先生と呼ばせてほしい

「1話時点でのレビュー」

 (連載中か、)と思った、それは一つの作品として完成していたから。

 彼の直近のカクヨムに出した作品は五月の末のものだったと思われる。正直に言わせてもらうとそれ含む以前の作品らとは一線を画している部分があると思った。
 二つ前の作品「高田馬場のサイゼリヤ」は随分傑作だったが、そこでは私小説のイズムを彼なりに歪ませつつもまとめていて、それは素晴らしい出来栄えを提供していた。僕はそれで随分素晴らしいものだと思っていた。味は濃くて、途中からさらに食うのを躊躇ったけれども、それは私小説の濃厚さを表す食傷だったから、それでよかった。
 しかし今回はまた別のベクトルでものすごいものだ。ただ、別人のようになったという進化の仕方ではなくて、今までの彼の堆積が確実に垣間見える進化である。

 まず語彙力。これは以前から彼の武器であったように思われる。けれども今回はその刃をいやらしいほどに見せつける回数も、鋭さも、数段上がった。これは素晴らしい癖である。
 次にまとめきる力。彼は物語の展開をはっきり、しかし日常に溶け込むように描き、その中に本人の回想など複数の時間軸を入れ込むことによる重層化をして話を進め、最後にしっかりとまとめる、という構成をとることが多いように思われる。今回はそれが全く美しい。父との思い出の回想、教場での出来事、想い人への電話、現実の肯定、そして最後に「信号が青になった。」
この臭いセリフを、爽やかに書き切ったと読者に思わせる構成力、そしてその文学的平衡感覚に憧れずにはいられない。今までの執筆で培ったそれは、ついに大きく花開いた様に見える。
最初の感想に戻る。(連載中か、)と思った。それはこの作品が、まとめ上げられた、より上げられた縄の様な美しさをこの一話で十分持っていたからである。しかしそれはこれ以上の展開が野暮であるということを意味しない。最後の文章は「信号が青になった。」である。これからさらに進むことを予感させて終わった。その文は結びとしてもよいけれども、踏み切りとしてもよい。

これがさらに続くということは、日常の楽しみが増えるということだ。
素晴らしかった。