第7話「ダンジョン籠もり」




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「とりあえず、目標は第三十層だ」


 おっさんは簡単にそう言った。

 ちなみに目標と言っているのは"今回の"である。前回踏破した第十層。そこから更に構造が広くなり、敵も格段に強くなる層を一回で二十層も踏破しろと。


「補給物資はウチの< 荷役 >が用意してる。だから、食料や宿泊に必要なものはお前らが気にする必要はねぇ。本当だったら、俺たちのお古で武具も用意してやりたかったんだが、それはダンジョンマスターに禁止された。ただし、ダンジョン攻略で手に入るアイテムはすべてお前たちのモノでいいとさ。ついでに、《 アイテム・ボックス 》の枠が足りなければ、ウチの< 荷役 >が代わりに持とう」


 何から何まで完璧なサポート体制だ。


「サージェスは第三十層までは攻略済だが、こいつらに付き合ってやってくれ」

「はい。そもそも、その第三十層攻略にしてもパーティでの攻略ですから、私だけの力というわけでもありません。望むところです」


 サージェスは結局採用の形となった。こいつ以上の選択肢なんて俺たちにないし、本人もやる気なのだ。性癖くらいで弾いてられない。

 この判断が間違いでなかったと信じる。信じたい。


「攻略っても、ルートは最短だ。ウチの< 斥候 >が最短ルートを確認、そのあと俺たちは移動する。ただし、層の移動は限界時間まで粘る。モンスター相手の戦闘と俺相手の訓練を余った時間でギリギリまでやる。お前らは戦闘と訓練、ちょっとばかしの移動と寝て食う事を考えてればいい。動画プレイヤーも用意しているから、休憩時間はアーシャの動画でも見とけ。層あたり一日以上だから、かなり長い期間になる事は覚悟しておけよ」


 ただひたすら強くなる事だけを考える、ダンジョン籠もりが始まる。


 まずは、対モンスター戦闘でお互いの性能確認。特にサージェスの戦闘能力が未知数であったため、これが必要だった。

 面談でクラスやある程度のスキル構成は聞いているが、やはり実戦を見てみないと分からない。


 結果として、サージェスの戦闘能力は、少なくともここ第十一層の段階では圧倒的と言っていい事が分かった。

 対モンスター相手に格闘という戦闘方法はどうかと考えてもいたが、そんなものは杞だった。

 極端に早い回転率の攻撃。無数の連打を放ち、その中に必殺の拳打、蹴打を組み込む。

 フットワークが軽いため、移動速度、回避性能も高い。なにより回転しながらの飛び蹴り《 トルネード・キック 》の突進力が強力で、あっという間に敵との間合いを詰める。

 更に反撃、カウンターによる敵の攻撃を利用したダメージUP。隙らしい隙が見当たらない。

 その上、こいつは奥の手があるという。


「《 パージ 》というスキルを使い、武装……今の場合はこのスーツを解放する事で、全裸になります。そうすると、羞恥心、高揚感により、私のユニークスキル《 インモラル・ブースト 》と併せ、全体的な戦闘力向上が見込めます」


 聞かなきゃ良かった。露出狂でもあるのかよ。


「戦闘中に、ぜ、全裸になるの?」

「はい。かなり興奮しますね」


 興奮するかどうかを聞いているわけではない。


 《 インモラル・ブースト 》は性的興奮の向上に比例して身体能力が劇的に向上するこいつのユニークスキルなのだという。

 ほんと、馬鹿なんじゃないかって感じだが、そんな奥の手があるのは正直助かるのが現状だ。

 ついでにアーシャさんが全裸にちょっと怯んでくれれば御の字だ。あの人、ちょっとウブなところありそうだし。


「ただし、ダンジョンで使用するには問題がないのですが、新人戦が行われる闘技場ではこれにリミッターがかけられてます。全裸にはなれず、パンツを残した状態までしか解放できないのです。正確には局部は不可という事らしいですね。生中継により衆目に晒されるとなれば、より一層の強化が見込めるのですが。……残念です」


 色々ひどい。トカゲのおっさんたちもその説明に唖然としている。

 規制かけられてるって事は、まさか一回やったって事なのか? 違うよね。まさかね?


「基本、今後はダンジョンでも、俺たちと合わせる時は闘技場のルールに合わせてくれ」

「分かりました。今後は絶体絶命のピンチでのみ発動する事にします。その方が燃えますしね。……そうですね、全裸のほうは、これから《 フル・パージ 》と呼びましょう」


 超どうでもいいよ。



――――Skill Create《 フル・パージ 》が承認されました。――



「なんか出たんだけどっ!?」


 システムにまで承認されちゃったよ。


「ついでに聞きたいんだが、武装なくなって防御力とかは大丈夫なのか。……そういやスーツのまんまなんだな」

「問題ありません。元々このスーツはただ丈夫という以外の能力はありませんし、《 パージ 》の時間が切れると復元されます。< 格闘家 >系統はどちらにせよ防具の選択肢があまりないので、私はこうしてスーツを着ています。むしろ、《 パージ 》発動中の時の方が補正で防御力が高くなりますね。このスキルのデメリットは、ある程度ダメージを喰らって性的興奮が高まっていないと意味がない事です。周りに人がいない場合も羞恥心がなくなり、効果も減少しますね。覚えておいて頂けると助かります」


 なるほどな。そりゃ他のパーティにもキックされるわ。

 むしろ、迷宮都市からBANされないだろうか。……ダンジョンマスターは気にしなさそうだな。

 ユキはもう何も考えないようにしているようで、すでに目が死んでいる。


「ついでに言うと、そだったら最初から全裸で登場すれば強いんじゃないかという意見もありましたが、実はそれだと《 パージ 》の効果がほとんど得られません。ここぞ、という時に解放して羞恥心を得るわけですね」


 仲間の性能把握は大事なんだが、あまり覚えたくない情報ばかりだ。というか、誰の意見だよ、それ。


「攻撃して興奮したりはしないのか? ほら、MはSを兼ねるっていうじゃないか」

「残念ながら、加虐趣味はないんです。もしそうだったら完璧でしたね」


 お前の変態性がな。




 さて、我らが期待の星、サージェスさんの性能はこんな感じだ。本人はダメなところをダメと感じていない、ある意味無敵性能だ。

 そして俺たちだが、ダンジョン籠もり開始の現時点ではそう変わってない。カードを更新した事によって、ユキのスキルが判明した事くらいだろうか。

 どうやら第五層で覚えたらしい《 毒取扱 》と謎スキル《 ニンニン 》が新情報だ。

 《 毒取扱 》は毒の状態異常発生確率UPの効果があるそうだ。< コブラ >の使用をきっかけに覚えたのだろう。

 《 ニンニン 》は良く分からない。だって、スキルを検索しても説明文が「ニンニン」なのだ。意味が分からない。


 そして、俺だ。謎スキルの多かった俺も、ギルドのデータベースを確認する事で、その性能が判明した。

 ここで《 自然罠活用 》等以外の、関係のありそうなものの紹介をしよう。実際にはもっと細かい記だったが、簡単に説明するとこんな感じだ。


《 火事場の馬鹿力 》:HP10%以下の時、力に補正

《 痛覚耐性 》:痛みに強くなる。痛みを感じないわけではない

《 不撓不屈 》:HPが0になる攻撃に対し一度だけHP1の状態で踏み留まる

《 死からの生還 》:HPが0になった時、一度だけHPを1回復する

《 生への渇望 》:HPが1の時、数秒間HPダメージを無効化する

《 強者の威圧 》:対象を一時的に< 硬直 >状態にするアクションスキル

《 起死回生の一撃 》:HPが0の時、攻撃力を持つアクションスキルの効果UP

《 剣術 》:剣カテゴリの武器使用時、その技術を補正

《 姿勢制御 》:自然な体勢を維持するための補助

《 空中姿勢制御 》:滞空中の体勢維持の補助

《 回避 》:ミドルレンジでの攻撃の感知/回避行動の補助

《 緊急回避 》:ショートレンジでの攻撃の感知/回避行動の補助

《 空中回避 》:滞空中の攻撃感知強化 回避行動の補助

《 パワースラッシュ 》:剣カテゴリのアクションスキル。斬撃の加速と威力の増強を付加

《 旋風斬 》:片手剣、両手剣、刀、曲刀カテゴリのアクションスキル。体を横回転させての横薙ぎ

《 オークキラー 》:称号スキル オーク種に対する戦闘を行う場合、能力値に補正

《 食い千切る 》:モンスター用アクションスキル。咬噛攻撃に大きなクリティカル補正


 HP関連スキルは壁となるHPだけが対象で、肉体への損傷は関係ない事が注意点だ。

 というか、なんでこんな死ぬ一歩手前でないと習得できないようなスキルばっかりあるのだろうか。


 《 限界村落の英雄 》はどうもダンジョンマスターの言っていた通りユニークな称号スキルのようで、こういったものはデータに載せていないそうだ。

 《 原始人 》についてはデータが存在していない本当の未確認スキルだ。

 そして、問題の《 飢餓の暴獣 》だが、これもデータはない。

 類似スキルの《 飢餓の凶獣 》についてもデータはなく、こちらもダンジョンマスターしか知らない情報のため、ダンジョンに来る前に電話で確認してみた。

 こちらからは連絡が取れないのでギルド経由の折り返しとなったが、すぐに応じてくれた。とてもフットワークの軽い人だ。


『類似スキルの《 飢餓の凶獣 》についても正確な事は分かってない。それを使う敵と戦った際の曖昧な情報で申し訳ないが、まずモンスター用のスキルである事は間違いない。発動条件はHPが0である事、かなりの空腹状態である事、肉体の損傷率が一定以上、だと思われる。効果は一定時間の急激な肉体復元、爆発的な戦闘能力の向上、あと理性が欠落する。HPは回復しなかったと思う。上昇率とか細かい数値も分からない。……こんな感じだ。《 飢餓の暴獣 》がこれの上位スキルか、下位スキルか、はたまた亜種なのかは分からないけど、そう性能に違いはないんじゃないかな。どう?』


 その説明は、俺の体感とほぼ一致する。

 一致するのだが、それは"HP0にならないと発動しない"という条件が存在する事になる。

 つまり、今回の新人戦では発動の見込みはない。《 飢餓の暴獣 》だけじゃない。何故か大量に存在するHP0を前提とするスキル、これらがほとんど使えないという事だ。

 クロの言う通り、これだと俺の不死身性能がまったく活かせない。いや、好んで活かしたいわけじゃないが、間違いなく俺の戦闘力は半減だ。

 だが、《不撓不屈》と《 生への渇望 》はかなり有用だ。コレがあるだけでもかなり違うだろう。


「とりあえず、ツナのスキルが色々おかしいのは分かったよ。確かにHP0でも戦えるスキル構成だと思う。でも、なんでモンスター用のスキル覚えてるの?」


 可能性がありそうなのが謎の《 原始人 》だけなんだが、あまり言いたくない。


「お前だって《 ニンニン 》は謎じゃねーか。お前、それ覚えた時言わなかったろ」

「いや、意味分かんないスキルだったし。でもこれは一応データベースにあるじゃないか」


 説明文が『ニンニン』だけでも、登録されているっていうのだろうか。


「いや、素晴らしい、やはり期待通りの同志ですね」

「勝手に同志にするな。どこにもマゾ要素なんてねーだろうが」

「本当に、何故これでマゾではないのでしょうか」

「いや、知らねえよ」


 俺の事なのに謎だらけだ。でも、マゾでなくて良かったと思う。もしもマゾの素養があったら違う境地に達してしまっていたはずだ。




-2-




「うおらぁっ!!」


 おっさんの剣で俺が吹き飛ばされる。

 トライアルダンジョン第四層で戦った時とは性能が段違いだ。あの時感じた剣の結界は更に鋭さを増し、どこへ打ち込んでも切り返され、体勢を崩される。

 サージェスを含めた三人がかりでも歯が立たない。一つの攻撃すら通らない。これがおっさんの真の姿という事だ。


「ツナ、てめえは前に突っ込み過ぎだ。ユキと二人だったら仕方ねえが、サージェスがいるんだ。もちっと役割分担考えろ。ユキ、てめえはツナに頼り過ぎだ。前より消極的過ぎる。決定力はないにしても、ちゃんと仕留める覚悟を持て。サージェスは……良く分からん」

「ありがとうございます」

「褒めてねーよっ!!」


 ボロボロの状態で治療を受けながら、おっさんが話を始める。

 そんな中で治療してくれるのは、おっさんと同じ< ウォー・アームズ >のペルチェさんだ。

 < 荷役 >兼< 治療士 >というサポートに特化したクラスを取得しているらしい。その二つのツリーは同じなのだろうか。

 種族は水妖族……いわゆるマーメイドらしいのだが、何故か脚がある。


「毎回ボロボロになるから治療のしがいがあるわー」

「ペルチェさんはマーメイドなんですよね。なんで脚があるんです?」

「《 生態変化 》ってスキルで変身してるだけよー。ちなみに、変化しても名残は残るからヒレは付いてるでしょー。ほらー」


 言われてみれば、手の指の間にあるヒレはとても大きい。足もそうなんだろうか。


「寝たままでいい、そのまま聞いとけ。ここから先、これをひたすら繰り返す。実は、お前らが一人で俺と拮抗できる状態でようやく最低ラインだ。アーシャの奴は新人戦の時点で俺より上だったからな。あの時より俺だって強くはなったが、あっちは桁が違う」

「今のおじさんとアーシャさんの差はどれくらいか分かる?」

「分からん。とりあえず分かるのは、今の俺なら新人戦の頃のあいつに勝つ事はできても、そのあと……一年後でもう無理だって事だ。直接の対戦がないから余計に判断し辛いが、蟻と巨人くらいの差は間違いなくあるな。マジで成長スピードがおかしいんだよ。あいつ本当に人間なのか疑わしくなるぞ。第五十一層より上に行ける奴はやっぱ何か違うんだよ」


 話した感じは可愛らしい人なんだけどな。動画見たあとだと頷くしかない。

 ホームビデオや、第十層でパンダに乗りかかられて戯れてた姿はとても和んだんだが。


「《 流星衝 》の対策って考えた事あるかな?」

「考えた事はそりゃあるが、対策はねぇな。出されたら耐えるしかねえ。俺の時は数本だったから回避も一応可能だったが、今じゃ無理だ。出させない事を考える方が正解だな」

「発動条件とか分かる?」

「分からん。槍じゃないと使えないってのは聞いた事があるが、それ以外の情報は非公開だ。魔術カテゴリじゃないからMP消費もないだろうし、それであの威力と攻撃範囲はどうなってんだって感じだ。ただ、だからこそ条件は別にあるはずだ」

「なんでそう思うんだ?」

「武器技っていうのは、MPを消費しない代わりに必ず何か制約が付く。発生前の溜めだったり、直後の硬直だったり、HP消費だったりな。武器の限定もそうだ。ただし、この制約が厳しいほど技の性能が強化される傾向がある。万能よりも尖った性能の技が好まれるのはこのためだ」


 HP消費型の技もあったのか。

 しかし、だとすると《 流星衝 》の発動条件はなんだ? 動画でゲージが表示されていたものもあったから、少なくともHP消費型ではない。

 俺のように一定以下のHPで発動とか。それだけであの超性能を実現するのか? 動画を見直す必要があるな。溜め時間は長いのは分かるんだけど。


「私も動画で確認しましたが、一応 流星衝 にも死角はありますね」

「えっ、そんなのあった?」

「ほとんど意味はありませんが、光の槍はそれぞれが直線的な攻撃で追尾性能はないので、発射後なら……たとえばアーシェリアさんの後ろなどは完全な死角です」

「瞬間移動でもしろってのかよ」

「いや、なのでほとんど意味はないと。それに、おそらくあれは後ろへも発射可能です。その隙を突けるとしても一回でしょう」

「実は、お前だったらアレ耐えられたりしないか? 俺たちが後ろに隠れる形で」


 マゾの超性能で。


「不可能ですね。いくら< 格闘家 >系統のHP補正スキルがあっても直撃を一発でも喰らったらほぼHP全損です。二発喰らえば確実でしょう。あれを防ぐには絶対に盾が必要です。現在想定しているリーダーの《 瞬装 》を使った防御が一番現実的ですね」


 《 瞬装 》を使えば、金属盾の瞬間展開は可能だ。

 現在思いつける最良の防御手段はそれだ。発動前の溜め時間に盾を展開し、二人を後ろにやって耐える。問題は盾が耐えられるかと、その角度。多角的な攻撃である《 流星衝 》は、一方だけ防いでも違う角度から飛んでくる槍を防げない。


「というか、リーダーってなんだ?」

「ツナさんがこのチームのリーダーでしょう? 敬称をつけるのはチーム員の義務です」


 誰がリーダーだって?


「俺がリーダーになった覚えはないぞ。少なくとも俺たちの間ではそんなの決めてない」

「別にいいんじゃないかな。チーム登録ではどうせ代表を決めないといけないし」

「ユキはそんな感じじゃないけど、サージェスでいいじゃねーか。最年長だろ」

「いや、それはお断りします。もう規模はどうであれ、誰かの上に立つつもりはありませんから」


 そういや、そういう重たい前世を抱えてるんだなこいつ。一緒にくっついて来た性癖がひど過ぎて忘れそうになるけど。


「別にリーダーでもいいけどよ。チーム名どーすんだよ。何か考えてるのか?」

「『頼光四天王』でいいんじゃない? 僕が碓氷貞光ね」

「よりみつ?」


 お前それ、関係あるの俺の名前だけじゃねーか。肝心の頼光さんいないし。四天王ネタでもやりたいのかよ。

 しかも碓氷貞光とか、何故そんなマイナーどころを……。四天王とか言ってるけど、渡辺綱と坂田公時以外は大抵誰も知らないんだぞ。


「良く分かりませんが、二人の前世にそういう存在がいたんですね」

「俺たちが生まれるより遥か昔にいたみたいだが、チーム名にするには色々おかしい。そもそも俺たち三人しかいないし」

「それは、おいおい増やせばいいんだよ」

「新人戦終わったあとも同じチーム名かよ。そもそも五人以上になったらどーすんだよ。基本六人パーティだぞ」

「五人になったら龍造寺四天王にしよう」


 なんでお前そんなネタばっかり知ってるんだよ。というか、六人は対応できてないじゃないか。


「とりあえず頼光四天王は却下だ。というか四天王は意味が分からな過ぎるから今後も使わない。それ以外でなんか考えとけよ。……サージェスもな。新人戦終わってもチーム続けるんだろ」

「はい、分かりました。ありがとうございます。一員として認めて頂けるんですね」


 誠に遺憾だが、新人戦終わっても、過酷になる一方の状況でお前の弩級戦闘力外す理由がねーんだよ。ユキの< 五つの試練 >だって、これで終わりじゃないし。

 ……リーダーとかは六人パーティ組めるようになってからでも遅くないだろ。どっかのクランに入るかもしれんしな。


 あれ、嫌な予感がする。サージェスいるとクランからお呼びかからなくなったりしないよな。

 ……早まったかな。




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< 無限回廊第二十層 >


 魔法陣から出現したデカイおっさん……いや、ヒュージ・リザード。

 俺たちを一口で飲み込めそうなこいつが、無限回廊第二十層の階層主だ。その異様、迫力はまさしくボスモンスターに相応しい。……あのパンダは一体なんだったんだ。

 高さは強化ミノタウルスほどだが、それは這っているからで、全長まで考えるとここまで対して来た中でダントツトップの大きさを誇る。

 対する俺たちは三人。おっさんたちもいるにはいるが、手は出さない観戦役だ。

 本来、このボスからは六人パーティで挑む事が想定されている。これに続く第三十層もそうだ。

 だが、第三十層までは無限回廊の中でも序の口。この程度を三人で突破できない程度じゃ、新人戦は話にもならないって事だ。


 ヒュージ・リザードの攻撃方法は、長い舌での絡め取りと捕食。尻尾による尾撃。その巨体による突進。

 同じくその巨体で跳躍しての押し潰しと地響きだ。どういう仕組なのか、このダンジョンちゃんと揺れるんだよ。


「散開っ!」


 ヒュージ・リザードの舌が、ものすごい勢いで伸びてくる。

 そのスピード自体がすでに攻撃だ。しかも、あれに絡め取られたら丸呑みだ。食い千切られるわけじゃないが、消化液で少しずつ溶かされるらしい。超怖い。


――――Action Skill《 パワースラッシュ 》――

――――Skill Chain《 ハイパワースラッシュ 》――


 尾撃を躱し、その尻尾にスキルで攻撃を加える。

 《 ハイパワースラッシュ 》はおっさんに教えてもらった《 パワースラッシュ 》の上位剣技だ。溜めと硬直は長いが、威力は《 パワースラッシュ 》すら優に上回る性能だ。

 発動条件も《 パワースラッシュ 》とほぼ同じな上、《 パワースラッシュ 》から連携し易いという特徴を持つ。

 だが、リザード系特有の種族スキル《 ハードスキン 》に守られた皮膚は硬く、ダンジョン途中で手に入れたグレートソードを使用しての二連撃でさえ、あまりダメージは通らない。

 本来ならこのあとに《 旋風斬 》まで繋げたいのだが、《 ハイパワースラッシュ 》からのタイミングがシビア過ぎて、これまで成功した事は一度しかない。


――――Action Skill《 ラピッド・ラッシュ 》――

――――Skill Chain《 ポイズンエッジ 》――


 どこから登ったのか、ユキも背中から二連携スキルを叩き込む。こいつも二連携までは問題なく発動できるようになっていた。

 《 ポイズンエッジ 》は毒の異常発生確率を強化するスキルのため、毒の攻撃方法を持っていないと発動自体しないが、あいつには< コブラ がある。ヒュー。

 よし、毒になった事が確認できた。マジで毒万能だ。


 ヒュージ・リザードは毒の対処能力がないため、あとは粘るだけでも終わりそうだが、俺たちの攻撃は止まない。

 巨体だが、鈍重な体に攻撃スキルを叩き込んでいく。

 そう、俺たち二人は確実に、真っ当に強くなっている。


――――Action Skill《 マッハ・ジャブ 》――

――――Skill Chain《 ワン・ツー・コンビネーション 》――

――――Skill Chain《 ライトニング・ナックル 》――

――――Skill Chain《 マグナム・ストレート 》――

――――Skill Chain《 追蹴撃 》――

――――Skill Chain《 ドロップキック 》――

――――Skill Chain《 トルネード・キック 》――


 おかしいのはこいつだ。なんで七連携もしてんだよ。意味が分からん。確かに< 格闘家 >系統はコンボが豊富らしいが、それでもこれはちょっとおかしいだろう。

 一つ一つはダメージも小さいが、すべて繋がってる上に最後の方はダメージもデカイ。特に《 ドロップキック 》からの《 トルネード・キック 》がおかしい。

 《 トルネード・キック 》は、《 ドロップキック 》のような飛び蹴り技なのに、なんで《 ドロップキック 》後に、そこを着地点として《 トルネード・キック 》出すんだよ。

 ……まあ、いい。頼もしいものだ。


「リーダー。あの巨体でスキルの練習をするのは良いですが、そろそろ飽きてきました。埒が明きませんので私が突っ込みます」

「え、何言ってるの?」


 戦況も安定し、俺が少し間合いを取ったところに、ちょうどサージェスが着地してきて変な事を言い出した。

 あいつ毒喰らってるから、ほっといても終わるんだけど。というか、お前の超絶コンボですでに瀕死だよ。


「かくなる上は、《 パージ 》して、あいつの口に突っ込み、内部から体を破壊します。大丈夫です。一度経験してますし、服を脱げば装備もダメージを負いません」


 いや、そんな心配してないから。意味ないだけだから。お前、《 パージ 》したいだけじゃないかっ!?


「では行きます!!」

「ちょっ、待っ……」



――――Action Skill《 パージ 》――

 その瞬間、サージェスの纏っていたスーツが閃光と共に弾け飛んだ。


[ ナレーション ]

 サージェスの《 パージ 》とは、己の武装をモラルともにすべて脱ぎ去る事によって羞恥心を煽り、自己の身体能力を爆発的に向上させる必殺技だっ!!!!

 究極のマゾヒストが服を脱ぎ去る事により、今ここにっ!! 最強の変態が降臨するっっ!!


 何このナレーション! どこから喋ってんのっ!! 誰だよこれっ!?


「な、何これっ! っていうか、なんで服脱いでるのっ? 必要ないでしょっ!?」


 ユキさんが遠くで気付き、こちらへ叫んでらっしゃる。


「いくぞおおっ!!」


 ブーメランパンツ一枚になったサージェスが走りだす。


――――Action Skill《 トルネード・キック 》――


 そこから繰り出されるのは、相手への突進蹴り《 トルネード・キック 》だ。

 《 パージ 》と《 インモラル・ブースト 》で強化されたその技は、先ほど発動したものとはすでに別物。

 極限まで加速された、竜巻の如き《 トルネード・キック 》が、ヒュージ・リザードの開かれた口内に直撃する。


 あまりの事態に雄叫びを上げるヒュージ・リザード。ついでに、俺たちもあまりの事態に開いた口が塞がらない。

 体内に潜入したサージェスが内部から攻撃を加えているのか、口の奥から発光現象が見える。

 そして、トドメとばかりに再度の《 トルネード・キック 》。

 ヒュージ・リザードの体を突き破り、上空高くまで飛び出したサージェスは、そのままスタイリッシュに地面へと着地する。

 その着地タイミングに合わせ、《 パージ 》の発動時間が終了したのか、スーツの自動再生が始まる。その姿だけはちょっとかっこいい。他が色々ダメだが。



[ 無限回廊第二十層ボス ヒュージ・リザード撃破 ]


 攻略完了のシステムメッセージが表示された。

 あ、うん、確かにヒュージ・リザードは死んだね。


「な、な、なんで裸になってるのっ!? 意味ないでしょ!」


 戻ってきたユキは猛抗議だ。

 戦術的に意ほどがあるかどうかより、突然見たくもないものを見せられてしまったのが原因だろう。無駄にいい身体してたからな。


「……すみません、ユキさん。あの時はああするしか」


 無念そうに顔を押さえてサージェスが俯くが、全く意味はなかったからな。お前分かってやってるだろ。


「というか、お前、ノーダメだったじゃねーか。《 パージ 》はダメージ受けたあとじゃないと発動できないんじゃねーのかよ」

「いえ、スキルの能力値上昇が少なく効果時間が短くなりますが、発動自体は可能です」


 それじゃ余計に意味ねーじゃねーか。

 どうせ、さっき無駄にパワーアップしたのも《 パージ 》じゃなくて、《 インモラル・ブースト 》の効果だったんだろ。


「いやあ、すっきりしました」


 すっきりするんじゃねーよ。なんだよ、そのいい笑顔は。


「お前ら色々すげえな」


 おっさんが近付いてきて言うが、色々すごいのはサージェスであって俺たちじゃない。一緒にしないで欲しい。




-4-




「えーと、これと、これと、これがこの層の戦利品ね」


 休憩所として使っている携帯用コテージの中。俺たちの前にアイテムを次々出していくのは、小人族のトポポさんだ。

 幼児くらいの背丈しかない上に容姿も幼児そのものだが、ちゃんと成人しているらしく、サージェスより年上らしい。

 だが、こうしてチマチマ動いてるのを見ると可愛らしくて抱きしめたくなる。

 横目に見えるユキは、我慢できないようで手をワキワキさせていた。

 一方、サージェスは興味なさそうだ。


「持ち切れないようだったらペルチェに渡しておけばいいから。んじゃ、あたしはこの層の探索進めておくよ。特訓頑張ってねー、じゃーねー」


 く、行ってしまわれた。


「ああ……可愛いな。あれ、僕の部屋にも何人か欲しい」


 ペットじゃないんだぞ。俺たちよりも年上の人間だ。小人ではあるが。


「興味なさそうだが、お前はあれを可愛いとか思わないのか?」

「私には理解できませんが、人の趣味をどうこう言うつもりはありませんよ」


 確かに、お前にその資格はねーよ。


 しかし、トポポさんの持ってきてくれた戦利品は大量である。

 ダンジョンマスターから、ダンジョン籠もりに使用する必需品以外の提供は禁止されたようだが、このダンジョンで手に入るものについてはすべて俺たちがもらってもいいとの事だ。

 もう十一層分、ここまででも結構な量だ。ダンジョン内で使用する物以外は、大体ペルチェさんに預けてある。


 俺たちは時間制限いっぱいまで各層で訓練をし、ギリギリで最短ルートを辿り次の層に移動する。

 その間、ダンジョンのマップ調査をしてくれるのは、先ほどのちみっちゃいトポポさんだ。クラスは< 斥候 >らしい。

 ついでに、途中で倒したモンスターのドロップ品や、見つけた宝箱から出たアイテムはすべて回収。こうして俺たちへ提供してくれる。

 おっさんたちに言わせると、この層で手に入るようなものは< ウォー・アームズ >にとってはまったく不要なものだというが、それでも俺たちにはありがたい。

 大体、換金すればそれなりのものになるのだから、完全に不要というのはありえない話なのだ。おっさんたちが気を使ってくれているに過ぎない。


 まったく、あの人たちにどれだけ感謝すれば足りるのか分からない。

 おっさんもそうだが、ペルチェさんやトポポさんなんて余計に俺たちに協力する必要なんてないのだから。


『ダンジョンマスターからの依頼だ、依頼。頼まれてんだよ。俺たちがあの人の頼み事断るなんて天地ひっくり返っても有り得ねえ。』


 ダンジョン籠もりが始まる際にそう言ったおっさんの姿が浮かぶ。

 おっさんは詳しい事は言わないが、一体どれだけの恩がダンジョンマスターにあるというのか。きっと、この訓練の中でそれを知る事はないのだろう。


「目当ての盾も結構あるね」

「限界まで《 アイテム・ボックス 》に詰め込む事になるからな。これが最優先だ。使う機会がないほうが助かるんだけどな」


 俺に盾を扱うスキルはない。おそらく適性もそんなにないだろう。

 《 片手武器 》のギフトはあっても基本的に両手で武器を持って戦うのが俺の戦闘スタイルなわけだが、いざという時に《 瞬装 》で盾を取り出してガードするというのが今回の作戦だ。いくらなんでも構えるだけならできるからな。

 ただ、問題が一つあって、《 アイテム・ボックス 》は制限があるのか、カード状態のものは入らず、《 瞬装 》の切り替え対象にできない。

 だから、少ない《 アイテム・ボックス 》の容量を上手く利用して実物をつめ込まないといけない。鎧ほどじゃないが、盾も嵩張るんだよな。


 使わない分は換金して俺たちの懐に入れていいと言われているが、少々……いや、かなり気が引ける。

 おっさんの性格だと、きっと突っ返してくるんだろうなと思いつつも返さずにいられない。おっさんがダメでもペルチェさんかトポポさんに渡すという手もあるのだ。

 どちらにしても、これは大きな借りだ。借りを返さないという事は俺の仁義に反する。大した矜持なんて持ち合わせていないが、これに報いないのはダメだ。


 おっさんがユキにウンコ投げつけたいと言っても、甘んじて受け入れよう。むしろ押さえ付ける側に立ってみせよう。

 サージェスもこういう貸し借りにはかなり実直な性格で、恩義には報いなければ済まないタチだという。

 前世の英雄性もあって、その変態性以外は人格者なんだよな。残念な事に。


「お前のほうはどうなんだ? 第三の手」

「まだダメだね。多分だけど、イメージが足りてない。魔法的なイメージになるから講習とか受けたほうがいいのかな。……なんとか間に合わせるよ」

「前例なしって言ってたからな。ユニークなスキルは簡単じゃないって事だろ」


 俺の《 瞬装 》みたいに既存のスキルだったらすぐに覚えられるのだが、ユキはそれでは満足しないのだろう。大変でも自分オリジナルの力が欲しいのだ。


「私の《 インモラル・ブースト 》もユニークスキルらしいですが」

「サージェスのは参考にならないからっ!」


 同じに思われたくないんだろう。ユキも必死だ。

 まあ、《 インモラル・ブースト 》はパッシブスキルだし、系統が全然違うからな。


「参考にはならないかもしれないが、お前のそれはどうやって覚えたんだ?」

「すいません。覚えたのが迷宮都市に来る前なので、正確な習得条件は……おそらく、色々な被虐実験をしている時に覚えたのではないかと」


 俺の《 飢餓の暴獣 》も同じはずなんだが、一緒にしたくない。


「どうです、ユキさんも一緒に週次開催しているマゾヒズムレッスンに参加するというのは……」

「嫌だよっ!?」


 断られるのが当たり前なのに、お前はそれで何故残念そうな顔をする。




-5-




< 無限回廊第三十層 >


 今回のダンジョン籠もりラストとなる第三十層のボスはグランド・ゴーレム。

 ボスは大体デカイ、という印象をそのまま現したような大きさの強大な石人形だ。大体、ヒュージ・リザードが直立したらこれくらいになるんじゃないかという感じだ。

 ここ、まだ浅層って呼ばれる階層なんだけど、なんでこんな巨大ボスが出現しちゃってるんだろう。昔のRPGならラスボスで出てきてもおかしくないよ、これ。


 だからといって俺たちでも相手にならないとか、そんな事はなかった。

 ブンブン振り回してくる腕は脅威だし、その巨体で踏まれたら簡単に潰されるだろう。

 時々、目に相当する箇所から放ってる怪光線も脅威だ。石でできてるとあって、その防御も固い。

 だが、ここまで鍛え上げたLvとスキルの性能でごり押しできる程度の相手だ。


――――Action Skill《 削岩撃 》――

――――Skill Chain《 爆砕撃 》――


 手にした両手槌で専用の対鉱物スキルを放つと、ゴーレムの脚が大きく削れる。

 痛みなどはないのだろうが、体勢は崩れる。

 こうして巨大なハンマーを振り回していると、丸太でオークと戦った時の事を思い出すぜ。


――――Action Skill《 斬岩刃 》――


 ユキが振り下ろされたゴーレムの腕の上を走り抜け、その二刀から対鉱物用のスキルを放つ。


 俺たちのこれらのスキルはダンジョン内で手に入れたスキル・オーブにより習得したものだ。

 使用武器の制限や、相手を選ぶために使い所は難しいが、こうしてそれを弱点とする相手ならばかなり有効となる。

 こうやって相手の弱点によって武器を選べるのも俺の《 瞬装 》の特徴だ。


 しかし、あの1Kの部屋でダンジョンマスターも言っていたが、確かに銃でこいつと戦うのはキツイかもしれない。

 それこそ対物銃でも持ち出さないとまともなダメージが通らなそうだ。


――――Action Skill《 ブースト・ジャンプ 》――

――――Skill Chain《 飛竜翔 》――

――――Skill Chain《 ドラゴン・スタンプ 》――

――――Skill Chain《 ダイナマイト・インパクト 》――


 スキルでのジャンプ後、巨大なゴーレム相手に頭の上まで蹴技で上昇し、そのまま踏み付け、最後に文字通り岩を砕く様な猛烈なパンチを決めていくサージェス。

 今更だけど、なんかあいつの性能おかしくないかな。俺たちが足下や体を伝って攻撃してるのに、なんで一人だけ空飛んでるんだよ。


 もう少しでゴーレムのHPも削り切れる。ヒュージ・リザード戦と違って俺たちもダメージは喰らっているが、それも軽微だ。

 この事実だけで、俺たちが如何に強化されたか分かるというものだろう。


 トドメとばかりにサージェスの《 トルネード・キック 》が炸裂する。

 ユキが直前に猛抗議したためにスーツは着たままだが、その猛抗議で興奮し《 インモラル・ブースト 》の強化を得たサージェスの蹴りがゴーレムの頭部を粉砕した。

 ところで、あの《 トルネード・キック 》って目回ったりしないんだろうか。



[ 無限回廊第三十層ボス グランド・ゴーレム撃破 ]


 サージェスの《 トルネード・キック 》で頭部が破壊されたあと、グランド・ゴーレムの体も崩壊し、攻略完了のシステムメッセージが表示された。

 これで、このダンジョン籠もりも終了である。まだ一回目だが、実に長かった。


「このあとの三十一層以降には行けないの?」


 おっさんたちと合流したユキが言い出す。確かに、第十層と同様ワープゲートしかない。これで終了のようだ。


「この先は中級以上のライセンスが必要になるからな。ここが、今のお前たちが潜れる最深層ってわけだ」


 だから、ここが目標地だったのか。


 聞いてみると、浅層の区切りである第三十層までが下級冒険者が攻略できる最大深度らしい。

 これ以上は、中級ランクを手に入れた者しか先に進む事はできない。ランクでいえばD以上って事だ。


 随分早い気もするのだが、ここまで攻略した俺たちは必要な書類地獄……手続き後にEランクとなる事が確定している。まだ、Fランク昇格の手続きも終わってないのに……。

 しかし<この上の中級であるDランクに上がるには、Eランクに上がったあとに規定以上のGPを稼ぎ、E+という特殊ランクを得たあとに発行される昇格クエストを攻略する必要があるそうだ。

 このクエストというのが難物で、例の自動クエスト生成システムで発行される難易度「難」のクエストとなるらしい。

 冒険者ごとに用意された試練を突破しないと中級には上がれない。ユキのとはまた違うが、こういう試練がそれぞれ冒険者ごとにも用意されるという事だ。

 次回のダンジョン籠もりまでにこれをこなし、中級に上がる事は事実上不可能だ。そのため、来週のダンジョン籠もりも同じルートを辿る事になる。


「つまり、次も第十一層からここまでで訓練ですか?」

「そうなるな。ちなみにもしも第三十一層に上がれるとしても、そこからはこういうサポートは無理だ。俺たちの実力が足りないってのもあって、攻略に余裕がなくなる。このメンバーだと、全員でなんとか先に進めるって場所になっちまうからな。新人戦までの強化を考えると、こっちの方が効率的だろう」


 そらまた、いきなり難易度が上がるのね。


「次回は、主にお前らの二つ目のクラスを鍛えるのがメインになるだろう。モンスターが変わらない以上、レベルを上げるにしたって限度が出てくる。サージェスには悪いが、再度付き合ってくれ」

「問題ありません。お二人ほどではないですが私の強化もできていますし、何よりグワルさんに相手して頂けるというのは助かります」


 どうも、同じツリークラスの二つ目を取得する条件とは、ベースLv20以上、一つ目のクラスLv20以上らしい。

 俺たちは今回のダンジョン籠もりでそのどちらも満たしている。会館で新しいクラスを習得して、再びここに籠もる事になるだろう。

 サージェスは現時点で二つ目まで習得しているため、劇的な効果は見込めないが、それでもこいつもまだ中級でない以上付き合ってもらうしかない。

 問題ないというのが、願わくば、おっさんの攻撃が痛くて気持ちいいって理由じゃない事を祈りたい。


「ユキはちゃんとユニークスキル習得できるようにしろよ。次も籠ってまだ習得できてませんじゃ、話にならんぞ」

「う……分かりました」


 ユキはまだ例のボーナススキルを習得できていない。

 本人曰く、イメージが足りないらしいが、できる限り早く覚えてもらわないといけない。




 実りが多かったものの、課題も残ったダンジョン籠もり一回目はこうして終わった。




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