光魔法に照らされて
灰色セム
光魔法に照らされて
光魔法で手元を照らす。垂れてきた緑髪をヘアゴムで束ねている間に、大通りはますます盛り上がっていた。日記帳のページをめくり、ペンを走らせる。
勇者が世界で初めてドラゴンを討伐してから、300年が過ぎた。今日は、ニホンという異世界からきた勇者がドラゴンを『調理』した記念日だ。つまり祝日と称した、飲んで食べる祭りが開かれている。
国王直々に「勇者ヴェルトに命ずる。いい感じに節目となる年だから、ドラゴン種をたくさん狩ってくるように」と、食料調達の任を与えられたときは冷や汗をかいた。ドラゴンたちには申し訳ないが、どうにかなって本当によかった。
会場の隅でワイバーンとダンシングキノコとコンニャクの煮物をスケッチする。伝承によれば勇者がコンニャクを発明したらしい。この地域でしか作れないコンニャクだが、彼のいたニホンでは全国的に食べられていたというから驚きだ。大通りから、ピンク髪の僧侶が軽快に走ってくるのが見えた。両手に何か持っている。
「やっほー。楽しんでる?」
「うん。日記を書くのがはかどるよ」
「勇者様は真面目だね。一緒に食べよう!」
ペンと日記帳をテーブルに置き、ニーナからドラゴンの串焼きを受け取る。自分たちで狩った獲物とはいえ、こうして調理されてしまえば、おいしそうに見えてくるから不思議だ。僧侶が肉を、それもドラゴンを食べていいのか気になるが、せっかくの楽しい行事だ。水を差すのはやめておこう。
「ありがとう、ニーナ」
「どういたしまして!」
「善なる神々よ、この命を糧とし――」
「見て見てヴェルト。光魔法ハナヴィを打ち上げていくみたいだよ!」
300年前に発明された光魔法が、夜空を彩り始める。
会場のどんちゃん騒ぎに、僕の声がかき消されていく。まぁ、今日くらいは神様たちも見逃してくれるだろう。
串焼きをかじりつつ横目でニーナを見る。ハナヴィに照らされた彼女の笑顔は、とてもきれいだった。
光魔法に照らされて 灰色セム @haiiro_semu
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