ダスト

神埼 和人

ダスト

「そっちに逃げたぞ!」

「追い込め!」


 下水道に子供達のはしゃぐ声がひびいています。


「やった! つかまえたぞ!」


 三人の子供達の内、一人が手の中に何かをつかまえたようです。

 三人はいっせいにその生き物をのぞきこみます。


「何これー?」

「つっついてみろよ!」


 けむくじゃらでぎょろっとした目と細い手足を持つ、丸い生き物は今も逃げようと必死にもがきます。


「こいつ、何食べるのかな?」


 そのとき、けむくじゃらが口からピューと泥をはいて壁に文字をかきだしました。


『ごみ たべる おいしい』


 子供達はおどろいてお互いの顔を見回します。

 一人が下水道を流れてきた空き缶をひろい、けむくじゃらの前につきだしました。

 すると、けむくじゃらは大きな口を空けて缶を一口でペロリ。


 おもしろがった子供達は、次から次へとごみをけむくじゃらに食べさせます。


 ペロリ! ペロリ! ペロリ!

 なんでもかんでも一口でペロリ!


 気がつくと、下水道のごみは一つもなくなっていました。


「こいつに名前をつけてあげようよ」


 一人がそういうと、けむくじゃらはまたも泥を壁に吹きつけて文字を書きます。


『ダスト』


「ダスト? こいつの名前ダストっていうんだ!」


 その日から、三人はダストと友達になりました。




 ある日、三人はダストを下水道から町外れのごみ処理場へ連れだします。

 そこには子供達の背丈の何倍もあるゴミの山がいくつもありました。


『ゴミだ ゴミだ ダストたべる』


 ダストはダスト文字でそう壁にかくと、うれしそうにぴょんぴょんと飛び跳ねています。

 ゴミの山はダストが食べ始めると五分もしないうちに、一つ残らずなくなってしまいました。


「すごい! すごい!」


 子供達はおおよろこび。

 ダストもお腹がふくれたのか満足そうに寝転がっています。

 体は一回り大きくなっていました。


 それを物影から見ていたゴミ処理場のおじさんは、三人に内緒でこっそりテレビ局へ電話をしました。


「ごみを食べる生き物がいるんだ……」


 次の日から、ダストは取材を受けたりTVにでたりと大人気。

 その度にどんどんごみを食べ続け、体もどんどん大きくなります。


 ペロリ! ペロリ! ペロリ!

 なんでもかんでも一口でペロリ!


 TVを見た人々は、ダストのところへ毎日ゴミを持ってくるようになりました。

 街はゴミがなくなってどんどんきれいになります。


 だけど、ゴミ箱もゴミ処理場もみんな必要なくなって、誰もゴミを管理しなくなってしまいました。

 ダストはゴミを食べるのに大いそがし。

 三人はダストと一緒に遊べなくなって、つまらない毎日です。


 そんなある日、子供達はゴミ処理場後で久しぶりにダストに会いました。

 ダストの体は今や家よりも大きくなっていました。


 でもなんだか様子が変。


 いつものダストみたいな元気がないのです。

 子供達は心配で心配でしかたがありません。


『おなか たりない もっと ゴミたべる』


 ダストはダスト文字でそう書きます。

 街中のゴミを食べ尽くしてしまったダストは、お腹が減って動けなくなっていたのです。


「待ってて!」


 三人はお家に帰ってゴミを持ってきました。

 でもそんな少しのゴミで、今のダストのお腹がふくれるわけもありません。


「どうしよう、このままじゃダストが死んじゃうよ」


 みんな悲しくて泣き出します。


『いいんだ ダスト ゴミたべる まちのみんな もの たいせつしない』


 ダストはその夜、静かに息をひきとりました。




 困ったのは街の人たち。


「このゴミはどうしたらいいの?」

「誰か、僕のゴミを食べてくれよ!」


 街はゴミであふれかえります。

 三人はなんでもすぐ捨ててしまおうとする街の人達を見て、ダストが言っていたことを思いだしました。


「お前達は街の人に見つかるんじゃないぞ」


 その日、三人はあの下水道にいました。

 腕にかかえたのは小さな三匹のけむくじゃら。


 そう、ダストの子供達です。

 三匹は、何度も振りかえりながら地下の暗闇に消えていきました。壁に小さな小さなダスト文字を残して。


『ちょっとのごみ ありがとう』

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ダスト 神埼 和人 @hcr32kazu

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