第3話「クラス」




-1-




 俺たちが冒険者デビューするにあたり、行わなければならない事はいくつかある。


 一つはトライアルダンジョン攻略。

 これは語るまでもないだろうが、初心者用の全五層のダンジョンをクリアするという試練だ。まずこれをクリアしないと何も始まらない。

 "初心者向け"というとどうしても俺たちには疑問が残るが、普通は四層のボスであるリザードマンがおっさんだったりしないし、隠しステージとかそういうタチの悪い冗談もない。

 第五層のボスだって、初見じゃないなら"強化型"ではないミノタウロスだから、それなりの強さのパーティ六人くらいでなんとかなるのだ。


 続けて、初心者講習。

 俺たちはタイミングの関係で順番が前後してしまったが、この講習とトライアルダンジョンの攻略をセットとしてデビューの権利を得る事ができる。

 内容としてはただクソゴミ吸血鬼から冒険者についてのあれこれを聞くだけの、ただの説明会だ。月一でしか開催していないという事を除けば、誰でも攻略可能な試練だ。

 外から来た人間は大抵ここで、迷宮都市の冒険者像というものに度肝を抜かれる。色んな意味で。


 そして、その二つをクリアすればデビュー講習だ。

 あの自動車教習所で流されるようなビデオを延々と流され、睡魔という強大な敵と戦う試練である。

 あまりの難関に俺も一度敗北しそうになったが、ユキに助けてもらい、これをなんとか突破した。

 ギルドも、もう少し挑戦する人間の事を考えた難易度にするよう検討してもらいたいものだ。


 デビュー講習が終わったあとは、ひたすら規約を読み必要事項を記載し続ける書類地獄が待っている。

 これは正直キツイ。文面を読まず、名前だけ書いてればいいんじゃないかと思わせるような文量で俺を攻め立ててくる。

 契約内容も読まずに判子を押すような、どこかの中小企業の駄目社長のようにならないよう、必死の努力が必要だ。

 俺たちは日本語が読めるからまだいいが、読めない人たちはわざわざ契約内容を担当に読んでもらい、それでサインするらしい。

 大した内容もないのに、やたら装飾された日本語をひたすら聞かされるのは拷問と大差ない。日本語読めて良かった。

 あの書類を誰が作ったのかは知らないが、現地人の事をもう少し考えて上げて欲しい。


 順番的にはここで終わりなのだが、俺たちにはもう一つやらなければいけない事がある。

 本来はデビュー講習の前、初心者講習が開催されるまでの間に受講するらしいクラスについての講習だ。

 簡単に言ってしまえば、クラスというのはRPGなどでいう職業の事だ。

 ジョブでもいいが、正式な意味での俺たちのジョブは皆冒険者になってしまうため、役割という意味でクラスなのだろう。

 ちなみに、現時点での俺たちの< クラス >は< なし >である。すっぴんではない。


 この講習を受講し、俺たちの当座のクラスを決定する事で、晴れてGランクを得て冒険者デビューする事となる。

 トライアルダンジョン初日クリアなんて事をしてしまったために、順番はバラバラ、実際に『無限回廊』へ挑戦を始める制限期間ギリギリになってしまったが、これが、デビューまでに行う事のすべてだ。カードの更新とか、そういった細かい事は除く。




 というわけで、俺とユキはこの最後の試練を受けるため、ギルド会館三階の受講室までホイホイやって来たのだ。

 本来であれば多数の受講生が出席するらしいこの講座だが、今回は俺たちに合わせた臨時開講のため、受講室は閑散としている。というか俺とユキとクソ吸血鬼の三人しかいない。

 以前の初心者講習より少ない人口密度だ。


「それでは臨時ですが、クラス講習を始めます。まず最初に、トライアルダンジョン攻略おめでとうございます。まさか、私が初心者講習を行った日にクリアするとは考えてもいませんでした」

「いえ、ありがとうございます」

「ありあとやんしたー」


「つ、ツナさんの様子がおかしいんですが、どうしたんですか?」

「気にしないで下さい。昨日面白体験して、ちょっと疲れてるみたいなんで」


 この講座に挑むに当たって必要なやる気を、俺はどこかへ置き忘れてきてしまった。多分みるくぷりんに。

 大体の元凶が目の前にいるので、やる気など出るわけもない。

 実際この吸血鬼が何をしたわけでもないというのが、また余計に苛立たせる。


「昨日、会館で見かけた時は普通だったのに、一体何があったんでしょうか」

「ヴェルナーさんのブログが原因みたいです。あと掲示板も」

「私の? ウチの娘……じゃないですね。……まさか娼館にでも行ったんですか?」

「そうみたいです。年齢制限で閉めだされたみたいで」

「…………ツナさん。外ではどうか知りませんが、この街では十五歳は未成年です。さすがに風俗はないでしょう」


 うるさいわ。


「私が株主権限でねじ込むにしても十五歳はキツイですね。逮捕されてしまいますので。ちゃんと二十歳になるまで待って下さい」

「はーい」


 何も悪い事をしてない上に、当たり前の事を言われてだけなのに、すごくむかつくの何故だろう。

 株主権限か……株が当たり前に存在してるのがびっくりだが、この街なら別に変でもない。今更だ。

 大量にみるくぷりんの株買って大株主になれば、なんとかならないだろうか。……高いのかな、やっぱり。株主優待とかあるのかな……。


「まあ、そんな事を言っていても始まらないので、講習を始めます。大抵の受講者は、ある程度講習を受ける前に調べてくるようですが、お二人はクラスについてはどれくらいご存知でしょうか」

「詳しい事はまだ何も。冒険者の成長の方向性を決めるようなものだとしか」

「ダンジョンマスターは、クラスでスキルが習得できるって言ってたぞ」

「ダンジョンマスター? 会ったんですか?」

「ああ、トライアルのボーナスで」


 受付嬢の人も思い出すのに苦労してたから、この人が知らなくてもおかしくはない。


「そうですか。……ああ、初回クリアボーナスですね、なるほど。ではそこから始めましょうか。冒険者がクラスに就くと、そのクラス特有のスキル・能力補正を得る事ができます。これは、基本的にクラスに設定されたレベルが上がっていく事で、強化されていきます」


 いきなり出てきたが、やはりクラスにもレベルが設定されているようだ。


「それは、今、僕たちのステータスカードに記載されているレベルとは別のものなんですか?」

「別物です。まあ、あまり一般的な話ではないんですが、そのレベルは別名でベースレベルと呼ばれてたりします。ちょっと脱線しますが、このベースレベル、これはどうも種族のレベルを現すもののようです。ツナさんたちでしたら< 人間 >という種族のレベルが5なり10なりになっているという意味です。私でしたら< 吸血鬼 >のレベルという事になりますね」


 単純に、その人の基本となるレベルっていう説明じゃ駄目なのか?


「"種族"と限定して言っているのには何か意味があるんですか?」

「普通はないのですが、種族が変わった際にこれがリセットされるので、便宜上そういう扱いにしています。一番多い例はモンスターですね」

「モンスター?」


 そりゃ、人間とはカテゴリは違うだろうが。


「私の例がちょうど良いので説明すると、無限回廊などに出現する吸血鬼の場合、種族は< モンスター/吸血鬼 >の二重表記になります。実はこの< モンスター >はそれだけでも強力な種族スキルを持つのですが、クラスに就くことはできないという制限があります。そのため、モンスターが冒険者になる場合、< モンスター/吸血鬼 >→< 吸血鬼 >という具合に種族を変更する事になります。私はこの例にあたりますね。< モンスター/吸血鬼 >と< 吸血鬼 >はまた別の種族という扱いになるわけです。その際、この種族レベル(ベースレベル)は1にリセットされ、モンスターとして得た能力・スキルを失……いはしないのですが、大幅に弱体化します」


 良く分からんが、ダンジョンにいるモンスターが冒険者になりたい場合は一からやり直すって事だろうか。

 モンスターの心境は分からないが、覚悟のいりそうな話だ。ゴブタロウなども< モンスター・ゴブリン >ではなく< ゴブリン >なのだろう。

 世界見ても、ここでしか有り得ない話だろうけどな。レベルやクラス自体そうなんだけど。


「まあ、そういう事例があるので、ベースレベルは種族Lvと呼ばれているというだけの予備知識です。話を戻すと、この種族Lvの他にクラスは独自のレベルを持っているという事が、今回の話です」


 つまり、今俺たちは< 人間 >のLv10で、クラスはLv0という事だ。いや、"なし"か


「このクラスレベルが上がると、そのクラス特有のスキルを覚えたり能力値の補正がかかります。代表的なものだと、< 剣士 >というクラスであればクラスLv10で《 パワースラッシュ 》という剣技を、< 斥候 >というクラスはクラスLv5で《 解錠 》というスキルを習得します」


 ん?


「《 パワースラッシュ 》は< 剣士 >のスキルなのか? 俺もう覚えたんだけど」

「ああ、それはツナさんに、クラスがなくてもそのスキルを覚える才能・土台があったという事ですね。スキルはそれぞれ、習得するための条件が個別に存在しているのですが、クラスはそれらの条件を無視して習得する事ができるのです」


 つまり、< 剣士 >のクラスに就いてクラスLv10になれば、誰でも《 パワースラッシュ 》を覚える。

 でも、たとえクラスに就いていなかったり、違うクラスだったとしても、本人が条件さえ満たしていれば《 パワースラッシュ 》を覚えられるという事か。


 ああ、猫耳やダンジョンマスターの反応に合点がいった。

 本来なら、なんの補助もなしにスキルの習得条件をただ満たすのは困難で、迷宮都市の冒険者たちはクラスの恩恵を受けてスキルを覚えているのが当たり前。

 にも関わらず、俺はクラスにも就かず、そのままの状態でスキルを大量に習得していたというわけだ。

 そらビビるわ。ほとんどシステムに頼らずスキル習得してるって事だからな。


「俺の《 パワースラッシュ 》も、ユキの《 ラピッド・ラッシュ 》も、本来はクラスの恩恵で覚えるところを、自力で覚えたって事か」

「そうですね。スキルの中でも、特にその二つのようなアクションスキル……自分が能動的に発動させるスキルは、クラスの助力がないとかなり困難ですので、それは二人に才能があるという証明でもあります。というか、この段階でそんなものを習得していたんですね。それだけで十分誇ってもいい事だと思いますよ」


 そうなのか。それがどれくらい困難な事かはいまいち実感が沸かないが、講師がそう言うなら、普通は習得が難しいという事なんだろうな。

 ユキとか、いつの間に覚えたか良く分からないし。


「えーと、すでに《 パワースラッシュ 》を覚えたツナが、< 剣士 >になるとして、クラスLv10になったら何を覚えるんですか?」

「残念ですが、何も覚えません」

「ありゃ、そうですか。……その先で習得するものが前倒しになるわけでもないのか」


 だとすると難しいところだよな。

 《 パワースラッシュ 》を自力習得できたって事は< 剣士 >の適性がある。けど、本来< 剣士 >Lv10で覚えるスキルはもう覚えてるわけだから、少しもったいない。

 となると、適性の近い、別のクラスに就くのがいいという事になるのか? 悩む選択になるな。


「では続けましょうか。次はクラスレベルのレベルアップ方法と制限について。ベースレベルは、ダンジョンなどに生息するモンスターなどを倒す事により上げる事ができます。トライアル攻略時にボス戦のボーナスでレベルが上がったと思いますが、これは例外です。ちなみに二人は今レベルいくつでしょうか?」

「え、Lv10です。……ツナもだよね?」

「ああ」


 第五層でモンスターの波に埋もれて、ここまでレベルアップしたのは記憶に新しい。

 あのあと、ミノタウロスや猫耳を倒したが、ボーナスは対象外だし、必要経験値が足りてないのかLvは上がってない。


「この短期間でどうやってそんなレベルまで上げたのかは分かりませんが、先ほども言いましたようにそれがベースレベル(種族レベル)です。ですが、クラスレベルはこれと少し毛色が違いまして、そのクラス特有の行動・経験を積む事によりレベルアップする事が可能になります」

「モンスターを倒す必要がないって事でしょうか」

「はい。必ずしもモンスターを倒す必要はありません。といっても、戦闘系のクラスの場合、たとえば< 剣士 >などは結局剣を使って戦う必要があるので、戦闘は必要になりますね。< 鍛冶師 >などの生産系クラスの場合は分かり易いでしょう。モンスターを倒す事なく、鍛冶をしているだけでもレベルは上がっていきます。< 剣士 >の場合に気をつけるのは、剣ではなく槍など別の武器を使って戦ってもクラス経験値はほとんど得られないという事ですね」


 となると、クラスレベルはゲームでいう熟練度のようなものだ。

 ひたすらそのクラスにあった行動を行う事で適性を上げていく事になる。

 戦闘職だったら気にする事はなさそうだな。得意な武器を使うクラスに就いて、その武器を使って戦えばいいんだから、何も変わらない。


「そして、このクラスレベルですが、ベースレベルを超えられないという制限があります。ツナさんたちの場合はクラスレベルは現時点で10が上限値という事になります。そのため、クラスレベルを上げる場合、たとえ生産系クラスの場合でも結局はモンスターと戦う必要が出てくるという事です」


 それも俺たちにはあまり関係ないな。生産系クラスの場合はキツそうだが。


「ああ、ひょっとして、トライアルの段階でクラスに就かないのは」

「ええ、これだけが理由というわけではないですが、ベースLv1の段階でクラスに就いてもあまり意味がないですからね。クラスレベルでスキルを覚え始めるのは最低でもLv5からがほとんどですし、そもそもトライアルの段階ではまだ適性も分かりませんから」


 トライアルという試練を通して、自分の適性を判断し、本番に挑む前にクラスを得るというわけか。一応、色々考えてるんだな。


「つまり、クラスというものは、戦士、魔術師といった大きなカテゴリで分けられた役割を、更に先鋭化し、その技能を補強する事ができるシステムというわけです。とりあえず前半はこれで終了ですが、何か質問はありますか?」

「あ、すいません、一つだけ。クラスのスキルは分かりました。でもクラスに就くことによって能力値の補強もできるんですよね」

「はい。どの能力が補強されるかはクラスごとに違いますが」

「ひょっとして、補強だけじゃなくて、そのクラスが苦手な分野は、能力にマイナスの補正を受けたりしませんか?」

「そうですね。魔術系のクラスになると< 力 >のステータスが下がったりもします。

これも実はトライアルの段階でクラスに就かせない理由の一つです。クラスレベルが低い内はあまり関係ないですが、わずかでもステータスが変化しますしね」


 この吸血鬼が言うように、おそらく低Lvの内はほとんど影響は出ないんだろうな。< 力 >が-1とか。ステータスが補正という事を考えると、元々自分が持っている力の1%に過ぎない誤差の範囲だ。

 ただ、トライアルの段階で戦闘に全く関係ないクラスに就いたら、わずかとはいえ全体的にマイナス補正を受けてしまう。

 それは間違いなく、攻略に影響するだろうな。


「クラスによる能力値の補正は、低レベルの内はほとんど誤差のようなものです。なので、しばらく気にする必要はないですが、頭の片隅にでも置いておいて下さい」





-2-




「ツナ、分かった?」

「大体は。……まあ、分かり辛いよな。トライアルの段階では正直聞きたくないから、このタイミングで正解だよ」


 あの時点で知っててもしょうがない。俺たちの場合は特に。


「多分さ、あの説明、あれでもかなり内容端折ってると思うんだよね。分かり易いように」

「そりゃあ、そうだろうな。一気に詰め込むようなもんでもないし。必要最低限だけ教えて、あとは自分で調べなさいって事だろ」


 デビュー後も講習はあるし、それ以外でも任意で受講可能な講座は山ほどある。

 今回みたいな講習では、必須の情報だけを伝えているんだろう。


「そうだよね。……いやさ、僕、この講義の前にネット使って色々調べたんだよ。ギルドのページにもあるけど、個人でもクラスとかスキルの解析してる人がいるみたいでさ。でも、"何故か頭に入ってこない"んだよね」

「…………」


 それは、少し心当たりがある。


「お前さ、迷宮都市の中心ってどこか分かるか?」

「え? いきなりだね。……迷宮転送施設だよね。トライアルの時に行った」

「違う。中央交差点っていう、やたらでかい大通りが交差するポイントが中心だ」


 近くには、みるくぷりんがあります。


「……そんな大きな通りあったっけ?」


 つまり、そういう事だ。


「あまり気持ちいいものじゃないな。俺たち、集団で認識阻害かけられてるぞ」

「え、なにそれ」

「これに関しては、お前ももう解除されてるけど、転送施設に行って聞いてみるといいぜ。"迷宮都市の中心ってここですよね"って」

「違うの? ……違うか。交差点って言ったもんね」

「返ってくる答えはこうだ。"そうですね、ここは迷宮都市ダンジョン区画の中心です"ってな」


 そう言うと、ユキは呆然とした表情を俺に見せた。俺も言われた時は呆然とした。

 特に至急向かわねばならない目的地がある状況では余計に。切実な状況だった。


「……何それ。この街の中心は別にあるって事?」

「そうなんだが、問題はその事じゃなくてだな。多分、俺たちは必要ない情報に関しては認識できないよう、何かしらの力を受けているんだと思う。ここはダンジョン区画っていう迷宮都市の一部で、実際はその何倍もの敷地が広がってる。俺もみるくぷりんに行くまでは知らなかったんだが、そういう事だ。これは、街の外に情報を持ちださせないための規制らしいんだが、多分、クラスやスキルに関してもそういった阻害を受けてる可能性が高い」


 外部の人間に対する街の情報などの、知られてはマズい情報や、その時点で本当に必要じゃない情報が対象だろう。

 冒険者の場合はランクなどで決められてるんじゃないだろうか。


「え、ちょっと待って。混乱してきた。つまり僕らは、誰かが規制した情報は調べても分からない……いや、認識できないって事?」

「確信はないが、その可能性が濃厚だ。今度ダンジョンマスターに聞いてみる気ではいるけどな。一番分かり易い例はあれだ。お前、トライアルダンジョン第五層の情報を誰かに口止めされたか?」


 トライアル第五層の情報が秘密だというのは猫耳をはじめ、色んな人が言っていた事だ。


「え、されてないけ……ど。……そうだね、おかしい。聞こうと思ったら聞ける状況で、サイトでも情報が載ってるくらいなのに、どうして秘密なんて言ってるんだろう」

「実際、ギルド会館内でもみんなトライアル第五層の話はしてる。ギルド会館内にはまだ挑戦していない奴がいるかもしれないのに。なのに秘密という事になっていて、実際、挑戦者はその内容を知らない」

「多分、聞いてるけど、認識できてないって事?」

「そうなる」


 気持ち悪いシステムだ。だが、これなら街の情報が漏れる事はない。

 余計な情報を渡して混乱させないという配慮も一応あるんだろうが。


「うーん、本当に? 魔法にしても規模大き過ぎない? 確かに心当たりはあるけどさ」

「どんな技術か魔法かは分からないが、そういう事なんだろうな。今回お前が調べた情報もその類だろう。……ちょっとテストしようか」

「テスト?」

「俺が今から、多分お前が情報規制されてるだろう事項を言う」

「それはいいけど、なんでツナがそんな情報を知ってるのさ」

「それは置いておけ」

「ん、分かった。どうぞ」

「じゃあ言うぞ。"無限回廊はダンジョンマスターが作ったダンジョンじゃない。"」


 ユキは無反応だ。


「…………え、もう何か言った?」


 とりあえず、阻害を受けている事は確定だな。ダンジョンマスターへ質問は必須だ。

 ユキはどうも俺が言った内容もそうだが、口の動きも認識できなかったようだ。

 そして、文字に書いて見せてもダメだった。何を書いてあるか分からないらしい。何かが書いてある事は分かるし、読めもするが、頭に入っていかないようだ。


「気持ち悪……」


 ダンジョンマスターは、一〇〇層以降の話について忘れてくれって言ったが、きっとこの情報も対象なんだろうな。

 おそらくだが、あの1Kの空間はそういった認識阻害の効果範囲外という事だ。

 相談しようにもユキには伝わらないだろうし、認識阻害の件については、今どうこうできる話じゃないので置いておく。


「とりあえず、現状は分かった。お前も、そういうルールがあるって事は覚えておけ」

「う、うん。何言われたのかすごく気になるんだけど、……わかった。なんか卑猥な放送禁止用語とかじゃないよね」


 なんで突然、脈絡もなくお前にエロワード言わにゃならんのだ。


「で、お前クラスどうするよ」

「いきなり普通の話に戻ったね。……どうするって言っても、このあと、適性見てからかな」


 このあとはクラス講習の第二部が待っている。今度は適性を確認して、実際にクラスへ就く作業だ。


「そうだよな。いや、さっきの話聞いて、《 パワースラッシュ 》覚える< 剣士 >を候補から外そうかどうか悩むところなんだよな」

「スキル覚える数が減るから違うのにしますっていうのも、適性があるのが分かったあとだと難しいよね」


 似たようなのがあればいいんだがな。




-3-




 クラス取得のために、俺たちが移動したのはおよそファンタジーらしからぬ、どっちかというとSFチックな部屋だった。

 部屋中が謎のコンピュータに囲まれ、どこかで見た事あるモノリス的な石柱が中央に鎮座していた。

 ダンジョンマスターの部屋に行く時に使ったものとまったく同じものだ。


「……これは」

「これが、クラス取得に使う装置です。この装置に手を触れる事で、現時点で適性のあるクラスの一覧が表示されます。その中から、自分が就きたいクラスを選択する事できるというわけです。触れてすぐ決めないといけないというわけでもないので、どちらからでもどうぞ」


 ユキを見ると、少し怖気づいているように見えた。


「じゃあ、俺からで」

「装置のここの部分に手を翳して下さい」


 ヴェルナーの言う通りの場所へ手を置くと、視界にいくつものシステムメッセージが浮かんできた。


「それは本人以外には見えません。私に知られたくないという可能性もありますので、一旦外に出てますね。ここは防音になっているので、相談しても問題ありませんよ。質問があったり、終わったら声をかけて下さい」


 と言うと、ヴェルナーはそのまま部屋から出て行ってしまった。

 実際に就いた職業はカード見れば分かるが、適性情報はあまり人に話したくないとか、そういう人たちに対するマナーなんだろうか。


「どんな感じ?」

「思ってたよりは多くないな。それぞれの簡単な説明も書いてある」


 表示されているのは……。


< 戦士 >

 主に片手武器全般を使用して戦う軽量級前衛職。

 小型の盾と合わせて、幅広い戦闘技術を習得可能。

 主な習得スキル:《 戦士の条件 》《 戦士の心得 》


< 剣士 >

 小剣から両手持ちの大剣まで、剣カテゴリ全般を得意とする軽量級前衛職。

 戦士よりもより攻撃的な、アタッカーとしての役割を持つ。

 主な習得スキル:《 剣術 》《 パワースラッシュ 》


< 剣闘士 >

 主に単体の敵を想定した戦闘スキルを習得する軽量級前衛職。

 自己強化スキルと、強力な単体攻撃スキルを多く習得する。

 主な習得スキル:《 強撃 》《 対単体戦闘 》


< 闘士 >

 重量武器、重量防具を使用し、前線を支える重量級前衛職。

 敏捷性よりも堅牢な防御力、HPに特化する。

 主な習得スキル:《 渾身撃 》《 生命力強化 》


< 斧戦士 >

 重量級前衛職の中でも斧に特化した戦士。

 手斧、両手斧、投斧を使い、強力な攻撃力を備えるアタッカー。

 主な習得スキル:《 斧術 》《 ストライクアックス 》


< 荷役 >

 スキル《 アイテム・ボックス 》の容量増加、特性追加などの拡張スキルを習得する。

 自身は戦闘手段を習得しない補助職。

 主な習得スキル:《 重量軽減 》《 アイテムストレージ 》


< グラップラー >

 武器を使わず、主に絞め技・関節技を得意とする対人特化の格闘職。

 主な習得スキル:《 関節破壊 》《 スリーパーホールド 》



 の七つだ。正直、< 戦士 >、< 剣士 >、< 剣闘士 >、< 闘士 >、< 斧戦士 >のどれでも問題なさそうではある。

 < グラップラー >は猫耳戦の影響なのかもしれないが、流石に対人戦特化は厳しいだろう。モンスター相手に関節技・絞め技オンリーとか冗談じゃない。

 《 アイテム・ボックス 》は魅力だが< 荷役 >も厳しい。説明文から察するに、他のクラスでも《 アイテム・ボックス 》が使えないわけじゃなく、このクラスであれば更に有効活用できるという意味なのだろう。

 そして、実は< 狂戦士 >がなくてホッとしている。


「とりあえず、僕のほうも見てみようか」


 まだ俺のクラスは選択せずにユキのクラスを表示させる。

 俺には見えないが、ユキの申告によると< 剣士 >< 荷役 >は俺と被り、それ以外は……。


< 双剣士 >

 両手に短剣、小剣などの小型武器を持ち、戦闘を行う軽量級前衛職。

 連撃スキルをメインとした素早い攻撃速度が特徴。

 主な習得スキル:《 短剣二刀流 》《 ファストブレード 》


< 斥候 >

 周辺警戒、偵察、罠解除、解錠などを行う補助職。

 戦闘力に直結する能力補正は少ないが、攻撃スキル、補助スキルも習得可能。

 主な習得スキル:《 解錠 》《 罠解除 》


< 投擲師 >

 弓矢を用いない、投石、投槍などの投擲攻撃を得意とする後衛職。

 投擲スピードや、命中率の補正スキルを持つ。

 主な習得スキル:《 スピードシュート 》《 投擲術 》


< 道具士 >

 アイテムの使用に長けた補助職。

 アイテム効果の強化、使用速度強化、範囲拡大のスキルの他、一部、低級製作系スキルも習得可能。

 主な習得スキル:《 道具の知識 》《 回復薬効果Up 》


< 地図士 >

 地図を作成する事を得意とする補助職。

 正確なマップ情報の取得スキルの他、低級の紙、インクなどのアイテム作成スキルも習得可能。

 主な習得スキル:《 地形把握 》《 地図作成 》


 と、並ぶ。正直、< 双剣士 >か< 斥候 >しかないだろう。

 しかし、なんだろうな、この……


「なんか、僕ら二人とも地味だよね」

「なあ。もうちょっと、こう、中二テイスト溢れるクラスはないものか」


 物語で出てくるようなユニーククラスとか、そういうのが欲しかった。< 剣聖 >とか< 武神 >とか< 賢者 >とか。

 敢えていうなら< 双剣士 >だが、二刀流は猫耳も使ってたし、そんなマイナーな職業でもないんだろう。

 < 忍者 >はないのか、ニンニン。


 そんな事を言ってても始まらないのでヴェルナーを中に呼び、質問を開始する。別に適性クラスを隠す必要も感じないし。


「なんでしょう」

「いくつか質問があるんだが、まず、《 ラピッド・ラッシュ 》を覚えるのが< 遊撃士 >ってクラスと聞いたんだけど、ユキの取得可能クラスにないんだよ。スキルを習得しているのに適性がないなんて事はあるのか?」


 猫耳が言ってたのは確か< 遊撃士 >のはずだ。ユキの適性クラスに聞き間違いそうなものはない。


「それは、なかなか難しい質問ですね。実はこの時点での講習には出てこない範囲なんですが、ツリークラスと呼ばれる、これらのクラスより大きなカテゴリがあるんです。たとえば< 戦士 >や< 剣士 >は< 軽装戦士 >というツリークラスの中に含まれます。そういうツリークラスの中に< 遊撃士 >があるんですね」


 講習範囲外という事もあって理解が追いつかない。


「うーん、これまでの範囲の情報だと中々分かり辛いかもしれないですが、実は中級ランクあたりで、このツリークラス内のクラスであれば、もう一つクラスを追加できるようになるんです。たとえば、ツナさんが< 剣士 >を取得して、更にそこから修練を重ね、ある条件を満たすと< 戦士 >も同時に取得する事もできるようになるんです」

「似たようなクラスであれば、いずれ複数のクラスを取得できるようになると」

「そうです。< 遊撃士 >は、< 斥候 >や< 罠師 >などのツリースキルです」


 それなら、本来の場合ユキが《 ラピッド・ラッシュ 》を習得するには< 斥候 >になる必要があったという事だ。

 実は、ツリーの名の如く枝構造になってるのか。


「《 ラピッド・ラッシュ 》習得は< 遊撃士 >Lv15だと、トライアルの同伴者が言っていたんですが、これはどういう意味になるんですか?」

「ツリークラスのLvは内包するクラスの合計になります。Lv15程度ではあまり関係ないですが、言ってみれば< 斥候 >のLv15でも、<罠師>のLv15でも《 ラピッド・ラッシュ 》は習得します。システム上は< 斥候 >Lv10の<罠師>Lv5という内訳でも習得しますね。まずこんな状況にはなりませんが」


 なるほど。分かり辛いが、言いたい事は分かった。

 現時点ではユキの適性クラスに< 斥候 >以外の< 遊撃士 >クラスは無いため、< 遊撃士 >=< 斥候 >だという事が分かればいい。


 ついでに、意味はないかもしれないが、その他のクラスについてもツリー構造がどうなっているのか教えてもらった。


■< 軽装戦士 >

├< 戦士 >

├< 剣士 >

├< 双剣士 >

└< 剣闘士 >


■< 重装戦士 >

├< 闘士 >

└< 斧戦士 >


■< 射撃士 >

└< 投擲師 >


■< 格闘家 >

└< グラップラー >


■< 冒険者 >

├< 荷役 >

├< 道具士 >

└< 地図士 >


 二つ目のクラスを所得する場合でも、結局は似たようなカテゴリになるから、最初に方向性を選ぶ際は気にする必要はないという事だろうか。

 こうして情報が出揃うと思うが、戦闘は戦闘、補助は補助という形で特化してしまうな。


「ちなみに、この俺たちの適性クラスは他と比べてどんな感じなんだ。みんなこんな感じなのか?」

「そこまで変わったものはないですね。敢えて珍しいというなら< グラップラー >と< 地図士 >でしょうか。< 地図士 >は地図作成に慣れてきた中級ランクあたりで見られるクラスです。唯一、< グラップラー >はこの段階で出てくるクラスとしてはかなり珍しいですが、< 格闘家 >を目指す人でも最初には就かないですね。ピーキー過ぎます。冒険者ではなく闘技場を専門にする格闘選手などが就いてる事があります」


 やはり、特殊なユニーククラスはないらしい。< 双剣士 >も普通にあるクラスで、下級連中にもたくさんいるという。

 唯一< グラップラー >だけはわりと希少らしいが、これは選択肢としては論外だ。モンスター相手では幅がなさ過ぎる。

 グラップラーといいつつも、そんなにグラップリングしない地下格闘場のチャンピオンがいるのと同じだ。


「第四層ボスのリザードマンが、あきらかに剣士なのに魔法を使ってきたんですが、このシステムだと難しくないですか?」

「いえ、別に魔術士系のクラスに就かないと魔術を覚えないという事はないです。自力で覚える人もいますし、スキルオーブでも取得可能です。

この中だと、たとえば< 荷役 >が覚える《 アイテム・ボックス 》というスキルは魔法のカテゴリなんですが、ほぼ誰でも習得できたりします」


「ちなみに、一回クラスを選んだあとに、他のクラスに就き直す事は可能ですか?」

「可能です。習得スキルも忘れずそのまま残ります。ただし、スキルの中にはクラスに就いている事が前提条件のものもありますので、そこは気を付けて下さい」


 なるほど、転職可能ならそこまで悩む必要はないな。

 スキルは習得できるわけだし、その時に転職可能なクラスが増えているという事もありえる。


「補足ですが、ここではダンジョン探索に関係のないクラスは表示されません。一部< 鍛冶師 >や< 採掘師 >などを除き、< 清掃人 >などの一般的なクラスは別のギルドで取得する事が可能です。一般の方はこういったクラスを冒険者ギルド以外のギルドで取得します」

「一般の人だとベースレベルは上がらないんじゃなかったのか」

「一般人がモンスターと戦ってはいけないという法律はありませんし、複数のギルドに所属も可能ですから」


 ダンジョン以外でもモンスターと戦う場所があったりするのか? ……闘技場とか。

 この街だと、一般人だからといって必ずしも、か弱かったりしないということか。

 "自分は強いんだ"と調子にのってる冒険者が一般人に叩きのめされる構図もあり得るわけね。


 こうして、長い講習も終わり、俺は< 剣闘士 >、ユキは< 双剣士 >のクラスを取得した。恐ろしく地味なクラス構成だぜ。




-4-




 その翌日、俺はギルド会館までやって来ていた。まあ、毎日来てるんだが。


 クラス取得も終わり、無限回廊第十層に挑むための準備も済ませた。

 だが、安い防具とポーション、カレー粉と水・食料を買い込み、いよいよ明日ダンジョンに潜るぞという微妙なタイミングで、トライアルダンジョンの編集会議だ。

 ダンジョン潜る前日とかにセッティングしないで欲しい。いや、絶対明日ダンジョンに挑戦しなきゃいけないって事はないんだけどさ。


 ちなみに編集会議も今回が特別で、通常は冒険者が動画公開する場合でもこんな会議はやらないらしい。本来は編集作業なども冒険者本人が行うという。

 一体、何をするんだか良く分からないが、掲示板で書いてあった無料放送とやらが関係あるのかもしれない。

 ギルドとして放送するから、音楽とか演出とか頑張っちゃうのかもしれないな。なんかかっこいいロゴとか。


 ユキは少し遅れるとの事だったので、俺だけ先にギルド会館へと入る。

 まだ少しだけ時間はあるので、食堂か待合所で何か飲もうかと考えていると、食堂に何やら見たことのある猫耳がいるのが見えた。


 まあ、自分が出てる動画の編集なんだから、いるのは当たり前か。

 いつまでもあの時の事を引き摺っててもしょうがないし、誰のとはいわないが、こういうトラウマは早目に治療しないといけない。

 仮にも先輩である人とギクシャクするのもなんなので、ここは積極的に話しかけてみるべきだろう。

 俺は飲み物片手に無言で、テーブルをはさんだ猫耳の対面に座った。


「……んニャ。ニ゛ャ!? ニャニャニャ……」


 ついに本当の猫になってしまったのだろうか。隠しステージでは、別にニャとか付けてなかったのに。


「なななな、なんニャ。まさか、あちしを食う気かニャ」

「食わねーよ」


 どんな化け物だそれは。人を食う化け物が闊歩する食堂とか超怖い。


「編集会議なんだからいるに決まってるだろ。そっちだってそうだろ」

「あ、ああ、そうニャ。……いけないニャ。どうもトラウマが……」

「……まあ、ずっとこのまま話さないってわけにもいかないだろ、お互い」


 同じ冒険者なんだし、会館で顔を合わせる事だってあるのだ。

 それに、別にこの猫耳だって、好んであんな仕事をしたわけじゃない事くらい分かってる。


「まあ、そうニャ。こういう仕事でも一緒になるわけだし……。動画で編集会議とか、呼ばれる日が来るとは思わなかったニャ」

「ルーキーに負けて盛大に散ったチッタとして皆さんの目に止まるわけだ」

「…………」


 ……あれ、外した?


「それはともかくニャ……」

「なんだよ、スルーすんなよ! 渾身のギャグだったんだぞ!!」

「今のあちしにくっだらないダジャレとか通用するわけないニャ! 笑えないニャ!!」

「なんだよ、盛大に扱き下ろして欲しいならメールでテラワロス呼ぶぞ。実は小便漏らしてた事も言いふらして……」

「ギニャー!!!! やめろニャ!! それだけは!!」


 それはどっちに反応してんだよ。


「やめて下さいは?」

「や、やめて下さいニャ……。食堂でそんな事暴露されたら、とんだイメージダウンニャ。あちしのアイドルとしての人気もガタ落ちニャ」


 アイドルとか、そんな人気はないんじゃないかな。

 この動画が公開されたら、きっと人気者になれるぞ。主に掲示板とかで。


「……大体、この動画もマズいニャ。こんなの公開されたらウチの団長とか絶対見るニャ。クラン追い出されたりしたらやっていけなくなるニャ」

「ルーキーに負けるのは、クラン追い出されるくらいまずい事なのか?」


 そりゃ、冒険者はデビュー前後で全然性能が違うのは分かるから、下級ならともかくデビュー前のルーキーに負けるのはマズいだろう。

 だが、絶対有り得ない話ってわけでもないと思うし、動画見て、あれを不甲斐ないとはいわないと思うんだが。あの変なスキル発動するまでは圧倒してたわけだし。

 この猫耳が所属するクランは、絶対実力主義の厳しいクランなのか。


「あちし、隠しステージで語尾つけてなかったから、獣耳として失格とか言われそうニャ」

「そっちかよ!? ……って、お前のところのクランは、みんなそんな風に語尾になんかつけんのかよ」

「そうニャ。クラン全体のルールニャ。実は勘弁して欲しいと思ってるクラン員は結構いるけど、そんな事言うと団長にぶっ飛ばされるニャ」


 ひどいクランだ。絶対入りたくない。< 獣耳大行進 >というくらいだから、多分獣人じゃないと入れないんだろうけどさ。


「じゃあ、その団長も語尾になんかつけてるんだろ? それでぶん殴ってくるのか? ……すごいシュールな絵ヅラだな」

「ウチの団長は兎人族だから『~ピョン』ってつけてるニャ」


 あら可愛い。ひょっとして、みるくぷりんのサイトで見たウサ耳獣人さんと同じように、愛くるしい方なのかしら。

 ……可愛かったな、エリザちゃん。


「どんな人なんだ? その団長って」

「いつもグラサンかけてるスキンヘッドのおっさんニャ」

「なんでだよっ!! どこに需要あるんだよっ!! 意味分かんねえっ!!」

「あ、あちしに言われてもそんな事知らないニャ! 団長の容姿とか、どうしようもないニャ!!」


 くそ、俺の純情を返せ。

 俺の中でのウサ耳さんのイメージが一気に描き変わってしまった。誰か俺の脳内からウサ耳スキンヘッドを消してくれ。


「ところで、ユキはどうしたニャ」

「ん、ああ、あいつはちょっと遅れてるだけだよ。……お前、あいつに謝っておいたほうがいいんじゃねえ?」


 あいつにしてみれば、頼りにしてた先輩にいきなり首掻っ切られたわけだし。


「う……、そうだニャ。そうするニャ。仕事とはいえ、あちしだって悪い事したと思ってるニャ……」


 俺は見事倍返しにしてトラウマ植え付けてやったわけだけど、ユキはただ一方的にやられただけだからな。


 そんな話をしていたら、ユキが会館に入って来るのが見えた。

 キョロキョロと辺りを見渡し、俺の姿を見つけると、まっすぐこのテーブルまで向かってくる。


「あ、ツナに食い殺されておしっこ漏らしたチッタさんだ。やっほー!!」

「お前らやっぱり最悪ニャッッ!!」




 ……まあ、ユキなりに気を使ったのだと信じたい。



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