第3話

 さて、俺達悪の組織【アナムーン】はこの世を堕落させるために日夜頑張っている訳だが、その頑張りというのも『ジャーク』によって強引なやり方をしている訳ではない。

 ていうかそんな強硬手段を取ったとしても利益がないのだ。

 俺達はあくまで自らの主張を通す為に頑張っているだけだし、その結果魔法少女と衝突する事になったとしてもそれはあくまで「目的の方向性が違って戦う羽目になった」……ただそれだけなのである。

 人間が堕落する事を良しとはしないが、しかし人間のいう堕落というのはいわば休息を取っている事と同じ。

 そして人間が休憩をしている時にその心から発生する力『タイダー』を採取し、それを【アナムーン】はエネルギーとして活用しているのだ。

 ……【アナムーン】は魔法の国の名前だ。

 そして現在その魔法の国は絶賛エネルギー不足に悩まされており、それを唯一解決出来るのがその『タイダー』。

 つまり我々【アナムーン】は自らの為に人間達は犠牲になって欲しいと言っている訳で、そりゃあもう悪の組織でしかないという訳であった。


 そんでもって、現在【アナムーン】は何をしているのかというと、『翠緑街』の全学校の夏休みの延長を試みている。

 こんなクッソ熱い中で学校行事を行う勤勉な生徒達に夏休みを提供する事により、莫大な『タイダー』を獲得しようという魂胆なのである!

 ボスの『クー・ジャ』様は頭が良いなぁ、流石だー。

 

 そして、その為にやる事は破壊工作……ではない。

 確かに最初はエアコンなどの空調設備に不備を発生させ強引に夏休みを長引かせようと試みていたが、しかしそれは生徒達の日常も脅かす危険性もあると判断されたため、却下された。

 ではどうしたら良いのか。

 答えは簡単、コツコツとお便りを送り続ける事であった。

 どこへ送っているのかはまあ、想像にお任せするとして、現状結構良いところまで来ていたらしい。

『ジャーク』も使って実際に口頭での意見もしていたのであと一歩のところで夏休みを引き延ばせた……というところまで行っていた。

 が、しかし。

 そこで我々【アナムーン】の悪事がバレてしまったらしい。

 

「そこまでだよ、『ジャーク』!」

「私達がいる限り、貴方達が人々を堕落させる事は叶いません!」

「僕達がみんなを守るんだからっ」


 現在、その魔法少女達と交戦を行っているらしい。

 やっぱり最後は物理的な戦いになるよねと俺はこの世の諸行無常ぶりを痛感しつつ、言われた通り後方から彼等の戦いを観察していた。

 今回の『ジャーク』はスーツ姿の太った女性型。

 通称M3型という名前が付けられているそれはけたたましい雄たけびと共に飛び上がり、魔法少女にタックルを仕掛けている。

 しかしそこは流石魔法少女と言うべきか、その突進をすべて華麗に避け、逆に魔法での攻撃を行っていた。

 これは……不味いな。

 俺は実際に戦った経験はないが、しかしこのままでは普通に負けると分かる。

 しかしだからといって上からの命令に背く訳にも行かないし、でも魔法少女を闇堕ちさせるという願望も叶えたい。


「うーん……」


 そのように願っていると、そこでスマホがぷるると震える。

 画面を確認すると、連絡相手は――『クー・ジャ』様?


「はい、ジーンです」

《どうやら負けそうだから、適当なところで割り込んで『ジャーク』を回収してきてくれ》

「はい?」

《フルボッコにされて可哀そうだろ、別に負けても死ぬわけじゃないけど。だけど痛いのは変わりないからなー》

「は、はあ……」


 そう言われたら仕方がない。

 俺はスマホをズボンのポケットにしまい、タイミングを見計らって介入する瞬間を見計らう。

 そして、と。

 ちょうと魔法少女が合体技のビームを出そうとしているところで、俺は素早く『ジャーク』の近くまでやって来て瞬間的に空間をねじ曲げて『ジャーク』を転送、ついでに俺はその場に残る事にした。

 とりあえずおきみやげって言うか負け惜しみはしておくかーの精神である。


「そんな」

「うそ……僕達の必殺技を受けたのに、無傷……!?」


 信じられないと言わんばかりに目を見開いているが、しかし分かる。

 俺も多分あの一撃を食らってたら必殺技という言葉の意味を知る事になっていただろう、と。

 つまり必殺されていた訳ですね。


「嘘……、貴方はジーンさん――!」


 そして、ピンク色の魔法少女。

 えーと確か資料には「ピンキー・レイン」って書かれていたかな。

 なんで俺の名前知っているんだろう?

 ま、良いや。


「流石、やるな魔法少女達……だが、忘れるな。いずれ我らが【アナムーン】がこの世すべてを堕落させるであろう!」


 そう捨て台詞を言い、魔法を使ってその場から立ち去る。

 適当に「はーっはっはっは!」とか高笑いを響かせながら。

 うん、格好良いな我ながらなんか悪そう。






「君ー、困るよ【アナムーン】の名前はまだ秘密にしてたんじゃないかー」


 で、なんか普通に漏らしちゃいけない事漏らしちゃったという訳で始末書を用意する羽目になったのでしたとさ。

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闇堕ち好きの悪の幹部なのに何故かヒロイン全員ヤンデレ化させちゃった件について カラスバ @nodoguro

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