第2話
おはようと元気な挨拶をする相手はいないけれども、朝を起きた時はいつも一人で「おはよう」と挨拶をするようにしている。
そうする事によって今日の一日が始まると思っているし、そうして俺という悪の存在、ジーンのスイッチが入るのだ。
悪の組織【アナムーン】によって製造され、幹部としての地位を確立するまでの地道な努力に関しては語らないでおこう。
ぶっちゃけ細々とした作業が多かったし、絵にならないからである。
強いて言うのならば「ひたすら弁当にたんぽぽを添える工場業務」だろうか?
とにかくひたすら無為な時間が続き自己と他との境がなくなってしまうような感覚に陥る、あれである。
そんな大変じゃないからこそ大変な作業の末に今の俺がある。
そしてついに今日、俺はかの魔法少女の前に立ち名前を名乗る事を赦されたのだ!
やったぜ!!
「待ってろ正義の魔法少女……絶対闇堕ちさせてやるからな……」
「あー、お前ジーン。なんかテンション高いところ申し訳ないが」
と、そこでボスの『クー・ジャ』様が話しかけてくる。
「お前、今日は後方支援が仕事だからな?」
「え」
「いきなり魔法少女の相手は荷が重過ぎるだろ、後方でどんなものなのか見ておけ」
「は、はぁ」
この、ちびっ子ぽくてそれこそ悪堕ちした魔法少女みたいな外見をささている彼女は、この世を堕落させるために日夜人々の元に『ジャーク』を送り込んでいるのだが、その目的に関しては俺も知らない。
とは言えどうでも良いと思ってる。
俺にとって重要なのは魔法少女を闇堕ちさせる事だからな!
「ほら、さっさと行った行った。仕事場は待ってくれるが仕事はお前を待ってくれないぞ」
「へい、分かりやした!」
「本当にお前、一丁前にやる気だけはあるよな……」
と、そうこうして俺はある意味「物語の舞台」とも言える街『翠緑街』にやってくる。
緑豊かな街だ。
空気美味しそう。
すー、と深呼吸してから「さて」これから現場に向かおうかと思っていると、何やらわんわんと犬に吠えられる。
「なんだワン公? 俺は今忙しいのだが飼い主を探しているならそこまで連れて行ってやろう」
見るとその犬はリードをズリズリ引きずっていた。
見るからに脱走犬、いや、迷子犬だろうか?
幸い、ドッグタグを確認すると電話番号がある。
俺はひとまずわんこのリードを掴み、近くにあった公衆電話で電話をかけるのだった。
……そうして、数分して。
一人の少女が現れた。
茶髪のボブカットの少女。
活発そうな表情の元気な子だ。
「すみません、ありがとうございます!」
ペコペコと頭を下げる少女に俺はニヒルな笑顔を浮かべながら「いや、大丈夫ですよ」と伝える。
「そのわんこもたまには冒険をしたいと思ったのでしょう。とはいえ、家族を困らせてはいけないよ?」
犬の頭を撫でながらそう言い、立ち上がる。
見ると少女はどこか夢心地な表情を浮かべていた。
気になるが、俺も時間が心配だったので「それでは俺はこれで」とかの場を後にしようとする。
「ま、待ってください!」
「はい?」
「その。名前を、聞かせてもらっても良いですか?」
「……俺の名前はジーン」
何で俺の名前を聞くのだろうと思ったが、俺もそこそこ焦ってたのでさっさと名乗り、それから駆け足でその場を後にするのだった。
「ジーン、さん。格好良かったなぁ……」
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