洗い流す
沙耶
第1話
誰もいない公園で空を見上げる。紫陽花を見にきたはずなのに、ぼやけた視界にはどんよりとした雲しか映らない。雨は涙だけを洗い流す。ウォータープルーフのマスカラが憎い。いっそぐちゃぐちゃに崩れてくれたらいいのに。
なんで?ばかりが頭の中をぐるぐる回るけど、答えのない問いを探すのにも疲れた。びしょびしょの滑り台の上に仰向けに寝転んで、目を閉じる。金属が酸化したツンとした匂い、ステンレスに雨粒が落ちて響く音、滑り降りてきた水が首元にあたる感触。ゆっくり目を開けると瞳の中に雨が落ちた。反射で瞼を閉じたけれど、手の平で遮ってもう一度目を開ける。指の合間から覗くと、たくさんの水滴が自分に向かって落ちてくる。雨はどこから降ってくるんだろう。空はどうやって泣くんだろう。ぼんやり考えていると、急にバケツをひっくり返したような雨が全身を叩く。公園でひとり滑り台に仰向けになって大雨に打たれていると思うと、なんだか滑稽で笑ってしまった。
家に帰ろう。水分をたっぷり含んだ重い服を連れて、少し軽やかな気分で。家に着いたら誰かのためのメイクを落として、丁寧に顔を洗おう。それからシャワーを浴びて、大好きなピザを頼む。今は、それでいいや。
洗い流す 沙耶 @SayaPhotoba
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