おかしな新人精霊

アカリが精霊の森に帰って来た。

アカリは元人間で、女神様が精霊の森に転生させた渡り人。

不運な要素が重なってエリアボスクラスの魔獣を至近距離で倒してしまい、一気にレベルが上がり過ぎて身体が負荷に耐え切れずに爆散してしまったの。


だけど私のミスもあったから、アカリの体液を操って何とか命を助けたわ。

でも身体の損傷がひどかったから、神力と魔力を込めた水を生成して与え、他の精霊たちの力も借りて何とか身体を修復したの。


でも私の神力と魔力を込めた水を与え続けたせいで、細胞の最大魔素保有量が徐々に上がってしまい、魔素の保有量だけなら上級精霊並になってしまった。

それほどの期間、神力と魔力の混合水を与え続けなければ延命できない状態だったのだから、仕方がない結果なのだけれど。


けれど本来なら身体のあちこちにかなりの障害が残る大怪我だったはずなのに、あの子は私の神力と魔力を驚くほど吸収し、二年近く掛けながらも、吸収した神力と魔力を使って身体を完治させてしまった。


あの子は神力や魔力の扱い方がおかしい。

神力も魔力も、元々は外から与えられるもの。

それを全く躊躇せずに吸収し、己がものとして最大効率で使ってしまっている。

しかも渡り人の知識で、新しい魔法をぽんぽんと生み出すし。


基本的には善人なために世界の脅威にはならないはずだけど、人間社会を見に行くと言って旅立ち、一年もしないうちに人間社会に大きな影響を与えてしまったらしい。

私はそれを聞いて不安になり、人間社会を見に行くことにしたの。


精霊の森に一番近い人間の村は、以前とほとんど変化がなかった。

少しほっとしたけど、あの子の事だからまだ油断はできない。


もう少し進んで町に来たら、人間の兵士が攻撃魔法を練習していた。

まあ、これはいいわ。なぜ人間は火球を放り投げるだけで維持もしないのかと思っていたから、少しマシになったくらいよね。

アカリが関わったわけでもないだろうし。


そしてフィリーネが言っていた魔導機器も見つけた。

ああ、これがアカリが作った新型なのね。

以前の物を見たことがあるけど、かなり非効率で出力も弱かった。

だけどこの魔導機器は、効率がしっかり改善されて出力も上がり、コンパクトにもなってるわね。


まあこのくらいなら、以前にあった物を改良しただけだから、世界に対してはそう大きな影響は無いでしょう。

出力が三倍ほどになっているのは、アカリらしいけど。


あら、小型船にも魔導機器を積むようになったのね。

川を遡上できるから、便利ではあるわね。


え、何この人間の子ども。姿を消してる私の方を、じっと見てるわね。


「ひょっとして精霊様ですか?」


やっぱりこの子、私の存在に気付いてる。しかも精霊だってことまで分かるみたい。

マズいわね、逃げないと大騒ぎになるわ。


「誰にも言わないし騒いだりしません。果実を欲しがったりもしないから、安心してください」

「……どうして気付いたのかしら?」

「初めまして精霊様。私はアンジェリカです。気付けたのは、アカリ姉様みたいな神力を感じたから、です」

「! あなた、アカリの知り合いなの?」

「はい。だけど精霊様、ここで私だけが宙に向かって話してると、舟で川を通る人に疑われちゃう。良かったらアカリ姉様が作った家に入りませんか」

「…アカリが作った家なのね。いいわ、どんな家か確認させて」

「はい、じゃあどうぞ」

「…」

「一応ドアは閉めていい、ですか?」

「その方が視線や声が遮られていいわね」

「はい。えっと、お茶とか飲む? いえ、飲みますか?」

「言葉は無理しなくて普段通りでいいわ。それと、私は水の精霊だから、何も飲まないし食べないわ」

「え、水の大精霊様!? アカリ姉様を助けてくれて、ありがとうございました!」

「あの子、そんなことまで話したのね。でも、子どもに頭を下げさせる趣味は無いから、顔を上げなさい」

「はい。えっと、ちゃんと知ってるのは、私とマギー姉様だけ、です」

「言葉遣いも普通にしなさい」

「あ、はい」

「それで、あなたとアカリの関係は?」

「アカリ姉様には命を助けてもらって、魔法も教えてもらったの。そのあともいっぱい私の事を助けてくれた、大好きなお姉様!」

「ああ、あなたがアカリの言っていた子なのね。大好きって言ってたわよ」

「…うれしい」

「でもあなた、翅を出した時に漏れる僅かな神気に気付くなんて、すごいわね」

「私もアカリ姉様大好きで、魔素感知の感じ方なんかで、離れててもアカリ姉様だって分かるようになったの。でもアカリ姉様は他の人とはちょっと違う感じだったんだけど、この前女神様のお声を聞いて、それで私が感じてたのが神気なんだって、アカリ姉様に教えてもらったの」

「はあ!? 女神様のお声を聞いたの!?」

「うん。アカリ姉様が天使様に間違えられちゃって、みんなが女神様のご意思だって誤解したの。だからアカリ姉様が教会で一生懸命謝ったら、女神様が『許します』って言ってくれたんだよ」

「あの子、いったい何をしたの!?」

「え~っと、アカリ姉様が本体で翼出したまま教会の悪い人たちを叱ったら、天使様と間違えられて、女神様のごいこう(?)だって思われちゃったの」

「そういえばあの子の羽、鳥の翼だったわね」

「それで、教会の悪い人たちが女神様に叱られたんだってみんなが思って、その悪い人たちは教会のお仕事を辞めさせられたんだって」

「…それが女神様のご意向と誤解されたから謝ったのね。それで、あとは本体では何もしていないかしら?」

「この町がおっきなスタンピードに襲われたから、アカリ姉様が翼出した本体でやっつけてくれたの。町のみんなは天使様が助けてくれたって思ったんだけど、アカリ姉様は父様に、天使じゃなくて精霊だって正体を明かしてくれたの」

「何やってるのよあの子…」

「でもね、アカリ姉様が正体を明かしてくれたから、父様は町の代官として『翼を持った者が助けてくれたけど、天使様とは確定していない』って発表したよ」

「ああ、女神様のご意思と誤解されないようにしたのね」

「うん。でも私とマギー姉様は、女神様のおかげだって思ってるの。だって、アカリ姉様を生まれ変わらせてくれたのは女神様だから」

「…間接的にはそうなるわね。でもあなた、大事な秘密を話しすぎじゃない?」

「人には絶対内緒だよ。だけどあなたは、大好きなアカリ姉様を助けてくれた精霊様だから。それに、精霊様に嘘吐いちゃダメなんだよ」

「あなた、アカリが言うように本当にいい子ね」

「えへへ、そうかなぁ」

「ふふ、可愛いわ。ありがとう、あなたのおかげで大体分かったから、そろそろ行くわ」

「あ、ひとつだけ聞いてもいい?」

「何かしら?」

「アカリ姉様とフィリーネは元気?」

「元気よ。新しい家を作って遊んでるわ」

「わあ、アカリ姉様とフィリーネ、おうち作ってるんだ。なんだか楽しそう」

「ええ、かなり楽しんでるわね。じゃあ、そろそろ行くわね」

「はい、ありがとうございました。ドア開けます」

「ありがとう。じゃあね」

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