第4話 巡る脳

「待てよ。それってなんかむなしくないか。こんなに頑張って生きて来て、得た物が

生まれた時の命だけって。そんな、小さな物しか俺にはないのか。俺は大金持ちだ。

小市民みたいに命あっての何て考える人間じゃないぞ。きっと、見えないだけだ。俺

には、もっと大きな人には手に出来ないような大切なものがある。」


何度も思考を繰り返すうちに、自分の考えている事に意味を感じなくなっていった。


大切な物を探して俺は一体どうしたいんだ。


彼は深い思考に落ちた。


無の中から得られる考えを一生懸命に探した。


手術当日。


「これから手術台に載りますからね。」


聞いた事のない看護師の声が聞こえたかと思うと眠りに落ちた。


今回、腫瘍の大きい部分の切除が行われ、放射線はその後となる。


まだ30代で体力的にもしっかりしている事が理由らしい。


手術は予定を3時間も超過し大手術となった。


眠りに落ちている遥佑はそんな時間も萱の外だった。


あれからずっと、思考を重ねてみたが、大切な物を自分がどうしたいのかは分からな


いままだ。






微睡みの中で遥佑は水平線をめがけて泳いでいた。


必ず自分には見つかると、幾ら泳いでも見えない陸を探した。


腕がもう上がらない。


足が動かない。


「もうここまででいい。陸なんかないんだ。前も後ろも海水に包まれた地球。今の時

代には陸などない。海だけが只広がっている。俺は溺れて死ぬのか。もしかしたら足

が届くか。ごほっ、届かない。駄目だ。溺死だ。誰か、助けてくれ。」


目を開こうとした時


「目を覚まされましたね。手術は成功ですが、これから放射線治療に頑張りましょう。」


見たくも無い西木野医師の顔が近くにあった。


「近いよ。」


心の呟きを咀嚼しながら遥佑は目を覚ました。





「俺はもしかするといつまでも尽きることのない堂々巡りの中にいるのか?大切なものを探しているうちに現実の大事なものを見失ってしまっているのか。」


手術室から、高い料金を払って借りている特別室に戻ると遥佑はベッドから見上げた


病室の白い天井に自分の今を投影していた。


「この白い天井が物語っている。何もないところには何も有りはしない。俺は形あるものをやり方はどうあれ作ってきたんだ。それには俺の命が入り込んでいる。良いか悪いかは他人に決めさせるものじゃない。自分がそれで良しとした物は良い物であって大切にしなきゃいけないんだ。それが俺にとっての大切な物になるんだ。そうだ、探すんじゃない、見つける事だ。俺にはたくさんの大切な物があるはずだ。」


そう考え、過去をこの機会に振り返る事にした。


生まれた場所、東京から・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死際 138億年から来た人間 @onmyoudou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画

同じコレクションの次の小説