Day.26『深夜二時』
まだお昼時にもかかわらず盛大にあくびをして、あわてて口元を手で隠す。ここが星空図書館だということをすっかり忘れていた。
二人は星空図書館のキッチンにいた。お昼時になって人もまばらになった隙を見計らい、軽く昼食を取るためだった。来夢は今日の紅茶『イングリッシュキャラメル』の紅茶を淹れ、愛衣は冷蔵庫にあったもので簡単にサンドイッチを作っていた。
来夢には見られていないだろうかと思った矢先。
「大丈夫ですか?」
しっかり見られていた。
「いえ、その……昨日あんまり眠れてなくて」
ポットにお湯を注いでいた手を止めて心配そうな顔をする来夢に、恥ずかしさと申し訳なさが一気に襲いかかって心苦しくなってしまった。
「な、なにか心配事でも? よかったら僕に話してください、お力になれるかもしれません」
まるで自分の問題ごとのように眉を寄せて、駆け寄ってまで来てくれる。有り難いけれど、寝不足の理由がどうしようもないことだから、申し訳なさの方が一層増してしまう。
「いえ、その……夜中に猫たちが大運動会をして……」
猫……? 運動会……? と頭にハテナを浮かべて来夢は不思議そうに首を傾げる。あぁ、やっぱり来夢は知らなかったか、と愛衣は深く息をついた。
もともと猫は夜行性で、個人差はあるが、昼間はぐでーっと寝ていても夜には活発に走り回ったりする。
昨夜だいたい午前二時頃。なにを発端に始まったのかは分からないが、いきなりドタドタと派手な音を立てて三匹の猫が家の中を走り回り始めたのだ。床ならまだしも、テーブルや棚の上を走り、勢い余って壁にぶつかったり、カーテンを登ろうとして落ちたり。やりたい放題だ。しまいには大きな声で威嚇したり鳴いたりするものだから、当然目が覚めてしまうわけで。
兄妹全員で、つかまえたりおやつをあげて
「それは……大変でしたね」
「リンちゃんは捕まらないし、吹雪も始終機嫌悪いしで、気づいたら朝になってたんですよ」
頭をとんとんと叩いて、まだ残っている眠気を叩き出す。これで本当に眠気が飛んでいったら、どれだけ楽だろう。
「桃子も大暴れしちゃったんだけど、腕引っ掻かれたくらいで済んだのでいいんですけどね」
腕ついた無数のひっかき傷を見せながら、自傷的に笑ってみせると、がッ、と来夢に手首を掴まれた。
「それはよくないですッ! 今すぐ留宇に看てもらわないと!」
「いやいやいや、大丈夫ですって! ちゃんと消毒しましたって! 傷小さいですし、猫飼いに傷は付きものですよ!?」
「それでもこんなにたくさん傷があるじゃないですか。痛かったでしょう、せっかく白くて綺麗な肌なのに」
ひっかき傷の一つをそっと指で撫で、自分のことのように痛そうな顔をする。そんな顔をされると罪悪感に押しつぶされそうになってきて「すみませんでした」と謝るしかなかった。
「午後は僕の部屋でゆっくりしてください。なるべく重たいものは持たないように。留宇を呼びますので、それまで安静にしていてください」
「いや、だから引っ掻かれただけですって、骨折じゃないんですよ!?」
本日の紅茶【イングリッシュキャラメル】
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