シュトラウス家三姉妹 1/2
わたくしの名はツェツィーリア、お爺さまはこの国の国王陛下、お父様は王太子殿下です。
三か月ほど前にシュトラウス公爵家のご継嗣であるマーガレーテ様が成人を迎え、わたくしと両親はお祝いのためにシュトラウス公爵家に出向きました。
公爵家継嗣の成人ですから盛大なパーティーが催されたのですが、マーガレーテ様の従妹であるアンジェリカ様のプレゼントに、会場内は驚愕しました。
アンジェリカ様はわたくしより一つ年下の八歳なのですが、プレゼントにと披露された人形劇は、観劇に慣れた上位貴族たちの目をもってしても、感嘆に値するものでした。
王太子妃であるお母様も大絶賛でしたが、わたくしはとんでもない衝撃を受けました。
お人形がまるで生きているように活き活きと動き、魔法まで繰り出していたのです。
わたくしも王孫女として魔法の教育を受けていますが、わたくしにはあのように魔法を操ることはできません。
王城で最高峰の教育を受けているわたくしにできないことを、わたくしよりも小さな子どもたちが成しているのです。
わたくしがうぬぼれていたことを見せ付けられたようで呆然としていましたら、お父様がこっそり教えてくれました。
アンジェリカ様とマーガレーテ様の魔法のお師匠様は、その魔法の腕を買われて公爵家の養女になった方で、この国どころか世界でも類を見ない魔法の使い手らしいのです。
そしておそらく、アンジェリカ様が他の子どもたちに魔法の指導をしたのだろうとのことでした。
つまり、アンジェリカ様に教えを請えば、わたくしもあの子どもたちのように、自在に魔法が操れるようになるということです。
わたくしもあのようになりたい。
パーティーが終わってからお父様に一生懸命お願いしましたら、しばらく考え込んでいたお父様からお赦しをいただけました。
アンジェリカ様を王宮に招聘してみると。
ですがアンジェリカ様とそのご両親は、お父様からの招聘を丁寧に辞退されてしまったのです。
どうやらアンジェリカ様はメトニッツでどなたかを待っているので、長くはメトニッツを離れられないそうなのです。
ただアンジェリカ様もご両親も、どなたを待っているのかは明かそうとなさいませんでした。
王太子であるお父様がお聞きになっても、とんでもなくやんごとない方だからと明言を避けたのです。
公爵家の方々もご存じなようで、たとえ国王陛下のご命令であっても、その方の赦しが無ければ明かせぬ存在とのことでした。
それはつまり、お相手は国王であるお爺さまより上の存在であるということ。
この時点で、お父様はお相手を聞き出すことや、アンジェリカ様の招聘を諦めたようです。
そして反対に、わたくしをメトニッツに送る方向でお話を始めました。
驚きました。メトニッツは辺境の町だと習っていたのですが、その町にわたくしを送るというのです。
血族的に王家直系の者が長期で地方に赴けば、その地方の領主に王家が肩入れしていると見られてしまうために慎むべき行動です。
それを王太子であるお父様が求めるということは、デメリット以上のメリットがあるはずです。
一体どのような意図が、お父様にはあるのでしょうか。
部屋に戻ってからお聞きしましたら、第一にはアンジェリカ様の素晴らしい魔法をわたくしが習得できる可能性があること。
これはわたくしにも分かります。上位貴族が驚嘆するような魔法を、アンジェリカ様は子どもたちに習得させているのですから。
ですがもうひとつの理由には驚きました。
アンジェリカ様には、天使様のお気に入りではないかとの噂があるそうなのです。
実際大規模なスタンピードに襲われたメトニッツを、白い翼を持った天使様らしき人物が助けたことは事実として確認されているとのこと。
そのスタンピードは五千近い魔獣がいたにもかかわらず、翼を持った人物は短時間で殲滅しているのです。
明らかに人知を超えた力を持つ者の助力によって、難を逃れたメトニッツ。
そのメトニッツの代官であるアンジェリカ様のお父君が、アンジェリカ様が待っている方を知りながら、たとえ王命であったとしても明かせない人物というのです。
これは、どう考えてもアンジェリカ様の待ち人が天使様であるという答えに行き着いてしまいます。
つまりお父様は、わたくしがメトニッツでアンジェリカ様に師事している間に、あわよくば天使様と接触できないか。それがダメでも、天使様との接点を持つ可能性の高いアンジェリカ様に師事するだけでも、王家にとって大きなメリットになると考えておいでなのです。
こうしてわたくしはメトニッツでアンジェリカ様に師事することになったのですが、実際にアンジェリカ様と長く接っするようになり、天使様がアンジェリカ様を助けたのだと納得してしまいました。
アンジェリカ様は、間違って天使様が人としてお生まれになったのではないかと感じるほど心根が優しく、真摯に努力される方だったのです。
わたくしはアンジェリカ様にどんどん魅かれ、アンジェリカ様に傷付いてほしくないと考えるようになってしまいました。
ですので、お父様が天使様との接触を考えられていることをアンジェリカ様に話し、わたくしのお付きに注意するように促してしまったのです。
王族のひとりとしては間違った行動なのかもしれませんが、アンジェリカ様を傷付けてしまうことの方が、この国にとって危険なのではと感じたのです。
実際アンジェリカ様はメトニッツの方々からものすごく愛されていて、もし天使様もメトニッツの方々と同じようにアンジェリカ様を愛しんでおられたら、アンジェリカ様を傷付けることは天使様の意に反することになってしまいます。
お付きの者たちは何とかして天使様の事をアンジェリカ様から聞き出そうとしていますが、わたくしはそれが恐ろしくてなりません。
わたくしが諫めようとしても、お付きの者たちはお父様の命で動いているので、聞き入れてはもらえません。
ですからお父様に危険性を訴えるお手紙を出したところ、お父様はご命令を撤回してくださいました。
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