたが、そんな魔法使いが一生物として使うような物が普通に売ってんのか。すげえな迷宮都市。
「魔導石ってのはあれか? 杖の先にくっついてたりするやつ」
「そう。放出する魔力を増幅したり、特定の現象効果の変換効率を上げたりできる」
そうか。俺もダンジョンでいくつか手に入れて売ったが、それほどの値段でもなかったな。もちろん性能によっても違うんだろうが。
大量の漫画を古本屋へ売りに行った時みたいな売却明細になったけど、アレ、外だと宝の山なんだろうな。
「おー、ツナ君だやっほー。あれ、そちらはどちらさん?」
「リリカさんだよ。トライアル中のルーキーの人」
見覚えのある二人組が入ってきた。ユキとクロだ。この二人だけっていうのは、ちょっと珍しい組み合わせだ。
「お前らも飯か?」
「いや、僕らは外でパスタ食べてきたから。今日はスケジュール入ってないし、このあとどうしようかって話してたところ」
「えーと、リリカさんだっけ? トライアル攻略はなんとかなりそう? あ、あたしクローシェね。よろしく」
「昨日クリアした」
「あ、クリアしたんだね。おめでとう」
二人が座って、四人掛けのテーブルが埋まった。華やかでいい事である。
女の子ばっかりにしか見えないが、実は50%男なんだぜ、これ。
「ひょっとして、トライアル前ですでに魔術士だったりするの?」
「うん。外では仕事もしてたから」
「リリカはまだデビュー前ではあるけど、冒険者としては何年も先輩だぞ。敬って差し上げなさい」
「うわ、ちっちゃいのにすごいんだね」
「ちいさいのは関係ない」
語調が強い。気にしてるのかな。
「デビュー前でロクに収入ないから、どうしようかって話してたところだ。クロはこの街の出身なわけだし、外の人間向けのバイトとか知らないか?」
「魔術士ギルドで魔力売れるよ。安いけど、生活の足しにはなるんじゃないかな」
「魔術士ギルドって、こことは別にあるのか」
鍛冶ギルドもそうだが、迷宮ギルドに統一したりしないのは理由でもあるんだろうか。天下り先のポスト確保とか。
「うん。本部もこの区画にあるよ。そんなに離れてもいない。ファッションセンターしもむらあったでしょ。あの向かい」
しもむらの前に魔術ギルドがある違和感がひどいが、普通に分かってしまった。
「訓練とかで魔力使わないなら、売ってもいいんじゃないかな」
「えーと、どれくらいになるのかな」
「あたしも良く知らないけど、下級冒険者でも一~二回分の食費くらいにはなるって聞いた事がある」
「地味な値段だな」
それでも、ないよりは全然いいだろう。MPって自然回復するし。俺も売ろうかしら。
「魔力って溜めておけるもんなのか?」
「魔晶石っていって、魔力を溜めておくための石があるんだよ。魔術士だと迷宮に持って行って補給用に使うみたい。本格的なやつだと高いけど、電車とか車とかもこれで動いてるよ。家電でも一部あるかな?」
エコっぽい感じなのね。発電はしてるっぽいけど、ひょっとして化石燃料必要としてないのかな。
「ユキちゃんもそうだったけど、ツナ君もあんまりまだこの街の事知らないよね」
「色々激動の二ヶ月だったからな」
半分くらい書類に埋もれてた気がしないでもない。
「ひょっとして、まだちゃんと街回ってない?」
「回ってねーな。ほとんどローテーションみたいに、同じところぐるぐる回ってるだけな気がする。ユキもだよな」
「ちょっとは回ったけど、あんまりツナと変わらないと思うな。百均とかは結構詳しくなったよ」
「引越しの話もあるし、一回くらいちゃんと街見て回ったほうがいいな」
どこに何があるのかも知らないで、不便な物件掴まされても嫌だし。
「なら、これから案内しようか? 今日は暇だし。リリカさんは、ダンジョン区画外の出入りの許可って降りてる?」
「あ、うん、説明受けた。実はもっと広いんだってね、この街」
リリカに真ん中あたりの風景見せたら卒倒するかもしれないぞ。
でも俺、ちゃんと説明受けた覚えがないんだけど、ひょっとして忘れられてないかな。
「でも、できればこの会館から教えて欲しいな。実はほとんど知らなくて」
「OK、OK。じゃあ、まずここね。ギルド会館食堂。朝と夜はギルドの寮を借りてる人向けの食堂だけど、昼間は喫茶店になってるよ。寮生限定だけど、冒険者デビューすると朝食がタダになるんだ。メニューと時間は決まってるけどね」
「ツナは必ず食べてるよね」
「当たり前だ」
朝飯がタダとか、手を出さない理由がない。まあ、メニューの量だと足りなくて追加で何か買ってしまうんだが、それでも全然ありがたい。
ちなみに寮生でなくても、ギルド員であれば割引サービスはあるし、有料だが朝飯も食える。
王都にいた頃の食事事情とは比べるべくもないが、迷宮都市のいろんな食事を知ったあとだと、極めて平均的なレベルだと思う。少なくとも不味くはない。
「あとはどこに行った事あるかな?」
「えーと、二階の図書館と、面談室、三階は講習で何度か。四階以上は入れないんだよね?」
「四階より上はデビュー後にならないと許可降りないからね」
「地下は訓練所くらい。倉庫貸してもらえるって聞いたけど、まだ使ってない」
デビュー前で倉庫使うような荷物ってあんまりなさそうだしな。細かいのなら、寮の部屋に置けばいい話だし。
「じゃあ、それ以外のところを見て回ろうか。ツナ君とユキちゃんは知ってる所ばっかりかもしれないけど」
「ううん、実は知らない事もあるかもしれないしね」
「そうだな」
飲みかけのお茶を一気に飲み干し、四人で移動を開始した。
-2-
[ 受付前 ]
「知ってると思うけど、ここが会館の受付。デビュー前だとあまり用はないけど、クエストの受注や実績報告なんかしたりするかな。あとはシステムアップデートとか、そういう重要なお知らせが張り出されたりとか」
受付は会館に出入りする際に通るから普通は知ってるが、デビュー前だと何やってる所か良く分からんよな。
モンスターを何匹倒せ、などのクエストは掲示板に貼ってあるが、これを剥がして受付に持って行ったりはしない。受付嬢さんに伝えればいいだけだ。
そういえば、まだ受付嬢さんの名前を聞いていないな。なんかこのまま永遠に謎になる気がしてきた。
「このクエスト掲示板ってどういう仕組みなんだ? いつ見ても入れ替わってる気がするんだけど」
実はコレ、ちょっと目を離すと内容が入れ替わってたりする。
「掲示板はランダムで表示されてるだけだよ。受注可能なクエストが優先して表示されるの。基本はあの備え付けの端末を使うね」
「そもそもクエストって何?」
リリカさんにはそりゃ分からんか。
「冒険者としての活動の指標みたいなものだね。今日の挑戦では何層進みますーとか、このモンスターを何匹倒してきますーとか、このアイテムいくつ集めてきますーとか。それで、クリアするとギルドポイントっていう、色々できるポイントがもらえるんだ」
「失敗したらどうなるの?」
「別にペナルティとかはないよ。ただ、ランクによって受けられるクエストと、その数が決まってるからどうしても厳選する事になるよね」
「僕、毎回ハウンドドッグとゴブリンの討伐クエスト受けてる気がするよ」
「その二つは基本だからね。下層ならまずいるし」
あいつら、ミノタウロスが雑魚で出てくるような層でも普通にいるんだよな。すげー場違いな気がするんだが。
「ギルドポイントっていうのは?」
「スキルを買ったりとか、施設のサービスを拡張したりとか色々できる……権利かな? ここでしか使えない専用のお金みたいなもの?」
「す、スキル買えるの?」
リリカさんは知らなかったようだ。俺も初日にフィロスに聞かされなかったら、デビューまで知らずにいたかもしれない。
「安くはないけど買えるよ。じゃあ、次はギルドショップに移動しようか」
[ ギルドショップ ]
同じく一階。受付からちょっと離れたところにある部屋。ここがギルドショップだ。トライアルクリア前だと謎の力が働いて入室すらできないらしい。
あんまり広くないが、受付よりこちらのほうが人が多い。お目当てのスキルまであと何ポイントだの、そういった確認も多いのだろう。
「リリカさんはまだGPがないから何も買えないけど、ここがギルドショップ。たくさんある端末で購入操作すれば、買えるものの一覧が確認できて、購入手続きすると係の人が持ってきてくれるよ。分からなければ、直接係の人に言っても対応してもらえる」
俺のカードを使って端末を見てみると、ランク的に購入可能なものは大量にあっても、大体がGP不足でグレイアウトしている。
急な昇格の弊害だな。ちょっと見づらい。
「ツナくんすごいね。Eランクになるとそんな事になるのか。いや、適性もあるから、私だとこんな事にならなそうかな」
横からクロが俺の操作画面を覗きこんできた。
「全然GP足りないんだけどな」
「Eランクって?」
「デビュー当初がG、無限回廊の十層まで攻略してF、三十層まで攻略するとEだよ」
「二人はもうそんな上なんだ。結構簡単に上がるものなのかな」
「いやいや、この二人がおかしいだけだからね。あたしもようやくFになったばっかりだから。これがくらいが普通」
という事は、クロもパンダは倒したのか。
しかし、俺たちのEランクも、自力で勝ち取ったものとは言い難いからな。自慢はできない。
「ん?」
よく見ると、購入可能なスキルの一覧の中に《 ウエポン・ブレイク 》があるのが見えた。
これって、アーシャさんに使われて武器ぶっ壊されまくった奴だよな。もう買えるようなものなのか?
似たようなので《シールド・ブレイク》や《アーマー・ブレイク》もある。
「なあクロ。《 ウエポン・ブレイク 》ってこんなに安いもんなのか? アーシャさんが使ってたのは、とんでもない凶悪性能だったんだけど」
「ああ、あれはちょっと前提が色々重なってるからあんな事になっちゃったけど、本来はそれ< 鍛冶師 >が最初に覚える武器技だよ」
「は? すごいな< 鍛冶師 >。名前に見合わない武闘派じゃねーか」
最初って事は、< 鍛冶師 >連中だったら基本みんな持ってるって事だろ。
対人だったら無敵じゃねえか。みんながカード持ち込んだり、《 瞬装 》持ってるわけでもないだろうし。
「いやいや、お姉ちゃんがおかしいんだって。それ、本当は自分の武器の耐久値減らして、その二倍くらいの耐久値を相手の武器から削り取るスキルだから。普通だったら、十発くらい命中させないと武器破壊なんてできないよ。自分の武器も壊れるし」
「そういうスキルなのか。……ひょっとして武器のランクが違い過ぎてあんな事になったって事か?」
「お姉ちゃんが《 ウエポン・ブレイク 》を鍛えまくってるっていうのもあるけど、大体はそれが原因。< 鍛冶師 >の人たちはそれより上のスキルで《 ウエポン・クラッシュ 》っていうのを使うんだけど、それでもあんなの無理だから。お姉ちゃんのグングニルが、使い手によって武器性能もランクも変わる特殊武器だからっていうのが大きいよね」
あの槍、グングニルなの? 俺、普通の剣でオーディンさんの主兵装とやり合ってたわけ?
「グングニル? ああ、だからツナに投げたのが、いつの間にか手元に戻ってたんだ」
「え、ユキちゃんはグングニルがなんなのか知ってるの?」
「地球にある神話の一つで、オーディンって神様が使ってた槍だよ。投げた槍は必中して手元に戻ってきて、使ったら必ず勝つっていう……神器だな」
「もちろん完全再現はできてないと思うけどね」
背中削り取られてたけど避けられたし、必中はついてなさそうだよな。
他の人がグングニルなんて知ってるわきゃないし、あれもダンジョンマスター製なのか。
「お姉ちゃんはダンジョンマスターにもらったって言ってたけど、……あ、二人はダンジョンマスターと同じところに住んでたんだっけ?」
「そうだよ。日本って国。グングニルの元になった北欧神話は違う国のものだけど」
「じゃあ、他にもそういう武器ありそうだね。ダンジョンマスターの前世で伝説になってるようなの」
もうありまっせ。
「俺の木刀がそうだな。< 不髭切 >。これもダンジョンマスターの手製でトライアル攻略の記念にもらった」
「それ、ひどい名前だよね」
「それも何か伝説の武器が元になってるの?」
「わたな……一応実在した人の武器なんだけど、茨木童子っていう鬼を斬った伝説がある刀が髭切。これは木刀で、髭も切れないから不髭切」
渡辺綱の話を出すとややこしいからな。俺まったく関係ないし。
「そんな適当な名前なんだ」
「ダンジョンマスターだって、名前考えるのが面倒くさいから神話とか伝説から持ってきたんじゃねえ?」
RPGとかでも、良く見かけるし。髭切はあんま見ないけど、刀なら正宗とか村正ならけっこう一般的なはずだ。
「童子切とかないのかな?」
「あるんじゃねーか。不童子切とかかもしれないが」
「それも伝説とかに出てくる武器なの? 髭切と同じ感じの響きだけど」
「ああ。鬼を斬った刀としては、童子切安綱の方が有名だな。酒呑童子っていう酒飲みの鬼を斬った刀だ」
ランクとしては童子切安綱のほうが髭切より上だよな。天下五剣だし。
「< 童子切安綱 >か」
「なんだ、もうあるのか?」
「うん。<アーク・セイバー>のクランマスターの一人で、剣刃って人がそれ使ってるね」
<アーク・セイバー>って確か、トップのクランだよな。その人、< 侍 >のクラスだったりするんだろうか。
「全然話に付いていけない……」
リリカさんがマニアックなネタに付いてこれずにオロオロしていた。
「あ、ごめん。話を戻すとね、ここでスキルを覚えられるアイテム買ったりできる他、色々なサービスを拡張できたりするの。たとえば、地下二階の倉庫の大きさとか、ステータスカードの追加機能とか。新人の内はこれを上手くやり繰りする必要があるから大変なんだよ。……あ、いや、お姉ちゃんもGPは足りないって嘆いてる事があるから、上のほうでもやり繰りは大変なのかも」
上級でまだ足りないのかよ。
「お金とは違うんだよね。円だっけ?」
「違うねー。お金でGPは買えない。でも逆にGPはお金にできるよ。GPの方が貴重だから、あんまり変える人はいないみたいだね」
[ グッズショップ ]
続いて同じく一階、グッズショップ。冒険者の関連グッズ、動画などを販売している店舗である。実は入るのは初めてだ。
ここは出張所らしく、本店はまた別にあるらしい。ビル一棟使った本格的なもののようだ。
「色々あるね。知らない人のグッズばっかりだけど」
「そりゃ、ユキちゃんたちはまだ日が浅いからね。知らない人もたくさんいるでしょ」
「わ、私もこんな風に商品になったりするの?」
「グッズ販売の許可が降りなければ、売られる事はないよ。非合法なのはありそうだけど」
非合法ってなんじゃ。魔改造フィギュアとか売ってるのか?
「ファンクラブの人たちが出して欲しいグッズのアンケートに投票して、それで作る商品決めたりするんだよ」
「そういやあったな、ファンクラブ」
デビューした冒険者は、例外なくファンクラブを開設させられる決まりだ。これは自動的に作られる。
当然の事ながらユキもクロも開設されてるし、デビューすればリリカだって作られるだろう。
俺もある。しかも何故か結構会員がいる。会った事もないが、トビーさんという人が会員番号1番らしい。どんな人なんだろうな。
しかし、会員のほとんどが男の名前ばかりというのは如何なものか。もうちょっと黄色い声でキャーキャー言われたい。
「ユキとか、フィギュアの商品化の話とか来てるんじゃないか?」
「……来てるね。嫌だから断ってるけど」
冗談なのにマジで来てるのかよ。早いなおい。
前世で見たような美少女フィギュアとはまた扱いが違ったりするんだろうか。目の前のフィギュアの棚にはおっさんみたいなリザードマンのフィギュアが飾ってあるし……おっさんそのものじゃねーか。グワルって書いてあるよ。アクションフィギュアみたいな扱いなのか?
じゃあ、このゴリラみたいなのも、おっさんみたいに冒険者だったりするんだろうか。……名前もゴリラって書いてあるな。なんでこんなにいっぱいあるんだ。
よく見ると一つ一つ造形が違う。……まさか、パンダの次はゴリラ地獄が待っているというのか。
いや違う、スルーしそうだったが、真ん中にゴリラ顔の冒険者のフィギュアがある。名前までゴリヲで紛らわしい。
……なんでこの人、ゴリラに囲まれてるんだ? ペット? いや、ペットはフィギュアにならないだろう。……謎だ。
詳しい説明はないのに、[ 新ゴリラ入荷! ]とか書いてあるし。意味が分からん。
「なんか、変な模様のクマがいっぱいあるんだけど。これも冒険者?」
リリカが言っているのはパンダの事だ。無限回廊第十層ボスとして出てくるであろうパンダのフィギュアがたくさん並んでいる。
「これはパンダだね。まあ、クマの一種だよ」
「何故、クマがこんなところに……」
お前も直に分かるだろうさ。
つーか、レアキャラみたいな扱いだったけど、グラサンパンダのフィギュアもあるな。躍動感のあるいいポーズだ。
そんなに華麗な足捌きしてなかったんだけど、造形師さんが頑張ったんだろうか。脚が長く見える。
「いつの間にかパンダのグッズも増えたよね。お姉ちゃんとか、まだ槍にこのパンダストラップ付けてるんだよ」
「アーシャさん、そんな趣味なのか?」
「ああ見えて可愛いもの大好きだからね。部屋はぬいぐるみばっかりだし」
なるほど。意外な一面を知ってしまった。でも、言われてみればそんな一面もありそうな感じもする。
「そのアーシャさんの写真集もあるんだな」
「何か身内の写真集とか照れるよね。私も持ってるけどさ」
凛々しくて格好いい感じの写真集だ。地味にパンダストラップが映ってるのは、カメラマンがギャップ萌えでも狙ったんだろうか。
「お前も出す側になるんじゃないのか?」
「あたしは無理無理。お姉ちゃんたちに比べて地味子ちゃんだし。ユキちゃんのほうが売れそう」
「いや、売らないから」
そんな事はないと思うがね。比べると地味なのは確かだが、やはり姉妹だっていう感じで、見栄えのいい容姿はしてると思う。
ユキも、掲示板見てる限りでは普通に売れそうだ。
「店頭に飾ってあるカードはなんだ? 《 流星衝 》って書いてあるけど」
「あれはカードゲーム用のカードだね。《 流星衝 》はレアリティ高いバージョンがあるから、バラ売りしてるんでしょ」
ひょっとしてTCGの大会って、こういう冒険者のカードを使ってプレイするゲームなのか?
「カードゲームはグッズ化の敷居が低いから、大抵の冒険者が出てるよ。昔はスナック菓子とかのおまけだったみたいだけど、今はこうしてパックになってて、一枚売れるといくらみたいにギャラが発生するの。レアカードだとそのギャラも高いんだって。ツナ君の< 不髭切 >みたいな銘付きの武器とか、ユキちゃんの《 クリア・ハンド 》みたいなユニークスキルだとレアになったりするから、契約してみたら?」
「まあ、これくらいなら商品化されてもいいかな」
「いらないからってゴミ箱に俺のカードとか捨てられてたら泣きそうだ」
パックで売ってるって事は、狙って買うわけじゃないだろうしな。それでも一枚あたりいくらで金入ってくるなら、心が動く。
「安いし、一個買ってみたら? 知り合いが出るかもよ」
「知り合いが出るのもちょっとアレな感じだが、試しに買ってみるか」
一パックだけだとデッキ組む事もできないが、お試しだからいいだろう。実際に遊ぶ事はないだろうし。
最新版のブースターパックを一袋だけ買ってみた。一パック五枚入りらしい。
袋を開けると、中から見たことある顔が出てきた。
「……何故、ここで猫耳が出てくる」
一番上が< 獣耳大行進 >のチッタのカードだった。何人いるか分からない冒険者と、その武器やスキルのカードの中で、何故こいつがピンポイントで出るよ。
しかもドヤ顔だ。破り捨ててやりたい。
「チッタさんだね。まさか、こんなところで見る事になるとは」
「レアリティはノーマルだな」
俺たちにしてみれば、本人すらレア度はないからノーマルは必然ともいえる。
そして、他には何が入っているのか見てみると、何故かウサ耳スキンヘッドが二種類も入っていた。しかもどっちもレアらしい。
「あー、そのウサ耳さんたち有名人だからね。どっちもレアなんだ。普通、一パックに二枚もレアカードなんて入ってないんだけどね」
まったく嬉しくない。
「ユキさんや、同じ兎仲間としてこれを進呈しよう」
「いや、いらないから」
俺が持ってても取扱いに困るっちゅうねん。……買わなきゃ良かった。
あ、しかもわずかばかりとはいえ、これであいつらに金入るのか。ものすごく負けた気分になるな。
……そういや、ダンジョンマスターのグッズはさすがにないんだな。
[ 倉庫 ]
お次は地下二階、個人倉庫である。廊下に無数の扉だけが並ぶ異様な空間だ。
扉にステータスカードを読み込ませるスロットがあって、それによって専用の個人倉庫の入り口が開く仕組みだ。
だから、どこの扉を開けても、使うカードが同じなら繋がる倉庫は一緒だ。
「リリカさんは使った事ないんだよね。このスロットにステータスカード通すだけだから、一回試してみるといいよ」
「う、うん。分かった」
やや緊張した面持ちで、カードを通す。
ロックが解除された音がして扉が開くと、更衣室のロッカーのような狭い空間が広がっている。中身は当然空だ。
俺は何度か使った事があるので、今更感動もないが、リリカは呆然としている。
「こういう仕組みなんだ。どういう術式になってるんだろう」
魔法的な事はさっぱりなので、この場に答えられる奴はいない。
「試しに同じ扉で俺の倉庫を開けてみるか」
「ツナの倉庫って何か入ってるの?」
「失敬だなユキさん。予備の武器とか入れてあるぞ」
あんまり部屋に武器防具置いておくのもなんだしな。
リリカと交代してカードを読ませ、扉を開く。するとあら不思議、同じ扉なのに渡辺さんの倉庫に繋がるじゃありませんか。
「すごいね。どうやってるのかさっぱり分からない」
「物が少ないからだろうけど、結構しっかり整理してるんだね。……なんで釣り竿があるの? ツナって釣りとかするの?」
「ダンジョンのドロップ品だ。使った事はないが、売る気にもならないから死蔵してる」
迷宮都市に釣り堀とかあるんだろうか。探せばありそうだけど、それで釣りをするかっていうと微妙だよな。
「釣り竿って何?」
「クマーを釣る道具だ」
リリカは釣り竿自体を知らないみたいだ。
「ツナ、適当な事教えちゃ駄目だよ。えっとね、これで糸垂らして魚を取るんだよ」
「良く分からないけど、そういう道具なんだ。……そういえば、ツナ君のは、私の倉庫よりちょっと大きいよね」
「ああ、GPで拡張したからな」
貴重なGPだったが、一段階目の容量拡張だけは非常に安価だったので、どんなものかと試しに拡張してみたのだ。
それでも《 アイテム・ボックス 》より狭いくらいなので、有効利用はできていない。
二段階目以降はいきなり高くなるので、更なる拡張はしばらく先になりそうだ。
「この倉庫もGP使って色々できるんだよ。空間の大きさを広げたり、物を腐らないようにしたり、温度調節して冷蔵庫代わりに使ってる人もいるみたい。あたしの友達で、中に大量のアイス入れてる子がいるよ」
その使い道は何か間違ってる気がする。
ついでなので、さっきのカードを放り込んでおいた。やがて朽ちていくだろう。
-3-
[ ファッションセンターしもむら ]
ようやく会館を出て街の散策である。
まずは、という事で抜擢されたのは、生活に重要な役割を占める衣料品だ。
大衆向けの洋服店という事で、いつか来たしもむらにやって来た。近いから選んだだけで、服を売ってる所は他にもたくさんある。
「こういう既成品がサイズごとに売ってるんだね」
「外だとどんな感じだったんだ?」
「ツナ君も外から来たんじゃなかったっけ?」
クロの突っ込みが入るが、そりゃお前も知ってるだろうに。俺はそもそも服を買った事なんてない。
「あのね、クローシェに会った日に着てた服がツナの一張羅だったんだ」
「え、あのぞうきん!? あれしか無かったの?」
ぞうきん言うなし。
「そりゃ知らなくてもおかしくないか。んで、実際はどんな感じなの?」
「大体寸法測るところから始めて、何日もかけて作ってもらう感じだね。古着はともかく、新品でこういう風に売ってるのはあまり見た事ないかな」
外は衣服事情も大変そうね。いや、俺が言えた話じゃないけどさ。
「ユキの実家では服は売ってなかったのか?」
「ギルドも違うし、古着以外は基本取り扱ってなかったね」
「迷宮都市には、そういう採寸から作るところはないの?」
「あるけど、すごく高いね。中央とかで作ったら、お札が何枚も飛んでいくよ」
日本的な感覚だと、こっちのほうが身近だよな。オーダーメイドでも、スーツとかだとちょっとハードル下がったりするのかね。
「たくさんサイズあるし、すごく安いからこれでいいんだろうね。……ローブとかってないのかな」
「ローブは防具屋とか専門店だね。一般向けの衣料品としては扱ってないと思うよ」
確かに迷宮都市で、日常的にローブは着ないよな。いい加減慣れたけど、俺も今着てるのTシャツだし。
[ ラーメン屋 ]
「あのラーメン屋で大食い大会やってるよ。ツナ、出てみたら?」
移動中、ユキが見つけたラーメン屋で大食い大会が開かれていた。通常のチャレンジだとタダになるだけだが、この大会は賞金が出るようだ。
ただし種族指定があるのか、巨人などの大型種は駄目らしい。そういう類の魔法も禁止みたいだ。
「いや、お前何か勘違いしてるかもしれないけど、俺そんな大食いキャラじゃないからな」
「そう? いつもお腹空かせてるイメージだけど」
「俺、スキルのせいか消化が早いねん。量はそんな食えないけど、回数が必要なんだよな」
誤解されがちだが、俺はそこまで量は食えない。せいぜい二、三人前が限度で、ちょっと大食い程度だ。
保有スキルの《 内臓強化 》や《 超消化 》の影響で消化は早いのか、すぐ腹が減るので燃費が悪い事この上ない。
これらがなければ、ゴブリンとか食う必要なかったんだろうか。
「とりあえず、あの化物ラーメンは無理だな。何人前あるんだよ、あれ」
大会用のサンプルで飾られてるラーメンは、バケツサイズだ。
その上に山になるほどトッピングが乗っている。あれを食ったらオークみたいになりそうだ。
ちなみに、今挑戦してるのはそのオークさんだ。ブヒブヒ言いながら食ってるが、失敗しそうな感じだ。
[ 質屋 ]
以前からとても興味はあったのだが、来る気になれなかった場所、質屋だ。
お手頃な価格で高性能な武器・防具が手に入るという素晴らしい場所ではあるのだが、独特の雰囲気でとても近付けなかった。
こうしていざ近くに来てみると、瘴気の様な空気が纏わり付いてくる気がする。さすがテラワロスの巣窟。ぱねえ。
「な、なんか空気が重いんだけど」
「大丈夫、監視サイトの情報では、今日はテラワロスはいないはずだから」
いたら嫌だけど、いなくてもこの空気は勘弁してもらいたい。
「ここってどういう店なの?」
「ダンジョン内で死んだりしてロストしたアイテムが売られてる所だよ。しばらくすると、一般に売りに出されるの」
「それがなんでこんな雰囲気に……」
「アイテムロストしたって事は、一緒にお金もそれ以外もロストしたって事で、別に貯金がないと買い戻せないんだよ。それに武器とかの装備品ってかなり高いから、貯金があっても足りないって人が多いんだ。質流れ確実だけど諦め切れないって人が集まってるんだよね、ここ」
正に敗者の溜まり場だ。そんなに、自分の愛用武器が買われていく様を見たいのだろうか。
本当なら稼がなくちゃいけないって気になるだろうけど、中六日のルールやデスペナルティを考えるとダンジョンには入るわけにもいかない。
完全ロストならまだ諦めもつくのだろうが、目の前にあるのに自分のものではないという葛藤に襲われる。ひどいシステムだ。
《 アイテム・ボックス 》の中身まで消えるらしいからな。俺も注意せんと。
「ユキはこないだ死んだ時にコブラさんとかロストしてないのか?」
「あれ、新人戦で耐久値が危険域になってたから、持って行かなかったんだよ。危なかった」
「ロスト対策として保険もあるんだけど、結構高いんだよね。ちょっとをケチるとこうなるって例だから、リリカさんも気をつけたほうがいいよ」
「う、うん。気をつける」
中に入ってみると、普通の武器屋のような作りなのだが、深海にでも潜ったような圧迫感に襲われる。
ガラス張りのショーウインドウの前には、誂えたように設置されたベンチ。そしてそこに座る項垂れた冒険者たち。そこには絶望だけがあった
「いらっしゃい」
レジには店員。……なんだこいつ。
「なにか?」
「い、いや、なんでもないです」
店番をしている店員は超巨大なババアだった。割烹着を着た二メートルオーバーの老婆がニヤニヤしている。なんだこの化物。
「お客さんたちは"ロストマン"じゃないね」
「ロストマン?」
「あそこで項垂れてるような連中さ。ダンジョンでアイテムロストしたから"ロストマン"。あいつらはみんな同じ空気纏ってるから、そうじゃない客は分かるのさ」
ひどい通称だ。
「ここって、普通に武器とか買えるんですよね」
「そうだね。お古なのは間違いないけど、耐久値は全回復させてあるし、性能からしたらかなり安価だとは思うよ」
だが、あの冒険者連中見ながら買うのか? 居た堪れないんだけど。
「期間内に売れなきゃダンジョンの宝箱行きかモンスター用になるだけさ。どうせなら有効活用したほうがいいと思うんだけどね」
それはそうなんだろうが、心境的にね。
「新規の客なら、ここのシステムを説明してあげようか。ここは、ダンジョン内で死ぬとか、回収できなくてロストしたアイテムを再販売する場所だよ。ロスト後、翌日から一週間は元々の持ち主だけが購入権があって買い戻す事ができる。それを過ぎるとああして一般販売だ。で、三ヶ月売れないと質流れするってシステムさ」
三ヶ月あればなんとかなりそうだが、ああしてる人たちはきっと、すごい高い武器をロストしたんだろうな。
その間も他の客に買われる可能性もあるから、確認せずにいられないと。
「ショーウインドウの中、商品の前には状況を表示する札があってね。[ 販売中 ]、[ 交渉中 ]、[ 予約済 ]、[ 売約済 ]と、段階を踏んで変わっていくんだ。あのロストマンたちの装備は[ 販売中 ]だけど、たとえばこうして[ 交渉中 ]にすると……」
項垂れていた冒険者の一人が急に顔を上げ、絶望的な表情でショーウインドウに張り付いた。
自分の装備が今売られていこうとする状況が一目で分かってしまうのか。このシステム考えた奴鬼だな。ニヤニヤしてるババアも最悪だ。
「あーその、そういう実演はいいんで」
「そうかい。まあ、こういうシステムなわけだよ」
なるほど、これを見てテラワロスはプゲラしてるというわけか。想像以上に悪趣味だった。このババア含めて悪魔のような奴らだ。
「ああいうロストマンが張り付いてない物がどれかは教えてもらえるのか?」
「問題ないよ。ロストしたらさっさと諦めちまう奴も多いしね」
聞いてみると、ババアがちゃんとリスト化して、ロストマンが張り付いている装備にチェックが付いてあった。
趣味は悪いが、仕事はちゃんとしてるんだな。
「僕らも大事な装備にはちゃんと保険かけようね」
「ああ。身に染みて感じたよ」
一回見ておいて良かった。次来る事あるのかな? あんまり来たくないんだけど。
ババアのリストを眺めたりもしたが、結局、俺たちは何も買わずに質屋を出た。
「ちなみに保険ってどれくらい高いんだ?」
「モノによるね。多いのは、耐久値全損以外で一回ロストするまで有効で、その装備の売却金額の二割~半額くらいが目安って言われてるよ」
極端に高い装備使ってたら高くつくわけか。身の丈に合った武器を使いなさいって事だ。
「それ以外にもアイテムをロストしないようにする付与能力もあるんだけど、これを付けるのも結構するんだよね。基本一回だけの使い切りの能力だし、これがまた高いんだ。永続のもあるけど、上級でもないと手が出ない。あたしたちは基本は保険だね。< 不髭切 >も保険かけといたほうがいいよ」
「そ、そうだな」
木刀のくせに意外と重宝してるので、ロストしたら大変だ。あとで値段調べておこう。
ちなみにあとで調べたら、ダンジョンマスター製の装備はロストしない能力がついているとの事が分かった。しかも永続らしい。
-4-
[ ペットショップ ]
気を取り直して、街の案内に戻る。次の目的地である闘技場に行く際に目に入ったのはペットショップだ。
リリカはそうでもないが、クロとユキの食い付きがいい。
「ペット事情はわりかし普通なんだな」
普通に犬とか猫とか、鳥とかトカゲとかいる。それぞれの種類は良く分からないけど。
「寮では飼えないんだけどね。実家には犬とか結構いるよ」
「トポポさんとか売ってないかな」
ユキさん、それは売っちゃマズいから。
「おう、にーちゃん、俺を飼ってみないか?」
「……は?」
謎の声にそちらへ振り向くと、檻に入った犬が一匹。……今こいつ喋ったよな?
「ユキさん、今この犬が喋ったような気がしたんだが」
「またまたご冗談を」
いや、そのネタは猫だ。
「おう、今の時代、犬だって喋るくらいはするぜ」
「しゃ、喋ったよ、この犬……」
だから、言いましたがな。
「お前みたいに喋るのは普通なのか?」
「全部が全部じゃねーが、珍しくはねーな。あそこのパンダとかは喋れねーみたいだし」
犬が顎で示す先を見てみると、デカイ檻の中にパンダが座っていた。
グラサンパンダのように喋れないのか、[ 買ってください(´;ω;`) ]と書かれた看板を持っている。
切実な感じが伝わってくるが、意味分かって持ってるんだろうか。
「お前ら的にペットとして飼われるのはどうなんだ? プライドとか」
「俺たちは愛玩動物だから、飼われる事に誇りを持っている。プロフェッショナルだな」
どんなプロフェッショナルだ。
「悪いが寮だからな、俺は飼えない」
「そうか、残念だ。犬飼える家とか借りたら検討してみてくれ。……お、そこのねーちゃん、俺を飼ってみないか?」
無理っぽいと分かると、通りかかった他の客に声をかけ始めた。なるほど、プロだ。
「迷宮都市ってすごいね」
「ユキがいろんな意味を込めて言っているのが良く伝わってくるよ」
「外だと喋る動物とかいないの?」
「外でも前世でもいねーよ」
クロさんは、ちょっと迷宮都市に毒され過ぎだな。ここが常識になると色々マズいんじゃないだろうか。
「アーシャさんがパンダ好きとか言ってたけど、飼ったりしないのか? ああいう風に売ってるんだし」
「ほんとだ、ペットショップでも売ってるんだね。実は一時期ウチにもいたんだけど、ちょっと前に独立して出てっちゃったんだよね。時々遊びに戻ってくるんだけど、ちょっと寂しいよね。マイケルっていうんだ」
パンダの話をしてるんだよな。なんで成人して家を出た息子みたいな話になってるんだ?
……まさか十層で出てくる奴らの中に混ざってたりしないよな。
「ペットはいいが、迷宮都市って奴隷はいないのか?」
チーレムの必須ギミックだろ。それだけでランキングに入れそうなお約束コンテンツだ。
俺も身売りする側で、買取拒否されたという誰も喜ばない過去を持ってたりするのだが。
「奴隷市場とかはないね。むかーしはあったって話は聞くけど、今じゃ労働力としても意味ないし」
「帝国にはあった。でも、来る途中で見かけた王都の方が大規模だった。びっくりするくらい安かった」
「リリカはそういう方面には詳しいのか?」
あんまり見た目からは想像できないが。
しかし、王都はまだ奴隷が溢れてるんだな。奴隷のバーゲンセールとか国として終わってないのだろうか。
「何度か、それ目的の人攫いと戦った事がある。魔術士の格好し始めたら襲われなくなったけど」
ガチの体験してらっしゃる。そういう方面の関わり方もあるよな。
やっぱり魔術士って未知の力を使うイメージが強いから、狙ったりしないんだろうか。
魔法使いは高く売れたりしそうだから、盗賊さんたちもリスクと折り合いつけて狙うんだろうな。
「迷宮都市には市場はないけど、更生の余地がない犯罪者とかを外に出荷はしてるみたいだよ。王都とかでも売ってるんじゃないかな」
「そうなのか……悪い事できないね」
留置場どころか、迷宮都市からドナドナされる可能性すら有り得るのかよ。
ウチのサージェスさんとか大丈夫だろうか。ちょっと心配になって来た。あいつの場合、リアルな想像ができてしまうのが嫌なんだけど。
[ 闘技場 ]
この前、新人戦を行った闘技場だ。
いかにもって感じの円形競技場だが、外からの見た目だけで中は近代的である。
トライアルの隠しステージに似ているが、ひょっとしたらここがモデルなのかもしれない。
「リリカさんの新人戦は一年近く先だけど、それ以外にもいろんな競技がやってるよ。闘技場ギルドへの登録が必須ってわけでもないから、出場もできる。ツナ君とか、そのポスターのプロレスに出たりしない?」
「なんでプロレス限定やねん」
他に武器使った試合とか、モンスター相手に戦う競技もあるのに。
猫耳戦の動画が出回り出したから、そういうイメージが固まってしまったのだろうか。
クロの指した先には以前会った事もある人たちの映ったポスターが張られている。
「< レスラーズ >の人たちだね。こういうポスターとか張り出すんだ」
「ひょっとして知り合い?」
「ツナがこないだ勧誘されたんだよ。このポスターはみんな覆面してるから、どの人か覚えてないけど」
「ツナ君も覆面付けてプロレスするの?」
「いや、しないから。プロレスは嫌いじゃないが、俺は見る専門だな。技の実験台がいた頃は練習とかしてたけど」
あいつ華奢な見かけに依らずタフだったから、いい練習台だったんだよな。良心も傷まないし。
プロレス以外でもいろんな格闘技の試合のスケジュールが組まれている。
格闘技だけでなく、球技や陸上競技の大会などもここで行っているらしい。
想像しているものと違って、とんでもない身体能力を披露する場になりそうだ。ぶつかっただけでHP全損するドッジボールとか、三秒で走り抜ける一〇〇メートル走とか。今の俺でさえ、地球の世界記録は抜ける気がするしな。
「魔術の競技はないの?」
「魔術ギルドとの線引が難しいらしいから、専門の競技はあんまりないね。賭け試合には魔術士も普通に出場してるよ」
確かに貼り出されたスケジュールには魔法専門らしき競技は見られない。魔法でどんな競技するかもちょっと興味はあるのだが。
「ダンジョン入れない日とか、ここで戦ってる冒険者も多いよ。下級でも結構ファイトマネーが出るみたい」
「実戦ではあるわけだし、訓練だけよりはいいかもな。ゼロブレイクならレベルダウンのペナルティもないわけだし」
相手を殺してもいいわけだから、ガチの殺し合いだ。遠慮なんかする必要はない。
プロレスはともかく、武器使った試合はちょっと検討してみよう。
「二人だったら、登録したらすぐにマッチメイクされると思うよ」
「そうかな?」
「何しろ下級ではダントツの有名人だからね。違う意味ではサージェスもだけど」
あいつは基本的に闘技場の試合は出れないらしいからな。
聞いてみると、プロレスだけじゃなくていろんなクランから出禁喰らってるらしいのだ。
ボクシングで顔殴られてパンツが弾け飛ぶなんてアホな真似したらしいし。動画見てつい笑っちまった。
「新人戦みたいに迷宮ギルドから斡旋されて、ここで戦ったりはしないのか?」
「あんまりないね。あ、でも、交流戦がそろそろだね。下級には関係ないけど」
「それはどこかで聞いたような気がするな」
猫耳とかが交流戦とか呟いていた気がする。
「ギルド職員が、中級の冒険者とエキシビジョンマッチをするんだよ。結構盛り上がるよ」
「職員ってヴェルナーとかか?」
「ヴェルナーさんもそうだね。あとはゴブタロウさんとかテラワロスとか。受付の人とかも出るよ」
あのお姉さん戦えるのか。実は強かったりするんだろうか。
「中級じゃ、俺たちは出れないんだよな。どんな基準で相手が選ばれるんだ?」
「誰が何人相手にするかの枠は決まってて、それをオーバーしたら抽選だね」
「え、一対一じゃないの?」
相手中級だよな。
「あの人たち、なんで現役じゃないんだろうってレベルで強いから、中級一人じゃ瞬殺だね。正式には公表されてないけど、Aランク近くの実力はあるって言われてるよ。まだダンジョンにも潜ってるみたいだし」
すげえな、ギルド職員。化物の巣窟じゃねーか。いや、モンスター職員ばっかりだから化物ではあるんだが。
とすると、俺たちの新人戦みたいなものか。格上の相手に複数人で挑むって感じで。
「何人で挑戦するもんなんだ?」
「人によって違うね。ゴブタロウさんは十人くらいだったと思うし、テラワロスなんて無制限だよ。さすがに入りきらないとか、戦闘に支障をきたすような人数だと制限かけるだろうけどね」
なんだそりゃ。中級相手でマジの無双をするのかよ。
「掲示板にもテラワロスが死ぬとサーバーが落ちるとか書いてあったよね」
「ギルド職員側だけゼロ・ブレイクじゃない特殊ルールなんだよね。何年か前に死んだ時は本当にサーバーが落ちたみたいだよ」
どんだけヘイト集めてるんだよ、あのデュラハン。
「リリカは興味ある試合とかあるのか?」
さっきからじっとパンフレットを見ていらっしゃる。
「そういうわけじゃない。私以外でソロの魔術士って師匠以外にいなかったんだけど、ここにはいるみたいだなって。どんな戦い方するのかちょっと気になる」
「俺は、お前の戦い方も気になるが」
「時間があったら今度模擬戦でもしてみようか。今だとかなり差を付けられてるみたいだから、ちゃんとデビューしてからだけど」
まあ、そうだよな。デビュー前後で訓練環境が激変するからな。目安としては、大体Fランクに昇格するあたりだろうか。
「あ、そういえば、ウチのメンバーがツナ君とユキちゃんに模擬戦の打診しといてって言ってた」
「俺たちに?」
「あたしたち、こないだの新人戦負けちゃったしね。同期のトップはどんな感じなのか知りたいんじゃないかな」
「僕らも負けてるんだけど」
「相手がお姉ちゃんで、あそこまでできる下級は他にいないよ。中級でも怪しいと思うし」
あのマッチメイクは反則スレスレだからな。ギリギリ勝てる可能性があったとか、今でも信じられない。
「俺たち二人だけか? サージェスは?」
「あれには近寄りたくないって言ってたから、見学くらいにしておいてもらえると助かるよ。『寄るな変態』って言うだけで喜ぶから始末に負えないんだよね」
模擬戦中にいきなり《 キャスリング 》したら怒るだろうか。
[ 神社 ]
そろそろギルドに戻ろうかという帰り道、見覚えのある鳥居が目に入った。
「神社だ」
思わず足を止めてしまった。この世界では、宗教施設は教会くらいしか見た事なかったから、びっくりした。
確かにダンジョンマスターなら作っててもおかしくないな。
「あ、日本ってところにもあったんだ。今の時期はあまり人いないけど、年始とかたくさん人が来るよ。行ってみる?」
「ちょっと見てみたいかな? リリカさんは宗教的にマズいとかあるかな?」
「魔術士は基本無神論者だから問題ない。相手がそういうのを認めないとかだったら遠慮するけど」
意外だな。神秘を扱う職業なのに無神論者なのか。日本的な神社なら何も問題ないだろう。
「俺の認識なら無神論者だろうが、別の宗教勢力だろうが問題なさそうだけど、どうなんだ?」
「多分問題ないよ。そもそもあそこで直接神様を祀ってるってわけでもないみたいだし」
そうなのか。ダンジョンマスターも、元々神職ってわけじゃないだろうしな。
俺も神道とか良く分からんし。せいぜい神話に出てくる神様の名前くらいしか知らない。
「誰が階段登るの速いか競争しようか」
「子供かよ。でも、強化された今の身体能力だったら簡単に登れそうだよな」
あっという間に登れそうな気がするが、スピードだけならユキが一番速いんだろうか。
結局普通に登る事にして、俺たちは長い階段を抜け、境内へと足を踏み入れた。
建物も境内も、まったく違和感がない神社だ。むしろ違和感がないのが違和感である。
「ほんとに人いないんだな」
「あそこに巫女さんがいるよ。ちゃんと巫女服着てるね」
ユキの言う方を見てみると、境内の隅の方に箒持って掃除をしている巫女さんがいた。
長い黒髪で、赤と白を基調にした巫女服に箒。素晴らしい、完璧な組み合わせではないか。
「あの人空飛んだりしないのかな?」
「袖付いてるから無理じゃねえ?」
「水凪さんだね。あの人も冒険者だよ。副業みたいだけど」
なんと同業者だったのか。という事はあの巫女さんと一緒にダンジョン潜ったりもあり得るという事に。
「中級だけど、年始でここに来る冒険者も多いから、結構有名人だよ」
「クラスは?」
「< 巫女 >。弓と補助魔術で戦う後衛職だよ。あんまり適性ある人がいないのか、そんなに見かけないね」
まんまじゃねーか。男だと< 禰宜 >になったりするんだろうか。
同業者ならとりあえず挨拶してみようと、近付いてみる。話しかける理由付けとしては完璧だ。
「こんにちは、水凪さん」
「あら、こんにちは、クローシェさん。こんな時期に珍しいですね」
近付いてみるととても可愛らしい方でした。おっとりしてて、正統派美少女という感じだ。好みどストレートである。こんな豪速球見た事ないよ。
「こちらの方々は……」
「初めまして、渡辺綱です。こっちの白いのはユキ、ローブのはリリカです」
「何、張り切ってるんだよ」
「え? え……えーと、ワタナベ? 漢字の渡辺ですか?」
よし、名字で話題が繋げそうだ。ナイスだダンジョンマスター。ありがとう。
「ええ、前世で渡辺でして。この前ダンジョンマスターに戻してもらったんですよ。まだデビューして間もないので、俺たちの事はご存知ではないと思いますが」
「いきなりでびっくりしましたが、あなたたちの事は知ってますよ。そちらのユキトさんも」
「僕の事も知ってるんだ」
俺たちの名前って、そんなに浸透してるんだろうか。
「冒険者なら大半の方は知ってると思いますよ。新人戦は観戦してましたし、トライアルの動画も見ました。……私は中級ですが、まだ下の方なので、しばらくしたらご一緒にダンジョンアタックしてみたいですね」
あら、とても好印象ではありませんか。これは脈ありだったりするのかしら。
「クランはどちらに?」
「未所属です。基本はフリーで、補助が必要なパーティのヘルプに入ってます。ソロは難しいクラスなので」
「是非、ご一緒しましょう。そろそろ中級に上がれるので、お迎えに上がります」
「鼻息荒いよ」
仕事中という事であまり長話はできなかったが、素晴らしい体験だった。
異世界で和風美人さんと出会って話をするとか、すごい奇跡を体験してしまった。
中級昇格に向けて頑張る要素が増えてしまったではないか。
「いやー、良かったな水凪さん」
「ツナの好みだっていうのは良く分かったよ。後衛で補助専門ならありがたいから、中級になったら誘ってみようか」
ウチって今のところ前衛ばっかりだしな。
いやあ、神社に来て良かった。
「ミユミさんも弓使いみたいだけど、水凪さんはランクも近いしね」
「水凪さんをあんなのと一緒にするな。あいつはランク離れてるし、パーティは組む事ねーよ」
アレと一緒に何十時間も連続で過ごすのはキツすぎる。
大丈夫、ランクは上に行くほど昇格が困難なんだ。C-なんて中々追いつける距離じゃない。……フリじゃないぞ。
「水凪さんって、パーティ組むとしたら競争率とかどんな感じか知ってる? クローシェ」
「結構人気あるよ。癖のあるクラスだけど、本人も強いし、慣れると連携も上手いみたい」
寮に戻ったら動画探そう。完璧な連携を決めて格好いいツナさんをアピールしてみせようではないか。
「あの人も広義の意味では魔術士になるのかな」
「補助魔術使うっていうなら、そうなんじゃないか? 一応リリカと同業だな。イメージはまったく違うけど」
魔法使えば魔術士ってのはかなり乱暴な仕分け方ではあるけどな。それだとリザードマンのおっさんも魔術士だ。
しかし、リリカは魔術関連の話題にやたら食いつきがいいよな。やはり同業者だと思うところがあるのだろうか。
「いやー、今日は有意義な一日だったな」
「ツナのはちょっと違う気がするけど、そうだね。色々見れて面白かったよ」
周りを見るタイミングもなく、ここまで一気に来たからな。ようやくこの街をちゃんと見た気がする。
「まだ他の区画もあるけどね」
「これだけ広くてまだ一部なんてすごいね。この区画だけで帝都より広いかも」
「リリカが中央とか見たら腰抜かすかもな」
「そ、そんななの?」
時代を先取りし過ぎた超オーバーテクノロジーの塊みたいなところだからな。
そんなところで生まれ育ったクロにはあまり実感はなさそうだが。
ともあれ、こんな感じで俺たちの迷宮都市観光は終了した。まだ見てない所はたくさんあるし、これからも見て回る事はあるだろう。
色々とんでもない部分も多かったが、ダンジョンマスターが何を考えてこの街を作ったのか良く分かる気がした。
きっと、故郷のいい所を他の人にも知ってもらいたかったんじゃないだろうか。
実は何も考えてない、という可能性も有り得るとは思うけど。
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