Day.21『自由研究』

「よ〜っす、来夢〜」


 のんびりと間延まのびした声が、静かな図書館内に響く。

 午後一番に星空図書館の扉を開いたのは、ひまわり依頼所の留宇るうだった。


「ほい、返却お願いしまーす」


 リュックから分厚い書籍を二冊出して、カウンターテーブルに置いた。


「はい、確かに。読み終わるの早かったですね。借りたの一昨日じゃなかったですか?」

「面白かったで一気に読んでもうたわ。またオススメ頼む」

「たまには自分で選んでください」


 あはは〜と留宇はほがらかに笑った。それから、なにかを探すようにキョロキョロと辺りを見回した。


「来夢、今日愛衣ちゃんは? 今日も紅茶飲んだんやろ?」

「えぇ」

「今日はなんの紅茶やったん?」

「ヌワラエリヤでした」

「お、僕もこの前、クララから貰って飲みましたわ」


 そういえば、ひまわり依頼所に紅茶好きの女の子がいるって、愛衣から聞いたことがあったなぁ、とぼんやり思い出す。


「愛衣ちゃんなら、移動図書館に入れる本の選別せんべつを手伝っていただいてるんです」


 視線の先には、本棚に並ぶ背表紙たちとにらめっこをしている愛衣がいる。タイトルをじっと眺めて一冊ずつ引き抜いていく。分厚い書籍を十冊は抱えているのに、重そうにする様子は微塵みじんもない。


「子どもたちの興味をひくような物語を多めにほしいとお願いしたんです。ここのところ、子どもたちが借りていくものといったら、自由研究に使えそうな化学本や参考書がほとんどですから」

「なーるほど。そんで愛衣ちゃんあんな気合い入っとるんか」

「えぇ。せっかくの長い夏休みに読めそうなものを選んでくれてます。オススメがありすぎて、それで吟味ぎんみしているのだとか」


 単行本を積み上げた愛衣は、留宇に気づくと真剣な表情だったのが一気にぱあっと明るくなって、早足で螺旋階段を駆け下りてきた。


「あ、留宇さんっ、こんにちは〜」

「よ〜愛衣ちゃん。おひさしゅう〜 それおもたない?」


 愛衣は、両手で結構な量の本を持っていた。その細い腕でよく持てたと思うし、来夢からしたらあんなに持たせられないのだが。当の本人はケロッとしていて「全然っ」とにっこり笑って首を振った。


「さっすが来夢の彼女さんやわ。んなら、愛衣ちゃんも夏祭り参加するんよね」

「はい、移動図書館のお手伝いでですけど」


 カウンターを挟んで会話を聞いていた来夢は、はぁ、とため息をついた。


 さっきから話題に上がっている夏祭り。

 八月に青空町で行われるお祭りで、来夢は移動図書館で参加することが決められていた。来夢は学園側から、登校免除されている代わりにお祭りなどのイベント事に参加するようにと言われている。

 お祭りなんて絶対に行きたくもない来夢だが、こればかりは参加せざるを得ないのだ。


 それでも、と留宇と夏祭りについて楽しそうに話す愛衣に視線を向ける。こちらの視線に気づいた愛衣が、柔らかく微笑み返してくれる。それだけで、紅茶を飲んだときのように胸がぽかぽかと温かくなっていく。

 愛衣が手伝ってくれるのなら、今年の夏祭りは楽しめそうかな。



 本日の紅茶【ヌワラエリヤ】

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