酔狂詩人・ルドルフの悪夢

優璃

第1話 絶望








 “『………ねぇ、ママ。…怖いよっ…!』"



 刹那、僕はふっと、とある面影を察知してしまった。


 劇場のスポットライトの下、目も開けられやしない途方も無く儚い煌めきを放つ彼に……。


 ツンッと、僕の鼻に鈍い痛みが走り、熟れたての林檎の様な熱き頬を伝い、微かに冷たい水滴が止めどなくボロボロ溢れては、霧に歪み行く視界へ溶けて行く。


 ぶわっと鳥肌が立ち上がり、盲目と化した視界に滲むのは、照明の月光色の絵の具を細筆で水に溶かし、伸び行く光の精霊が幻想的に放つ静寂な光。




 激情的かつ獰猛な竜巻が荒れ狂う真っ只中。


 僕は現在、グワァァアアと疾走する悲鳴に度肝を抜かれてしまった、己と別世界で呼吸を繰り返す”彼”へ熱狂する二千もの崇拝者に包囲されている。

 


 聴衆に伝う耳の震動の為に、観客の胸は切り裂かれ、劇場床のカーペットの紅と降り注ぐ血涙が融合した。

 そのカタルシスは、曖昧なグレーの曇天中に激しく憤る渦目を観客胸中に植え付けられる。



 嗚呼、悲劇のヒーロー役は、五、六歳頃の少年だ。

 あどけなく、そして何処までも澄み切る雲雀のソプラノボイスで、枯渇した愛の叫びと絶望に由来する孤独を物憂げに謳い上げている。


 その背後には僕の旧友で有る、カラスの様な眼付きをした、アンドロイドの様な、それでいて肉食獣の様な、、

 一見、矛盾の生じる特徴を同時に持ち合わせ、得体の知れず不気味であるのに、肌に何より馴染み、いつの間にか体を乗っ取っては、影の如く永遠に付き纏う男。




 彼等の正体が、幼き日の自分の片鱗だと悟る瞬間。


 肉体の皮膚の輪郭が不意に時空から剥がれ落ち、生成されし小さな老廃物が、元の涙腺部位からホロリ、と溢れ出して行った。



 *




 しわくちゃもみくちゃに赤鬼仮面を被る翁の遠い昔話によれば、或る処にドスドス、ゴジラ並みの全体重を地面へのしかけ、足音で威嚇する奇妙な怪物が居たそうだ。


 その巨大な獣が、怒涛に襲い来る無情な涙の軍団を天空からさめざめと染め上げ、”彼”の紅色の頬に打ち付けし風はオギャァアアーと赤子の上げる産声の如し。


 ゴロゴロゴロッと激しく天を切り裂く雷鳴を轟かせ、遠く彼方のドブ鼠色の空にピカッと一直光線を堕とす。

 稲妻は、次の出番を今か今かと闇夜の舞台袖にて待機して、やがて尊大なる癇癪を起こした。


 その後に続く、誰かの過剰なギャアアアーーと言う耳障りな悲鳴が、観客の一人のとある少年の不安を微小に煽る。



 舞台上の彼等が、悲劇の四重唱を奏でる間に、御伽の国の魔法は解けてしまい、真紅の薔薇は枯れ果て、全身を駆け巡る血液は青黒い錆に姿を変えた。


 愛の残骸に埋もれしシンデレラは、非条理な世への悲嘆に明け暮れては、何処かで見かけた様なダンス依存症の娘と同じ結末を辿って行く。



 水深一cmの濁流に溺れる沈没船街に腐臭漂わす赤煉瓦倉庫の路地裏に、独り取り残されし“彼”は滑稽な体育座り。


 何もかもが混沌と化し、全てがごちゃごちゃと収集が着かなくなってしまう眠れる森の迷宮に果てしなく停滞する少年は、聖書で云う仔羊の如し。


 ジリジリと灼熱の陽射しに晒された筈の焼石の凸凹はひんやりと冷気を帯び、ユラリフラリと重力は抜け、ぐにゃぐにゃ歪む視野は、『不思議の国のアリス』の世界を構築する。


 “きっと今すぐに、ママが迎えに来て、抱き締めてくれるんだ…!”


 そんな阿保な暗示を反芻し、それでも夜明けに鳴く鶏の騒々しいコケコッコーの不変性の信仰心だけは見失わまいとする盲目の美少年は、月星の奪われた外界の真空へ、穢れなき黄昏の灯をただ瞳孔に宿していた。


 永遠を浪費し浪費し、そう、”愛”とはそう云うものネ。



 嗚呼。

 刹那、哀愁が秘められし、ぷっくりと膨らみを帯びた涙袋の影を過ぎたそれが、雨粒で有るのか否やの真実を、少年は分からないので有る。


 無情にも、脳味噌へ秘密裏に仕掛けられた時限爆弾のカウントダウンを、カチカチッと推し進める赤のネオン細胞が怪しげに蠢く。


 そして、皮肉にも着実に、心臓に埋め込まれた懐中時計の歯車は狂い出し、春夏秋冬が巡り再び巡り、季節は現実世界の狭間から入眠へと移り変わり。



 湿気た雨の匂いが、相変わらず少年の嗅覚を擽り、沈没した胃袋では蚊の殺戮に失敗したかの様な喪失感と一滴の涙だけが、たぷたぷと木霊する。

 肉体から分裂した彼の魂が始めるのは、居場所無きこの世から乖離し、空白の五感のキャンバスをウヨウヨと流離の旅。


 果たして、宇宙幸福者ランキング・優勝者の御方様は、屋根裏の隅に引き籠り闇の嘔吐代替品として、言の葉の庭へ逃避する事が有るのだろうか。。


 現状に到底満足出来やしない愚者は、ノートに悪態文句ツラツラ書きツラね、傲慢自惚れ甚しく”自己受容”とか言う謎単語の真実を追求するべく、無意味なアートもどきの創造神と名乗る。


 そう、AME は、彼を詩人にした。




 嗚呼、結局の所、待ち人へ馳せる想いに恋焦がれ過ぎて、過剰な感情を吸い込む掃除機の引力がウイィィーンと唸り、煙草の燃え殻の生命だけが彼の全財産となる。


 歩き方も目的地も自立方法も、とうに夜空の地平線へ広がる忘却線の彼方へ飛翔。

 堕ちて行く凶器と化した叫びは、傷口から流れる血涙の味を脳裏へ刻み付けた。



 ほれ、見てみなよ。


 身体の血管を青褪めた絵の具が保冷剤の如くカチンコチンと脈打ってさ、金縛りに遭ったマリオネット人形が道端に捨てられてるよ。


 ああ、いとをかし、いとをかし。


 クスッとシニカルな laugh がアスファルトと共鳴し、痛く切なく脆く蹴られ続ける石っころの人生のよう。




 刹那が幾億時間にも錯覚される頃、燃え滾る灯は雨に浄化され、蝋の風貌は静寂の闇の使者が神隠し。

 

 無意味な思考の反芻にグツグツと浸る少年の耳元に突然、屍肉を纏う骸骨様は、眼球の繰り抜かれた部位の渦巻きをギラリと狂気的に光らせ、ゾッとする様な青紫の端正な唇から、ふっと雪女の息を吹きかける。



  “哀れなる少年、君は我がトモダチ。現にいれば不幸ばかりが君を呪縛する。どうか、こちらへお出でなさい。涙の味は知らぬ苦は存在せぬ怒は光に溶けるだろう。今こそ、燈された百万のキャンドルの方角へ翼を広げるのです。”


 魅惑的な響きに揺れるシンフォニーに、風の美声でざわざわと青白い炎の細波が立ち、線香花火の麻酔で少年を夜の底の黒洞々道へと誘う。


 彼の心臓は、春の女神との決別を果たした冬将軍の王国に支配され、堕天使様は久々の天使の変装に窮屈ながらも舞い踊るジレンマ。


 鬱蒼と膨張する暗雲払い除け、ぱあっと微笑を浮かべる最期の太陽。

 敵対する女王様の威力は、涙酔いに激昂常連客集う居酒屋の卓上にクタバル風を叩き起こし、トモダチを自爆霊の棺桶に磔の刑+蓋を、十字架を首に蛇を噛ませる様にグルグル巻き。


 僕の皮膚も毒牙に爛れ、喜怒哀楽が崩壊し、哀しいのに笑いが溢れ、怒りに涙が溢れ、血流逆流のギャップに凶器が沸き立ち、アヘン中毒者の如く焦点が合わず幻覚・幻聴が無双状態。


 身体を構成し分子が粉々に砕け散り、遥か彼方の惑星古都への返還を希求じゃい。


 だがだが、天空城壁の乱気流の無口さに憤慨し堕落の路を行進する化学元素は、破壊と創造を司る夕陽の神に呆気なく兜を追い剥ぎされる。


 どうせ、自立飛行不可能だと愚痴ってやがる迷信野郎。

 だが、己の背中には臍の緒を鋏でチョン切られた際に発見されし、♡ バキッと÷2の傷痕が有るのだよ。


 だからネッ、僕はきぃ〜〜っと、間違えてニンゲンに産まれてしまったちょうるいナンダ。


 だってだって、夢にはいつも小鳥ちゃんが登場するのさ。


デジャヴデジャヴデジャヴデジャヴデジャヴ


フラッシュバック現象の瞬間に現れ、輝きの湖の水面に映える、カワイイカワイイ渡り鳥チャン。


 その子は、気の毒に翼をもがれ、悲痛に軋む産声を決死に叫び、蒼き羽毛の隙間から血潮をブルブルぶっ飛ばし、鳥籠の柵にバッタバタ、懸命に小ぶりな頭をぶっ付ける。


 オペラグラス両手に、バードウォッチングに勤しむ、通りかかりの猟奇的殺人鬼。

 彼は、覗かし顔下半身を満面に花開かせ、甘美に蕩ける密巣食う快感は鈴を弄ぶ様に、澄み切った声を響かせては、砂漠に落ちる雨水の一滴目の如しの恍惚感を齎す。


 何もかもが、残酷で鋭利な刃物の矛先でジワジワと追い詰めて、遂に小鳥の喉元をギリッと引っ掻く。

 たらっと真紅の血液が垂れ、強烈な痛みを誘うも、酸素が身体中に上手く循環する事が出来ず、襲い来る呼吸困難とくらっとした眩暈。

 コロリと床に生首が転がり、血痕のスタンプが散り、破裂音騒ぐシャンパンの薔薇。



 少年の瞳孔の灯が揺らめいては消滅し、黄泉の国へ飛んで行ってからの数秒後。


 速やかに白旗を掲し彼は、フランス人形の美麗に縁取られた流れる様な睫毛を重たそうに持ち上げ、微睡みから目醒める時の様に眼に青炎を浮かべた。




 僕は、閻魔御用達・高級ブランドモノの漆黒ハイヒールを舐め回し、お前の全身の肌でさえ、汚い仔犬舌でぺちゃぺちゃ拭ってやる…どんな事でもシテヤロウ!


 無意味な呼吸を繰り返し、魂が消滅して、世界が崩壊し、屍の山に生き埋めとなってでも、僕は、煉獄を通過し、地獄の果てまで貴方へ着いて行く。

 忠実なル奴隷として、悪魔の子として…。


 だから……、どうかどうか、、壊してくれ、壊してくれ…!!

 何もかも、焼き尽くしてくれ…!!!



 化膿し傷口を抉りに抉って、繊維を炙り出し、たっぷり脂載る肉という肉汁に涎垂らし、咀嚼し、骨髄までヲしゃぶればいい。


 全身の筋肉を悪魔に密売シテヤロウ、禁忌だとて希死念慮の前には平伏すだろう。


 天使の如し道化の如し娼婦の如し、不自然な薔薇色に化粧されし角張った頬を所持する、ソイツの肌は雪の女王から賜下物だった。


 聖母様専用薔薇園の微笑を精製し、混沌の台風の最中、宙に浮く身体から差し伸ばされた手は既に体温を廃棄済み。


 砂漠に堕ちる、一滴の神の涙のオアシスに縋る様に、金網から外の世界への憧憬に何処までも続く青空に抗い様無き壁の呼吸困難に虚構映像を拡張し、首締め金縛の犯人と同様に、ギュウッと力強く掴んでやる。



 起立介助の瞬間、彼と死神の視線が交錯し、一つに融合して行く刹那。


 手の甲への接吻は、悪霊の巣を纏われし落雷に、ビリビリビリッと大地を切り裂く様な感電。

 霜が甲の中心から広がり、骨がバキバキバッキーと折れ、吸血痕が歯型から滲む入墨が解けぬ魔女の呪いを刻印し、少年は雪だるまに大変身。


 夕焼けの流血がどろどろとスローモーションし、予言される破滅兆候に、操り人形は最期の涙を封印。


 さぁ、死体を抉る様な、墓石を暴く様な、悲劇的洗脳へバンッ、崩壊再生銃口突き付け撃てヨ。

 破裂しボロ肉片、散らばりは花の如し。


 一瞬にして熱病に溶かされ、瞳孔がみるみる膨れ上がっては、パアァーーンッと勢いよく弾ける赤い風船。


 急激に萎みゆく視界中はスロットの様に盲目の痛々しい空白に塗り替えられ、どくどくっと波打ち鬼気迫る血管の狂気が、彼を破壊衝動へと突き動かす。


 自分の影に人生を乗っ取られ、光が痛い太陽が怖い呼吸が痛いと想像を絶する酸欠状態の境地で、閻魔大王にピンセットで解剖されし充血の白眼をひん剥き、


 シニタイシニタイシニタイ


 と狼人間として遠吠するは、少年。


 

 “答えは、No, ダ、少年。お前を喰ってもハイエナの味がするダケ。覚えておくがイイ、我らは、崇高なる美食家なのデアル。……だが、親愛なるトモダチ。ソウダナ、お前は、面白い玩具となりうル。夢の国で暮らすが良イ、これから、たあぁっぷり楽しませて貰うぞヨ。せいぜい、我らの慰みモノとして足掻くがヨイ。その分だけ、君の物語は上等の摘みとなるのだかラ。オーホッホホホ、オーッホーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー”

ザザァァァァアアアアアアアーーーーーーー



 理性を失くした少年の聴覚はぐわんぐわんと飽和され、シェイクシェイク。


 エンタメ好きな小悪魔の戯言、一音一音が汚部屋の床に散乱。

 それらを拾い集めなければならないと言う気力さえ空っぽの噴水の霊廟には遺されて居なかったし、ピリオドは悪夢の交響曲に掻き消されてしまった。


 よって、以上の“”を省略するとする。




 飛行艇に幽閉され、朦朧と雲で霞み行く彼の意識中にて、記憶の片鱗の数々と出逢う内、不意にその一つ、足静止させるはイマジナリーメモリー。


 思考のタイプが途絶え、目の前へ死神が纏うマントの闇が広がる瞬間。


 彼は遂に微睡世界に入国し、幸福の最高潮かつ、悲惨のクライマックスとも呼称可能な、“幻想の住処行き”寝台列車のパスポートを入手したのだ。



 

嗚呼………………………………………………

 目をぱちくりと開いた刹那、天井壁画下の登場人物は、聖母マリア・生き写しの慈愛の暖かさに満ちる微笑をふわっと咲く花の如く漏らす。


 彼女は、“僕”のママ、、だ…。


 ホロホロと溢れる嗚咽は、お天道様の体温を宿し、闇は嘘みたいなカタルシスの魔法で快晴に染め上げる。


 ママは、僕をふっかふかで豪奢な羽毛布団の敷かれた天蓋ベットに寝かし付け、天使の忘形見の子守唄を聴かせてくれた。



 子供部屋中央の赤煉瓦が囲いし、暖炉の灯は、焚べた薪の舞台上でパチパチと火粉の精が舞い踊るのが微かに観察出来、言い様の無い温もりが胸にまざまざと燃え広がる。




 “…………嗚呼、何処までも何処までも夢が、、続いて行けばいいのになぁ…”


 気怠げに流星群をギュッと握り締め、ロミジュリ様に習っては、銀河鉄道・終着駅までエデンの園様と駆け落ち成功願望を三回暗唱。

 

 星から降る黄金のフラッシュが疾駆し、クラッシュの瞬時、無賃乗車のプラグから駆け出し、三歳の子供を躾ける様に、Sっ気恐ろしトモダチは蜂蜜色の猫撫で声で忠告、耳元に。



 “さっきブリダナ少年ヨ、此処はおとぎの国の洗脳だと忠告はしたがナ……、序ノ口の序ノ口ニこんナにイトも容易く、ワナにカカルとはなァ。オモシロイ、ジョウデキダ!!

 ご褒美に言わせて貰うガ、、

 君はネ、だぁあれの目にも存在していナイ。

 君の声は、だぁあれ聞こえていなんかいナイ。

…………………君はネ、捨てられたんダヨ”




 軍服騎士の銅像の貴金属拳は、リズミカルな抑揚で僕の心臓をknock,knockし、窒息激痛に多角的視点・論点の概念が覆り、反論不可能の催眠術。


 防衛本能の鈍感さが敏感に、ネガティブ感情ブラックホールの所在が暴かれ、ソイツを引っ掻き混ぜ混じぇては、胸中ゲロに酔狂の生暖かな刺青。


 “早よ気付きなハレハレ…お前チャン”


 と唸る憎たらしい咆哮の野獣に向かい唸る返し。


 

 “あ嗚ぁ呼あぁああ、

 認めてっやるつっ……!!

 僕はっ、ずっと愛が欲しいっ!!!!” 




 スラム街を彷徨、布端切れ縫い合わせた人体模型の栄養失調で覚束ぬ骨と皮の飢餓肉腫の乞食君が、帽子の空虚さに隈だらけの涙袋から生理現象として血液が移ろう様に。

 


 それでも尚、生きて愛し夢に溶ける、“生命の水”を希求するのだけは、やめられない………♡うふふふふふふぐふふふふひぃ♡


 砂漠地方の脱水潤い、新緑に朗笑を鳴らす丘陵にビビッドでカラフルなブロッサムが咲き乱れる人生ドリームに迸る情熱。





ほんとうはネ、、さびしかったんだヨ……




 一九世紀のフィルム歴史博物館が現像再上映中蒸気機関非稼働の荒廃街臨む、遥かな海のフリルがザブーンザブンと波立。


 深青のドレスに映える茜の球体から滲むグラデーションは濃紺に、爆発時間の秒針刻々と迫り、カモメさん旗めかす羽毛の白をもが発光。


 だが、想像力を駆使し、彼のふわふわに指先で触覚を感知すれば、入り混じる紺碧の闇カーテン。


 究極光線に病む瞼の裏、映し絵一枚が火炎瓶に焼き尽くされる焼け野原の情景を、決してカモメは勿忘草として深海に葬る事は出来ないのだ。


 夕陽の終焉が散乱させる真紅光粒子を彼の瞳孔に収束させるのが、以上の代償デアル。






 嗚呼、時空も太陽さえも青く碧く蒼く青い炎渦に呑み込まれて行ク。



 僕はっ…ノートの空白マスに座り込んデル。


 世界に唯一人の肉親にも見捨てられ、唯独り置いてけぼ……………………………………

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

あああママが僕なんか要らないと吐き捨てる行かないで行かないでよママ行かないで…いかないでいかないでいかないでいかないでっ

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 頬を打ち付ける冷酷無慈悲な雨は、彼をたっだひたすらに嘲笑するかの様に。

 飢餓心にぼとり落とされし水滴は、愛の渇望だけを生成し、僕は虚無の世界へと放り込まれる。


 ああ

 寒い寒い寒い寒い

 

 如何にかこうにか血通いし唇は蒼褪め、リフレインリフレイン新たな生命は尽きる。

 再度、彼の眼乾涸び、安息の住処とは程遠い地中を生きとし生ける屍の如く徘徊して行く。


 彼にとっての僅かな供養とする為、感情はゴミシュウシュウシャに回収して頂いて、唯、解離された世界を虚に映す砂時計の硝子を観察し、瓶底へ最期の一雫が落下し永遠の終焉を待ち続けるダケ。



 イカれた煉瓦ブロックにジェンガ城の骨組みが無惨にもグチャグチャに踏み荒らされし投下隕石の地球儀損害に生物存亡、消え消えバクテリアバクテリアバクテリア…



 指からまろび出るこの一瞬を取替えそうと奮闘する英雄劇的テーマは愚問に過ぎず、怠惰に賭けに置いては、“天才”との異名を持つ彼は、最も“希望”を信奉した宇宙人に違いなき。

 


 文字定義の詐欺に王者君臨しアイデンティティでさえも疑心暗鬼の烈しい支配で、自滅とは誰でもご存知、堕落の蜜の胸焼けが、口の中にジワッと広がる。




 悲観的充血眼の傍観者が悟るのは、秩序も規則も机上の言論が構築したもので、生きて死ぬ間の無常性だけが絶対的原則だという事です。


 

 モネの如く開かれた新しきマナコで静観する世界は、この世の何もかもが最凶器と化しては、彼を傷痕装飾。


 以上の輪廻の沼からはどうやっても這い上がる事は不可能で、現実逃避へ瞼を閉鎖しても、ドロダラ爆流血液に溺れもがき刃物の一味一味は高級フレンチの最後の晩餐に食膳させるステーキだ。

 剥がし瘡蓋はビーフジャーキーの噛みちぎりを彷彿とさせる。




 空気椅子の注射針で先の道筋立ち入り禁止看板を立て掛けたのはこれ以上の道を途絶えさせ、赤信号の守護神を召喚し、前に歩みを進める事など出来ぬ様に、立て掛けたかったら立て掛けたのデス。

 

 そうだヨッ、思考世界などなき、思考世界にいなくてよき、黄泉の世界へ渡る方が、ずっとずっとず〜っと幸せなんだあぁっ…!!!



 生きることより、死ぬことの方が幾億倍もネッ…………。




 表情を消失した少年の脳内では、膨大な絶望の言葉あられが多動する。

 星座早見表がバケツ毎ひっくり返されたかの様な情報の海に溺れ、高潮の一縷の平穏な瞬間を掴もうとブラックホールの目を回転木馬でぐるぐると廻る…目が廻る程に……。



 貴方は、シナモンロールからディッシュに溢れたアーモンドの欠片と同じ。

 コロコロコロコロ転がって行きます。


 顳顬滲む脂汗の熾烈な悪寒に、食後のデザート、プリンアラモードがお豆腐となりクチャァっと潰される。

 襲いかかる胃袋の汚物を丸ごとオエゥィァッとひっくり返す嘔吐衝動が混濁の便器に沈む真実を、一体誰が知り得ただろう。





 蒸気アイマスク装着でラベンダー畑へ瞬間移動のくらっとの眩暈に、想像を絶する痛覚神経を超越した瞬間、彼の脳内漂流オーケストラは指揮者がチェスの一手を遺失する様にタクトを遺失した事で、突如とし降り止まぬ雨でさえもお口もチャック。




刹那、息が静止する。

呼吸の仕方を忘れてしまう。

マチソワの中途、、、、、

地球滅亡。

再びプロローグから幕開けヨ。

我思わぬ信じぬには、欺瞞に過ぎぬ脆弱な世界…




 誰より慈悲深き生存本能は教えてくれたのだ。

 ただただ無感情に、ただただ事務的に生きなければならないのだヨ、、と……。


 

 

“!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

はぁはははっはははははははっぅうふぁあははははっあっはははぁはあぁぁあっあっはっはあぅはっははぁぁあぅっあっはっははっっ

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!”




 睫毛瞬ケバ、“影”ハ跡形モ消滅死、ダガ死カシ、周辺ニハ得体の知レヌ不気味ナ笑い声ノ反響ヨ。

 

 ホラー映画恒例行事のゾンビ様の呪詛読経と物怪舞踊がリンゴンリンゴンとチャペルのステンドグラスにフランケンシュタインの花嫁がふわふわっと花枯らしモランちゃん。


 被害妄想劇場の戯言だと分かってはいるのに、物体型所持せぬ、なにもの、、かからストーキング&監視され、嘲笑されている様な気が拭えず、ぞわぞわっとヨダツ身の毛。


 

 ブライドちゃんの突風涙雲下、分岐した大樹の枝に腰掛けし観察者の流浪の旅人、漆黒の鳥。


 繊細な人間、、いや…鳥は、傷付く事が日常茶飯事で有り、予防対策には無関心になるもの。


 期待を捨て期待捨て、諦め諦め諦め、停滞。


 いつの日にか知ってしまったお伽噺の停滞で、絶望の味を唇でギリっと噛み潰し。


 紅血をナゾル様に愛撫しては、世捨鳥・通称・鴉サンは、


『カアァゥーーー』


と空っぽな空に向かって、何か一言、嘆かわしそうに遺言し、やがて迎える、、EpiLogue



 




 『バサバサバサバサバサッ』



 漆黒の御羽根一枚を置土産に飛び立とうゾヨ、、新天地へ。




 だがしかし、あれは…見間違いであったのだろうか?


 去り際、彼が俯瞰した眼から涙を零す光景は……





 ぽとり

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