第10話「謁見」
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どこかのマンションらしき一室。
その場所に、服はボロボロ、傷は治っているものの体はいたるところが血塗れな男が直立。
目の前にはカップラーメンらしきものを作ってる男が一人。……明らかなミスマッチが発生していた。
「え?」「は?」
あまりの展開に、お互い見つめ合ってしまった。
え、何この状況……。
「え、……えーと、どちらさん? ご、強盗じゃないよね」
全身に突き刺さってた針やナイフは猫耳が消えた際に一緒に消えたが、血塗れの上にボロボロの服装、おまけに左手首には手錠だ。
怪しさ大炸裂である。
「あー、何から説明したらいいのか……あまりの超展開に頭がついてこなくて……。トライアルダンジョンをクリアして……なんかボーナスを選択したら…………ダンジョンマスターへの謁見?」
え、まさか、本当にこの人がダンジョンマスター? 普通に道歩いてそうなお兄さんだよ。
「……えーと、ダンジョンマスターさん?」
「あ、はい、ダンジョンマスターですが」
「…………」
……なにこれ。
自分がダンジョンマスターだというその姿は、どこからどう見ても平凡としか印象が浮かばない男だった。
中肉中背、平凡な服装、だが、顔立ちは……そう、とても良く見慣れた日本人のものだ。年齢は精々二十代から、行ってても三十歳手前。
きっとダンジョンマスターは、俺たちみたいに転生したわけじゃなく、日本人のままでここに来たのだ。
普通なら強者が放つであろうオーラも一切感じない。
まさか、ダンジョンマスターでも実は弱いんです、なんて設定があるのかもしれないが、いくらなんでもそれはないんじゃないかと思う。
あまりに隔絶し過ぎてて俺が分からないだけじゃないだろうか。
「あー、と、改めまして、ダンジョンマスターの杵築新吾です」
「えー、今日冒険者登録したツナです。……あ、ラーメン伸びるんで、先に食べていいですよ」
「今日? あ、すいませんけど、食べますね」
状況が飲み込めず慌てている姿は、俺が想像していた王様然、魔王然としたダンジョンマスター像からかけ離れたものだった。俺TUEEEチート主人公って感じでもない。
というか、なんでカップ麺食ってるんだよ。偉いんじゃないのかよ。何故か丁寧語だし。
「それで、なんでここに? ここ俺のプライベートルームで、誰も入れないはずなんだけど」
聞いてみると、ここはダンジョンマスターがかつて地球で暮らしていた1Kの部屋を再現したものらしく、迷宮都市のお偉いさんでも入れない場所だという。
確かに、思わず地球に来てしまったかのような錯覚に囚われるレベルの再現度だ。生活臭がすげぇ。
「と言われても……。ダンジョンクリアしたらここに来たとしか……」
「ダンジョン報酬にそんなのあったかな……」
ダンジョンマスターはカップ麺の蓋を開けて、薬味とタレを入れる。麺をすすり出すまで無言だった。
「というか、ツナ?」
まず疑問に持つのが名前かよ。そりゃ変な名前だけど。
「いや、変な名前ってのは自覚してるんで」
「いやいや、そうじゃなくて……、あ、緊急報告にあった元日本人か!!」
あ、今日の今日でもやっぱり報告受けてたんだな。
街の入り口で審査受けたわけだし。プロレスやったりすれば、そりゃ報告くらいいくか。
「でも、正体は分かったけど、なんでここに来るのかがさっぱり分からんな。迷宮都市に来て初日だろ? さっきダンジョンクリアしたって言ったけど、トライアルダンジョンだよな?」
「はい」
「……え、初日クリアって事?」
「はい」
「……あ、まさか、隠しボス倒した?」
隠しボス……。そう聞いて脳裏に浮かぶのは、あの猫耳だ。
最後にはニャをつけるのも止めて、自らのアイデンティティすら放棄してしまった猫耳だ。
「はい、ずいぶんと悪趣味な隠しイベントでしたが。……殴っていいですかね」
「あー、分かった……って、あれ考えたの俺じゃないからな。というか、そもそも隠しイベントは挑戦者自体いなかったわけだし。そうか、あんまり前の事過ぎて、こんなボーナス設定してたの忘れてたわ。……まさか、クリアする奴がいるとは」
どうも猫耳の言っていたように、初回挑戦、死亡〇回で強化ミノさんを倒した場合だけに発生するイベントらしい。
なるほど、設定したはいいが忘れて放置されてたのか。
「すごいな。登録初日にミノタウロス撃破、隠しボスの同伴者も倒したわけだろ。言っちゃなんだが、ルーキーと中級冒険者って一番上と一番下でも能力差が隔絶してるはずなんだが。トライアルダンジョンできた当時ならともかく、最近はデビュー後の成長要素も多いだろうに……。まさか一人でクリア?」
「挑戦したのは二人です。もう一人も元日本人でユキトっていいます。ミノタウロス攻略時点ではどっちも生きてました」
「ああ、そういえばもう一人いるって報告あったわ。そっちは隠しイベント突破できなかったんだ。どうせなら会ってみたかったな」
「猫耳が隠しボスだという事実に動揺して、首を掻っ切られました」
猫耳に対し、ナイフで攻撃を通したあいつの最後の姿が浮かぶ。
あの姿、覚悟を見なければ、きっと俺はここにいなかった。
ミノタウロス戦も、あいつがいなかったらどうにもならなかったのは間違いない。おっさん相手ですらかなり怪しい。
「まあ、どちらにせよ落ち着いたら会いに行くつもりだったしな。ちょっと早くなっただけか」
「やっぱり元日本人は少ないんですか?」
確かに普通に考えて天文学的な確率だと思うが。
「少ないね。現代日本からって括りだと、俺を除くと君で二人目。同じ日本でも時代が違うとか、日本語読めるアメリカ人とかもいたけど」
「でも、前例はあるんですね。えーと、その一人目に興味あるんですけど、紹介してもらうのとかは難しいですか?」
「いいや、問題ないよ。今地方遠征してるから会えないけど、帰ってきたらもう一人のユキト君と合わせて飯でも食いに行くか。積もる話もあるだろうし。俺も話したい事あるし。ちなみに、ツナってこっちで付けられた名前? 日本人名じゃないよな」
……出たよ。
「綱引きのツナです」
「…………ごめん。ああ、上泉信綱とか、何々ツナだったら、そこまで珍しくはないよな。ツナだけってのは渡辺綱くらいしか聞いた事ないんだけど」
「前世では渡辺でした」
「……え、御本人?」
「いやいやいや、現代日本って言ったでしょうが」
現代日本には、土蜘蛛も茨木童子もいねーよ。
「あー、そりゃそうだよな。さっきも言ったけど、全然違う時代の人もいるからさ。平安時代はまだ会った事ないけど、江戸時代の人とかいたぞ」
「これは親が適当に偉人を探して付けた名前です」
「やっぱりあれ? 友達に金太郎とかいた?」
こいつ、ユキと同じ事聞きやがる。テンプレなのか。
「金太郎も公時もいません。ついでにいうと、別に頼光もいません」
「ま、そりゃそうだよな。まあ名前はいいや。そういえば、特別ボーナスどうする? 何か欲しいものとかあるかい?」
「え、何かもらえるんですか?」
唐突な話題転換だが、この謁見が報酬じゃないのか。
「そりゃあな、前人未到の大記録だぜ。これから現れる可能性はまだあるにしても、初の達成者っていうのは変わらないし。トライアルダンジョンができてから結構経つが、一日で隠しボスクリアは流石に出ると思ってなかった。だから存在すら忘れてたんだが。というか、そもそも、ダンジョンクリアすれば何かしら賞品は出るんだ。それの豪華版だよ」
うん、俺も普通ではない事をしたような気がする。隠しボス食ったり。
「ちなみにどんなのがもらえるんです。お金ですか?」
「金でもいいけど、通常のレコード更新ボーナスは、スキルが覚えられるオーブとか、ちょっと強い武器・防具とか? 変わったところだと施設の優待券とかもあるし、俺と戦ってみたいって奴がいたから相手したりもしたな。物でも権利でもスキルでもとりあえず言ってみるといいよ。今後の成長を妨げるようなものとか、俺の能力を超えるものは駄目だけど。王国の貴族をぶん殴りたいとかでも、なんとかしてみせよう。殺すのはちょっと検討が必要だけどな」
いや、確かにその人たちの統治に思うところはあるんですが、それはちょっとどうだろう……。
軽く言っているが、本当になんとかするような気がするのが嫌だ。王国にすごい影響力を持ってそうだぜ。
今更だが、ここ本当に王国の一部なんだろうか。
「成長を妨げるっていうのは……」
「たとえば、今最前線は確か九十層付近だったと思うけど、そいつらが使っているような武器とかもらったら、下層の敵なんて瞬殺になるからパワーレベリングみたいになるだろ。俺は無限回廊の攻略を推奨してるんだから、ちゃんと先々まで攻略できる人員になってもらいたいんだよ」
「なるほど」
そういえば、さっきから何か既視感とか、そういう違和感を感じていたんだが、これ、異世界転生モノで良くある神様転生のテンプレに似てるんだな。死んでないけど、死なせてしまったお詫びにチート能力あげます的な?
場所が1Kのマンションってのがアレだけど、普通来れない所ってのもそうだし。ここの中継地点は神様とかいそうな場所だったし。
ああいうやつほどなんでもアリなボーナスじゃないんだろうけど、こういう場合、テンプレだとどんな選択肢があっただろうな。
「《 鑑定 》スキルとか」
《 看破 》は習得できたけど、人間とモンスターのHPと名前だけで、アイテムは対象外みたいだし。
「えらい地味でしょぼいものが来たな。それでいいなら別にいいけど、普通にギルドに売ってるぞ。< 冒険者 >になったらそれこそ勝手に覚えるし」
「え、じゃあなしで……、えーと、《 アイテムボックス 》とかどうでしょうか。RPGに出てくるみたいな」
鑑定もアイテムボックスも異世界転生のテンプレだ。
「《 鑑定 》よりはランク上がったけど、それでも< 冒険者 >だったら普通に覚えられるよ。……ひょっとして、異世界トリップもののテンプレから考えてるか?」
やはりお見通しか。
「はい。そもそもどんなスキルがあるのかわからないので」
「そりゃそうか。今日、迷宮都市に来たんだもんな。ああいうテンプレだと、肉体強化とか除くと、あとは《 スキル強奪 》とかが多かったっけ? ここのシステムだとあれもかなり微妙だな」
「ちなみに強奪だと何が問題が」
「そのまんまズバリの名前のスキルがあるんだけどさ、強奪できるスキルに制限があったり、制限が多くて使えなかったり、色々不便なんだよな。そもそも、スキル覚えたいだけなら買ってもいいわけだし。ちなみに、モンスターで使ってくるやつがいるから、上位連中は基本的に対策してる」
如何にもイメージ悪くなりそうなものだから、元々覚えようは思わなかったが、確かにあんま使えそうにないな。
「あとは二次創作になるけど、アイテムボックスから武器を射出したりとかイメージで武器を作ったりもできるけど、よっぽど特化しないと役に立たない。元ネタも超特化型だからな。大量に財宝保有してたり、体の中に聖剣の鞘が埋まってたりしないだろ?」
「そんな特殊な背景は持ってないです」
単純にスキルだけもらっても、俺TUEEEはできなそうだ。頑張れば再現はできますってところか。
「そういえば、銃とかはどうなんです? 相方が黒色火薬までは作ったらしいですけど」
「扱うには専用の免許がいるけど、街で普通に売ってるよ。ダメージがほとんど固定値だから、無限回廊の下層までだったら使えるかな。でも、あんまりスキルがない上に高い。とにかく弾薬が高い。個人的にはあんまお薦めしない」
銃はもうあるのか……。下層越えると使えなくなるとか、ここの冒険者連中はどんだけ超人なんだ。
「マシンガンとかでも駄目なんですか?」
「いや、駄目じゃないんだ、駄目じゃ。弾速は速いし連射できるから、下層だと無双できる。ただ、下層を越えるとスキルやクラスの選択肢が大量に広がる上に、銃使ってるとあんまりスキルが強化できないから敬遠されるんだ。日本の常識でいるとビビるけど、同じ金かかるにしても弓のほうがダメージ出るんだぜ。一般人が護身用に使うならいいかもしれないけど、一般人はそもそも必要ないからな。免許とるのも大変だし」
なるほど、時々ある銃ありのファンタジーRPGで、剣のほうがダメージ出る事があるけど、そういうのと同じか。
もはや口径の大きさとか関係ない状況なんだろうな。
「あとはテンプレだと……魔法、魔術とか?」
「おお、いいですね、魔法。使ってみたいです」
魔法らしい魔法は《 マテリアライズ 》くらいしか使ってないからな。《 パワースラッシュ 》とかはMP使わないみたいだし、魔法っていうより剣技だし。《 飢餓の暴獣 》なんて、勝手に発動したし。
「無難でいいかもな。でも、魔術だったらちゃんと適性調べてからのほうがいいな。ギルドで検査してくれるから、得意分野とかを伸ばす方向で覚えたほうがいいよ」
「才能ないと使えなかったりするんでしょうか」
「そんな事はないけど、やっぱり得意な系統とか方向性があるからな。攻撃が得意だったり、回復が得意だったり。中級以上だと、大抵何かしら得意な魔術覚えてるよ」
そういえば、トカゲのおっさんはたくさん補助魔法使ってたな。
猫耳も何か使ってたんだろうか。
「なるほど、じゃあ、その検査を受けてからにしたほうがいいですね。そもそも、どんなスキルがあるのかとか、基準が分からないので、そこらへんの調査も含みで」
「迷宮都市に来て一日じゃな。……参考までにちょっと《 鑑定 》してもいい? アドバイスできるかも」
「……え、はい、どうぞ」
そうか、話しててあまり感じないけど、ダンジョンマスターがその手のスキルを持ってないわけないか。
別にいちいち断る必要はないと思うのだが、そういうマナーなのかもしれない。
スキルが発動したかどうかはさっぱり分からないが、黙って俺を見る。こう、じっと見られると気まずい。照れるぜ。
「…………なんだこりゃ」
「な、何か変な表示でも」
「一体全体、どんな環境で過ごせばこんなスキル構成になるんだ?」
これは、例のアレだろうか。
「えーと、《 原始人 》とかですか?」
「違う。いやそれも気になるけど。……ああそうか、ルーキーだからカードに五つしか表示されないのか。カード更新したら分かるけど読み上げてやるよ」
と言って、ダンマスは俺のスキルを読み上げていく。
俺が認識している《 算術 》《 サバイバル 》《 食物鑑定 》《 生物毒耐性 》、そして《 原始人 》から始まり、
《 悪食 》
《 悪運 》
《 火事場の馬鹿力 》
《 痛覚耐性 》
《 内臓強化 》
《 超消化 》
《 鉄の胃袋 》
《 対動物戦闘 》
《 方向感覚 》
《 対魔物戦闘 》
《 不撓不屈 》
《 田舎者 》
《 自然武器作成 》
《 自然武器活用 》
《 自然罠作成 》
《 自然罠活用 》
《 死からの生還 》
《 生への渇望 》
《 強者の威圧 》
《 起死回生の一撃 》
《 飢餓の暴獣 》
《 食い千切る 》
《 オークキラー 》
《 限界村落の英雄 》
《 剣術 》
《 姿勢制御 》
《 緊急回避 》
《 パワースラッシュ 》
《 看破 》
《 回避 》
《 空中姿勢制御 》
《 空中回避 》
《 旋風斬 》
と信じられない量のスキル名がダンジョンマスターの口から告げられた。
「は?」
今日習得したスキルに加え、五つ以上はあるだろうと思っていたが、まさかそんなにあるとは……。
名前だけで効果の良く分からないものもあるし。
そういえば、ほとんどトカゲのおっさんとミノタウロスの影響だろうが、トライアルで十個も覚えてるんだな。
「多いですね。これは普通に比べてどんなもんなんでしょ」
「いや、ねーよ。デフォルトスキル欄の五つだって、普通はなかなか埋まらないんだぞ。これ、ルーキーとしては間違いなく過去最多だ。しかも、ほとんど外で習得したってのが信じられん。数だけなら、迷宮都市の冒険者では中級程度だけど、そもそも迷宮都市の冒険者がスキルを覚えやすいのは、買ったり、< クラス >を持っていたりするからだしな」
「クラス? 戦士とか魔法使いとか、そういうやつですか?」
猫耳のカードにも表示されてたな、そういえば。
あいつのは< 斥候 >だったっけ? ほとんどチラ見だったから良く覚えてない。
「Gランクに上がる際に、その時点で選択可能な< クラス >を選択するんだけど、この< クラス >の特性で、スキルが自動習得できるんだ。それに加えてスキル自体は売ってるものもあるから、習得・発動に前提条件があるにせよ、増やそうと思えば増やせる。迷宮都市はそれだけの環境にあるからな。けど、それらの習得補助がない外でこれはちょっと異常だ。英雄とか勇者とか言われててもおかしくないぞ」
マジで。酒場で奴隷同然の扱いだったんですけど。
「数もそうだけど、俺でも見たことないスキルがある。《 原始人 》と《 飢餓の暴獣 》だけど、
「一五〇層……」
あっさりと疑問が一つ解決してしまった。
ユキやトカゲのおっさんが言ってた通り、少なくとも一〇〇層で終わりって事はなさそうだ。
「というか、どんな状況なら《 オークキラー 》になるんだよ。これ、一定期間にオークジェネラル以上を含むオーク種数百体を倒すのが条件だぞ」
……あの派手なの、オークリーダーじゃなくて、オークジェネラルだったのか。
どれくらいのランクなのかは分からないが、強かったんだろうな。何やってんだ、俺。
「ここまで地力があれば、ボーナスがなんでも活躍できそうだな。独力でこれだけ覚えられるって事は迷宮都市の環境ならすごい事になりそうだし。ボーナスはもう好みでいいんじゃないか。常に無駄に光り輝く《 七色の後光 》とかいる?」
なんだその立川に住んでる人が持ってそうなネタスキル。
「それはちょっと……。すいません、さっき言った一五〇層って無限回廊の事ですよね?」
「そうだけど……あっ、一〇〇層以降は情報制限か。あんま言い触らさないでくれな、別段、隠してるわけでもないけど、トップグループは自力で確認したいだろうし」
「言わないのはいいんですけど、やっぱり一〇〇層以上あるんですか」
「あるよ」
何事でもないように、そう言った。
「なんならこの情報がボーナスでもいいんですけど、何層まであるんですか?」
「そんなケチ臭い事は言わないが、残念ながらその回答はできない」
「それは何か公表すると不味い事があるとか……」
「いや、そういうわけじゃない。正確に言うと、"知らない"んだ」
「知らない?」
管理者であるはずのダンジョンマスターなのに?
でも、トップグループが到達できていない一〇〇層以降の情報を持っているという事は、その先も把握しているはずじゃないのか。
「俺はダンジョンマスターなんて呼ばれてて、ダンジョンに関する権限もあるわけだけど、実際のところ無限回廊を作った人間ってわけじゃない」
それは、ちょっとした衝撃で。
「俺自身が最初に一〇〇層を攻略して、かつ今も最深層を攻略し続けているから、攻略階層以下の権限を持っているってだけなんだ」
ちょっと、想像もついていなかった事で。
「つまり……、ダンジョンマスターも冒険者の一人って事ですか?」
「そう。現役で、ひたすら潜り続けてるよ」
本当に俺が聞いてもいい事なのか、判断がつかないような。
「じゃあ……現在の、"本当"の最前線は何層なんですか?」
「つい先日の事だが、その"最前線"は更新された」
やたらとスケールのでかい話だった。
「現在到達している最深層は一二〇三層だ」
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目眩がしそうだった。
文字通り桁が違う。一〇〇層で終わりでなく、少なくともその十二倍は存在してて、ゴールを更にその先のキリのよい数字と想定すると気が遠くなる。
無理やりキリがいい数字として三〇〇〇階あたりだろうか。五〇〇〇階や一〇〇〇〇階だとしてもおかしくない。
なるほど、文字通り無限回廊だ。攻略スピード上げろとケツ叩きたくもなる。
「俺と数人のメンバーはそういうところで戦ってる。迷宮都市の冒険者育成も、この攻略をスピードアップするための要員確保が目的だ。ぶっちゃけ、五人ってのはキツいんだよ。今のところ、ギルドのトップグループでもまだ一〇〇層前だし、めぼしい効果はないけどね」
それがこの都市と制度を作り上げた目的か。想像していたよりはずっと真っ当な目的だった。
……その極端な規模以外は。
「何か目的があるんですか? ぶっちゃけ、一〇〇階クラスでも途方もない財宝が手に入るんですよね?」
「生活の糧を得たいってだけなら、確かに無理して攻略する事もないな。力を得たいっていうのでも、やる意味がないからやらないだけで、今でも世界征服とかできそうだし。俺さ、明確な目的ってわけじゃないんだけど、日本に帰りたいんだよね。無限回廊に潜ってると、それが可能になる兆しが見えてくるんだ」
「それは……」
いや、それはどうなんだろう。
異世界トリップして、元の世界に帰りたいというのは至極当然の願望だ。
俺たちとは違い、ダンジョンマスターは直接ここに来たんだろうから余計にそうなんだろう。
小説などでも、元の世界への帰還を目的とする主人公はそう珍しくない。
ただ、そういったものを読んでいた当時から思っていたが、軽く人間を超越してる奴が帰って日本で生活できるものなのだろうか。
自覚はなくても、価値観とか常識は変わってくものだ。異世界の戦争で大量殺人したり、魔王を倒すような強大な力を手に入れて、同じ価値観でいられるはずがない。
チート主人公でも勇者でもない俺でさえ、かつての自分とはかけ離れていると自覚しているくらいだ。
目的を否定するわけではないが、ダンジョンマスターもそういう事は考えないのだろうか。
大体、そんな頭のおかしい階層まで攻略しているって事は、すでに人間核弾頭みたいなものだろ?
「考えてる事は分かるよ。最早、オリンピックとかそういうレベルじゃない力を持ってるから、向こうでまともな生活はできないだろうけどな。どっちかってーと超人オリンピックな感じだし、いや、それどころじゃないか。でもあれ基準良くわからないしな。ただまあ、それでもあっちの家族とかに一目会いたいってのはあるし、死ぬ時は向こうの墓に入りたいからな。俺、転生じゃなく、転移者だから余計にさ」
転移者だっていうのは分かっていたが、そうか、……人生の終着点として想定しているのか。
それなら分からなくもないけど、そんな事で、そこまでモチベーション保てるものだろうか。
いや、ユキもそうだが、こういう目標ってやつは、大概本人にしか分からないような基準があるんだろうな。
「というわけで、ツナ君も早く上がって来てくれたまえ。歓迎するよ」
「俺、人並みの生活を送る事が目標だったんですけど」
ユキを手伝うとは言ったが、俺自身は日替わり定食毎日食えたら死んでもいいとか思ってたし。俺の望みは小さいもんだぞ。
「どの程度を人並みとするか分からないが、せっかく、規格外の能力があるってわかったんだから上目指そうぜ。外からの移住者は、冒険者志望である事が移住の主な基準だから、ずっとコンビニのバイトだけで生活するってのは難しいしな」
「やっぱり外からの移住で弾かれる人はいるんですね」
そりゃ、門の前がいかつい連中だらけになるわけだ。
ユキと前に並んでた子以外、俺含めてむさ苦しい連中ばっかりだったしな。
「そりゃね。難民は受け入れてないし、スパイとか、外へ物や情報を持ち出す考えを持ってるのは自動的に魔法で弾かれる。冒険者になるつもりの人間だったら割と緩いけど、それ以外は専門技術を持った人間でも審査は厳しいよ。都市に入るための審査だって何日もかかるしね。でも、ツナ君は審査の段階で元日本人である事が分かったから、そんなに時間かからなかっただろ?」
そう言われて思い出すのは、門でホモ眼鏡から受けた審査だ。他の人はもっと長い審査が必要だったのか。
前に並んでた子も、講習にいないと思ったらそんな理由があったわけね。
「そうですね、そういえば数時間ほどでした。何かホモっぽい眼鏡にケツ触られましたけど」
「……ほんとごめん」
心当たりがあるのか、申し訳無さそうな顔で謝られた。
いや、いいんだけどね。俺もジャイアントスイングで放り投げたし。
「まあ、とにかく日々の糧を得るためだけじゃなくて、上に来て欲しいってのが俺の本音で、この都市を作った目的。だから、全力で支援してるし、報酬も用意してる」
上目指して、何が変わるのだろうかというと、普通に考えると金、地位、名声、強さ、異性にモテるなんてのが思いつくが、それらにそこまでの欲求を感じない。
ここはある意味日本よりも快適な生活ができそうだし、前世の故郷に帰りたいという欲求も元々そんなにない。ちなみに、今世の故郷は帰りたくもない。
ユキの手伝いと、あえていうならダンジョンマスターですら知らない深層を攻略してみたいという好奇心はある。
「今のところ欲しいものがあるわけじゃないですが、ダンマスを手伝ってみたくはなりました」
「それは助かる。一緒に日本に戻って異種格闘技戦とかに出ようぜ」
「それはちょっと……」
大人げなさ過ぎる。文字通り指先一つで破裂しちゃうんじゃないだろうか。中継とかしてたら大惨事だ。
「そういえば、一つ確認したかった事があるんですけど」
「何よ」
「ダンジョンの管理はしてるって事ですけど、モンスターの名前とかはダンジョンマスターが決めてるんですか?」
「それは回答が難しいところだな。俺が設定したモンスターはそういうのもあるけど、元々この世界にいたとか、ダンジョンに登録されてたのは大体そのままだぞ」
「いや、本当にどうでもいい事なんですが、ミノスじゃないのに『ミノタウロス』って変じゃないですか?」
「腰ミノつけてただろ。ブリーフタウロスとかブーメランタウロスもいるぞ。牛さんたちは、迷宮都市ではすでにネタキャラ扱いだ」
頭痛くなってきた。俺たち、ネタキャラにあんなに苦しめられたのかよ……。
……あとでユキに教えてやろう。
「元々あれは『牛鬼』って名前だったんだけど、正式に< 鬼 >の種族を追加する事になって、『ミノタウロス』に変えたんだよ。……で、その時は気づかなかったんだけど、あとになってその事に気づいてさ、折衷案として腰ミノつけるようにしたんだ。他にも似たような話はあるし、どうでもいい事なんだけど、これは気づいてしまったからな。もう一回変えようかってミノタウロスたちに相談したら、もう定着したあとだから勘弁してくれって言われたよ」
この人、実は馬鹿なんじゃないだろうか。何か普通にミノタウロスと会話してるし。
まあ、最低限聞きたい事は聞けたし、これもどうでもいい話だし、結構会う機会もありそうだから、色々聞くのはまた今度にするか。
こういうのはユキがいたほうがいいだろうしな。
「クリアボーナスの件はまた今度でもいいですか。ちょっと考えたいんで」
「いいよ、今度飯に誘うからその時にでも言ってくれ。あ、いや、手ぶらじゃなんだから、ボーナスってほどでもないが、おみやげをやろう」
まさか、ツナ缶とかじゃないよな。さっきから、部屋の隅にあるのが見えるんだけど。
「まず、この都市は半ば独立国家みたいなもんで、王国の貴族はいないんだが、上級ランクの冒険者になったり、ある程度の地位を得ると家名が付けられるんだ。家を起こすってやつだな。本来ならデビュー前後で考えるような話じゃないけど、この権利をプレゼントしよう」
「おお」
すごい……のか?
「ただのオマケだし、別にこれ自体に大したメリットはないけどな。渡辺でいい? 渡辺ツナ。いや、いっそ渡辺綱に戻すか?」
「何か不思議な感じですが、いいですね。再度生まれ変わったみたいですし」
ダンジョンマスターが何をしたのかは分からないが、カードを見てみるとすでに名前の表記が「渡辺綱」になっていた。
すげぇ懐かしい。ツナって名前も今世の親からもらったもんじゃないから、親不孝ってわけでもないしな。読み方は変わらないし。
これは書類の手続きとかは必要ないんだろうか。
「あとはこれだ。渡辺綱といえば茨木童子を切った『髭切』だろ。ここに取り出したる一本の日本刀、こいつをプレゼントしよう」
マジで。
ユキが冗談で言っていた刀主人公になるの俺? ちょっとドキドキしてきたんですけど。
でも、なんでそんなところに刀が置いてあるんだ。
ダンジョンマスターからそれを受け取ると、ずしりとした確かな重みが伝わる。
ヤバイ、俺絶対にやけてる。
「え、えーと、ちょっと抜いてもいいですかね?」
「いいよ。そいつはちょっと前に俺が作ったモノでな。銘は今付けよう。名づけて……『不髭切(ヒゲキレズ)』だ!」
「木刀じゃねーかっ!!」
抜いてみたら、中から出てきたのは金属ではなく木だった。
こいつ、鞘から抜くタイミング見計らっていやがった。
そりゃ髭も切れねーよ。
「まあまあ、そんなんでも下級では割と優秀な武器だと思うぜ。攻撃力そのものは大してないが、《 不壊 》の能力が付いてるから同ランク以下の敵を攻撃しても耐久値減らないし、斬撃は撃てないものの《 刀術 》スキルは鍛えられる。あと、おまけ程度だが< 鬼 >に対する種族特攻も付いてるぞ」
「はぁ……」
なんだろう、この残念な感じは。
猫耳戦で剣壊したりしたし、壊れない武器はすごくありがたいんだけど。
「あとはそうだな……ツナ缶とか持ってくか?」
「やっぱりそのネタが来るのかよ!!」
とまあ、そんな感じで俺とダンジョンマスターの初邂逅は終わった。
最後のほうは、偉い人と話してる感もなくなっていたが、それはダンジョンマスターのせいで俺は悪くない。
ちなみにツナ缶ももらいましたよ。食べ物に罪はないし。
-3-
エレベーターのドアが開くと、そこはギルド会館の一階だった。
どうやらダンジョンマスターのプライベート空間と直通らしく、専用の箱が用意されているらしい。
普段あまり使われないところから出てくる俺に、エレベーターホール近くにいた人たちがぎょっとしていた。
「つ、ツナさん? なんでそんなところから出てくるんですか?」
「あ、えーと、色々ありまして……」
ここに来た時に対応してくれた受付嬢の人が、たまたま近くにいて驚かれた。この人の名前なんだっけ?
「カード渡したあと、そのままトライアルに行くって話でしたよね? それがなんでそんなところから……」
「えーと、トライアルはクリアしました。それで、さっきまでダンジョンマスターに会ってて、エレベーターに乗ったらここに」
「は?」
そりゃそうだ。言ってて俺も良く分からない経緯だ。
「え、まさか……。本当に? 初回クリアですか?」
「はい」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
慌てて受付嬢さんが空中に視線をやる。なんか本人にしか見えない情報でも表示されてるんだろうか。
「嘘……ほんとに? 確かにクリアされてます。同伴者と、もう一人……ユキさんはどちらに? あ、いや、確か同伴者は……」
今まで未発生でも、受付嬢ならトライアルダンジョンの隠しイベントの事を知っててもおかしくないか。
「はい、同伴者の猫耳はぶっ殺しました」
「…………」
それがどれだけ困難な事かダンジョンマスターに聞いて認識していたが、こうして絶句するのを見るとえらい事してしまったんだなと痛感する。
ロビーの椅子に座ってる見知らぬ冒険者も、目を見開いてこちらをガン見しているし。ピースとかしたほうがいいんだろうか。イエーイ。
「そ、そうですか。それでダンジョンマスターに……。そういえば、そういう設定があると聞いた事があります。ユキさんは……攻略後に隠しイベントで死亡したんですね。だとすると今は病院ですね」
復活するのは病院なのね。王様の前とか、教会や神殿とかじゃないんだ。
なさけないとか罵倒される事はなくて良かった。
「死んでからの復活って、治療にどれくらいかかるんですか?」
「治療自体はダンジョンから転送された時点で終わってますが、目が覚めるまでは数十分から、長い人だと一日程度かかります。攻略完了から二時間ほど経ってるので、もう目覚めているかもしれないですね。ツナさんは病院の場所分からないと思いますので地図を書きましょう」
「ありがとう御座います」
まだ右も左も分からないからな。
そういや迷宮都市に来てまだ一日も経ってないのか……メチャクチャ経った気がするんだが。
まだ夜は明けてはいないようで、外は真っ暗だ。ダンジョン攻略がどれくらいかかるか分からない以上、そりゃ、ギルドは二十四時間営業じゃないと駄目だよな。
「あの……今って何時くらいですかね?」
「え? 八時ちょっと前ですね。あそこに時計がありますよ。見方はわかりますか?」
と、受付嬢さんの指す先には壁掛け時計があった。
この世界に来て初めて時計を見たが、日本で良く見かけた十二進法のそれは、確かに"夜の"八時ちょい前を刺している。
馬鹿な……。
「どうしました?」
「……俺がここを出て、ダンジョンに入ったのが夕方だったんですけど」
五時か、六時頃だったろうか。学生たちが捌けて、俺たちが中に入った頃にはもう日が暮れかかっていたはずだ。
ダンマスと話している時間を二時間くらいとすると、ダンジョン攻略の時間が丸ごと飛んでいる。
中にいたのがいくら長かったとはいえ、さすがに二十四時間は経ってないはず。
「ああ、ツナさんはダンジョン攻略は初めてでしたね。同伴者から聞いてませんか? この迷宮都市のダンジョンは、中にいる間は時間が経過しないようになっているんです」
そんなアホな。
ここに来てから何度も驚愕してきたが、今回のは極めつけだ。超技術ってレベルじゃねえ。
だけど、……あぁなるほど、これでダンマスの攻略階がぶっ飛んでいたのも、少し納得できてしまった。
「それは、中で何時間過ごそうが、何日過ごそうが、外に出たら一瞬って事ですか?」
「ああ、いえ、実は長時間になると数秒程度の間隔は空くようですが、実感としてはあまり変わらないですね。その認識でも問題ないでしょう。ただ、ダンジョンは階層ごとに滞在時間制限がありますし、無制限に中にいられるわけでもないです。挑戦の6日縛りがなければ、学生が勉強のために籠もりそうですね」
勉強道具や参考書持って、暗い洞窟の中でモンスターと戦いつつ勉強する苦学生か。殺伐とした二宮金次郎だな。
「深層だとその滞在時間も長くなるので、最前線の攻略組は長い時は中で数十日間攻略するわけですが、外から見てると、やはり入った直後に出てくる様に見えます。そういうわけで、冒険者はまとまった時間が取りやすい職業でもあります。時間感覚が狂いやすいともいえますが」
「それだと、年齢の問題とか発生しないんですか? 子供がいきなり大きくなったりとか」
「そうですね、なので中等部卒業の基準である十四歳まではトライアルは受けられてもデビューはできません。保護者がいる場合は、それより上の年齢でも保護者の同意が必要になります。あんまり大きな声では言えませんが、女性の冒険者は若さを保つのに気をつけていらっしゃいます。若返りの手段はありますが、老化防止のほうがはるかに手間もお金もかかりませんからね」
ここにいると、これまでの常識が音を立てて崩れていくのを感じる。
迷宮都市には、見た目と年齢の一致しない、マジもののロリババアが生息してる可能性があるという事か。
……ユキの願いとか、マジに楽勝で叶うんじゃねーか?
「はい、こちらが病院の地図になります。確認しましたが、ユキさんはちょうど先ほど目覚められたとの事です。同伴者のチッタさんはもう退院されてますね」
あ、そういえばあの猫耳も死んだわけだから、病院にいたのか。
顔合わせ辛いから、正直いないほうが助かる。向こうも食い殺された相手に会いたくないだろうしな。
今、顔合わせたらぶん殴っちゃいそうだし。俺も猫耳つけて、本当の意味でのキャットファイトに発展しかねない。
「ユキさんが退院しましたら、明日にでも受付まで来て下さい。二人とも初心者講習受講済ですから、昇格・デビューの手続きをしますので」
「そうか、……もうデビューか。何か持ってくるものとかありますか? 必要な書類とか」
ちなみに印鑑とかはないぞ。
字を書くのも日本語なら問題ないと思うけど、この世界の文字は名前くらいしか書けない。……転生してから十伍年以上経ってるけど、漢字忘れてないよな。
「用意するのはステータスカードだけで大丈夫です。それにしても、まさか当日攻略の即デビュー者が出るとは想定していませんでした。すっかり言い忘れてましたが、おめでとうございます」
「いえ、ありがとうございます。ダンジョンでも話してたんですが、これでどこかのパーティから声かかったりしますかね?」
ドラフトはないだろうが、十分アピールにはなっただろう。
「ええ、この上なく。引く手数多だと思いますよ。逆に勧誘が多くて困るんじゃないですかね。逆に、下級冒険者で寄生してくる輩もいるので、そういう冒険者には気をつけて下さい。ブラックリストを公開しているので、要注意人物をチェックしておくのをお薦めします」
そういうのもいるのか。
前世のネットゲームでもいたけど、どこの世界でも変わらないな。ここならネカマはありえないにしても女性冒険者はいるだろうし、姫プレイしてる奴とかいそうだ。
……あのトライアルを突破できるのに、そんな奴がいるってのも嫌なもんだな。……いや、寄生してトライアル抜ける奴がいるのか?
「そういう注意点については、デビュー講習で説明がありますので、詳しくはそちらで。勧誘については、Gランクの内はそもそもパーティも組めませんが、大手クランなら関係なく勧誘はあるでしょうし、そもそもツナさんたちならすぐにランクは上がっていくでしょう」
「それは良かった。これからの事については、ユキも気にしてましたから安心しました。じゃあ、病院に顔出して来ます」
「はい。本日はお疲れ様でした」
受付嬢さんに見送られ、俺は会館をあとにする。
八時という時間もあるのか、まだ通行人はちらほら見受けられた。
そういえば、受付嬢さんの名前聞くのを忘れてたな、と考えつつ、俺は地図にかかれた場所へと向かった。
さて、ユキの顔でも拝みに行ってきますかね。
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