第9話 夏のはじまりで
手は繋がれたままだった。
また、迷子になるのが怖いから、私はリードのつもりでそのままの状態にしておいた。
望くんの繋ぎ方は、やっぱり優しい。なのにそれは離れない。
それが不思議だった。
また、出店を回る。今度はきっと、離れたりしない。
しばらく歩いていると、突然あたりが暗くなった。
屋台の電気も街灯もすべて消えてる。
なにかの演出かなと思ったけれど、まわりにいる人たちもどうしたんだろうと慌てている様子だったのでどうやらそういうわけではないみたいだ。
急に停電が起きたとか?今日は晴れているし、そんなことあるのかな……。
と思った時。
一瞬であたりに電気がついた。でも、それはただの電気と違う。
「わあっ、すっごいきれい!」
「カラフルだ~!」
周りの人たちが感嘆の声をあげる。
それもそのはず、消えた電気は停電なんかじゃなく、カラフルなイルミネーションの演出だったみたい。
知っている人はいない雰囲気だったので、開催者たちのサプライズだったのだろう。
「すごい……!」
私も例にもれず声をあげる。見えないずっと奥のほうまで続いているようだ。
そしたら今度は、上のほうでどかーんと音がした。
見上げてみれば、空には大きな花火があった。
その一発だけじゃなく、次々と打ち上げられていく。
それは、初夏の空に咲く花だった。
きらきらと光って、カラフルで、明るくて。さまざまな形を持ち、いろんな大きさで咲く。
それはまるで、一つの個性を持った人のように。
横を見てみると、望くんも空を見上げていた。
そのきれいな瞳には、花火が映っていた。
雲一つない晴れた夜空には、よく星が見える。
世界にあるものの中には、とてもきれいなものがある。
それは、いるかのストラップだったり、イルミネーションだったり、花火だったり。
だけど、きれいでは終わらないものがあることを私は知っている。
儚くて、いつかパリンと割れて消えてしまうのもの。
美しいものも、醜いものも、無条件に映してしまうもの。
それは、誰にも防げない。
初夏の暖かい空気が、私たちを包んでいく。
優しく、柔らかく。
本当の夏が来るその日まで、守るように。
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