死神日記
瑠栄
月明かりに、こんばんは
7月20日
夜空は雲に覆われていて、月が見えない。
「うぅ、肌寒ぅ~」
昼は灼熱地獄の夏でも、夜はそこまで暑くない。
窓の鍵を閉め、カーテンも閉める。
勉強机に座り直し、ペンを握る。
"バサッ"
後ろで、カーテンが揺れる音がした。
・・・あれ?
(今さっき、窓閉めたのに・・・)
そう思い、後ろを振り返って私は叫んだ。
「どわああぁぁぁぁぁ!!!???」
「ちょっとそんな大声出さないで!!!」
閉めたはずの窓はいつの間にか開いていて、そこには黒い長髪で狐の面をした同年代くらいの女の子が立っていた。
―――――これが、私と彼女の出会いだった。
* * *
幸い、両親やお兄ちゃんはまだ帰って来ておらず、私は彼女にお茶と煎餅を出した。
「ありがと」
そういうと、彼女は面を外さずにお茶をすすった。
面が、人の顔のように滑らかに動く。
「凄いね、そのお面」
「え?・・・ああ」
彼女は、面の頬の部分を撫でると『不思議でしょ?』と笑った。
笑う時も面が動き、口角が上がった。
「それでさ、あなた誰なの?」
「私は死神」
「ふーん」
私は、何食わぬ顔でお盆の上にある煎餅に手を伸ばした。
「・・・驚かないんだ」
「そーだね」
バリバリと煎餅を頬張る私に、彼女は目を見張った。
面を被っていても、ほとんど素顔と変わらない。
声もそうだが、彼女の感情は分かり易い。
「じゃあ、『死神ちゃん』とか呼べば良いの?」
「それはヤダ。"死神"っていうのは、役職名なの」
かなり渋い顔で言われた。
嫌なんだ、『死神ちゃん』。
すると、彼女は急に私に真面目な顔で向かい合った。
「ちょっと確認させてくれない?」
「何を?」
「色々と」
「いーよ」
私はなんとなく体育座りになり、彼女と向かい合った。
「あなたは、
「うん、それ私」
私は頷いてから、首を傾げた。
「って、何で知ってるの。個人情報漏洩も、そこまで行くと甚だしいんだけど??」
「死神だからね」
理由になっていない根拠を挙げ、彼女は話を進めた。
(触れてほしくない内容なんだろうな)
「あなたは、今日から29日後に死ぬ」
「て事は、えーと・・・、8月18日かな?」
「・・・ほんっとに、動揺しないよね」
「動揺したら、寿命伸びたり?」
「それはない」
間髪入れずに否定され、私は『えー』と不満の声をあげた。
彼女は私の事を完全にフル無視で、説明を続けた。
「今日から29日間、私はあなたの死に際まで一緒に居る」
「え!!も、もしかして・・・」
「どうした?」
私は自分の事を抱きしめて、彼女をじと目で睨んだ。
「風呂とかも・・・?」
「あほか!!!そこまで一緒な訳あっか!!!!」
スパーンッと思いっきり頭を叩かれる。
悶絶していると、彼女は腕を組んで付け足した。
「あなたが死んだら、私がその魂を持ってくから」
その言葉に、私はニコッと笑った。
「へー、なら安心だ」
彼女は、恥ずかしそうに顔を逸らした。
耳が赤い。
「可愛い~」
「うぅ、るさい!!はい、質問は!!」
照れ隠しなのか、彼女はずいぶんと早口になっていた。
「うーん、質問?は特にない・・・、あ」
「何?」
「結局、なんて呼べば良いの?呼び名くらい決めよ。私の事は日葵で」
彼女は、露骨に嫌そうな顔をして言った。
「・・・日葵さん」
「日葵」
「日葵ちゃ」
「ひーまーりー!!!」
あらゆる避難経路を塞ぎ、ジーッと彼女を見る。
彼女は、観念したようにため息をついた。
「はいはい、日葵」
「はーい!!」
嬉しくて、両手を挙げて返事をする。
「じゃあ、あなたは
「え、それフルネーム?」
「そ、月が名字で明が名前」
「・・・まぁ、良いけど」
明は素っ気なく顔を背けるも、ちょっと嬉しそうな顔。
本当に、明は分かり易い。
「よろしくね、明!!」
「ええ、よろしく」
「ちょっと」
「ふふっ。はいはい、こちらこそよろしくね、日葵」
死神日記 瑠栄 @kafecocoa
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