同じ恐怖を味わった仲間たち 1/2

「なあ、さっきのアカリ様、すごく可愛くなかったか?」

「アカリ様は元々おきれいな方だが、しゅんとしたあの顔はなかなかに来るものがあったな」

「講義や討伐の時は、近寄りがたい怖さがあるのにな」

「アカリ様は元々お優しい方だぞ」

「お前、何か知ってるのか?」

「俺たちヴォイツから来たマーガレーテ様の部下候補は、以前ヴォイツでアカリ様やマーガレーテ様の基礎的な講習を受けたことがあるんだ。その時に子どもたちも講習を受けてたんだが、子どもたちに対するアカリ様は、すごくお優しいと思ったんだ」

「ああ、あの悪ガキ騒動か?」

「それそれ。講義をまともに受けないガキを諭すアカリ様の言ってること聞いて、俺、感動しちまったんだ」

「なんだ、どんなこと言ったか教えろよ」

「別に講義を受けたくないなら受けなくてもいい。だけどこの講義は魔法をうまく使うためのものだから、将来自分や家族を助けられる確率を上げる。だから他の子が勉強するのを邪魔するのは、その子が守りたい人を守れなくするような悪いこと、だったかな」

「そんな感じだったな。その時のアカリ様、泣きそうな顔して子どもを諭してた」

「……それだと、優しいというより厳しいんじゃないか?」

「今でこそ少なくはなったが、その当時ヴォイツでは頻繁に魔獣が出てたんだ。だから町の外に仕事に出て、亡くなったり怪我したりする住民も多かった。実際近所のおじさんやおばさんが魔獣に襲われて亡くなることも、親戚の兄ちゃんが魔獣討伐で死ぬこともあったんだ。つまりヴォイツでは、魔獣の脅威は身近なものだったんだ」

「そうだな。俺も叔母さんと兵士の従兄が魔獣にやられた」

「そんな町で『家族を助けられる確率が上がる』なんて言われたら、真剣にもなるさ。で、最後にアカリ様は、『魔獣の被害に遭う人を少しでも減らしたいから、覚えた練習方法を毎日使って身近な人を守って欲しい』って、頭を深々と下げたんだ」

「アカリ様は、見ず知らずの人が助かることを願って真剣に頭を下げられる人ってことだ」

「だよな。講義や討伐実習で怖いと感じるのは、少しでも助かる人を増やすために必死で、俺たち自身もその中に入ってるのさ」

「実際アカリ様は魔獣三百匹以上をひとりで倒して、多くの兵士を救ってるからな。その力の一部でも、俺たちに習得してほしいと願ってるんだ」

「魔獣三百匹って、マジなのか?」

「事実だ。俺の親父も、助けられた一人だからな。ヴォイツの兵士の間じゃ、アカリ様は英雄だぞ」

「…あの討伐実習を見れば、それくらいできて当然かも」

「でもさ、アカリ様やフランツ様のおかげで、俺たちも魔獣数十匹なら倒せるようになってるよな。家族が今の俺を見たら、目ん玉飛び出すぞ」

「討伐実習の連続で魔獣を倒すのが当たり前になってたが、よく考えたら俺たち結構凄くね?」

「一般人から見たらな。だがアカリ様やマーガレーテ様、特にアンジェリカ様を見ると、全然すごくないよな」

「おう、確かに。アンジェリカ様なんてまだ九歳なのに、俺たちが束になっても敵わないよな」

「今アンジェリカ様ってレベル16で、俺たちよりはるかに魔素制御が上手いもんな。勝てる気しねえよ」

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