おうちちゃん、いいわぁ
新しいおうちに引っ越してから、足りない小物を作ったり地下に畑を作ったりしつつ、フィリーネのレベル上げや戦闘技術習得をお手伝い。
ゆっくりのんびり生活してるけど、あの仕事地獄との格差がすごい。
みんなが作ってくれたおうちが大好きなので家にいることが多いけど、ぽけーとしてても暇だとは思わないのがありがたい。
おうちちゃん、ありがとう。
たまに精霊の森を散歩すると、樹木の精霊たちの根っ子近くや枝の根元に洞ができてて、凝った装飾の扉が付いてるの。
分体用の家なんだろうけど、見つけると妖精の家かと思っちゃうよ。
この世界には妖精もいるらしいんだけど、私はまだ会ったことがない。
どうやら深い森の奥や洞窟の奥に住んでるそうなんだけど、積極的に他者と交流するような性格じゃないらしく、近くに行くと逃げられるみたい。
動物精霊の住処も、巣穴に扉が付いてるからホビットの家っぽい。
でも、この世界にホビット族はいないそうだ。
残念、両方会ってみたかったのに。
私とフィリーネは精霊の集会に時々参加してるんだけど、今はフィリーネが大人気。
百五十年もあちこちに住みながらこの世界を旅してるから、異国の地の知識が半端ない。
樹木の精霊たちは本体から離れるほど弱体化するので、基本的に他大陸までは分体でも足を延ばさない。
だからフィリーネが語る他大陸の様子に興味津々で、よくお話をせがんでる。
まあそうだよね。気候が全然違う他国の話なんて、予備知識なしで聞いたらびっくりするよね。
大砂漠や氷河地帯、火山島や諸島国なんて、想像もできないはずだから。
まあ、フィリーネと精霊たちが仲良くなって良かったよ。
フィリーネの方も精霊に慣れて来たみたいで、気軽にお話要請に乗ってるし。
ただね、フィリーネが地下室に入らせてくれないの。
私の配慮不足が原因だから仕方ないんだけど、私もお野菜のお世話したかったのに。
最初地下は物置スペースだったんだけど、精霊には他次元庫あるから物置なんて要らないんだよ。
だから『精霊の森でお野菜育てたら美味しくなりそう。だけど精霊の森を耕すのは気が引ける』ってことで、おうちの地下に畑を作ったの。
森の神気、すごいよ。
私が町で手に入れた普通の種が、何倍もの速さで成長するの。
しかも収穫期が途切れなくて、一年草のはずの野菜が枯れないんだよ。
今うちの地下は、朝フィリーネが魔導機器の照明を点けて野菜を収穫、お水をあげたら夕方まで放置。そして夜には照明を消す。
これだけで美味しいお野菜が年中食べられるようになるの。
ただ伸びすぎるから剪定したり、受粉作業もフィリーネがしてるみたいなんだけど、私は地下に入らせてもらえない。
家庭菜園とかするつもりで種買って来たのに…。
仕方がないので、ハンギングプランターやウインドウボックス作って、花や観葉植物育ててます。
ただね、観葉植物がタケノコ並みに延びるの。
最初はハンギングバスケットから垂れてるだけだったのに、今じゃ大柱の大木の幹を廻り始めてるの。どうしようこれ?
まあこんなのんびりした生活をしながら、今はフウタ用のペダルカー作ってます。
だけど私にはヴォイツの職人さんや樹木の精霊みたいな腕はないので、ボディの加工が結構大変。
Qカーみたいなデザインにしたのは失敗だった。丸っこいボディ、作るの大変。
まあ、時間はあるからゆっくり作ろう。
無理に早く仕上げてもそれなりの物にしかならないから、時間を掛けてでも納得がいくものを作りたい。
きれいな曲線出すのに、焦りは禁物だ。
ゆっくりと慎重に、魔素の制御にもしっかり気を付けて木を曲げて行きます。
私、ハイパーモードでお仕事してるより、やっぱりこういった時間の使い方が性に合ってる。
ものづくりにしてもそうだけど、生活もゆったりのほほん。
他の精霊たちとおしゃべりしたり、フィリーネとまったりお茶したり。
私ってば、精霊化してよかったよ。
「アカリ様、たとえ家の中でも、自室以外でネグリジェ姿のままうろつくのは止めてください」
「えー。誰か来たらすぐ分かるから、このままでも良くない? 他の精霊なんて、ほとんど裸だし」
「皆さんは毛並みが服なんです。それに、ディーネさんはいつも服を着てますよ」
「キトンみたいなワンピースじゃん。私のこれもワンピースなんだから、これでよくない?」
「それ、ネグリジェじゃないですか。ダメです」
「出かけないんだから着替えるのめんどいよ」
「今度から私が着替えさせます。さあ、服を出してください」
「はーい」
「…公爵家ではしっかりお嬢様していたのに、こっちに来てからだらけてませんか?」
「だって、たとえ養女でも、変な恰好してたら義両親やマーガレーテが恥ずかしいでしょ」
「他者のためですか。アカリ様はすごくお可愛らしいんですから、着飾ってください」
「ひらひら多いと、なんか恥ずかしい」
「なんでネグリジェよりひらひらの方が恥ずかしいんですか!?」
「…なんでだろ?」
「どういう基準ですか…。今日から私がしっかりお世話しますからね!」
「フィリーネもそのうち初級精霊じゃん。同格同格」
「関係ありません! 私がそうしたいんです!」
「えー」
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