はかまいり
墓参りのために訪れた母方の祖母の生家は、想像以上の山奥にあった。
公共交通機関では辿り着けない場所だと思った。
一応、バスが通ってはいるものの、午前と午後に数本のみ。この村から町へ出るための足となっているだけで、街へ向かうためには、更に電車を乗り継がなければならない。電車を一本見逃すと、少なくとも1時間は待つことになる。時間帯によっては2、3時間は待ちぼうけ。バスに乗り遅れたとなると、半日ほどが待ち時間となる。
そんな調子では、辿り着くのに何日もかかりそうな気がしたので、自家用車でそこに向かった。半日もかからずに辿り着いたとはいえ、途中からの山道は生きた心地がしなかった。山肌すれすれの道。対向車が来たら、すれ違うのは難しい道幅。カーブの連続に加えて、上りと下りを何度か繰り返した。ガードレールもなく、山を削って無理やり道にしたかのよう。それでも道は舗装され、アスファルトなのが救いだった。
初めて見る祖母の故郷。
眩しい緑は少し黄色みがかっていて、よく見るとそれは、若い稲穂であった。
この村を訪れた目的は、墓参りである。
祖母の生家がこの村であることを、祖母が亡くなるまで知らなかった。祖母の遺骨は、祖父と一緒にこちらの墓に納めたので特段、こちらを訪れる理由などなかったのだが。
ふと、生きている間に一度は行ってみておきたいと思ったのだ。
田んぼの用水路に沿って歩き、水門を越え、山を登った。
目的の墓は、すぐに見つかった。
さすが、隣の村の豪農に娘を嫁がせただけの家である。この村ではある程度の地位にあったのだろう。一族の墓は、他家のそれとは明らかに異なる立派な姿で、少し苔を帯びながらもそこに鎮座していた。
そんな話すら一度も耳にしたことはない。
嫁いだ娘の孫となっては、辿り着くまでに経るきょうだいの数が多すぎる。物理的にも距離があった。
墓掃除の道具を取り出して、苔を落としていく。何度も水をかけながら磨く。仕上げに白いタオルで拭き取る。
浮かび上がる文字。
聴こえるなにか。
『迎えに来たよ』
――……
――……
気づくと、わたしは帰宅していた。ひとり。
車を車庫に停めたところで、息をする。ひとり。
わたし、ひとり、車に乗っている。
わたしは、確かに誰かと一緒にそこに行ったのに。
車内に積まれた荷物は、同乗の存在を知らせてくれる。しかし、思い出せない。誰が一緒に行ったのだろう。
けれども、何より怖いと思ったのは、あの峠の山道を、街灯などないカーブだらけの坂道を わたしは運転して帰ったのだろうか。
無事に帰宅しているということは、そこを通ったに違いないと思うのだが。昼間でさえ、薄暗く、ガードレールのない細い山道を、わたしは ほんとうに運転して帰ってきたのだろうか。
いくら帰路を急いでいたとはいえ。否、だからこそ、あの山道で事故に遭わなかったのが不思議でならない。それを考えると、恐ろしくてならない。
後日、車内から、赤い
それも、何かを
とんとん とん
どこからか、鞠が転がる音が聴こえた。
紅い帯、朱い音 結音(Yuine) @midsummer-violet
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