お姉様、会いに行きますわ!

「マーガレーテ、王都組やツェツィーリア殿下の様子はどうだ?」

「やはり王都組は、部下候補たちより技量の習得に時間が掛かりますわね。ですがツェツィーリア殿下は、部下候補たちにも引けは取りません」

「やはり予想通りか」

「ですがツェツィーリア殿下のご参加が、良い刺激になっているようです。王都組も、未成年の殿下の手前、できないとは言えませんもの。必死で努力していらっしゃいますわ」

「ふむ、懸念が減ったのは僥倖だな。しかし、レベル上げはアカリの秘技を使わんのか?」

「はい、そのつもりです。王都組は魔獣の脅威を身近には感じていませんので、安易にレベルを上げてしまうと、覚悟が足りない力だけの強者になってしまいそうなのです。ですから、レベルは魔獣を倒してこそ上げられるものだと認識させる必要がございます」

「その方が良いか。アカリの秘技を、王都に知られなくて済むしな」

「殿下はアンジェリカが秘技でレベル4まで上げてしまっていますが、側近たちは殿下のレベルが上がっていることに気付いていません。殿下ご自身、秘儀の事は師であるアンジェリカとの秘密にするそうです」

「なかなかに辛いお立場を選択されたな」

「アンジェリカの事が大好きで、アンジェリカに難事が降りかかるのを極力減らしたいようですわ。アンジェリカの事を、天使の生まれ変わりだとおっしゃっていましたもの」

「あの子は本当に明るくなったな。あの屈託のない笑顔を曇らせたくないと、無意識にそう感じてしまう」

「お姉様が溺愛していますものね」

「その割には、せっかく人の身体を手に入れたのに、アンジェリカと一緒に住もうとはしなかったな」

「お姉様の事ですから、ずっと一緒にいてはアンジェリカのためにならないと考えられたのでしょう。わたくし自身、お姉様がいらっしゃると、無意識に頼ってしまいますもの」

「アカリの能力は、完全に規格外だからな。そのくせ人から畏れられるどころか、大きな信頼を得てしまう。とんでもない人たらしだな」

「お姉様の場合無意識にそうなってしまうのですから、たらし込んでいるわけでは無いところがもう、お姉様らしいとしか言いようがございませんわ」

「そうだな、あれがアカリだ。で、会いに行きたいのだな?」

「…やはりバレますわよね」

「これでもマーガレーテとアカリの父親だからな。部下候補、王都組受講者やツェツィーリア殿下をレベル上げしつつ育成するなら、魔獣を求めて森をさまよう必要のないあの町は最適だ。しかもアカリが守っているとなれば安全性も桁違いな上に指導も期待できるのだから、反対するわけにはいかん。だがなぁ…娘のいない半年間は、さすがに長すぎんか? しかもアンジェリカを誘わんのは可哀想だろう」

「アンジェリカを連れて行きたいのはやまやまなのですが、良い口実が思い浮かびませんもの。それにアドルフ叔父様たちの事を思うと、誘うのにも気が引けてしまいます」

「あの年代の娘を、両親や弟から半年も引き離すのはなぁ…」

「こちらでできる限りの指導をして、仕上げに三か月ではいかがですか?」

「三か月か…。その根拠は?」

「ございません。しいて言えば、お姉様がいらっしゃるからです」

「根拠が無いのにすごい説得力だな。弟夫婦を説得してみるか」

「アンジェリカを誘う口実が無いので公私混同になりますが、よろしいの?」

「妹が大好きな姉に会いに行くのだ。立派な理由だろう」

「思い切り私的な理由ですが、立派な理由ですわ。お父様、我儘を聞いてくれてありがとう。大好きです」

「あ、ああ………。だが、まだまだ先の話だぞ。それまでに、仕上げ段階にまで受講者を導かねばならんのだからな」

「とんでもなくうれしいご褒美が手に入りそうなのです。全力で頑張りますわ」

「そうか。やる気が出て何よりだ」

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