なんで忙しいのかと思ったら、また王宮の奴らがやらかしてた

2024.8.19 誤記修正(ご連絡、ありがとうございました)


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ミシエラレベルアップツアー、大好評。

どうも王都に帰った受講生たちの成長ぶりを見た各貴族家が、こぞって子女をミシエラに送り出したみたいなの。


ミシエラは魔獣の大森林にあるから、レベルアップツアー客の受け入れはかなり厳格。

なにせ森での討伐実習やスタンピードがあったりしら命の危険があるから、たとえ上位貴族家の子女であっても、こちらの指示に従うし怪我や死亡の場合もミシエラは責を負わないって念書の提出があるんだよ。

それなのにこの盛況ぶりはなんなの?


しかもレベルアップだけじゃなくて、専門技能習得の要望がわんさか。

国王陛下からも親書が来ちゃったから、仕方なく講師陣を追加養成して対応してるんだけど、今は一時滞在者が六十人を超えてるの。

もうこれ学校じゃん。


魔獣討伐兵にならなくてもレベルアップできるという特典に加えて魔素制御の指導もきっちりするから、受講料はかなり高額。しかも輸送コスト掛かってるから生活費だって高い。

それなのに、さらに費用を払って専門技能まで習得しようと滞在期間を延ばすから、相当な負担になってるはずなのに…。


一応レベルアップツアーは滞在半年以内、専門技能含めても一年以内って縛りがあるのに、なんでこんなに来ちゃうのよ。

私の想定では、こっちでレベルアップと魔素制御だけ上げて、あとは王命を遂行した王都組が王都で指導役するはずだったのに…。何やってんの王都組!


結局私、講師を抜けられてないの。

私が担当する受講者は講師候補や専門技能習得者の最終指導だからなんとか領主夫人と掛け持ちできてるけど、フランツとの新婚のほほん辺境ライフはどこ行ったの!?


この状況、さすがにおかしい。

王様はこの国の中枢である王宮に高度専門技能を指導できる者がいないのはマズいと考えて王命を発したはずなのに、これじゃ高度専門技能の中枢はミシエラになってしまう。


フランツが、各貴族家や国外に対して国の中枢である王宮として恥ずかしくないのかと王都のお義父様に問い合わせたら、王都組の奴らは他国の生徒を教えてやがった!

外交政策の一環らしいけど、他国に高度な技能を先に教えるなんて、どう見ても失策。

先に国内に広めて、国としての優位性を持つことこそが外交でしょうが!


プッツンした私とフランツ、外交上や貴族家を取りまとめる王宮としての失策と指摘した上で、これ以上の他領の受講者の受け入れを拒否する通達を王宮に出した。

ミシエラはシュトラウス領の町であって国の機関じゃないから、外交政策の尻拭いをする気は無いよ。


しかもこちらが問い合わせるまで王都組の動向を知らせずに、当初の約束に無かった専門技能の受講者をどんどん送り込んで来るなんて、シュトラウス領を軽視してる証左じゃん。

だから私もお父様に頼んで、シュトラウス家としても抗議してもらったの。


結果、外務卿と財務卿の首が飛んだ。物理的には毒杯らしいけど。

こいつら、二人して結託してたみたいで、他国から受講者受け入れてぼろ儲けしてやがった。

しかも受講生受け入れを条件に他国から有利な外交条件を引き出し、それを自分の手柄にしてたの。


王様の親書も、多くの上位貴族家の子女がミシエラでの専門技能習得を望んでいるからと進言して書かせてたんだけど、各貴族家から口利き料として賄賂まで取ってやがった。許せん!


今いる受講者たちは契約して受け入れてるからちゃんと育てるけど、たとえ外務卿と財務卿が元凶として死を賜っても、以降の受け入れは拒否のまま。

だって被害を被ったミシエラはなんの補償もされてないし、何よりミシエラはレベルアップ用の町として作ったんだから、専門技能を教える義務は無い。

王様が親書で頼んで来たからこそ、仕方なく受け入れたんだし。


こんな強攻策を執ると王宮との関係が悪化するけど、元々悪いのはあちらだ。

しかもこのままだとシュトラウス領領民のレベルだけが上がっちゃうから、領間格差がどんどん広がってしまう。

結局困るのは、他領から突き上げを喰らう王宮だ。


町の造成代金の半額を貰わないことにして国に尽くしたお父様も、忠義を裏切られた形になってかなりご立腹。

お父様が矢面に立って王宮と交渉した結果――

・死を賜った外務卿と財務卿から国が没収した財産の中から、相応の迷惑料をミシエラに支払うこと。

・王都に戻った六人が国内の指導に当たること。

・ミシエラは他領からはレベルアップ希望者だけを受け入れること。

・そして王宮の行政を常時監査する部門を作ること。

以上の条件で決着が着いた。


これって監査部門の設立以外は当初の予定通りだから、ミシエラやシュトラウス領は何も得をしていない。

迷惑料にしたって、迷惑掛けられた分を取り返すだけだ。

しかも監査部門に至っては、王宮のためになる組織。

かなり甘い決着だけど、シュトラウス家は王家の忠臣なので、これは仕方がない。


あと、口利きに賄賂贈ってた家の受講者は罰として強制退去と王宮側は言って来たんだけど、それは私とフランツが断った。

ただでさえ王都組が国外の受講者教えて国内には広がってないんだから、国内で専門技能習得者増やすのが先でしょ。


結局今受け入れてる受講者は減らないので、あと一年近くはこの忙しさが続きそう。なんだかなぁ。

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