⑰また仲間たちと

「ねえ咲良、あの材料、在庫なくなってるんだけど」

「あーっ、リズ、ごめん。さっき使い切っちゃった」

「ちょっとー、ちゃんと足りなくなったら言ってって言ってるじゃない」

「ごめん~。あの、それで本当にごめんなんだけど、明日までに調達できないかな?」

「えーっ! 明日!? 無茶振りすぎない!? ねえ、アルからも何か言ってよ。最近、咲良、人使いが荒くなって――」

「回路用の銀線もそろそろなくなりそうだからお願いできるかな、リズ」

「あなたたちね……」


 工房でわたしたち三人はいつもと同じように集まって制作をしていた。

 中間試験のグループ課題が終わって、しばらくは工房に集まるのも制作をするのもお休みになるかなと思っていたけど、一日休んだ次の日からはまた自然と集まっていたんだ。


「仕方ない。もっとデータを集めないといけなくなったからね」

「はあ、仕方ないわね……」


 アルの言葉にリズがげんなりした表情を浮かべる。


「でもまあ、学園の研究発表会に参加できるなんて名誉なことよね。普通五年生か六年生じゃないと参加できないんだから。ガレイオ帝国とかラース共和国とか、色々な国の研究機関の人とか使節の人たちが視察に来るって」


 そう。なんと中間試験の発表のあと、ルイス先生はわたしたちに研究発表会で発表するように言ったのだ。学園で生徒が行った研究の中でも優秀なものを選りすぐって発表する会らしい。


「咲良はどうなの? 研究発表会に興味は――って聞くまでもないか」


 リズがわたしを見て苦笑した。


「咲良、今気付いたけどほっぺたにインク付いてるわよ」

「え、ええっ、嘘っ!?」


 慌ててタオルで顔を拭う。


「どうかな? 取れた?」

「……ひどくなってる。ちょっとタオル貸して」


 リズはわたしの顔を拭いながら「集中しすぎよ」と呆れた様子で言う。


「はい、取れた」

「ありがとう」


 わたしは笑顔でお礼を言ってから、作業台の向かいでアルがこちらをじっと見ているのに気付いた。


「僕はそういう場で議論したり、他の研究発表を聴いたりするのが楽しみだけど、咲良が研究発表会に熱心になってるのもそういう理由なのかな?」


 アルに聞かれて、わたしは大きく頷いた。


「うん、すごく楽しみ! 最先端の研究が見られるんだよね。わたしたちの人感センサー付き照明にも、色々意見がもらえるかもしれないし」


 そう答えてから「あ、でも……」と付け加える。


「どうかした?」

「どうしたの?」と二人がわたしを見る。


「わたしはまたこうやって、みんなで一緒に頑張れるのがいちばん嬉しいかも」


 わたしの答えにリズとアルがくすぐったそうに笑顔を浮かべる。

 たったそれだけのこと。

 でもそれだけで、みんな同じ気持ちなんだろうなと、不思議と思えた。


 ここは前の世界とは全然違う世界で。

 これまで頑張ってきたことはぜんぶ無駄になってしまうなんて思っていたけど。

 でも今は違う。

 わたしが前の世界で頑張ったことは無駄なんてことはなくて。

 少しずつだけど前へ進むことができる。

 新しい世界でできた仲間と一緒に。

 わたしはそれが何より嬉しいんだ。

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魔法学園ララスフィア なつのこかげ @natsuno_kokage

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