ついにミシエラに住民が

今後も頻繁に悪路走行用魔導車が使われるので、往復の警護を担う熟練の魔獣討伐兵さんたちに慣れてもらおうと交代で運転を任せ、たまに休憩を挟みつつ移動。


初住民と仲良くなろうと積極的に会話してたんだけど、領都から来た人とメトニッツからの移住者さんの表情が違ってた。


領都の人は話してても気もそぞろで、外をきょろきょろしながら顔が引きつってるの。

対してメトニッツからの人は、全然外を気にせずに笑顔でおしゃべり。


町の外にさえ魔獣が来ることが稀な領都と、たまに川を流れて町中にスライムが入り込むことがあるメトニッツとの意識の違いに、ちょっと笑っちゃったよ。


最初に魔獣に襲われた時なんて、メトニッツ組は瞬時に身をかがめたのに、領都組は青い顔しながら魔獣を視認しようと外を覗いてた。

怖いなら魔獣に見つからないように隠れようよ。


しかも魔獣が退治されると、メトニッツ組はまたおしゃべり再開したのに領都組は青い顔のまま。

うん。魔獣への慣れと兵士さんへの信頼度の違いかな。

メトニッツだと、時々外の畑に魔獣が出て兵士さんが退治するからね。


魔獣の襲撃が回を重ねるごとに領都組の顔色が悪くなってくので、見かねたメトニッツ組が解説入れてたよ。

『日中平原に出る魔獣はスタンピードでもない限り単独行動だから、熟練の魔獣討伐兵が複数人いれば負けることなんてない。邪魔にならないように隠れてればすぐ終わるよ』だって。


説明を聞いた領都組、メトニッツ組に辺境でのアドバイスを聞き始め、なんだか仲良くなってた。



夕方、ミシエラに到着。

メトニッツ組、領都組とも城の中庭で魔導車を降りてしばらく唖然。

だよね。こんな最辺境に、まっさらで頑丈な城砦が立ってるなんて思わないよね。


そして出迎えてくれたフィリーネ一家のご両親の耳に気付き、さらにびっくり。

お義父様にフィリーネのご両親の移住を相談したところ、移住当初からいた方が受け入れられやすいだろうってことで、移住の許可をいただきました。


まだご両親はこちらの言葉がたどたどしいけど、フィリーネが念話を教えたので、最悪でも一方通行だけど意味は通じるし。


町の構想段階ではご両親に狩りをしてもらって食肉を供給してほしかったんだけど、残念ながら魔獣の大森林には獲物になる獣が少なすぎたんだよね。


だから今考えてるのは、罠によるレベルアップの補助要員。

魔獣を倒した時に近くにいた者が一番レベルアップしやすいんだけど、成人したての女の子に槍で魔獣を突かせるのはきついと思うの。

だから女の子を鉄格子前に立たせて、後ろから弓矢で魔獣を討伐してもらおうかと目論んでます。


私やフィリーネがいれば鉄格子の間を攻撃魔法通せるけど、グレーチング状の鉄格子だから隙間が狭いんだよね。

槍も細いのしか通らないから、後ろから長槍で討伐するのは結構大変そうなの。


で、ご両親は二人とも弓の名手だから、近距離なら鉄格子の隙間に矢を通せる。

しかも魔素の感知レベルを頑張って上げてるみたいだから、複数レベルアップにならないように監督してもらうこともありだと思う。


それに、何かやりたいことがあってそれが町のためになるなら、そっちを優先してもらってもいいし。

取り敢えず町のためになることをしてもらえば、町に必要な人材として受け入れられやすいでしょ。


人付き合いはこりごりと言ってたご両親だけど、崖の家に籠ってるのは暇すぎるからと、ミシエラへの移住を希望してくれたの。

崖の家ではフィリーネと一緒に森に出たりはしてたようだけど、健康なのに娘に世話を掛けるのを気にしてたみたい。



もう夕方なので、移住者たちはお城の使用人宿舎や文官宿舎に部屋を宛がい、食堂でプチ歓迎会。

料理はフィリーネとフィリーネママさんが用意してくれてました。


フィリーネは各国を渡り歩いてただけに、料理のレパートリーが豊富。

しかも私の日本食レシピまで習得済み。

ママさんも崖の家でフィリーネと一緒に料理してたみたいで、かなりレパートリーが増えてるらしい。


しかもフィリーネが両親を受け入れてもらおうと、単独で漁村にまで食材買い付けに行くほどの力の入れよう。

プチ歓迎会なのに、宮廷料理みたいに豪勢になってるよ。


フィリーネ、第一陣の移住者だけでもあと七十人も来るんだよ? こんな豪勢なお料理出しちゃって、お金大丈夫なの? 後で確認しておこう。



警護兵や移住者大満足のプチ(プチじゃ無い気がするが)歓迎会が終わり、みんなでぞろぞろお風呂に移動。

このお城、執務、文官、兵舎、使用人の各棟に共同浴場が男女別であるんだけど、まだメンバーが少ないから兵舎棟のお風呂だけ稼働。

男女ともにお湯を張ったら、私やフィリーネたちも一緒に入ります。


人間の身体だと、一日中魔導車に乗ってるとあちこち凝るんだよね。

お風呂気持ちいい~。


『毎日入れる』じゃなくて『毎日入れ』って言ったら、給金がもったいないって突っ込まれた。

いやいや、お風呂掃除は当番制にするけど、お風呂は毎日無料だからね。


移住者は若い子たちばかりだから、めちゃくちゃよろこばれたよ。

このお城、個室のお風呂も入れたら五十個くらいお風呂があるし、シャワー室だけでも八十室と話したら、なぜか呆れられたよ。


だってこのお城、地下の狭い個室も入れると、個室が六百くらいあるんだよ? お風呂、そのくらい必要だよね?


……なぜだ。賛同を得られなかった。



お風呂を出たら、先に上がったフィリーネのご両親から、移住者全員に蔦で編んだハンモックが進呈された。

まだベッドも無いから寝るのに使ってと渡されたけど、フィリーネ一家、頑張り過ぎじゃないか?



夜、乙女の塔に女性陣を連れて行こうとしたら、みんなお城に住みたいらしい。

別にいいけど、まだお城の巡回兵もいないから、部屋はちゃんと鍵かけてね。



夜、乙女の塔でフィリーネにお金のことを確認したら、シュトラウス家出奔時に私に仕え続けるならと、お義父様からかなりの金額を渡されてたらしい。


でもそれってフィリーネのお金だから、明日にでもフランツに相談してみよう。

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