新居生活が始まってしまった

新しいおうち、ちょっとだけ不都合が発覚。

ベッドサイドにある鉢植えの光る花が、朝になるまで消えないの。

柔らかな光で眩しくはないからいいんだけどね。

日中に光を吸収して暗くなると発光する花らしいので、朝起きて窓際に移動しておきました。


着替えてリビングに移動し、日光浴。

岩の裂け目みたいなへこみに沿って縦長の窓がいくつもあるし、ここは岩石地帯だから大きな木が生えてなくて日が当たる。

リビング明るいのはいいな。


「アカリ様、おはようございます」

「フィリーネおはよう」

「朝目が覚めて、一瞬パニックになりました。お部屋が素晴らしすぎて、しばらくどこに居るのか分かりませんでしたよ」

「あはは、私も。『知らない天井だ』とか思っちゃった」

「昨日はとんでもないものを見てしまいました。私、本当に精霊になれるんでしょうか」

「それは大丈夫だと思うよ。昨日いた精霊たちって、若くても五百歳以上だから。精霊三年目の私も、見ててびっくりしたもん」

「すごかったですよねぇ」

「みんな家建てるなんて初めてだろうから、能力全開で遊んでたよね」

「やはり遊びなんですね。この家も、室内見てるだけで楽しくなります。精霊が楽しさを求めるのが、少し分かった気がします」

「やった。住んでて楽しいおうちが目標だったんだ」

「柱の造形やドアの装飾、階段の手すり、木目がきれいな床。目に入るたびに立ち止まって眺めてしまって、ここに来るまで時間が掛かりました」

「うん。樹木の精霊たちが表面をきれいに仕上げてくれたから、そこらじゅうが美術品みたいだよね。私は明け方に起きたんだけど、あちこち見てて全然飽きないの」

「ですよね。お茶しながら鑑賞しましょうか」

「あ、まだコンロ作ってないや。早起きしたから作ろうと思ったのに、部屋を鑑賞してるうちに忘れてた」

「あの、おトイレを先に作れませんか?」

「あ、トイレは魔導機器のストックがあったから、もう設置しといたよ。下水処理の魔導機器はまだだけど、汚水貯水槽はあるから使えるよ」

「ありがとうございます。ちょっと行ってきます」

「はいはい」


いつまでも部屋を眺めていたいけど、やること済ませてからのんびり眺めよう。

まずはコンロと換気扇作らなきゃ。

戻って来たフィリーネに手伝ってもらいつつ作業開始。


ここのコンロはビルトインタイプの予定だから、ストックの卓上型は使いたくない。

昨日精霊たちが模型を真似て筐体はできちゃってるから、中に魔導機構を組み込めばいい。


あ、火力調節のつまみ、くっついてて動かないじゃん。分離して可動式にしなきゃ。

げ、ガラス天板も外れない。分離分離。


ガラスの天板剥がして、中に加熱用魔法陣三つとグリル用一つ組み込んで、熱量調節機構も搭載。よし、できた。


シンクは、水道要るかな?

私たちってどこでも水球作れるし、水温だって自由自在。

ここは精霊の森だから、精霊以外のお客さんは来ない。

水道、要らないね。


あ、何も考えずに模型にも冷蔵庫置いちゃってたから、2ドアの木製冷蔵庫(ガワだけ)が鎮座してる。

他次元庫あるし魔法で冷却もできるから、これ、要らないな。

でもアンティークな木製収納ボックスみたいなデザインだから、このまま置いておこう。


じゃあ次は換気扇だ。

換気扇は岩のへこみ部分に穴が開いてるから、そこに有圧シャッター付けて送風の魔法陣をレンジフード側に取り付け。

レンジフートも、渋い木製の飾り彫り付きだから、スイッチは目立たない裏側に付けておこう。

よし、動作テストも良好。次は浴室とトイレの換気扇だな。


次々と魔導機器を設置して、各部屋には移動型のエアコンも置いた。

そして懸念だった下水処理は、結合分子を分離する魔法陣で対応するつもりです。


汚水って大半が水だから、分子単位に分解すれば常温の水蒸気になるはず。

固形物だって水がなくなって分子単位に分解されたら、きっとサラサラの何かになる…はず。


地下室に行ってガラス製の処理槽に魔法陣を組み込み、とりあえず水球で動作テスト。


この処理槽は汚水貯水槽からバルブ経由で繋がってて、上部は岩の頂上に出た煙突に繋がってる。

だから分子単位に分解された水は水蒸気になり、送風の魔法陣によって運ばれ煙突から放出されます。


ただ20m以上の煙突を低温の水蒸気が上らなきゃいけないので、途中で水滴化して落ちて来ちゃう。

でも下は処理槽だから、また分子に分解されて再度煙突方向に。


そんな思惑で作った処理装置だけど、ちゃんと動いてくれるかな。

さて、テストの結果は?


おおう、処理槽内に入った水が、ゴボゴボ沸くみたいになっとる。

意外に早く水が無くなってくので、水球を追加しながらフィリーネに煙突を見て来て貰います。


しばらくして帰って来たフィリーネから、薄い煙状のものがちゃんと出てたと報告があった。

よしよし、意外に行ける感じ。


でも一旦動作を止めたら、煙突内部に付いてた水滴が結構落ちて来て、また水が溜まってしまった。

再度稼働させてしばらく放置してたら、やっと水滴が落ちてこなくなった。

どうやら全部水蒸気化して、煙突から放出されたらしい。


では実際に汚水を処理してみようとバルブに手を掛けたら、フィリーネにガシッと腕を掴まれた。

あ、はい。このバルブひねると落ちて来るのは…。

だって、わたしはもう出ないんだから仕方ないじゃん。


…地下室を追い出されてしまった。

処理状況が確認できるように、処理槽をガラス製にしたのが失敗だったか。

うん、処理はフィリーネにお任せします。


外に出て煙突見てみたら、ちゃんと蒸気は出てた。

しばらく蒸気を眺めてたらどんどん量が減って見えなくなったので、リビングに戻りました。


十五分くらいしたら、フィリーネが上がってきた。

処理が終わってからも十分くらい魔法陣を稼働させると、さらさらになるそうです。

だけど『下水処理は私がやりますからアカリ様は手出し無用です』って宣言されちゃったよ。


はい。配慮が足りずにすみませんでした。

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