第2話「冒険者は見た」
-1-
娼館への道のりは長く、険しい。
この街に来て間もない俺は、そもそもこの街の地図を良く知らないわけなのだが、ここでまず挫折した。
サイトにあった地図の"中央交差点駅前"という言葉に釣られて、以前行ったトライアルダンジョンへの道を辿ればいいのだと勘違いしていた。
ダンジョン近くへ行っても"中央交差点駅"なんて場所は存在しないのだ。そもそも駅ってなんだよって感じである。
ダンジョン転送施設があるのは迷宮都市中央部。これはいい。初心者講習のパンフレットにも書いてあった。
でもそれは、冒険者たちが主に活動する、"ダンジョン区画"と呼ばれる地域の中央部に過ぎなかったらしい。迷宮都市"ダンジョン区画"中央部だ。
それをダンジョン転送施設の係員さんに聞いた時、俺は愕然とした。
俺たちが迷宮都市と思っていたのはただの一区画で、新規移住者が簡単に移動できないよう制限をかけられ、数倍もの地域が広がっているのだという。
冒険者の場合、いわゆるデビュー資格を得た時点でこの移動制限は解除されるようで、俺が目的地である娼館に向かうのは特に問題ないらしいという事は分かった。
正直、ここで移動しちゃ駄目とか言われてたらどうしようもなかった。
予期せぬ展開に呆然としながら、改めて、クーポン券片手に"中央交差点駅前"を目指す。
だが、想像していたよりも迷宮都市という街の規模が広い。異常に広い。ダンジョン区画の数倍という規模は伊達じゃない。
迷宮都市に来る馬車の中ではトカゲのおっさんがデカイといっても、『王国の一部というくらいだから、直前までいた王都のほうがでかいだろう』と思っていた。
多少事情を知ってからは、『いくら色々おかしい日本人の転移者が作ったからって、そこまで規模がデカくなる事はないだろう』と考えを改めた。
そして、今回街の全体像の話を聞かされてからも、『いくらなんでも、大の大人が迷子になるほどではないだろう』と、そう考えていた。
甘過ぎた。ここまで何度も、迷宮都市に常識をぶち壊されてきたのに、まだ甘かった。
洒落になってない。なんだこれ。こんなの覚えられねえよ。田舎者なめんなよ。実は《 田舎者 》スキルも持ってるんだからな。
有り体に言って、俺は迷子になっていた。
しかも、ここで俺の前に更なる壁が立ちふさがった。交通手段である。
迷宮都市ダンジョン地区の外縁部、というか俺たちが入ってきた入り口の門付近は、外から来た人たちに配慮してか、自然とそうなったのか分からないが、乗り物の類は馬車くらいだった。
物すごく発展してるけど、ファンタジーとして見ようと思えば見えない事もない、という風景が広がっていたので、根本的なところはどこも変わらないんだなと思っていた。
あるとしても精々、ドラゴンが馬車を引いていたり、ワイバーンが籠を運んでいたりと、それくらいだと思っていたのだ。
実際、コンビニなどはあるにせよギルド会館の周り、さっき知った言葉だが、"ダンジョン地区"はその認識で間違いない。
だが、これでもまだ認識が甘かった。
真の街の中央に向かうに連れて、段々とハイテク化していく街の景色。
極当たり前のように車が、バスが往来し、電車が走る。何故か馬車や人力車もあったがそれは別にいい。
複雑な、迷路のような駅の構内で迷子になった俺は、クーポンを片手に駅員さんに道を尋ね、路線情報を必死に確認した。
ラストダンジョンと呼ばれる東京の地下鉄と比べられるほどじゃないが、なんでこんなに路線が必要なんだよと言いたいくらい、交通網が無駄に充実していた。
ダンジョンマスターは鉄ちゃんじゃないだろうな。
というか有り得ない。
百歩譲って、この街に来てから今日まではほとんど時間もなく、やらなくちゃいけなかった事で満載だったから気付かないのもあり得なくはないだろう。
でも、王都で暮らしていた時にダンジョンがある、なんでも願いが叶うってのはたくさん耳にしたが、こんなでかい街が存在しているなんて聞いた事がない。
だって、俺が認識した規模だけで、王都の数倍以上だ。領地の大きさがじゃなく街の規模がだ。こんなのいくら情報規制してても外に情報が漏れないわけがない。王都から離れているってすったって、高々馬車で四、五日分の距離しか離れてないのに。
どう考えてもおかしいと、ダメ元でそこら辺の駅員さんに聞いてみたら、
『ああ、外から来た人は認識阻害かけられてますからね』
とか言い出しやがった。なんだよそれ、ふざけんなよ、意味わかんねえ。集団催眠かよ。当たり前の事聞くなって顔で言いやがって。
……ふう、まあいい。今の俺にとってそんな事は些細な事だ。今の問題は娼館< パラダイス >への道が分からないという事である。
頭のおかしい街の規模については置いておくとしても、交通網が整備されてるのだから、辿りつけないはずはない。
ファンタジーに染まって十五年経つが、俺も前世は日本人なのだから。
タクシーのようなものがあれば一番良かったのだが、その存在の有無はともかく、見た目でそれと分かるようなものは見つからない。
多分人力車の人はタクシーのようなものだろうが、人力車のお兄さんに『中央交差点近くの"みるくぷりん"まで』とか言うのは流石に恥ずかしい。大体、人力車で娼館に乗り付けるのはあまりに絵ヅラがひど過ぎる。最早罰ゲームの類だ。
そんなこんなで、"本当の"迷宮都市中央交差点を経由するらしい無料路面電車に乗ることができたのは数時間経過したあとだった。もう真夜中である。
なにやってるんだろう俺、と落ち込んだりもしたけれど、私は元気です。主に下半身が。
そんな無駄に元気な俺を乗せて路面電車は進む。
路面電車だからか、スピードは遅い。歩いてる人が飛び乗れるくらいだ。でも、あと一駅で中央交差点前駅だ。娼館< パラダイス >は近い。
-2-
「あれー、ツナ君だ。やっほー」
そんな中、路面電車に見知った顔が乗り込んで来た。我らが同期のクローシェさんである。
この子に思うところは一切ないのだが、正直このタイミングでは会いたくなかった。彼女がどうこう以前に、女の子というだけでアウトだ。
さすがに俺でも、ほとんど初対面の子相手にして『俺、いまから中央交差点近くのみるくぷりんに行くんだ』とか開けっぴろげにする度胸はない。
女の子の口コミ情報は早いから、同期の女の子に話してもらえなくなる可能性すらある。
もしも行き先を聞かれたら駅名だけ答えて、あとは上手く誤魔化すんだ。
「こんな時間にどうしたの? 何か用事? どこ行くの?」
相変わらず、会話のペースが早い。というか、移動規制を受けていない事は承知なのか、俺がここにいる事は疑問にも思っていない。
ギリギリで攻略完了した俺たちが例外なだけで、普通なら資格を得てからデビューまでの空白期間に、実際の街の規模や移動規制について教えてもらったりするのだろうか。
「ああ、ちょっとね。中央交差点前駅まで」
「へー、あたしと一緒だね。偶然。誰かに会いに行くのかな? 新人冒険者が行くような施設とかないよ、あそこ。お店も今の時間だとコンビニくらいしか開いてないし」
これから、みるくぷりん所属のソープ嬢ニーナちゃんに会いに行くんです、なんて間違っても言えない。
くそ、道に迷わなければこんな窮地に立たされる事なんてなかったのに。電車なんて嫌いだ。
「あ、ああ。く、クロは何しに行くんだ? こんな夜中に」
「あたし? あたしは実家に帰るの。中央交差点前が最寄りなんだ」
「へ、へー。随分いい所に住んでるんだな。迷宮都市のど真ん中なんだろ」
その名前の通り、中央交差点は"本当の"迷宮都市の中心部である。みるくぷりん、なんて風俗店もあるにはあるが、基本的に地価の高い場所だろう。
王都でいうなら、多分王城近くの貴族街だ。この街には貴族いないとかダンジョンマスターが言っていたが、それより遥かにいい暮らしをしてる人たちが住む場所だろう。
「あたしは駆け出しのペーペーだけど、実家はお金あるからね。お姉ちゃんもお金持ってるし。ツナ君もうち寄ってくかい? いきなり連れて行ったら、お姉ちゃん驚くかも」
そんな軽いノリで男の子を家に招かないで欲しい。しかも実家だろ? なんて言って紹介するんだよ。
「こんな時間に男がお邪魔するのはマズいだろ。アーシャさんに会うにしてもまた今度にするよ」
「そっか、残念だね。そういえば、ツナ君はどこに……「あー、そういえばさ、もう無限回廊に潜ったか? 俺たち登録ギリギリだったから、まだG級の昇格手続き終わってないんだよね。だからまだ挑戦できなくてさ」
ギリセェェェーフ! 超危ねぇ!!
「そだね、あたしたちは昨日行ってきたよ。第十層はボスがいるって話だったし、第五層で戻って来ちゃった。でも、思ってたよりは敵も強くなかったし、数もトライアルの後半と変わらないかな。違いっていえば、軽いトラップがいくつかあったくらい」
「そうか、ちょっと不安だったけど、俺も大丈夫かな」
「ツナ君なら大丈夫でしょ。あ、でも宝箱は見つけてもスルーした方がいいかもね。鍵かかってるし、まわり敵多いし」
「ああ、俺たちもトライアルの第五層で宝箱は経験したよ。あれヤバイよな。埋まるかと思ったわ」
2か3レベル上がればいいと思ったのに、あれのおかげで結局6もレベル上がったからな。結果的には良かったんだろうが。
「え、トライアルって第三層だけじゃなくて第五層にも宝箱あったんだ」
「ああ、水飲み場もあったし、多分あそこ、ボスに挑む前に鍛えるところなんだろうな」
よし、いい感じに話題の方向転換ができたぞ。
「そうなんだ。あたしたちも第五層は色々回ったけど見つけられなかったな。一回目の挑戦なんて、そのままボス部屋入っちゃったし」
なんというか、思惑通りの展開してるんだな。
「あ、でも、話は戻るけど、無限回廊の宝箱は気をつけたほうがいいよ。一緒にトライアル受けた子で、宝箱の爆発トラップにかかって死んじゃった子いるから」
「ソロだから罠解除できない奴もたくさんいるだろうに。そんな一撃死トラップまであるのか」
「みたいだね。かかった子も何がなんやら分からないまま死んだって言ってた。動画見たら顔が吹き飛んでたらしいよ」
グロいな、おい。自分の顔が吹き飛ぶ瞬間とか見るのかよ。
「分かった。ユキにも言っとくよ。あいつはそういうのは問題ないだろうけど。……話は変わるが、新人戦の面子とかってもう決まってたりするのか?」
無限回廊の浅層も、新人戦も俺たちの話題としてなんら不自然ではない。このまま駅まで押し通すんだ。
あと一駅で中央交差点前駅なのだ。クロの性格だと、『どこ行くの? 案内しようか?』なんて余計な事を言ってきそうでもあるが、上手く躱すんだ。あれだけミノさんの攻撃を躱した俺ならやれる。
「そりゃあね。というか、普通決まってる……あれ。ツナ君たちまずくないかな」
「何よ」
「新人戦って三人で戦うでしょ。新人の子たちって、大体トライアル攻略した六人を二つに割ったりしてチーム組むから、ほとんどチーム決まっちゃってるよ。新人戦近いってみんな知ってたわけだし、かなり前からメンバー固まっちゃってるんじゃないかな」
なんですと。
「え、余ってる人とかいないの?」
ぼっちさんとか。ほら、フィロスとかはゴーウェンとの二人組だし。
……いや、俺たちも二人だからあいつらとは人数が合わない。まて、ユキがフィロスたちと組んだりしたら、俺がぼっちじゃねーか。いくらなんでも泣くぞ。
まさか、ユキさんそんな事しないよな? しないよね?
「いるのかな……。最近はメンバー調整の話すら話題に上がってないし……。あたしも周りに聞いてみようか?」
「ごめん、マジでお願い。俺たちデビュー直後で新人戦だから、正直三人目に期待してたところあるんだよね」
「うん。……って同期なんだから、それはあたしも同じだけどね。でも、今の時期にチーム決まってない人って大抵問題あるんじゃないかな」
「最悪、二人で戦うしかないのか……」
「フィロス君も……駄目だね、あっちも二人だ。いっそ、ユキちゃん向こうに入れて、ツナ君一人で中級ランカーと一騎打ちとかどう? 盛り上がるよ」
やめて下さい。俺の懸念をそのまま口にしないでください。なんかそれ、似たような事やったばっかだし。
支援職の猫耳でさえあんな戦闘力だったのに、真っ当な戦闘職相手に俺一人でどーするっちゅうんじゃ。
「ツナ君、目立ってるからね。指名してくる相手も絶対強いだろうし。というか、ウチのお姉ちゃんとか相手になったらどうする? 中級以上なら権利はあるわけだから有り得なくはないよ」
あの人、洒落にならない強さなんじゃないの?
「アーシャさん、どれくらい強いのよ」
「すっごく。ツナ君たちは外から来たばっかりだから知らないだろうけど、< 流星騎士団 >の< 朱の騎士 >ってちょっとした有名人だよ。冒険者やってる人なら知らない人はいないくらい」
何それ、俺の中の中二病が疼くネーミングは。
「ランクとかは?」
「B+」
いやねーよ。ガチトップランカーじゃねーか。
新人が三人がかりとはいえ、最前線一歩手前の人相手に戦えるわけないだろ。どんだけだよ。
「おねーさんの気が迷わないよう止めては頂けないでしょうか」
そこまで勝敗にこだわっているわけではないが、ボーナスをもらえるならそのほうがいい。
「う、うん、流石に上級が新人戦に出てくるとかはないと思うけど、実家に帰ったら言っておくよ」
そんな、今後が不安になる話をしながら、路面電車が中央交差点前駅に到着した。
ここまで異常に長かったが、ようやく目的地だ。
-3-
やはり案内を買って出ようとしたクロさんを半ば強引に振り切り、みるくぷりんを探す。
もう夜中だが、時間的にはまだ開業時間中のはずだ。
クーポンと合わせて印刷してきた地図を広げ、それを頼りに店を探す。ダンジョン近くとは違い、地図も形も確かにここだ。間違いない。
店が近付いてくると、なんかそれっぽい、俺と同じオーラを発したお仲間さんが歩いてるのを見かけたので、それに付いて行く。
まさしく、といった感じで、見事店に辿り着く事ができた。
やはりというか、表通りからはちょっと奥に入った、周りの住宅地と少し距離のある敷地。
ちょっとケバケバしいが、洗練された夜の店。そこに僕たちのパラダイスはあった。
ショッキングピンクが目に痛いが、俺の脳内も同じなのでなんてことはない。
無駄に紳士然とした店員を呼び止め、中に案内してもらう。
格好だけならクロたちと行った高級レストランの店員さんと似ているけど、中身が違う。何かこう、すごいエロオーラを感じる。
間違いない。この人たちはエロスのプロフェッショナルだ。
案内された待合室には、数名の客が待機していた。この人たちもヴェルナーのページを見て来た冒険者だったりするのだろうか。
一般客もきっといるのだろう。まさか冒険者専用とは考え難い。
だがたとえ冒険者でなくても、ここにいる俺たちは兄弟だ。固い絆で結ばれた朋友になれる事だろう。
別に、話しかけたりはしないが、心の中でだけそう思っておく。いきなり話しかけるとか恥ずかしいし。
「あのさ、俺今月昇格したから違うサービス受けられるんだよね」
「そうですか、おめでとうございます。追加されるサービスは多少値段が高くなりますが、よろしいでしょうか」
「全然問題ないよ。そのメニュー見せて」
「畏まりました」
そんな店員と客のやり取りに耳をすませる。
くそ、なんて羨ましいんだ。ランク不問でもサイトで紹介されたようなサービスが受けられるなら、彼は一体どんな桃源郷に至ってしまうというのか。
よし、俺もランク上げよう。ダンマスに会った時はそうでもなかったが、これはモチベーションが上がる。アゲアゲだ。
いや、もちろんユキの目的を叶えるのが第一だよ。これはあくまでおまけだから。
迷宮都市すげーな。俺、これだけのために金稼ぐ気になるわ。
「お客様、ステータスカードをお預かりしても宜しいでしょうか」
「はい。どうぞ。まだG級発行手続き中だけど、ランク不問のサービスもあるんだよね」
「もちろんです。一般の方もいらっしゃいますので。発行手続き中でもG級として扱わせて頂きますよ。多少内容は制限されますが、Gランクでしたら、こちらのメニューの二十ページ目まででしたら提供可能です」
そう言って店員が渡してきたメニューは、とても分厚いものだった。
これは、なんという……。この分厚さの中のわずか二十ページ分しかサービス対象じゃないなんて、世界にはまだこんなにも希望が隠されているというのか。
「女の子のご指名などはあるでしょうか。なければそのメニューの三ページ目から現在待機中の子たちの紹介が載っておりますので、そちらからご指名下さい」
「あ、初めてなんでメニューからで」
「畏まりました。では一時的にカードお預かり致します。手続きに十分ほどお時間頂きますので、その間ご利用サービスを検討下さい」
「あ、クーポンあるんだけど、これ使える?」
そう言って俺はヴェルナー様のクーポン券を出す。
「はい。それでしたら、メニューの『ヴェルナー印』のマークがついたサービスも利用可能です。では失礼します」
そうか、ヴェルナー様ちょーすげー。
なーにメニューに専用項目作っちゃってんのって感じだ。俺の中で吸血鬼株が大上昇中である。ストップ高だ。全力で信用買いである。
今だったら血を吸われてもいい。
待ち時間の間、渡されたメニューを見ると、一、二ページ目が目次、三ページ目から十五ページ目までは女の子の紹介。
そこから二十ページまではサービス内容の紹介が書かれていた。オプションサービスについてもここだ。
ただし、そこから先は謎の力が働いていてページを開く事もできない。これは魔法かなにかなのだろうか。なんと無駄な技術だ。
くそ、ここまでしてサービスを隠すなんて。一体どれだけの内容が書かれているのかと、妄想が膨らんでしまうじゃないか。なんて悪どい手法なんだ。
仕方ない。まずは選択可能なサービスから選ぶんだ。今やれる事を全力でやる。これが大事だ。
実は、ヴェルナー様の紹介にあったニーナちゃんがいい感じだと思っていたのだが、現在はちょうど来客中らしい。
紹介ページの写真がグレイアウトしており、[現在来客中]と表示されている。紙媒体のはずなのに、リアルタイム更新なのか。
ニーナちゃんは残念だが、選択可能な他の子もいい。正直端から誰を選んでも満足させてくれそうだ。
じゃ、じゃあ、一番手前からで、このアリスちゃんにしちゃおうかな。次は違う子選べばいいよね。そんな事言ってアリスちゃんにハマって指名しちゃったりするんだろ。このぉ。
サービスの方は、ヴェルナー様のクーポンにより、デフォルトで時間延長はついてくるようだ。
一番目を引く女の子追加のサービスは残念ながらクーポンの対象外だ。G級でも二人までは追加できるらしいが、女の子三人とか一体どんな酒池肉林が待っているというのだろうか。
くそ、駄目だ。もう一回来るのよりも高いサービスを選択する事は俺にはできない。
とりあえず今回はアリスちゃんだけで我慢するしかない。いやいや、アリスちゃんで我慢とか、何言っちゃってんの、俺。
あとのサービスもすさまじいラインナップだ。
残念ながら時間延長以外でクーポンを利用できるのは一つだけなのだが、その内容には度肝を抜かれる。
一体誰がこんなものすごいものを考えたんだろうという奇想天外なものまでラインナップされている。きっとこれを考えた奴はド変態だ。友達になりたい。
……しかし。しかしだ。
何故か、何故かメタ的な力が働いて、サービスの内容を事細かに説明する事ができない。
これはどうしようもないんだ。みんなすまない。
一体誰に謝ってるのか自分でも良く分からないが、とにかく、この中で最善のサービス内容を検討するんだ。
現在の所持金、次回の来店に必要な金額、そして、サービス内容から、限界まで思考して現在できる最高のサービスを選択するんだ。
大丈夫、俺ならできる。なんだってやってみせよう。
そして、わずか数分の時間で、俺にとっても最高のオプション構成が完成したところで、店員が戻ってきた。
正直脳が焼き切れるかと思ったがここが限界だ。次はきっと新しいステージへ到達してみせる。
よし、いよいよ本番だ。
-4-
< 冒険者PT ビッグ・タイフーン パーティチャット >
よしお:今回の収支とかってもう出た?
マルコ:まだ。
マルコ:今帳簿と睨めっこ中。
マルコ:まあ、前回よりマイナスじゃないぞ。アイテム使用量は多かったけど、黒は黒だ。
よしお:その分、ドロップ素材も多かったしな。
マルコ:床落ちしてた魔鉱石がでかいな。これだけでも前回の収支超えそう。
よしお:いくらになったんだ。
マルコ:オークション見ろ。現在値でも結構な金額だ。
よしお:ウホッ。なにこれ、マジで。こんなん見ると《 採掘 》欲しくなるよな。
よしお:あいつら、俺たちとは別の世界に生きてやがる。
マルコ:その分戦闘捨ててるからな。やめろよいきなり< 採掘士 >になるとか。戦線崩壊するぞ。
よしお:さすがにそれはない。けど、すげーな。魔鉱石でこれとか、一体どんな金の巡りがあるのか見当もつかんわ。
マルコ:鍛冶の世界はマジで鬼門だからな。知り合いに聞いても何言ってるのか分からんかった。
[トビー さんが入室しました。]
トビー:おはー。
よしお:おはーじゃねえよ。夜だよ。真夜中だよ。
トビー:体内時間的には朝なんだよ。だから俺はまだ元気だ。
マルコ:お前、探索の直後でそれはすげーわ。まさか、今日もか。
トビー:うん、みるくぷりん。
よしお:お前、稼いだ金全部つぎ込んでんじゃねーか。
トビー:そんな事ないよ、大体八割くらいだよ。
マルコ:お前のために会計やってるのが馬鹿らしくなってきたわ。
トビー:なんだよ、ニーナちゃん可愛いだろ。今日はもう接客入っちゃってるみたいだけど。
よしお:ニーナちゃんは可愛いな。可愛いは正義だ。
トビー:だよな。さっき入ったみたいだから、もうちょっと早く来れればよかったかな。
マルコ:お前、今月何回目よ。
トビー:五回目かな。
よしお:お前のその情熱には脱帽だわ。
トビー:あれ
マルコ:なんだよ。
マルコ:おい。
よしお:なんかあったのか?
トビー:悪い。店内で見たことあるのがいてさ。
よしお:風俗で知り合いと会うとか、あんまり想像したくないな。
トビー:いや、知り合いじゃなくて。あれ確か。
トビー:あいつ、例のルーキーじゃね?
よしお:例の?
マルコ:お前、ルーキーに知り合いなんていたのか?
トビー:いや、そうじゃなくて、掲示板でやたら騒がれてるのいるだろ。
よしお:トライアルの最短攻略の奴か?
トビー:そうそれ。それのでかいほう。
マルコ:すげールーキーだな。いきなり娼館かよ。
トビー:期待できるな。きっと大物になるぜ。友達になりたい。
よしお:お前本当に性に大らかなやつだよな。
マルコ:で、どうよ、そのルーキーさんは。
トビー:なんかすげーな。迫力が違う。風俗通いとか年季入ってる感じ? 長老とか呼ばれそう。
よしお:どんなルーキーだよ。
マルコ:確か、外から来たやつだろ。じゃあ、結構年いっててもおかしくないな。
トビー:貫禄が違うな。女とか滅茶苦茶遊び慣れてる感じ? 店員にカード渡す姿とか、常連みたいな仕草だった。
トビー:俺とか、初めてここ来た時、子鹿みたいに震えてたのに(´・ω・`)
よしお:やっぱ外でも遊んできたのかね。
マルコ:すげーな、期待のルーキーとやらは。何もかも違う感じだな。
トビー:ルーキーだからそんな女の子選べないはずだけど、あの目は片っ端から食ってやろうって目だ。
よしお:どんな目だよwww
トビー:いやいや、女の子全部見たあとで一番最初の子選んだぜ。多分、一人ずつ試すんだろうな。
マルコ:お前みたいな常連になるって事か?
トビー:いや、きっと格が違うね。きっとランクが許すなら、全部一気に行く感じだ。今オプション選んでる。
よしお:初めてでオプションまで付けるのかよwww
マルコ:どんだけよ。新人なら確か今は無限回廊の第十層攻略中か?
トビー:多分、もう第十層まで攻略して、そのままここに来たんだろうな。そんなオーラを感じる。
よしお:どんなオーラだよ。
トビー:きっと第十層の戦闘とかじゃ物足りなくて、疼いた野性の血を沈めるために
トビー:あれ
よしお:なんだよ
よしお:おい
トビー:wwwwwww
マルコ:なんだよ。
トビー:すげー、ちょーすげー。意味わかんねー! 年齢制限でお断りされてるwww
よしお:なにそれwwww
マルコ:あ、そういえばあいつ十五歳じゃねーか。あたりまえだろwww
トビー:どうしよう。お断りの瞬間の写真取っちゃったwww
よしお:超すげー。なんてタイミングで現場に居合わせるんだよお前。
トビー:これはなんて素晴らしいコラ素材なんだ。ステータスカードの写真機能初めて有効活用したわ。
マルコ:お前さっき、すごいオーラとか貫禄とか言ってたじゃねーか。
トビー:いやだって、そういう雰囲気だったんだよ。でも、そんなのがお断りされてるんだぜ。マジうけるwww
トビー:あー笑った。俺、あいつのファンになるわ。
マルコ:超ひどい。
よしお:掲示板が加速するな。
マルコ:俺、画像加工の準備しとくわ。
-5-
もう絶望しかなかった。
期待に胸を膨らませて、色んなところが弾けそうな勢いで、店員さんが戻ってくるのを待っていたのに、返ってきたのは年齢制限の壁という死刑通告だった。
「これはひどい」
無限回廊のダンジョンアタックから帰ってきたフィロスが、昨日起こった事を聞いて、ただそう呟いた。
俺の心はもう完全崩壊した。もう再起不能だ。
あの現場を見ていた冒険者が写真付きで掲示板に報告したため、ループしてて話題に飢えていた板の勢いは更に加速。やつらの中で俺はすでにネタキャラ確定である。
「だ、だいじょ、大丈夫だって。い、いや、無理、もう無理……ひー」
俺の隣ではユキが腹抱えて笑っている。
口を開いてもいないのにゴーウェンも笑っているように見える。
ダメだ。俺はもう駄目なんだ。
「ど、どんなに意気込んでいったんだよって……顔して……」
あーもう、いくらでも笑うがいいさ。俺はもう色々諦めた。
クロやアーシャさんからも、感想メールが届くし、会った事もないのに、テラワロスからも爆笑メールが届いた。
初めてPCもどきに届いたメールがこんなのとか泣くしかない。
ダメだ、しばらく俺は立ち直れそうにない。
「しかし、年齢とか気にしなかったのかい? そういえば、王都なら大丈夫なのか」
「完全に頭から抜けてた。この街、二十歳で成人なんだよな。俺たち、ホントは酒も飲めないし」
「まあ、別に悪い事をしたわけじゃないし、ちゃんと五年待ってから行くんだね」
「フィロスはいいよな。もう行けるだろ?」
「いや、もうちょっとだね。そこまで興味はなかったけど、まあ気が向いたら行ってみるよ」
堅物っぽいフィロスでも、あの桃源郷にはかなうまい。こういう奴が案外ドハマりするのだ。
「はあ……」
どうしよう、あまりにダメージが大き過ぎる。
今なら、俺きっとヴェルナーを殺せる。どう考えても八つ当たりなんだけど。
「はーー、いや、……こんなに笑ったの久々だよ」
「お前は笑い過ぎだ」
「だってさ、出かける前のツナの行動と、途中で会ったクローシェの話とあの写真でしょ。ツナの心中考えるとそりゃ笑うでしょ。あーもう笑い過ぎて疲れたよ。掲示板に上がってたツナの呆然とした顔の写真、僕のPCの壁紙にしようかな」
「やめて下さい。……つーか、このあとのクラス説明会の担当ヴェルナーなんだよな。俺、正気でいられるかな」
「ヴェルナーさんは何も悪くないと思うんだけど」
いや、そりゃそうなんだが。
「で、お前らは無限回廊行ってきたんだろ?どうだった?」
「あ、そうだね。本当はその報告だったっけ。何も問題なかったよ。二人ともちゃんと第十層まで攻略した」
きっちりと攻略してきたのか。さすがというか。
やっぱりこの二人も優秀なルーキーなんだよな。
「第十層まで行ったって事はボスも倒したんだよな。どんなんだった?」
「まあ、結構強かったかな。ミノタウロスとは比べ物にならないけど。クマみたいなモンスターだった」
「クマ?」
それは普通の動物なんじゃないのか? クマー。ロシアあたりで何故かペド認定されてそうだよな。
「あれ、ツナ動画見てないの。昨日渡したでしょ」
「お前、俺がこの状況で見てるわけねーだろ」
「それもそうだ。……第十層のボスはクマじゃないよ」
動画に出てるのか。まあ、そりゃ動物じゃねーよな。
「第十層ボスはパンダだよ」
「動物じゃねーか」
「あれ、パンダっていうんだ。面白い模様だよね」
パンダって……。トライアルであんなに凶悪なモンスター出しといて、直後にパンダかよ。
「いや、でも結構強かったよ。ソロだと結構きついね」
「まあ、クマみたいなもんだからな。でも動物だろ」
「いやツナ、動画見れば分かるけど、動物園にいるような普通のパンダじゃないから」
「どんなパンダなんだよ」
さっきからパンダパンダと名前を言う度に脱力感がすごい。
俺の中でのパンダ像は笹食ってゴロゴロしてる変な模様のクマだぞ。
「動画で見た限りでは、ものすごいアクロバットなパンダだったよ。宙返りとかしてた」
「それはサーカスに行ったほうがいいんじゃないのか」
就職先を間違えてるぞ。
「僕が戦ったのは普通に二足歩行して、格闘技みたいな動きしてたね。パワーも結構あったし、トライアル第四層のリザードマンよりは強かったかな」
俺たち、普通のリザードマンの強さ分からないんだよな。基準がどうしてもあのおっさんになってしまう。
「おじさんは基準にならないけど、オークとミノタウロスの間くらいって思えばいいんじゃないかな」
「えらい間が開いてる気がするが、まあいいか」
あの時のおっさんと一対一でやり合うイメージくらいでいいか。強過ぎる想定でも別に損はない。
あんな流麗な剣術披露してくるパンダとか嫌だけど。
「そういえばさユキ、昨日クロから聞いたんだが、俺たち新人戦のメンバーヤバイかも」
「あー、それ、僕も聞いたよ。メンバーみんな決まっちゃってるって。まずいよね」
わりと切実な問題だ。どうやって三人目を探そう。
「フィロスたちはどうするんだ?」
「あー、実は僕らも決まってるんだ、三人目。ほんとたまたまタイミングが合ってさ」
「えー、そっちも決まったのか。僕ら益々切実な状態になったよ。僕だけフィロスたちに合流するって手が使えなくなっちゃった」
ユキさん、それはやめて下さい。
「お前のほうで心当たりとかいないのか?」
「いるわけないでしょ。この街に来てまだ五日だよ。知り合いもほとんどいないのに。そっちは?」
「いない……いないな。一人トライアル挑戦中の奴がいるにはいるが、最短で攻略して来ても講習間に合わないよな」
「リリカさんか……さすがに無理っぽいね。フィロスたちはどこから見つけてきたの? どんな人?」
「ガウルっていう名前の獣人だよ。銀狼族っていう狼の中でも特に希少な種族らしくてね。組んでたメンバーが家の事情で新人戦出れなくなったとかで、たまたま、僕らと話す機会があってその流れで。さすがに僕らより半年以上もデビュー早いと違うね。一回模擬戦やったんだけど、別格って感じだよ」
狼でガウルって、唸り声そのままじゃねーか。それとも何か意味ある名前なのか。すごい適当な名前に聞こえる。
でも、ゴブタロウよりはマシかも。
「あれ、じゃあ、その組んでた三人のうちのもう一人は?」
「残念。もう決まっちゃったみたいだよ。というか、もう一人のほうは君たちが迷宮都市に来る前にもう組んでたみたいだから。どっちにしても無理だったね」
「そうか、残念」
「もう、名簿ひっくり返すしかないな。この時期で接触して来ないわけだから、残ってるとも思えないけど」
「最悪は二人で挑戦だね。ただでさえ勝率悪そうなのになあ」
ま、それは鍛えるしかないな。
とりあえずは、このあとの説明受けて、クラス取得して、無限回廊第十層まで攻略してとやれる事は多いんだ。
第十層まで攻略すればF級のランクももらえて連携訓練にも入れるし、その中で、俺たちも戦力アップできるだろう。
三人目はいないものとして、二人で勝つ方法を考えるほうが前向きだ。
新人戦よりも先に、パンダを倒さなきゃな。
……パンダか。
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