シュトラウス家三姉妹 2/2

そしてわたくしはメトニッツを離れ、マーガレーテ様の魔法講義を受けることになったのですが…。


またも驚愕です。

アンジェリカ様は大人数人でも動かせない重い物をひとりで軽々と宙に浮かせたり、空中を歩いたりしていました。

正直なところこれ以上は無いだろうと思っていましたのに、マーガレーテ様と行ったレベル上げのための魔獣討伐で、目を剥く光景を目撃しました。


マーガレーテ様は森の木々を縫うように空を飛び、魔獣を一瞬で捕獲。レベル上げ対象者の前に持って来て、離れた場所から光の矢で魔獣を討伐してしまわれました。

そして討伐した魔獣の死骸を、他次元庫にお仕舞になったのです。


他次元庫はいにしえの大賢者様がお使いになられたと習いましたが、空を飛んだなどというお話はございませんでした。

つまりマーガレーテ様は、大賢者様を凌駕する魔法の使い手ということになってしまいます。


わたくしは『魔法で魔獣を倒すことはできない』とも習い、王都の貴族たちの間ではそれが常識でした。

ですがマーガレーテ様の光の矢は、離れた場所から一撃で魔獣を倒してしまいました。

王都での常識が、シュトラウス領に来てことごとく破壊されていきます。


わたくしや王都から来た者たちが呆然とする中、シュトラウス領の方々はマーガレーテ様に拍手を送っています。

マーガレーテ様は照れたようなお顔をなされ、『光の矢以外は、八歳の従妹にもできるから』とおっしゃっています。


それってアンジェリカ様のことですわよね。

つまりアンジェリカ様は、使う機会が無かったからお見せになられなかっただけなのですね。



魔獣の討伐が進むにつれ、森に慣れていないわたくしや王都からの者たちに疲れが見え始めると、マーガレーテ様は休憩を取ってくださいました。


こっそりアンジェリカ様に秘技を使っていただき、レベル4まで上がって身体能力が向上したわたくしでも慣れない森歩きに疲れているのですから、初めてレベル上げをする者にはかなりきついでしょう。助かります。


……森の木が一瞬で切り倒され、目の前でスパスパと木材になり、あっというまに長テーブルと長椅子ができてしまいました。

恐る恐る席に着くと、まっさらな木の香りがします。

そして空中を滑るように配膳される軽食と果実水。

果実水のグラスには薄っすらと露が浮き、冷えていることがうかがわれます。


ここって魔獣のいる森ですわよね? そのような場所で軽食?

あたりを警戒する王都出身者たちに、マーガレーテ様が『全員を盾魔法で覆っているから、安心して』と、上を指差しました。


見上げるとテーブルの上5mほどに大きな水球があり、落ちて来て傘を流れる水のように分かれて流れて行きました。

どうやらドーム型の盾魔法で、わたくしたち全員を覆っているようです。


アンジェリカ様は盾魔法を踏み台に使っておられましたが、盾魔法にはこのような使い方もあるのですね。

いえ、『盾魔法』と呼ぶからには、こちらが本来の使い方に近いのかもしれません。

ですがこの盾魔法、雨の日でも屋外で濡れずに済む魔法ということですわよね。なんて便利な。


休憩後にも再度魔獣を討伐し、マーガレーテ様が全員1レベルアップできるようになったからと、町に戻ることになりました。


ですが帰り道で、盛り上がった木の根を踏んで足首を痛めた者が出てしまいました。

マーガレーテ様はその場で盾魔法の椅子を作り、座らせた状態でその者を治療してしまいました。

怪我をした当人が痛くなくなったというのですから、治療効果はすばらしいようです。


王都から来た者たちはかなり足に疲れが出ていたようで、マーガレーテ様は全員分の椅子を盾魔法で作り、皆を座らせて森の木々を縫うように飛ばしてしまわれました。


当然わたくしも座ったのですが、宙に浮き木々を避けながらするすると進むという、初めての体験をいたしました。

歩き疲れた身体に森の風が心地よく、魔獣のいる森内だというのに、随分と楽しい体験でした。


町に戻ると、マーガレーテ様は本日を振り返って各々の反省点と改善策を考えるようにとのことでした。

今日は魔獣と初めて遭遇する人も多かったので盾魔法による守りも討伐もこちらでしたが、そのうち個々の能力で魔獣討伐をしてもらうからとおっしゃるのです。


王都から派遣された者たちの顔は、一気に青ざめました。

ですが、『個人の能力で魔獣を討伐できるようにならなければ、国王陛下が望まれた魔法の習得など到底無理』と言われれば、全くもってその通りなのです。

マーガレーテ様はまるで片手間のように魔獣を討伐なされたのですから、マーガレーテ様の持つ魔法を習得するなら、わたくしたちも近しいことができなければいけないのは当たり前です。


そして最後に、マーガレーテ様はこうおっしゃいました。

『わたくしの魔法は、アカリお姉様に比べたらまだまだなのです。お姉様は、短時間で魔獣三百体以上をおひとりで討伐しても、平然としておられるのですから』と。


アンジェリカ様からもたびたびお聞きしましたが、そのアカリ様という方はいったいどれほどのお力をお持ちなのでしょうか。

短時間で魔獣を三百体も倒してしまったら、普通は複数レベルアップして亡くなってしまいます。

つまりアカリ様は、魔獣三百体を倒しても複数レベルアップしないほどの高みにおられるということです。


わたくしから見ればアンジェリカ様やマーガレーテ様の実力でさえとんでもございませんのに、さらにその上を行く方がいらっしゃる。

こと魔法において、王都はシュトラウス領にはるかに劣っているのだと、再認識してしまいました。

これは、何としてでもマーガレーテ様の魔法を覚えて帰らねば!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る