第6話「ルーキーの壁」
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ボス攻略後の広場は、これまでと変わらずワープゲートと階段のみの使い回し的構造だった。
「おー、クリアしたかニャ。ここで脱落する奴ら多いから、ちょっと心配してたニャ」
俺たちがボス部屋から出てくると、先行していたチッタさんが出迎えてくれた。
多分、チッタさんの中で想定していた難易度と、俺たちが体験した難易度は違うと思う。
ボスが全部あのおっさんだと、合格率が滅茶苦茶下がるんじゃないだろうか。少なくとも二層、三層で手こずるような奴なら瞬殺だ。
「で、どうだったニャ。規定時間と同じくらいだったけど、倒せたりしたかニャ?」
「倒しましたよ。《 看破 》のスキルもらいました」
あと遺影。イエーイ。いらんわ、こんなもん。
「すげーニャ。ここを撃破で通過するかどうかで、デビュー後の評価が変わってくるからニャ。ちなみに《 看破 》はデビュー後すぐに買えるようになるスキルニャんだけど、下級冒険者からするとかなり高いから、ここで手に入れられるのはかなりお得ニャ」
うむ、金に関わる話はすごく得した気分になるな。
「これって、見えるのは名前とHPだけなんですか? 名前のわりにはしょぼいような気がするんですけど」
「厳密には《 看破 》とは違うけど、もっと上のスキルがあるニャ。説明面倒臭いしここでは意味ニャいから省略ニャ。でも、それだって有用なスキルだし、毒とかの継続ダメージも分かるから、あるとないとではかなり違うニャ」
そうか、HPの減り具合でさっきおっさんがくらってた毒とか、継続ダメージを受けているかどうかが分かるのか。
となると、自然回復能力があるかどうかも分かるな。
「これが、相手が《 隠蔽 》や《 偽装 》スキルを持ってたりするとまた話は変わってくるけど、それはまだ先の話ニャ」
「ちなみに、チッタさんの時は四層ボスは倒せたんですか?」
「無理だったニャ。ウチの今の団長、副団長含む六人で、一匹のトカゲから逃げまわってクリアしたニャ。あちしらの時もリザードマンだったんニャけど、トライアルの段階だとリザードマンの《 ハードスキン 》を抜く攻撃力が中々確保できないニャ」
あの鱗の事だろうか。……専用スキルでもあったんだな。硬いわけだ。
「かといって、次のももっとヤバイんニャけどニャ。……あちしたちはここから半年の訓練が入ってようやくトライアルをクリアしたニャ。だから、ここを一発でボス撃破して通過するお前らは、素直にすげーと思うニャ。ゴブリン肉真顔で食うのはもっとすげーと思うけどニャ」
それは欠食児童の必須スキルだから大した事ねーよ。
「さて、どうせこのまま五層行くと思うけど、どうするニャ?」
「そりゃ行きます」
ユキは間髪入れずに答える。
"お前はどうなんだ"と、チッタさんが俺を見るが、答えは変わらない。
「俺もさすがにここで帰る選択はないです。ここまで来たら初回クリア目指しますよ」
「そうかニャ。まあそんな甘いわけじゃニャいけど、頑張ってみるといいニャ。お前ら見てると案外突破するんじゃねーかって気にならないでもないニャ。それに、ここまで来て五層見ずに帰る冒険者はほとんどいないらしいからニャ」
言われてみたら、誰でも五層覗くくらいはするか。んで、大抵脱落すると。
三層までならともかく、おっさんとの戦いを体験した今だと、フィロスの言ってた"洗礼"がどんなもんなのかちょっと怖くなってきた。
「それじゃ、あちしはここでお別れニャ」
「え、最後まで同行しないんですか?」
「そういう決まりニャ。まあ、最後は保護者なしで頑張るのが試験って事ニャ。ちなみに五層ボス戦に一度でも挑戦すれば、次からは同伴者は必要ないニャ」
それは、できれば無用のルールと思いたい。
「それじゃ帰る前に、最後になるけど、なんか質問あるかニャ」
「あ、じゃあ気になってたんですけど、『ニャ』の位置がいまいち安定しないのは、キャラ付けが固まってないからですかね?」
「うるせーニャ! 最後まで失礼な奴らニャ!!」
プンスカ怒りながら、チッタさんはゲートへと消えていった。
-2-
チッタさんとも別れ、いよいよ最終層の攻略だが、その前に準備である。
第五層の情報がないので、階層移動していきなりボス戦というのもありえるのだ。《 看破 》を初めとするスキル群の検証、練習くらいはしておきたい。
「まず、《 看破 》についてだけど、アイテムは対象外だね。名前も分からない」
人間などの生物のみが対象という事だ。ひょっとしたらモンスターじゃない動物とか、冒険者以外の一般人も対象外かもしれないが、ここでは検証できない。
アイテムの情報を確認するのは《 鑑定 》なんだろう。ダンジョンの前でチッタさんが言っていた気がする。
「どんな効果があるのかをイメージした上で、スキル名を思い浮かべれば起動もできるな。ただ、《 パワースラッシュ 》の方はいまいち安定しねえ。相手がいなくても発動するけど、自分の考えてる斬撃のイメージとズレたら不発になる。逆に、発声起動だと不発にはならないが、無理矢理体動かされてる感じだな」
発声ありなしで、特性が違う。
発声なしの利点は自由度。ある程度剣の軌道を操れる。ただし、イメージが難しい。不発の危険性もある。
発声ありの利点は確実性。叫べば確実に撃てるが、いくつかパターンがある剣筋にむりやり引っ張られる感じだ。相手が慣れてたら軌道を読まれる危険がある。
慣れてきたら発声なしの一択だな。けど、痛みでイメージできない状況だとまた話は変わってくるかもしれん。
「僕も何か武器技を覚えてれば良かったんだけどね。……発動前の溜めと、発動後の硬直はどんな感じ?」
「上手く言い表せないな。……完全に動けないわけじゃなくて、体の可動域が制限されているような感じだ」
体の柔軟性が足りなくて、前屈ができないようなそんな状況に陥る。
「無理すれば動けそう? モーションの途中でキャンセルとか」
「格ゲーかよ。でも、かなり訓練すれば、溜めと硬直の短縮はできそうな気はする。ただ、今日明日じゃ劇的な短縮は無理だな」
「これからの最終戦には間に合わないか」
多分、これはレベルに関係ない純粋な技術だと思う。あるいは《 剣術 》スキル。
トカゲのおっさんも硬直時間はあったが、今の俺よりは短かった。今のままだと、正直トドメ以外には使い辛い。
このあと、負けて再挑戦する事になるなら優先的に練習したいな。一週間あれば結構変わりそうだ。
「この手応えからすると、威力は同じような構えから出す攻撃の二割増くらい。剣速はかなり速い。あとは、多分再使用時間みたいなものがあるな。しばらく出せない」
「MP消費とかはないんだよね? HP消費も?」
「魔法のカテゴリじゃないんだろうな。でも、HP消費して使うってわけでもない。これだけがそうなのか、武器技は全部そうなのかはわかんねーけど」
MP消費する《 マテリアライズ 》や《 看破 》はこの分類だと魔法だ。
「二つ以上の技があったら、硬直キャンセルしてコンボ出せないかな」
「できそうではあるけど、今の段階じゃ検証のしようがねーな」
アッパーからキャンセルして繋げられればいいんだが。
「《 看破 》でキャンセルできたりしないかな?」
「技出す度に《 看破 》するのかよ」
かなり奇妙な絵ヅラだ。
ちなみに、試してみたが、やっぱりできなかった。
ただ、硬直中だろうが、溜め時間だろうが関係なく《 看破 》は使える事は分かった。そう頻繁に使うものでもないからあまり意味はないんだが。
「ちなみにお前のはどんな感じなんだ?」
「武器のせいかもしれないけど、《 小剣二刀流 》と《 小剣術 》は《 剣術 》より強力に補正かかっていると思う。これ、カテゴリの範囲が小さくなるほど、補正が強くなるんだろうね。重複しているかは分からない。《 アクロバット 》は体を動かしやすくなって、無理な体勢が取りやすくなった。《 空間把握 》はどれくらいの距離まで攻撃が届きそうとか、相手の攻撃の届く距離とか、そういう距離感が分かり易くなった感じかな。トカゲのおじさんとやり合えたのは確実にこれらの影響だね」
実際、あの戦いの中で目に見えて動きが変わったからな。
「でも、火力はないから、最終戦はツナの《 パワースラッシュ 》が肝になるかな」
「やっぱ、最終層のボスは硬いのが来るのかね。数が多いとかの可能性はないか? 三層のゴブリンチームみたいなの」
「予想にしかならないけど、一体だと思うよ。強力な個体が一体」
「なんか根拠でもあるのか?」
「根拠っていうわけでもないけどさ、……一層から三層は気にしてなかったんだけど、四層のあれ、おじさんが例外的に強かったのは置いておくとして、あれが半分くらいの強さでも、後衛がソロで突破できるような気がしないんだよね。どうしても足止めできる前衛が必要だよ」
あのおっさん足早かったしな。
魔法使いがどんな感じで戦うのかは知らないが、暢気に呪文唱えてる暇はなさそうだ。弓使いでも厳しいと思う。
「だから、第四層以降はソロとか、少人数で攻略する事を想定してないんじゃないかな。運営側が想定しているノーマルなプレイだと、あそこで一回死ぬ想定なんじゃない? で、時間を置いて作戦練って、チッタさんが言ってたみたいな六人とかで役割の違う仲間を揃えて挑戦って流れ。"力を合わせて強い敵を倒しましょう"的な?」
「五層ではそれが更に顕著になると?」
「そうじゃないかなって。あと、ゲーム的な視点だと、人海戦術してくるボスってあんまりいないよね。いくらここがチュートリアル的なダンジョンとはいえ、そういう絵ヅラ的に見栄えがしないのはないんじゃないかなってお約束」
このダンジョンにゲーム知識が多分に組み込まれてるのはほぼ確定だから、お約束って線はありそうな気はする。
RPGのボスも一体がスタンダードで、体の部位ごとに行動するとかで行動回数稼ぐパターンが多いよな。あとはせいぜい手下が数体とか。
一ターンに七回行動してくる奴も、あれ融合体だし。
「じゃあ、何が出て来ると思うよ。どうせなら晩飯でも賭けるか?」
「賭けるの? 別にいいけど……。ツナはどんなのが出てくると思う?」
「登竜門ってくらいだから、門番って意味でケルベロスとか? ガーゴイルってのもあるし、意表をついて阿吽の仁王像とか出てきたりしてな。動く石像みたいな」
でも、自分で言っててなんだが、元のイメージだとガーゴイル以外は勝てる気がしない。飛んできたらガーゴイルもヤバイ。
「じゃあ、そのどれかだったらツナの勝ちでいいよ。賭けの対象は御飯の支払いで、負けた方は見てるだけにしようか」
「そりゃひでえ」
たとえば今日食べた定食だが、あれを目の前でただ見ているだけって状況になったら確実に泣くな。耐えられない。
「じゃあ、お前の予想は?」
「ミノタウロス」
単勝一点買いである。強気だな。
「随分はっきりと答えやがったな。確信してるのか?」
「勘。……でも、これまでのボスの傾向から、二本足の人型種ってのはそう外れないと思う。ボスって事で順当にいくなら大型の。で、それを前提にボスになりそうなモンスターってなんだろうって考えると、ミノタウロスとかオーガとか、目からビーム撃たないサイクロプスとか」
何故、サイクロプスだけそんな指定を入れる。アメコミ以外のサイクロプスは怪光線撃たないと思うぞ。
「でも、創作物で中盤あたりのボスとして、主人公の成長の試練になるような戦いで、結構ミノタウロス出てくるイメージが強いんだよね。なんでだろう」
「なんかデカくて強そうだけど、後半の強敵として出すには地味だからじゃないか?」
RPGでは、後半に出てくるようなボスキャラは作品の独自性を出してくるだろうから、その弊害だろう。
序盤はインパクト狙い、後半はオリジナリティをって感じで、登場するチャンスが雑魚敵か中盤しかない。
ただ、原典であるテセウスの話もミノタウロス退治が一番有名なのには違いないが、そのあとも話は続くわけだし、イメージ自体は間違ってないと思う。
ミノタウロスでもなんでもないが、黄金の鎧を着た十二人の中で、実質的な一番手だったあの人のイメージが混ざってるのかもしれない。
ただまあ、人型ってのは確かにありそうだな。これまでのも全部二足歩行の人型だし。運営側が狙ってる可能性も十分にある。
「ミノタウロスかどうかは分からんが、二足歩行の大型が出てくるとしたら三メートルオーバーとかだろ。勝てる気がしないんだが」
実際、巨体がもたらす威圧感とパワー、重量は脅威だ。いくら俺がでかい方とはいえ、格が違う。
ステータスが絶対の数値でなく、物理法則がある程度働いてる以上は、でかいというだけで十分脅威である。
冒険者側にもいえる事だが、種族的な身体機能の違いはでかい。さっきのおっさんもそうだが、純粋な身体能力だけなら人間って最下位に近いんじゃねーか?
加えて、ミノタウロスが持ってるイメージの強い両手斧とか、怖いってレベルじゃない。
「もし予想が当たったらツナがダメージソースなのは間違いないね。僕の攻撃は軽いし」
「トカゲのおっさんに使ってたような忍者道具はないのか? ニンニン」
「もう品切れ。できるだけ温存しておきたかったんだけど、出し惜しみできる状況じゃなかったでござるよ。ニンニン。ローグの基本は出し惜しみはしない事だしね。このダンジョンがローグ的かっていうとかなり疑問が残るけど」
実際の戦闘で出し惜しみとか中々できないよな。
「ローグってのとは全然違うのか?」
「というより、他の要素が強過ぎてローグっぽくない。MMOとか、MOとかスタンドアローンでもいいけど、普通のRPGの印象のほうが強いよ。死ぬとペナルティ喰らって地上送還とかアイテムロストだって、別に珍しくないでしょ。ランダムダンジョンはそれっぽいけどさ」
「元々はそうだったけど、アップデートで要素が追加されたんじゃないか。月次であるんだろ?」
「それっぽいよね。あの斜め読みだって、いつ書かれたものかは分からないから。でも、気をつける事は大体同じだと思うよ――
・できる限り情報は用意する
・神経質なほどに慎重に
・アイテムの出し惜しみはしない
・"まだ行ける"はもう危ない
――っていう感じで」
なるほど、確かにセーブポイントないんなら正論だ。
ただ、それを聞いてとても気になる事がある。非常に重要な事だ。
「言ってる事は分かるが、お前、ほとんど実践できてなくねぇ?」
ここに来る前に情報収集とか全然してないし、誰も一回でクリアした事のない最下層に挑もうとしてるし。
「てへ。いやー、トライアルって事もあるからね。できてないのは自覚してるよ。ペナルティありとか、デビュー後になんにも影響ないとかだったらもっと慎重になってるけど、ここはリスクとってもリターン狙いたい。ここで死んだりしたら、普通の攻略スタイルにするよ」
「分かっててやってるなら別にいいけどな。実際にほとんどリスクはないわけだから、リターン狙いは歓迎だ。俺もいい生活がしたいし」
ここで頑張れば後々いい暮らしができるというのであれば、そりゃ、疲れたり痛かったりの多少のリスクくらい許容するさ。
今までの人生はハイリスク・ノーリターンばっかりだったんだから。
-3-
階段を降りるとボス部屋だった。正確に言うと、一目でボス部屋と分かる巨大な扉があった。
「なるほど、ここでこのまま突入して死ぬのがパターンというわけだね」
最終層に来たら目の前にはボス部屋。ただし、両脇には別の道がある。
"なんか強いらしいから勝てないだろうけどどんなのか見ておきたい"、とか考えていたらそのまま突入しそうだ。
「ゴールが近くにあるなら手を出したくなるよな。しかも、実質的なリスクはほとんどないわけだから、とりあえず突っ込むと。……行かないよな?」
「そりゃそうだよね。探索してからでも遅くないでしょ。まだスキルの最適化はできてないし」
「雑魚敵が出現するなら、練習したいしな」
相手がいるのといないとでは、同じスキルの訓練でも随分差が出てくるだろう。
「じゃあ、可能な限り探索で。具体的には食料が尽きるまで」
「なんてこった……俺の懐にはゴブリン肉が大量にあるんだけど」
「僕は持ち込んだ保存食がまだ結構あるから、ゴブリン肉はツナが食べていいよ」
この世に神はいないのか。
「あー、ユキさん。僕たち仲間ですよね」
「じゃあ行こうか」
「ちょっとユキさんっ!?」
俺の相方は血も涙もねーのか。
それから俺たちは最終層の探索を開始した。
石造りの遺跡のような構造で、分かれ道も曲がり道も大体直角。だが、これまでの一本道とは違って分岐が多い。ちゃんとした迷宮だ。
敵も第四層までに出てきた雑魚敵とは違い、強力になっている。ゴブリン、蝙蝠、狼もどきに加え、コボルト、オークまでいる。しかも持っている武器が多彩なため、油断はできない。
道中で結構な数を虐殺して、少数のポーション、予備武器を手に入れた。中にカードではなく、実物で出てきたものもあったので、それを優先して使用する。
肉はほとんど出ない。これまでのドロップ率は、ルーキーにその不味さを教えるために補正がかかっていたのかもしれない。
ドロップした武器はすべてトライアル用の武器だ。上等な部類なのは助かるが、このダンジョンの外には持ち出せないし、装備の面でこれ以上の強化は見込めそうにない。
こうして考えるとユキの持ち込み装備は多彩だし、毒ナイフも強力だ。俺も独自性が欲しい。……使い道のなさそうな手錠以外で。
「ユキ、これマッピングしたほうがいいんじゃねーか」
想定していたよりもかなり広く、分岐路も多い。このままだと構造を忘れそうだ。
「まだ記憶してるから大丈夫だけど、そうだね。一応書いておこうか。ちょっと前にあった大部屋に戻ろう」
俺たちは、来た道を戻り、広めの大部屋でこれまでの情報を整理する。ユキは座って地図を書いているが、俺は立って警戒だ。
ちなみに、ユキが地図を書いているのは手製の植物紙に手製のペンで、手製の小さい手板まである。
量産はできなかったらしいが、この場面でポンと出せるあたりこいつはすごいと思う。
「うーん。こうして書いてみるとまだまだ広そうだね。ひょっとして、この層だけランダム構造なのかな」
「トライアル攻略のためにレベル上げする場所って考えるとありえそうだな」
「どれくらいでレベルが上がるのかも確認が必要だね。経験値とかちゃんと溜まってるのかな」
ここまでのレベルアップはすべてイベントボーナスである。経験値制ならそろそろ上がってもらいたいんだがな。
「もうちょっとかかるから、ご飯食べてていいよ」
「確かに腹は減ってるが、食欲が沸かないな……」
なんせもうゴブリン肉しかないのだ。この層に来て一つだけオーク肉も出たが、すでに腹の中である。
「もっと食料持ち込めば良かったかな。ツナは不自由ないだろうけど」
「いや、勘違いしてるかもしれないが、俺も味覚はあるからな。不味いのを許容できるだけで、美味いほうがいいのは変わらないぞ」
とはいえ、聞く限りに俺以外でここの肉だけ食って過ごせる奴はあまりいないのだろう。そういった面で有利なのは認める。
「でも、カレー粉あればまったく問題ないんじゃない?」
「いや……うーん」
どれくらい緩和されるかはやってみなきゃ分からんが、案外大丈夫そうなのが嫌だ。カレー粉は偉大である。カレー食いたい。
「あと、もうあんまり水がないね」
「そいつは死活問題だな」
実は水は何度かドロップしている。ただ、ポーションと同じ瓶に入っているので量が少ないのだ。
持ち込んだわけでもないので、実はかなり死活問題である。このままだと、食料よりも水の切れ目が探索の限界になりそうだ。
節約のためにゴブリン肉もそのまま咀嚼だ。この不味さで流し込めないのは辛い。
「できたよ」
「どれどれ……なんかやたら上手いな」
「地図はまた別の技術のような気もするけど、前世から絵は得意だったからね」
糸人間しか描けない俺からしたら、こういうものが描けるというだけで上等だ。
何故か紙の端にユキのデフォルメキャラらしき絵もある。何描いてんだこいつ。突っ込んだほうがいいのか?
「全体の規模がわからなかったからスカスカだけど、大体の構造は分かるでしょ」
「上等上等。で、次はどこらへん調べるよ」
「この真ん中の空白が多分ボス部屋で、その周りは大体終わったから、一回端を確認したいな。行けるところまで外に向かって進もうか」
「それはいいけど、水がなくなる前に戻れるようにしろよ」
空腹もそうだが、喉カラカラの状態でボスに挑むとかしたくない。
だが、その杞憂もしばらく奥に進むと必要なくなった。
飲用できる水が沸いてる水飲み場があったのだ。訓練用に設置されているものなのだろう。
女神像が持っている瓶から水が溢れて下に溜まっているので、良くRPGに出てくる回復の泉のようにも見えるが、飲んでみたらただの水だった。
残念ながら、これで長期戦確定になってしまった。
ここを拠点にして、スキルの最適化・検証を行いつつ、ダンジョンをマッピングする。
最初はここを取り囲む範囲から徐々に探索域を広げていく。
そして、しばらくするとある転機が訪れた。
「ツナ」
「なんだ」
「レベルが上がった」
……マジで。
「え、……俺は?」
まだ上がってないんですけど。
「五層に来てから、雑魚モンスター倒した量が、僕のほうが少しだけ多いからかな」
「まさか、個人差とかないよな。レベル上がりづらい体質だとか」
それは勘弁願いたい。ここまでのボーナスがあるので、上がらないって事はないと思うが。
その心配はすぐに払拭され、それから数匹モンスター倒すとお馴染みとなったシステムメッセージが視界に映る。
[ レベルアップしました ]
超シンプル。ファンファーレもない。
ともあれ、これで雑魚戦でもレベルが上がるという事は確認できた。
「ボーナスでレベル上がった時に経験値がリセットされてると仮定しても、大体三十体くらい倒す必要があるね」
結構きついな。レベルが上がるにつれて必要経験値が上がるだろうから、次はもっとのはずだ。
あるいは、適正レベルを超えると経験値が入りづらくなるシステムの可能性もある。
「次のレベルアップまでに必要な経験値で大体の上がり幅が分かるから、それで区切りつけてようか」
「水は大丈夫だしあとは食料次第だが、上がるとしてもあと2か、3か、それくらいだな」
倒すだけなら問題ないが、エンカウント率からいってもされくらいが限界だ。
ステータスの恩恵だけでも、平均してダンジョンに入る前の二割、三割増しくらいになっているので、それは贅沢かもしれない。
こうして、俺たちは淡々とマッピングとレベル上げを続ける。
次の転機が訪れたのは、食料の限界が見え始めてきたのでそろそろ戻って挑戦しようかという頃だ。
……宝箱を発見した。固定配置ではない初の宝箱だ。
「宝箱……。三層だけじゃなかったんだな」
「そうだね。なんか攻略の足しになるのが入ってると助かるんだけど」
と、期待はしてみたものの、中身は見慣れた< 低品質ポーション >のカードだった。
これで俺とユキでそれぞれ二本ずつ確保できたため、まったくの無意味ではない。
だが贅沢を言えば、ボス戦に向けた必勝アイテムでも入ってると尚良かった。ダイナマイトとかあったら完璧だったのに。
「じゃあ、もう少し余裕はあるけど戻るか」
「…………」
俺は来た道を戻ろうとするが、ユキはその場に立ち止まって考え事をしている。
「どうした? なんか必勝法でも見つかったか?」
まだ見ぬボス相手に必勝法もないだろうが。
「……第三層でさ、チッタさんが、宝箱の近くはモンスターが湧きやすいって言ってたよね」
「言ってたか? ……言ってたような気もするな」
生宝箱を前にした感動で聞き流してた気もする。正直、あんまり覚えてない。
実際、今も複数のモンスターが近寄ってきている気配がするので、間違いじゃなさそうだけど。
「ここなら、あと1か2くらいレベル上げられないかな」
「モンスターが宝箱に集まる習性を利用してか。確かにそれなら1レベルくらいならいけそうだな」
話しながら、背後に迫ってきたゴブリンを切り捨てる。
切れ味が落ちているのでほとんど鈍器になっているが、こいつら相手なら予備の武器を出す必要もない。
「うん、いいかもね、ここ。絶好の稼ぎ場所だ」
最初の戦闘でちょっとビビってたとは思えないセリフである。逞しく育ったね。
遠くから聞こえる足音と、気配の数はかなり多く感じる。
「えらい数が近寄って来てるな。乱戦にならないか」
「二手に別れよう、通路は丁度二つだからそれぞれ塞いで抜かせないように」
「処理し切れないくらい出てきたら?」
「どうしようもないなら逃げる。一応地図渡しておくから、最悪逸れる事になったらボス部屋の前で合流ね」
その可能性は考えたくないな。
と、丁度、モンスターの群れが双方の通路からやってきた。予想したよりかなり多い。
「じゃあ、健闘を祈るよ」
「ああ、ヤバそうだったら声あげろよ」
「はは、そうだね」
今度はヘタレないようだった。
そうして最後のレベル上げを始めたわけだが、モンスターは想像以上に絶え間なく湧き続け、切り上げ時を見失った俺たちは結局Lv10になるまで戦い続けた。
道中はそれほど現れなかったのに、一体どこに隠れてたんだよという規模のモンスターの波をひたすら狩り続ける。
魔化に時間がかかるなら、あの部屋は死体で埋まっていただろう。迷宮都市の外なら地獄絵図だ。
二人ともレベルが上がったのを確認し、モンスターだらけになった通路を無理矢理走破してボス部屋の前に戻る頃には、疲労と空腹で倒れそうな状態だった。
辿り着いた俺は、ボス部屋の前で倒れこむ。
「じ、地味に危なかった……。なにあの数。モンスターハウスかなんかなの?」
「あの宝箱、モンスターにしか聞こえないアラームでも鳴らしてるんじゃねえか」
なんか人間に聞こえない超音波とか。じゃないと有り得ない量だった。
一体一体は別に強くもないが、倒しても倒しても沸いてくるモンスターの群れに押し潰されそうだった。特に飛んでくる蝙蝠がヤバイ。群がられた時は死ぬかと思った。
「あーちくしょー、腹減った」
これからボス戦だというのに、もう肉もない。しかし、空腹で座り込んだ俺に、ユキがおにぎりを差し出してきた。
「はい、一枚しか拾えなかったから、半分こね」
「え……お前、あの乱戦の中で拾ってきたのか?」
確かに床にはたくさんカードも肉も落ちていたけど。
「とっさだったから、これだけだよ。これからボス戦だってのに、お腹減ってたら力出ないし」
……こいつ、色々すごいよな。俺、拾う事すら考えられなかったわ。しかも、大量にあった肉のカードじゃなくて、ほとんどなかったおにぎりを拾ってるのがすげぇ。
二つに分けられたおにぎりを、噛み締めるように1口ずつ食べる。良く考えたら、十伍年振りくらいのおにぎりだ。
体は現金なもので、たったおにぎり半分でも一戦くらいはなんとかなりそうな気がしてきた。
「さて行くか、ここまでやったんだから勝つぞ。でも、勝っても負けてもすぐに飯食いに行くからな」
「賭けは覚えてる?」
「…………オボエテルヨ」
どうしよう、忘れてた。この空腹の状況でただ見てるだけとか拷問に等しいんだが。
死んで復活したら腹いっぱいになってるとか、そういう事ないかな。
……よし、二足歩行の大型だとしてもミノタウロスじゃなかったら、『駄目ですぅ~、外れですぅ~』ってゴネよう。ウザさで誤魔化すんだ。
そう誓いながら、ボス部屋の扉を二人で開ける。
最後だから少し拘りを見せたのか、その扉は巨大でいかにもボスがいますという雰囲気だ。これまでのボス部屋とは違う。
中は暗闇。そして、扉が完全に開いた直後、入り口付近の松明から順に燃え始め、徐々に部屋の中を照らし出していく。
最後だけ凝り過ぎだろ。……これじゃ、本当にラスボス戦じゃねーか。
俺たちは一度お互いを見て頷き合うと、一緒に部屋の中へ足を踏み入れた。
-4-
荘厳かつ重厚な、魔王が玉座に待ち構えててもおかしくない場所だった。
全周を囲むように松明が明かりを放ち、円形のホール全体を照らしている。
これまでのボス戦と同様、入ってきた扉はすでに消えていた。もう、引き返す事はできない。
魔王の玉座はないが、装飾された床と壁、一定距離でそびえ立つ柱一つ一つに彫刻が掘られており、王族がパーティをしてもおかしくないような豪華さだ。
照明は残念ながらシャンデリアではなく松明で、ホールの全周と柱に多数設置されている。
だが、ここがパーティ会場でない事は、俺たちの正面にある鉄格子の巨大な扉からも明らかだ。
ここは、たとえるなら闘技場。観客席もない、ただ、魔獣と人間を戦わせるために作られた闘技場だ。
ボスが登場してくるであろう巨大な扉はまだ開け放たれていないが、巨大な、地鳴りのような足音が近付いて来ている。
「うん、賭けに勝ったかも」
「いや、まだだから。まだ出てないから」
明らかに巨大な質量が移動している。足音から二本足である事も分かる。
扉の鉄格子が開き、奥の暗闇から1体の巨大な生物が、のそり、と姿を表した。
――ミノタウロスである。
その姿を現しただけで、圧倒的威圧感がホール全体を覆った気がした。
まだ姿を見せただけで対峙すらしていないのに、全身から冷や汗が吹き出すのを感じる。
……やばい。やばい。やばい! 賭けとか、そんな事言ってる状況じゃねぇ。
扉の前で直立して両手斧を構えるそれは、目算でも間違いなく四メートル以上。下手したら五メートルに届きそうな巨体。
石突を地面に突き立てると、それだけで地響きが伝わってくる。
かつて見たことのない巨体、全身を覆う鋼のような筋肉の圧倒的質量は、立っているだけで恐ろしい威圧感を放っている。
完全に予想を越えていた。
まともなルーキーなら一度は挫折する、平均なら六ヶ月はかかる、という情報から、最大限まで上方修正していた予想を容易く裏切られた。
あんなもの、常人なら対峙しただけで心が折れる。
「は、……はは、賭けは僕の…勝ちだ、だね」
「悪い。……軽口叩ける状態じゃねぇ」
分かってる、ユキだってまとわり付く恐怖をなんとか振り切ろうとして語りかけてきたのだ。
だが、それを返す余裕もなく、頭の中はあの絶望とどう立ち向かうのかでいっぱいいっぱいだった。
俺たちはこれからあの超生物と戦わなければならない。……どうやって?
ミノタウロスは、ゆっくりとホール中央に向かって歩いてくる。その巨体は動く山に等しい。
あの巨体相手に一体どう戦う。
パワーがあるのは間違いない。あの斧が振られたら掠っただけでも甚大なダメージだ。ならスピードは? あの重そうな巨体に鈍重である事を期待する? いや馬鹿な。そんな根拠の無い希望に縋ってどうする。ゲーム的なステータスが補正をかけている以上、むしろ、あの巨体でリザードマンのおっさんと同等に動く事すらあり得るはずなんだ。だったら四層と同様、ユキに遠距離で観察してもらって弱点・対策方法を探る……いや、俺が前に出るのか? 俺が前に出てあれと撃ち合う? できるのか。できるわけねぇだろ。あの斧を剣で受けたら一発で俺ごと木っ端微塵だ。躱せって? このプレッシャーに耐えながら? 冗談だろ…
ミノタウロスが、ホールの中央に到達したその時だった。
奴はその場で立ち止まり、こちらを見据えて、大きく息を吸い……。
「まずいっ! ユキっ!」
まずい。まずい。来るのが分かっても対処ができない。"あれ"は第二層のやつなんかとは比べ物にならないものだ。
ダメだ、来るっ!!
――――Action Skill《 獣の咆哮 》――
ミノタウロスの大きく開かれた口から放たれる咆哮。
ホール全体が反響音で振動し、照明の篝火が大きく揺らいだ。
第二層でオークが使ったそれと同じスキルであるはずなのに、それはまるで、それ自体が質量をもったモンスターであるかのように襲いかかってきた。
――威圧効果のレジスト失敗――
――状態異常・恐怖が発生――
瞬間、世界が色を失った。
「あ、ああ……」
巨大な絶望が近付いてくる。
あまりの恐怖に脚が動かない。呼吸の仕方を忘れてしまったように息もできない。
逃げなくちゃいけない。逃げないと死ぬ。……どこに? 逃げ場なんてもうないじゃないか。
このホールで逃げまわっても、すぐに追いつかれて、あの斧で真っ二つにされて、あの巨体で踏みつぶされて、グチャグチャのミンチにされて終わりだ。
「は、はは……は……」
もう駄目だ。このまま何もせずに殺されて、トライアルの挑戦は失敗。
……そうだ、トライアルだ。今回駄目でも次があるし、実際みんなそうやってる。そもそも、初回クリアなんて無謀だったんだ。
このまま俺もユキも殺されて、地上に戻って、賭けに負けたからユキが飯食うのを断腸の思いで眺めて、"残念だったな、次頑張ろうぜ"って言うんだ。
『攻略自体は難しくなかったよ。初心者への洗礼は受けたけど』
これが難しくない? 冗談だろ。洗礼ってレベルじゃねーよ。
『お前ら見てると案外突破するんじゃねーかって気にならないでもないニャ』
うるせー、ふざけんなよ。そんな簡単なものであるかよ、これが。
『お前ら"日本"出身だろ? ダンジョンマスターの同郷ならそりゃ期待大だ。どんなすげぇ国かは知らねぇけど、それだけで何かやってくれそうな気がする』
何期待してんだよ、おっさん。こんなのどうしようもねえだろ。あんたの中の日本人はどんな化け物だ。人種とかまったく関係ねーよ。
登竜門がこれで、じゃあ、本チャンは一体どんな地獄だってんだよ。
『はい、一枚しか拾えなかったから、半分こね』
……ああ、でも、二人で頑張ろうって決めたんだ。ここで諦めて何もせずに終わってどうするよ。
次があるから諦める、なんて甘い考えだから、六ヶ月かかるのが当たり前だとか言うんだよ。だから、あの猫耳は一年とかかけてるんだよ。
たとえ死ぬんだとしても、次は勝てると確信できる"何か"を掴まなくちゃ、一歩も進めるわけがねぇ。
死ぬなら前のめりでスライディングだ。限界まで手の内を暴いてからだ。
それが、"死んでも許されるシステム"で前に進むための、やらなくちゃいけない最低限だ。
見上げると、ミノタウロスはすぐそこに迫り、斧を振りかぶっている。こっちが動けない事がわかっているのか、その動きはゆっくりだ。
その姿は、未だ恐怖に縛られている目には実物の数倍もの質量に膨れ上がって見えた。
元々子供と大人なんて体格差じゃない。それは幻覚で更に膨張して、山が伸しかかるように迫ってくるように見える。
十メートルはあるんじゃないだろうかというほどに巨大に映るそれを前にして、まだ脚が動かない。
動け!
せめてファーストアタックくらい避けないで、どうやって次勝つんだよ。
心が叫び声を上げるが、体が言うことを聞かない。システムで決められた状態異常に逆らえない。
……本当に?
「……ぉ……」
……いや、違う。逆らえるはずだ!
「……ぉおお……」
俺は知っている。この恐怖を知っている。これは、すでに乗り越えた事のある危機だ。
故郷の山の中で、たった一人であの豚共とやりあった時だ。あいつらのリーダーらしき派手なやつと対峙した時に同じ状況になった。
あの時はどうした。体は動かなくて、声しか出せなくて――
――大声を上げたんだ。
「うぉぉおおおおおおおおおっっっ!!」
雄叫びと共に、恐怖の呪縛が弾け飛んだ。
そうだ、二回目だ。できないわきゃねぇ。
だが、ミノタウロスの斧はすでに振り下ろされ始めている。
大丈夫だ。体は動く。避けられる。
迫る巨大質量を全力で避けようと脚を踏み込む。あれは掠っただけでもまずい。
だが、意識だけが引き伸ばされたスローな世界で、ほんのわずかな時間視界に入ったユキは、未だ恐怖に縛られていた。
俺が躱しても、このままだとユキは間違いなく死ぬ。
「っんくそぉっ!!」
踏み出しかけた脚を無理矢理逆方向に捻り、動けないユキの体へ突進する。
ユキを抱きかかえて飛び退き、斧の一撃は辛うじて躱す。
だが、斧が破壊した床がはじけ飛び、無数の巨大な石片が舞う。それは俺たちの体を激しく撃ち、吹き飛ばした。
「うぉあああっ!!」
空中で何回も回転し、地上に落ちて尚転げ回りながら、俺たちはその攻撃を回避した。
「立てっユキ!! 寝てんじゃねーぞっ!!」
石片を大量に打ち付けられすでにボロボロだが、大丈夫まだ立てる。戦闘には支障ない。
「ご、ごごめん」
「返事ができるなら大丈夫だな」
絶体絶命のとんでもないピンチだったが、無理矢理回避した。
「何もせずにやられるなんて恥ずかしい真似はしねぇぞ。あいつの能力、行動パターン、スキルのどれか一つでも多く情報を回収しろ」
「あ、はは、……うん、分かった」
どうやら大丈夫のようだ。
突進が効いたのか、怒鳴ったのが効いたのかは分からないが、もうその目に"恐怖"の影響は見られない。
「なるほど、確かにあいつは壁だ。……初手で全滅寸前だったが、乗り越えるぞ」
これまでのボス……各層の試練は試練でもなんでもない。ただの準備運動だ。
こいつが、……この目の前の絶望の象徴こそが、冒険者になるための最初の試練だ。
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