第1話「今月デビューの新人を見守るスレ」
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「や」
その日、一人でギルドの食堂の飯を食っていると、どこかで見たちびっ子がやってきた。
迷宮都市の前で行列に並んでいた時に話した子である。名前は……そういえば聞いてないな。
「ども」
間に挟んだイベントがあまりに強烈だったので存在を忘れかけていたが、実は会ってから四日しか経っていなかったりする。
迷宮都市の冒険者になるためにあの行列に並んでいたのだから、ここにいるのは何も不思議な事じゃない。
「ちゃんと街に入れたんだ。……相席いい? 色々聞きたい事があるんだけど」
「どうぞどうぞ」
長らく女っ気のなかった俺だが、この都市に来てから急に女性エンカウント率が激増したようだ。しかも可愛い子ばかりだ。素晴らしい。
「そういや、自己紹介してなかったな。渡辺綱だ」
「リリカ。一応家名もあるけど、リリカだけでいい。……えーと、ワタナベが名前?」
そういや、迷宮都市の外では家名が前に来る事はないんだろうな。家名持ちとかほとんど会った事ないけど。
確か、故郷の領主やオカマ貴族は家名があとだった気がする。
「いや、家名が渡辺。といっても一人しかいない家の名前だけど」
「そうなんだ、変わってるね。じゃあ、ツナ君って呼んでもいい?」
「君でもさんでも呼び捨てでもお好きにどうぞ」
ユキなんか、最初から呼び捨てだったしな。シーチキンとか言いやがったし。
ちなみにこんな言い方だが、俺たちの会話は日本語でなく、王国で使われている共通語だ。
"君"も"さん"も、近い敬称を翻訳しているという認識で間違いない。いや、誰に言っているというのでもないが、念のため。
「じゃあツナ君、ここにいるって事は冒険者登録は終わってるって事?」
「そうだな」
「トライアルダンジョンに挑戦したなら、中の情報教えて欲しい」
トライアルダンジョン……。今更感がすごいが、情報持ってないなら、そりゃ俺が攻略完了済とは思わないよな。
「ああ、ある程度なら」
「そうなんだ。私、昨日ようやく登録して、受付のお姉さんにそんなテストがあるって聞いてね。挑戦前に情報集めてる」
うん、なんか普通でいいな。
ユキよ、普通はこういうもんだぞ。事前にできる限り情報集めてから挑戦するんだ。
いくら死なないからって、登録して講習受けて、そのまますぐにダンジョン攻略とかやらねえだろ。
「ソロ……一人で攻略するのか?」
「そうだね。私、外でも最近は一人だったから。どうしても無理なら仲間探す予定だけど」
「魔法使いだよな? 魔法使いの戦闘方法って良く知らないんだけど、一人でどうにかなるもんなのか」
魔法使いは、打たれ弱く、攻撃までの時間が長いけど、火力はすごーいというのが俺のイメージだ。
これまでに聞いた情報でも、純魔法使いはそんな感じらしい事はわかっている。
トカゲのおっさんのような、サブで魔法使ってますってのはまた話は変わるらしいのだが。
「世間一般の魔術士はそうだけど、私は師匠が変わってたから、一人でもなんとか立ち回れるって感じ。もちろん剣とかは使えないけど」
世間一般というのが、多分俺がイメージしている魔法使いなんだろう。
多分この子は変わっているってだけじゃなく、単純に強い。列に並んでた時は分からなかったが、こうして面と向かって話すと良く分かる。
これは強者のオーラだ。
ただ、迷宮都市でこれまで相対してきた化け物染みた強さではない、極真っ当な強者だ。きっと外では結構な経験を積んできたのだろう。
これまでエンカウントした奴らがおかしいだけなのだが、こうして普通の強い人と会うとちょっとホッとする。小さいし。
「外で冒険者やってるなら、オークは倒せるくらいなんだよな? オークを単独撃破できるなら、第三層までは問題ないよ。第四層以降は運もあるんでなんとも言えないけど」
ユキが言っていたような、オーク撃破ができる"外の基準で一人前の冒険者"であれば、第三層まではなんにも問題ないだろう。
それ以降は、トカゲのおっさんはあきらかに通常の試験官じゃなかったし、ミノはそもそも存在自体が秘密みたいだし。あまり助言する事がない。
「そうなんだ。……え、第四層まで行ったの? 最終層は第五層って聞いてたから、もう少しで攻略なんだ。早いね」
「いや、もう攻略完了した」
「……は?」
「今、デビュー待ちの手続き中です」
「え? えーと、何がどうなってそんな事に……。だって、門の前で会って四日だし、普通半年かかるって受付の人言ってたのに」
「最短記録らしいよ。ユキと……あの時後ろにいた奴と一緒に攻略したから、俺一人の記録ってわけじゃないけど」
「え、えぇーーっ!」
いいな、諦めていた異世界トリップ俺TUEEEものの主人公みたいな展開だ。もっとびっくりするがいい。わはは。
実際は後半二戦とオマケは辛勝もいいところで、全然TUEEEしてないけどな。
「さあ! なんでも聞いてくれたまえ。攻略済なんで」
「む、急に偉そうになった。いい、私もすぐに攻略するから」
攻略しても講習がないから、デビューまで最低一ヶ月かかるのは秘密だ。
「実際のところ、ただの登竜門だし、上の人たちとの差が極端に離れてるんでどうしたもんかと途方に暮れてるところだよ」
こっちはこのあとの『無限回廊』第十層までの攻略、新人戦とイベントが多いので、トライアルの事などほとんど頭に残ってなかった。
そういや、明後日、動画の編集会議があるとか受付の人が言ってたな。忘れてたぜ。
「そうか……。すごい壁に阻まれていた気がしてたけど、言われてみたら入り口みたいなものだし、そこまでの難易度じゃないか」
いや、それはどうだろうな。
世間一般の冒険者の実力は知らんが、弱体化してもアレを軽々突破できるかって聞かれると自信ないんだけど。
「じゃあ、攻略に詰まっても、ツナ君に助けてもらうのは無理なんだ」
「それは……どうなんだろう? どういう決まりになるか知らないからなんとも言えないけど、同伴者扱いになるのかな。……でもあれ中級の仕事だって言ってたしな。普通に考えるなら、他の攻略できてないルーキーと一緒に行くのが良いと思うぞ」
仕組みを考えるに、同伴者としてですら同行は無理そうではある。
「俺たちが一緒にダンジョン攻略するとしたら、順当に行ってもF級に上がってからかな」
「えふ級?」
「ここで使われてる文字の一種で、冒険者のランクを表したものだよ。俺は明日か明後日にG級に昇格して、F級はその上。そこからE、D、C、B、Aって上がってくんだってさ。実はそれぞれのランクも+とか-で細分化してるらしいけど。まだ詳しくは知らない」
「へー、そういう格付けがあるのか。外とは違うんだ。私のいたところとかすごい適当だった」
どっかで聞いた通り、外にはそんな格付けはないらしい。
この格付も、聞いてみた限りでは、よくAの上に設置されたりするSはないんだよな。今の最前線の人たちがA級だから、一〇〇層超えたらS級になるんだろうか。
ちなみに、フィロスたちはすでにG級に昇格済だ。俺たち二人はギリギリの攻略だったため、昇格手続きが遅れている。
今日もこれから色々手続きがあるのだが、デビュー講習から何枚書類書いたか分からない。日本語覚えてて良かった。
そんなスケジュールなので、あんまり空き時間もない。なので、ユキは今も飯も食わずに生活用品を買いに出かけてたりする。ヘアブラシがどーとか、洗顔料がどーとか。
「リリカは何か目標でもあるのか?」
「えーと、実はこれといって……。お祖母ちゃん……師匠が死んでからはちゃんと一人立ちするのが目標だったけど、もう一人前と言えば一人前だし。……そうだね、この街色々すごいから永住できるくらいには頑張りたい。どれくらいの物価で、冒険者がどれくらい稼げるかも分からないけど。そっちは?」
「あんまり変わらないな。元々は人間としての尊厳を保てるくらいの生活がしたいなって感じだったけど、今の時点でも一〇〇〇倍くらいいい暮らしできてるし」
とりあえず、一〇〇層目指しますってのは言いふらす気はない。
「一〇〇〇倍って……どんな生活してたの」
「貧乏自慢・不幸自慢が聞きたいなら、話してもいいけど、多分ドン引きされるレベル」
「あ、ごめん。やっぱりいい」
それでも、クリフさんよりマシだったっていう前提があるから笑い話にできるんだけどな。
ここでこんな人もいるんだぜって、クリフさんの話を始めるときっと俺が泣いてしまうし。
「まあ、リリカならすぐデビューできるんじゃないか? ……かなり強いだろ」
「……え、そ、そうかな。強そうに見える? 私小さいから初対面だと結構舐められるんだけど。えへへ」
「俺、わりとそういうの分かるから。とりあえず、魔法っていうほとんど未知の力もあるから喧嘩は売りたくないな」
未知の力ってのは脅威だ。相手の情報もなしに戦闘とか、本当だったら冗談じゃない。
ミノタウロスの《 強者の威圧 》や、猫耳の消えるよく分からんアレとか、初見でえらい目に遭ってるしな。
「へえ、……ごめん、こっちが侮ってたかも。やっぱりこれだけ短期間でトライアル攻略した人は違うのかな」
「普通、普通。それに、この街の冒険者で、見た目だけで舐めてくる奴はいないと思うぞ」
ユキだってあの見かけだが、周りの反応は全然普通だ。むしろ歓迎されている。違う意味でprprしてくる奴もいそうだ。主に掲示板とかで。
迷宮都市には、きっとものすごいのがいたりするんだろうな。見かけと強さが全然一致しない人。……ダンジョンマスターがすでにそれだな。ショタジジイとか、ロリババアとか会ってみたい。
「そういえば、冒険者としてはリリカの方が経験長いけど、ここだと俺のほうが先輩だな」
「なんて事……。街に入る前はあんなボロボロの服着た一般人だったのに、たった四日で追い抜かれるなんて」
「先輩って呼んでもいいよ」
「それは遠慮したい。……私、もう三年以上、この仕事してるんだけどなー」
と、ほとんど初対面でこんな軽いノリの話をしていたが、リリカもかなり規格外の部類だった。
この二ヶ月後に、"ソロ攻略"での正式デビューの報告を受ける事になるのだ。
-2-
午後、デビュー手続きの合間で、リリカと昼食時に会った事をユキに話してみる。
「その子って、入り口で会った子? ちゃんと冒険者登録してたんだね」
「ダンジョンマスターに聞いた話だと、俺たちの審査時間が特別短かっただけで、あのタイミングで門にいた奴らは登録しても講習が間に合わなかったみたいだな。リリカもちゃんと街に入れたのは昨日らしいし」
どこに泊まってたんだろうな。審査してる人たち用の宿泊施設でもあるんだろうか。
「そうなんだ。街も入れないで長い審査とか嫌だよね。でも、初心者講習の方は、普通の人だったら攻略中に一ヶ月過ぎるから、関係ないんじゃないかな? 僕らはトライアルダンジョン攻略が早かったから意味あったけど」
言われてみればそうだ。平均して半年かかるなら、一ヶ月待ちだろうがあんまり関係ないな。
俺たちみたいな即日デビューなど、普通は有り得ないし、フィロスたちの半月だって普通とは言い難い。
「でも、魔法使いの人って今まで会った事ないから、色々話聞いてみたいな」
「お前器用だから、わりと簡単に覚えられるかもな。そういや、適性検査の結果とか戻ってきたか?」
適性検査というのは、ダンジョンマスターの部屋で教えてもらった魔法の適性を調べる検査だ。
魔力導体という、魔力を流し易い水晶球のようなものに魔力を流して検査を行うのだが、この検査が地味な上に長いのだ。
昨日一日はそれでほとんど丸々潰れてしまった。
「まだだよ。一週間かかるって言ってたけど聞いてなかった?」
「げ、そんなにかかるのかよ。聞きそびれてた。……次の攻略で魔法使えるかなって期待してたんだけどな」
「それは残念だね。でも、ツナなら攻略自体は大丈夫なんじゃない?」
「これまでの事があるから不安ではあるけど、講師からは問題ないだろうって言われてるな。とりあえず目標の第十層は突破しないと」
俺たちはデビューしたてで、次回が初の本番攻略となるわけだが、次に挑むダンジョンはすでに決まっている。
といっても、挑戦するタイミングこそ違えど、新人が挑むダンジョンはすべて同じだ。
< 無限回廊 >。この街のダンジョンの中核ともいえるダンジョンの第十層まで。これを踏破する事が目標となる。
ただし一つ制限があり、この攻略は全員ソロで行わなければいけない。パーティを組んでても、ダンジョンに入れば自動解散して一人になるらしい。
俺たちがもらう冒険者ランクのG、いわゆる最下級ランクは新人がデビューしてからこの第十層踏破までの仮免許のようなものらしいのだ。
このG級でいる限り、迷宮攻略でパーティは組めない。無限回廊以外はそもそも入れもしない。トライアルダンジョンですら入れない。
元々、トライアル第五層のミノタウロス戦はパーティ戦を前提とした試験だ。いや、本当はそうらしい。
俺たちのような例外を除き、通常は六人前後のパーティで攻略する事が基本とされている。
その試験を突破した者の、個人としての実力を測るのがこのG級ランクでのソロ攻略の目的らしい。
ここまで言えば分かるだろうが、これは他の冒険者に寄生したトライアル突破者への対策でもある。
最低限の実力がなくデビューした新人をふるいにかける、第二の試験というわけである。
というわけで、俺たちのような少人数でミノタウロスを攻略した者にとっては、『無限回廊』の第一層~第十層は特段攻略が難しいというわけでもないらしい。
本番である『無限回廊』だからといって、最初からハードモードというわけではないようだ。難易度がひどい事になるのは大体第三十一層以降だと聞いている。
だから次の攻略では、一気に第十層まで踏破する事が、俺たちそれぞれの目標という事になる。
その後、F級のランクをもらってようやくコンビ再結成となるわけだ。
ちなみに、俺たちはトライアルを攻略したタイミングがタイミングのため、六日間縛りの制限を受けている真っ最中である。
G級昇格の手続きすら終わってない状況なので、フィロスたちが攻略を始める中、挑戦するのは最後発となる事がほぼ確定している。
そもそも、デビュー講習のギリギリでトライアルの攻略完了する奴があまりいないらしい。
「しかし、時間はあるっていってもやる事は多いよな」
いくら楽勝の太鼓判を押されているとはいえ、その間何もしないという選択肢はない。
迷宮都市の外なら英気を養うという選択肢もあるだろうが、ここでは自分の能力を鍛える選択肢が山のようにあるのだ。
先ほどの魔法の適性試験にしてもその一つである。
「お前はあと三日で何やるつもりだ? いや、もうあと二日半か。制限切れたタイミングで入るつもりだろ?」
「前日は動画の会議もあるし休むかな。明日は< クラス >の講習もあるけど、あと二日は装備調達とトライアルで覚えたスキルの練習がメインだね。こないだのスキルレベルの話もあるから、内部の値が見えなくても鍛えておきたい」
「俺、訓練はともかく、ポーションいくつかと、食料だけ大量に持ち込めば大丈夫じゃないかなって思ってたんだけど」
ユキはこういう事前準備に関してはかなり慎重派だ。
いきなりトライアルに挑んだ三日前はなんだったのかといわんばかりに、準備を整えているらしい。
元々、迷宮都市に来た時点で装備は充実してたわけだから、あの一回だけが特別で、元に戻っただけともいえる。
「ツナはそれでもいいんじゃない? トラップに引っかかろうが平気で突破するでしょ。野生児だから、食料も現地調達可能だし」
「お前の中での俺がどんなイメージなのか、簡単に想像できてしまうのが嫌な感じだな」
「実際大丈夫じゃない? ちょっと贅沢して、水とカレー粉あれば生きていけるでしょ」
「カレー粉は……そうだな、忘れてたけど買っておこう」
カレー粉は偉大です。カレー粉さえあれば、あのゴブリン肉だってZ級グルメからX級グルメくらいには進化するだろう。サバイバルで優先したい物品の一つだ。
水も嵩張るので、カードで用意したい。カードの場合、そのままのものを買うより三倍くらい高くなってしまうようだが、これは仕方ないだろう。水は重いし。
武器は不髭切があるので、これを使おうと思ってる。問題は防具だな。今度は服だけで挑戦とか馬鹿な真似は避けたいぜ。
「まあ、攻略失敗したら笑いに行くよ」
「自分は大丈夫って感じだな」
「事前調査はみっちりしてるからね。正直な話、僕ら二人とも何も問題ないと思ってる。だからって準備を怠るつもりはないけどね」
まあ、こいつがそう言うなら大丈夫な気もしてきた。
「いくつか攻略動画も買ったから、目ぼしい奴はあとで渡すよ。動画見るだけでもかなり違うと思うし」
「ああ、動画までは気が回ってなかったわ。そうだよな、実際の攻略風景見れるなら、そりゃ全然違うよな」
実際の攻略動画見てるならその自信もそこまでおかしくないか。
この短期間に何本も吟味できてそうなのはすげえ。確か、一本あたり二時間だよな。
「あとの問題は一ヶ月後の新人戦だね」
「そうだな」
デビュー一年以内の新人が、中級のランカーと戦う年次のイベントが、一ヶ月後に迫っているという。
タイミングが悪く、俺たちは一ヶ月に満たない期間での挑戦となってしまうが、そこはまあしょうがない。
「でも、三対一だろ。なんとかならないかね?」
ちなみに下位ランカーとはいえ、あの猫耳も中級だ。
相手にもよるが、三人で、万全の体制で望めばなんとかならないだろうか。俺たちはデビュー直後の挑戦だが、他の奴は鍛えてるだろうし。
「それはちょっと楽観視し過ぎかな」
「そうか? 今の段階だとどう考えてもキツイけど、もう一人強いの入れて、ここの環境でみっちり鍛えればなんとかならないか」
ダンジョンマスターも言っていたが、冒険者はデビュー前後で能力が隔絶している。それは、デビュー後に利用可能になる冒険者向け支援サービスによるところが大きい。
スキル購入にせよ、魔法の習得にせよ、無数に存在する訓練メニューにせよだ。公開される情報もまるで違う。
確かに相手の中級連中も同じ支援を受けているのだろうが、ずっと利用していた彼らより、デビュー直後の俺たちのほうが伸びしろはあるだろう。
ついでに、向こうは俺たちの情報はあまり持っていないだろうが、こちらは公開されてる相手の情報を事前確認して対策する事もできる。
というか、勝てばボーナスも出るらしいが、正直お祭りのようなものなので、そんなに勝敗にも拘っていない。
「甘いね。多分ツナは肝心な事を忘れてるよ」
「な、なんだよ」
「新人戦でエントリーしてくるランカーは、新人チームの指名権を持ってるって分かってる?」
新人戦は一チーム三人のエントリーだ。
このエントリー情報が、指名権を持つ中級以上の冒険者に公開され、戦ってやってもいいぜという冒険者が対戦チームを指名するのだ。
複数指名されたチームの場合は、より"ギルド貢献度?"というのが高い冒険者が優先されるらしい。
「そりゃ知ってるが……だから?」
「まだ分からない? きっとツナ目当てにすごい人が指名してくるよ」
……ああ、そういう事か。
ここまでの俺たちの記録は、間違いなく歴代でトップだ。そんな奴らを直接対決が可能な新人戦で指名してこないわけがないか。
この街は犯罪率こそ低いものの、冒険者連中が血の気が多い事に違いはない。
噂の新人を試してやろう、または伸びた鼻を叩き折ってやろうと考える人は……そりゃあいるだろう。勝ち目は薄そうだな。
「確かに俺ら目立ってるからな」
「そういう事。しかも、エントリーする人は中級"以上"なら権利を持ってるわけだから、下手したら上級が来るかも」
「そこまでかね。俺たちの実力を見たいっていっても、中級と戦うのを見てれば十分じゃないか」
「ツナは自分がどう思われてるのか、世間の声を聞いたほうがいいよ。……僕にもいえる事なんだけどさ、ネット上での僕らの扱いってちょっとすごいよ」
なんだ、晒しスレにでも上がってるのか。突撃降臨しちゃうぞ。
「デビュー講習で冒険者用の掲示板の話したじゃない?」
「ん、ああ、したな」
「今が旬な話題でもあるかもしれないけど、今そこで話題に上がってるの、どのスレッドでもほとんど僕らだよ。昨日見た中で一番書込多かったの『今月デビューの新人を見守るスレ』だったし。ツナと僕の個人名のスレッドもあった」
「…………」
晒しスレってレベルじゃないの?
俺、MMORPGでやんちゃしたプレイヤーが晒される程度の認識だったんだけど。
「関係ない題目の、ニュース速報みたいなスレッドまで僕らの事……特にツナの事が書かれるような状況。匿名じゃない上に規模も利用者も限られてるから、前世の某掲示板よりは荒れてないのは救いだね。あと、別に悪い事書いてあるわけでもない。まだ見てないなら一回見ておいたほうがいいと思うよ。実際、情報交換の場としてはかなり活用されてるみたいだから」
「オラ、急に不安になって来たぞ」
「遅いよ」
やだな、プライベートな生活まで見守られたりするのかな。
グラサンとか買ったほうがいいのかな。
-3-
【6/1】今月デビューの新人を見守るスレ 38【何かが起きた】
1 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 08:51:24.23 ID:※※※※※※
ここはデビュー直後の新人たちの動向を見守るスレです。
今月の新人情報は関連URL参照。
次スレは>>950が宣言して立てる事。無理なら無理って言えよ。
煽り、荒らし、テラワロスは徹底放置。いいか、触るんじゃないぞ。
煽り耐性のない人はとりあえずテラワロスをNGに、あとは荒らしを見つけたら運営に報告して下さい。
NG登録の設定方法は板のトップ参照されたし。
●関連URL
・ギルド公式サイト:ntp://*****************.go.jp
・新人情報:ntp://*****************.go.jp/shinjin
・テラワロス監視サイト:ntp://************kanshi-pugera.gr.jp
●前スレ
【その時】今月デビューの新人を見守るスレ 37【歴史が変わった】
ntp://*****************.com/****.cgi/shinjin/1358564
2 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 08:52:11.63 冒険者ID:※※※※※※
1乙
3 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 08:52:20.23 冒険者ID:※※※※※※
乙 あと、前スレ>>1000は死んだほうがいいと思う。
7 :(*´ω`*)@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 08:54:11.00 冒険者ID:※※※※※※
(*´ω`*)なかなかLvの高い男の娘が出現したと聞いて来ますた
8 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 08:54:12.22 冒険者ID:※※※※※※
>>7
(♯´∀`)カ エ レ
16 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 08:57:32.15 冒険者ID:※※※※※※
一昨日からずっと二人と一匹の名前しか出てこない件について あとテラワロス
20 :動画乞食@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 08:59:22.33 冒険者ID:※※※※※※
動画マダー (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
30 :目撃者A@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:00:04.34 冒険者ID:※※※※※※
俺、今週街門で審査のバイトしてたんだけど、でかい方が係のギルド員ジャイアントスイングしてたぞ
31 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:03:21.24 冒険者ID:※※※※※※
>>30
何その荒ぶる狂犬
街に入るための審査で係員振り回しちゃうの
32 :目撃者A@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:03:22.52 冒険者ID:※※※※※※
相手はいつものホモだけどな
34 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:04:55.01 冒険者ID:※※※※※※
無 罪 確 定
35 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:10:01.00 冒険者ID:※※※※※※
俺、あのホモにケツ触られた事あるわ
36 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:13:20.53 冒険者ID:※※※※※※
俺も
37 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:14:55.00 冒険者ID:※※※※※※
じゃあ、俺も俺も
40 :┌(┌^o^)┐ホモォ…@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:18:11.44 冒険者ID:※※※※※※
ホモしかいない件について
41 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:20:31.13 冒険者ID:※※※※※※
被害者なのに…… (´・ω・`)
55 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:25:50.11 冒険者ID:※※※※※※
で、実際どうなのよ例の
57 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:28:22.33 冒険者ID:※※※※※※
一昨日から何回同じネタ繰り返すんだよ もう飽きたよ
60 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:33:25.13 冒険者ID:※※※※※※
>>55
これまでのまとめ
・一日目 朝 王都から謎の二人組が馬車に乗って来た
・一日目 昼 二人組が街に潜入
・一日目 昼 定食屋で昼食
・一日目 昼過ぎ ギルドで登録
・一日目 午後 たまたま初心者講習やってたので受講
・一日目 夕方 そのまま同伴者に猫耳つれてトライアルへGo
・一日目 夜 トライアルクリア確認
61 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:34:10.10 冒険者ID:※※※※※※
端折り過ぎワロタwww
その謎の空白期間に何が起きたんだよ
63 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:36:11.41 冒険者ID:※※※※※※
というか、一日目しかない件について
70 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:39:14.02 冒険者ID:※※※※※※
つーか、まだ詳細分からんしな。
そのあと、なにかしたってのも聞かないし
75 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:43:00.00 冒険者ID:※※※※※※
↑のソースは?
テラワロスとかじゃねーだろーな
78 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:45:01.29 冒険者ID:※※※※※※
>>75
ギルド公式。
80 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:46:11.63 冒険者ID:※※※※※※
確定じゃねーか。
97 :動画乞食@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:53:03.53 冒険者ID:※※※※※※
動画マダー (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
103 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:58:53.22 冒険者ID:※※※※※※
>>97
なんか無料放送するらしいぞ
ソースは家の姉。
105 :動画乞食@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 09:59:59.00 冒険者ID:※※※※※※
まぢで!?∑(・∀・) ダメモトダッタノニ
106 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 10:02:00.13 冒険者ID:※※※※※※
確信した これは実況スレが落ちる
107 :(*´ω`*)@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 10:03:22.33 冒険者ID:※※※※※※
確信した これは流行る(*´ω`*)
108 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 10:05:33.23 冒険者ID:※※※※※※
落ちたらテラワロスが交流戦で殺された時以来だな
あと、その顔文字は流行らない
115 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 10:08:12.12 冒険者ID:※※※※※※
誰か突撃インタビューしてこいよ
120 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 10:11:33.52 冒険者ID:※※※※※※
やだよ、あのでかいの怖いし
121 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 10:12:03.17 冒険者ID:※※※※※※
でかくないほうは?
122 :(*´ω`*)@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 10:13:44.02 冒険者ID:※※※※※※
かわいい (*´ω`*)
140 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 10:14:24.03 冒険者ID:※※※※※※
今写真を確認
ひどい性別詐称を見た
145 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 10:16:55.42 冒険者ID:※※※※※※
……なあ、俺ら実は騙されてね?
147 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 10:18:14.52 冒険者ID:※※※※※※
あれなら、付いててもいいや。
152 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 10:19:55.19 冒険者ID:※※※※※※
違うだろ
付いててもいいやじゃない 逆に考えるんだ
付 い て る の が い い ん だ !
付 い て な き ゃ 駄 目 な ん だ ! !
153 :┌(┌^o^)┐ホモォ…@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 10:22:29.11 冒険者ID:※※※※※※
ホモしかいない件について
161 :名無しさん@みんなでトライアルに行こう@\(^o^)/:0024/06/05(火) 10:32:30.22 冒険者ID:※※※※※※
男の娘はジャンル違うから。
違うから(´;ω;`)
-4-
「……ふむ。よし、何も分からないという事が分かった」
部屋のPCもどきを使って掲示板を眺めてみたが、どこ見ても同じような事しか書いてない。
ユキが言ったように、俺たちの話題が多いというのは分かるが、こいつら話題ループし過ぎだろ。
ノリが不気味なくらい前世と一緒だ。異世界なのに、なにがどうしてこうなった。
情報が少ないのは分かるが、内容もほとんど俺がでかくて怖い事とユキの容姿についてだし。……まとめサイトとかないかな。全部見るのしんどいんですけど。
多分、冒険者は六日縛りとかあるから、暇な時間で書込してる奴らが多いんだろうな。
ここ見てると、ユキはもう男の娘のままでいいんじゃないかなとか思えてくるのが不思議だ。ばっちり需要がある。
それと、俺は十五歳にしてはでかいが、ここに来てから測ったら一八〇センチもなかったし、実際そこまででかくないぞ。
巨人が普通に闊歩してる街でデカいとか言われたら、俺の印象がだいだらぼっちみたいになるから止めて欲しい。
あと、その顔文字は流行らない。
しかし、ノリはともかく、ユキの言ってた通りコピペ荒らしとかはいないみたいだから、平穏なもんだ。
昔見てた某掲示板とか、板によっては九割荒らしみたいなところがあったからな。
かつて俺が常駐してたシャワートイレ板もあるみたいだし、今後は定期的に巡回しよう。
掲示板はどうでもいいという事が分かったが、他にはどんな事ができるんだろうな、このPCもどき。
寮に設置してあるこのPC。寮内専用のためチェーンが付けられているのだが、形状はキーボードがついたタブレットPCだ。
すごく薄くて小さいので、見つけるまで時間がかかってしまった。引き出しにしまうなよ。
キーボードの配置含め、見た目は馴染み深いパソコンではあるのだが、中身はいまいち使い方が分からない。
基本的な操作は地球のものと大差ないのだが、ゲイツの家で作られたOSじゃないから色々違うのだ。スティーブの家のガレージで作られた林檎製のやつとも違う。
ブラウザって概念は同じで、ホームがギルドのページだったから、そのリンクを辿って専用掲示板までは辿りつけたのだが、入ってるアプリなどはさっぱりである。
「エロゲとかあるのかな」
もしあるなら興味がある。日本で見たラインナップとはまた違った作品が楽しめそうだ。
迷宮都市の謎技術なら、創作物の世界でしか存在しなかったVRとかあっても驚かないぞ。是非プレイしたい。エロゲなら、この際デスゲームでもいい。
でも、プレイするとしたら寮じゃなくて、ちゃんと部屋借りてからだな。
このPCもどきだと、ブラウザ履歴の消し方すら分からないくらいだから、エロゲの痕跡を残して後輩に性癖暴露するのは避けたい。
ユキは冒険者関連の情報しか見れなかったと言っていたが、このネット使って賃貸情報とかも見れるんだろうか。
トライアル期間は一ヶ月賃料無料という事で、俺たちはまだ無料期間が丸々残っている状態なのだが、来月からは賃料が発生してしまう。
ここはギルド会館の隣で便利ではあるのだが、風呂などの水場は共用だし、借りれるなら借りておきたい。
賃貸料も同じくらいとか言ってたし。探せば敷金礼金なしのところもあるだろう。
「そういえば、吸血鬼が自分のブログにエロ動画の紹介しているとか言ってたよな」
初心者講習での話だ。
操作にも慣れてない状況だが、ギルド職員なんだからリンクくらいあるだろ。
そうして、あーでもないこうでもないと苦悩しながら、例の吸血鬼ヴェルナー・ライアットのブログに辿り着いた。
主に掲載されているメインコンテンツは、エロ動画の批評、娼館・ソープランドの紹介と、自分の子供の観察日誌だ。
なんで一緒にするんだよ。子供泣くぞ。
それにしても、気持ち悪いくらい即物的な吸血鬼である。
吸血鬼というのは、もっとこう、人間と住んでる場所が違うような、高貴な種族のイメージを持っていた。『下賎な人間どもめ』とか言っちゃう感じだ。
俺が会ったことのある吸血鬼はこの人だけなので、この人だけがおかしいのかもしれないのだが。
子供の写真はとても可愛らしい女の子だ。
種族としてそもそも耽美な容姿を持つのかもしれないが、あと二、三年したらお相手願いたいくらい美少女である。赤髪に赤いドレスが似合ってて可愛い。
俺の守備範囲はとても広いので多少幼かろうがバッチコイ。下でも上でも関係なく補球してやろう。
まあ、観察日記を見る限り冒険者ではなさそうだし、彼女とは縁もないだろう。会うことはなさそうだ。
「それよりも、風俗情報が素晴らしい」
あの吸血鬼は、娼館でも冒険者ランクによって選べる女の子のグレードが異なると言っていたが、とんでもない。
ランク不問・一般向けの女の子でも素晴らしくレベルが高い。ランク不問でこれとか、上級ランクまで行ったらどんな事になっちゃうのって感じだ。
ヴェルナーの紹介で、『ここは一切画像加工してません』と補足が書かれた娼館のページを見ても、前世では決してお目にかかれないレベルの可愛い子だらけだ。
特に、オススメとしてリンクされている女の子の個人ページへ行ってみると、これまたレベルが高い。
顔のアップと、全身の写真が掲載されていて、みんな、顔だけじゃなくスタイルもいい。前世でよく見かけたミスグロ画像さんとか、一人もいない。いないんだ。
しかも、人間だけじゃなく、種族までよりどりみどりだ。
流石に極端にカテゴリが離れているリザードマンや、モンスターであるゴブリン、オークなどはいないが、それ以外の人間の姿に近い種族は大抵揃っている。
白翼種とか、水妖種とか、俺が聞いた事もない種族もいた。
ウサ耳、犬耳、キツネ耳の獣人さんたち、猫耳は……いいや。エルフも、ロリっ子なドワーフもいる。妖艶な色気を振りまくモンスターのサキュバスさんまでいた。
どーなってるの、ここはパラダイスなの?
いかん、ヴェルナー様とか言ってしまいそうだ。
……きょ、兄弟になっちゃおうかな。このヴェルナーお薦めのニーナちゃんとかいいよね。
もう、この世界での童貞捨てちゃってもいいかな? いいよね。
値段を見てもお手頃だ。決して安いというわけではないが、今の俺に払えない金額ではない。
なんせ、俺にはトライアルダンジョン攻略の動画売却で得た金がある。一回くらいなんの問題もないぜ。連続で二、三回でもいける。朝まで娼館でGo!だ
「よ、よし、思い立ったが吉日だ」
俺は、こんなことで悩んだり恥ずかしがったりしない男の子である。
……住所、住所。えーと、"中央交差点駅近く"か。中央って事は俺たちが行ったダンジョン転送施設のあたりだろうか。
よし、ヴェルナー印のクーポン券まである。印刷して使うタイプで、時間延長もオプション追加も思いのままだ。
プリンタ、プリンタはどこだ。
部屋を見渡してもプリンタはない。
いや、違う、共用なんだ。寮の共用スペースにコピー・印刷用のプリンタがあると張り紙にある。
共用のプリンタで風俗のクーポン券を印刷するのは勇気がいるが、大丈夫、俺はそんな事は気にしない男の子だ。
えーと、どうやって印刷すればいいんだ……これか。
「ポチっとな」
「何がポチっとな?」
「うわああああああッッッッッ!!」
突然背後から話しかけられて、絶叫を上げてしまった。ゆ、ユキか。
「何大声出してるの。ノックしたでしょ」
「あ、ああ、うん、そうだな。したな」
いや、全然気付かなかったけどね。
ニーナちゃんとかに完全に意識を奪われてて、周りが見えていなかった。とんでもないサイトだぜ。
ここギルド寮の部屋は、生体認証という謎の技術で鍵がかかる仕組みとなっている。
オートロックだし、俺が入る際には鍵を開ける必要もない大変便利な仕組みだ。
俺とユキはお互いに認証登録をし、中に部屋主がいる場合はそのまま入れるよう設定してある。
だから、ここにユキがいる事は何もおかしな事ではない。ないのだが。
「昼に話した動画のデータ持ってきたよ」
「あ、あーうん、ありがとう。助かるよ」
と、ユキはスティックメモリらしきモノを俺に渡してきた。コネクタの形状を見るに、PCもどきに直接刺せるようだ。
「使い方分かる? 前世でPCとか苦手だったりした?」
「え、あ、いや、大丈夫、うん、パソコンは得意なほうだと思うぞ。ここのはまだ慣れないが」
「何慌ててるのさ。……あー、Hなサイトでも見てたの? っていきなり娼館のサイト!? 迷宮都市に来たばっかなのに行動早くない? ……いや、ツナのお金だからいいけどさ」
見られてしまった。
俺の純情は汚されてしまったんだ。
「なるほど、クーポン券を印刷した瞬間に僕が来たわけか。面白いタイミングだったね」
「面白くねーよ! こっちは純情な青少年だぞ」
「いいから、いいから。あれ、これあの吸血鬼さんのページじゃないか。……何故ギルド職員がこんなブログを」
いや、知らねーよ。本人に聞けよ。
「まさか今から行くの? すごい行動力だね」
「あーうん、ちょっと落ち着いてきた。……ユキさんは一応中身女のつもりなわけだけどさ、こういうの駄目だったりしないのか?」
こいつ、初心者講習でエロ動画の話をしたとき慌ててたよな。
「自分が対象じゃなければ別に。……それと、つもりじゃないからね」
「あ、ああ、そうなんだ。……じゃ、じゃあさ、一緒に行くか? ちょっと一人だと心細かったんだよね」
「行かないよっ!!」
『僕をなんだと思ってるんだよ』と言い残し、ユキはプンスカ怒って去っていった。
うーむ、あいつの立ち位置は未だに掴めない。
難しい奴だ。まあ、特異な属性たくさん抱えてるやつだからな。
……じゃ、じゃあ、行っちゃうかな。行っちゃおうかな。
俺は片手にヴェルナー印のクーポン券を握り締め、夜の街へと繰り出した。
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