第3話
雪だるまは雲の間から下を指さしました。
コン太がおそるおそるのぞいてみると、雲の間から真っ白な森が見えます。人里も見えました。
コン太はくりくりとした目をかがやかせました。
「わぁ、すっごいや」
コン太は大喜びです。
雪だるまは、ころりと雲の上にねころんで、コン太に言いました。
「君もやってごらんよ」
コン太もまねしてみました。
空に浮かんだまるい月とたくさんの星は、いつもよりずっと近くで、きらきらとかがやいて見えます。
「すごいね。なんてきれいなんだろう」
どれくらいそうしていたのでしょう。
空はだんだんうすいオレンジ色にかわっていきます。
「もう時間だね」
雪だるまは残念そうに言いました。
「どうして。もうすこし遊ぼうよ」
コン太がそう言っても、雪だるまは首を横にふって、東の空を指さしました。遠くで、空の色が赤くなってきました。
「もうすぐお日さまが顔を出す。それに春がもう、すぐそこまで来ているんだよ」
雪だるまはコン太の手をしっかりにぎって言いました。
「さあ、森に帰ろう」
ふわりと体が浮かび上がり、体がギュイーンと下に落ちていきます。それから、あっという間に森に戻ってしまいました。
山の向こうから、もう太陽が顔を出しています。
森もだんだん明るくなって、鳥の鳴いているのが聞こえます。
雪だるまはさっきよりずいぶん、小さくなってしまったようです。
「お別れなんて嫌だよ。もっと一緒に遊びたいよ」
コン太は雪だるまの手をにぎろうとしました。でも、もう雪だるまには手も足もありません。
朝日をあびて、あたりの雪も少しずつ解け始めています。
「楽しかったよ。本当にありがとう。さようなら」
それが雪だるまの最後の言葉でした。
コン太は悲しくなりました。
コン太の目から大つぶの涙がこぼれました。
大きな声で泣いているコン太のとなりには、いつの間にか父さんキツネがよりそっていました。
「お父さん、雪だるまが……消えてなくなっちゃったよ」
父さんキツネはコン太をぎゅっと抱きしめました。
「雪だるまは、命をつないだんだよ。」
「命をつないだ……? それ、どういうこと?」
「雪だるまは、水にかえったんだ。その水が花や森、動物たちをはぐくむんだ。だから、お別れなんかじゃないさ」
「でも、ボク、もっと一緒に遊びたかった。もう会えないの?」
「また会えるさ。冬になれば、またきっと」
父さんキツネはコン太の涙をましたふきながら言いました。
「そうだね。きっと、また会えるよね」
朝日の中で、とけだした雪がきらきらと輝いているのを、コン太はいつまでもいつまでも見つめていました。
きつねのコン太と雪だるま 楠木夢路 @yumeji_k
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