同じ恐怖を味わった仲間たち 2/2
「今アンジェリカ様ってレベル16で、俺たちよりはるかに魔素制御が上手いもんな。勝てる気しねえよ」
「お前たち気付いてるか? 時々前の魔導車から、光の矢が飛んで魔獣が倒れてるぞ。しかも死骸を引き寄せ、他次元庫に放り込んでるみたいだ」
「わざと気付かないふりしてんだから言うなよ! 見たら自信が無くなる!」
「見なくても魔素感知で気付いちまうだろ。あれで九歳の少女なんだよなぁ…」
「……俺たち、決して傲慢にはなれないよな」
「俺なんて、伯爵家継嗣ってだけで偉そうに振舞ってた。過去の自分を殴りたい」
「俺たち王都組は、大なり小なりそんなところがあった。さっきの話じゃないが、魔獣の危険が身近にあるかどうかで、こうも意識が違うんだな。王都の常識は、ぬるま湯すぎる」
「世間を知らないガキだったってことだな。俺も以前の自分が恥ずかしい」
「王都組全員がそうだろう。ツェツィーリア殿下は例外だが」
「ツェツィーリア殿下は最初から真摯に講義を受けておられた。最初から今の俺たちのように状況を認識しておられたということだろう。王族って、すげぇな」
「俺、形だけじゃなくてマジで王族を尊敬するわ」
「それを言ったら王都組のみんなもじゃん。貴族なのに俺たち辺境人と同じような認識になって、俺たちと対等に接してくれてるんだから」
「え、俺ら尊敬されんの?」
「当り前さ。辺境の平民にため口を許し、対等の仲間扱いしてくれるんだから」
「いやそれは、あの地獄の討伐実習を潜り抜けた仲なら、もう仲間意識しか持てねえって」
「うわ、思い出しちまった。正直に言うと、俺、最初の討伐実習で漏らしてた」
「実は俺もだ。魔獣に眼前まで飛び掛かられた時は、ここで死ぬんだと思った」
「思い出させるな。今じゃ俺たちが狩る側なんだから、そう思わせてくれ」
「うん、あの記憶は封印しよう。身体に震えがくる」
「だな。俺たちはヴォイツでマーガレーテ様に甘やかされてた。そのことだけしっかり反省すればいい」
「今後は俺たちが指導役に回るだろうが、魔獣の盾魔法詰めは封印しよう。受講者のためにならん」
「そうなると着替え場所の確保も重要だな。俺たちは色付きの盾魔法なんて展開できないから、大きな布でも持ってくか」
「ありだな。盾魔法で囲って、布を被せればいいだろう」
「いけそうだな。だが、討伐時の受講者の防御はどうする? 危機意識を植え付けるには、至近距離での防御が必要だぞ」
「受講者の人数を絞って、一人ずつ面倒を見れば可能だろう」
「そうだな。そうすれば……おい。俺たち、アカリ様と同じことをしようとしていないか?」
「あ……。結局、アカリ様のやり方が正解ということか」
「俺たち、すごい人に教えてもらったんだな。たった三か月で、平然と魔獣の大森林に入れるようになったんだから」
「ギャップがすげぇ。さっきのお可愛らしいアカリ様と、討伐実習時のアカリ様がうまく結びつかん」
「だよなぁ。俺さっき、アカリ様いいなって思っちまったもん。でも、討伐実習のアカリ様を思い出したら、なんかスンってなった」
「アカリ様のお相手は、フランツ様じゃなきゃ無理だろ。フランツ様は、王都騎士団の中で負け知らずなんだから」
「マジで?」
「ああ。騎士団員の叔父が、絶対に勝てないとか言ってたからな」
「もはや最強夫婦じゃん」
「ミシエラは魔獣の大森林にあるんだ。そのくらいじゃなきゃ守れないってことだろ」
「そうだった。あそこ、人類不可侵とか言われる場所だった」
「平気でミシエラの魔獣討伐兵が森に入ってるが、あそこは修羅の町だ」
「……その魔獣討伐兵と一緒になって森に入ってた俺たちも、修羅の仲間入りしてないか?」
「ああ。俺たちは王都の奴らから見たらとんでもなく強いんだろう。だがミシエラじゃ、アンジェリカ様や魔獣討伐兵にも勝てないペーペーだ」
「……王都に戻っても、強いんだなんて勘違いしないように気を付けよう。でないと、アカリ様が王都に乗り込んで来そうだ」
「怖っ! ズタボロにされる未来しか見えん!」
「なあ、俺たちは所属する派閥も家の爵位も違うが、同じ恐怖を味わった仲間だ。王都に戻っても、お互い協力し合いながら、傲慢にならないように気を付けようぜ」
「そうしよう。メトニッツに着いたら、前の魔導車の奴らも誘おうぜ」
「そうだな。ヴォイツ組も、気を付けろよ」
「俺ら、次代の講師育成のために、ローテーションでミシエラに派遣されるんだ」
「あ、それなら大丈夫だな。当然アカリ様も監督するだろうし」
「俺らまだまだこんなに弱いのに、講師の育成なんて出来るのかな?」
「やるしかないだろ。頑張れば、それだけ魔獣被害に遭う人たちが減るんだから」
「そうだな、頑張るしか無いな」
「俺ら王都組も、頑張るしか無いんだ。お互い頑張ろうぜ」
「「「「「「おう!」」」」」」
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