ディーネさんの教育的指導 1/2

なんか公爵家にいる時みたいにフィリーネにお世話されつつ、まったりのんびりお花に水やってたら、ディーネさんか来た。


「アカリ、あなたねえ、大事なことはちゃんと報告しなさいよ!」

「え、なんかお怒りモード? 私って、何かやっちゃってた?」

「天使と間違えられて、女神様からお言葉賜ったんですってね」

「ありゃ、なんでディーネさんが知ってんの?」

「町まで行って、アンジェリカって子に聞いて来たわよ」

「わあ! アンジェリカ、元気してた?」

「元気だったわ。アカリが作った川傍の家を、ひとりで掃除してたわ」

「相変わらずいい子だなぁ…」

「アカリが気に入ったのも分かるわ。あの年齢で他者に気遣いができる、素直な可愛い子だったわね」

「そうでしょ! あの子は天使だよ」

「あなたが天使と間違えられたんでしょ! しかも女神様にお言葉までいただいて、なんでそんな重要なことを報告しないのよ!?」

「え、重要なの? 私がポカして女神様に謝ったら、許しますって言ってもらっただけだよ?」

「あのねぇ…。女神様からお言葉を頂戴するなんて、大精霊でさえここ百年以上無いわよ!」

「でも、失敗を許してもらっただけだよ?」

「この子はもう…」

「お話し中失礼します。水の大精霊様、アカリ様の判断基準はその…、少々他の方とは違っておりまして…。女神様のお言葉も、単に失敗したことを謝ったら許してもらえた程度の感覚かと思います」

「…本気?」

「えっと、なんかマズいの?」

「いえ、マズくは無いのだけど…。でも、女神様からのお言葉よ?」

「たった一言だけだったけど、鳥肌立つほど神聖な感じだったよ。許してもらえてよかったぁ~」

「…それほどの神聖さを感じておいて、反応が軽すぎないかしら?」

「え、だって女神様はこの世界の創造主様でしょ。じゃあ私たちはみんな女神様の子どもみたいなもんだから、失敗して謝ってる子が親に許してもらったってだけだよね?」

「…アカリにとってはそういう認識なのね。間違ってはいないんでしょうけど、相手はあなたの命なんて一瞬で消し去れる女神様よ。畏れ多くは無いの?」

「ちゃんと分かってるよ。だって私、死んでたのに身体まで与えられて生まれ変わらせてもらってるんだよ。だから女神様は、そういうことができる存在だって理解してるよ」

「じゃあどうしてそんなに冷静でいられるのかしら?」

「ディーネさんって、人から見たらとんでもなく強大な力を持ってるよね?」

「? …まあ、そうね」

「人から畏れ敬われたい?」

「ちょっと、何言ってるのよ! 相手は私じゃなくて女神様なのよ!?」

「女神様ほどの方が、畏れ敬われたいなんて承認欲求持ってるとは思えないんだけど」

「く…、一理あるわね」

「私は女神様を敬ってるし多大な感謝もしてる。だから女神様が望んでないだろうことはしたくないの。女神様のご心情を思うこと自体が不敬かもしれないけど、それが気に入らなかったら女神様はいつでも私を消し去ってくれるよ。私は女神様のご意思に反するのは嫌だから、もし私が不快な存在になったら消し去ってもらった方がありがたいもん」

「あなたのその思考はとんでもないわね」

「この命は女神様に与えてもらったものなんだよ。女神様が私に生きてほしいと思ってくれたから、私は転生できた。だから力の限り楽しく生きる気だけど、消えることが女神様のご意思になったら消えて当然じゃない」

「……生きるも死ぬも女神様のご意思に従う。それほどまでに女神様を信奉しているということなのね。なるほど、他者よりよほど判断基準が明快だわ」

「一回死んじゃってるからね」

「あなたのその思考や知識、やっぱりとんでもないわね。怖くなって来たわ」

「えー、ディーネさんなら一瞬で私を殺せるのに」

「…どうしてそう思うのよ?」

「私の身体、七割は水分だよ」

「それが分かっていながら気安く話すのね」

「女神様とおんなじ。気に入らなくて殺されるなら、それは私が悪いだけだから」

「…私の事も信じてるわけね」

「えへへ」

「自分の感じたままに相手を信じ、信じた対象には自分の素をさらけ出す。いっそ清々しいわね」

「だってディーネさん大精霊じゃん。地上にいる者の中では一番女神様に近い存在なんだから、信じて当然だよ」

「あっけないほど納得のいく、単純明快な理由ね。私はアカリの判断基準が分からなくて、少し怖いと感じていたの。だけどこれほど分かりやすい基準だと知れば、恐れてたのが馬鹿みたいだわ」

「アンジェリカに教えられたの。あの子は私を信じて、素直に甘えてくれた。すごく心地よかったよ」

「ああ、そうね。私の事も、精霊だからって信頼してくれていることが伝わって来て、心地よかったわね」

「でしょ。アンジェリカは、私が薬師のフリして会った当初から、重体の状態を助けた私の事を、物語に出て来る精霊みたいだって思ってたらしいの。ほんと素直でいい子よね。何度も言うけど、ディーネさんのお水のおかげであの子を助けられたんだよ。本当にありがとう」

「私の水があの子を助けたんだと思ったら、結構うれしいわね」

「そう感じてくれたら、私もうれしい」

「でも、あなただってあの子を助けたんでしょ。正体晒してスタンピードを殲滅したって聞いたわよ」

「あの町がスタンピードに襲われたって聞いたのは、結構遠い場所だったの。だからその場にいた人たちに正体がバレてでも急行したかったから、本体で翼出して飛んじゃった」

「結局あの子のために正体明かして、あの子のためにスタンピードを殲滅したのね。あの子だけを助け出すんじゃなくてわざわざスタンピードを殲滅したのは、あの子の周りの環境を守るため?」

「うん。全部私の勝手な私欲。これ以上アンジェリカの傍にいたら、欲に溺れてどんどん精霊の力を使っちゃいそうな気がしてあの子の傍を離れたの。そんなことになったら、アンジェリカは人としての幸せを逃すだろうから」

「偉いじゃない。よく我慢したわね」

「……あまり我慢できてないかも。私がいないうちにアンジェリカが傷付くのが怖くて、レベル14まで上げちゃったから」

「はあっ!? あの子、ほとんど魔素が漏れてなかったわよ!」

「アンジェリカ、魔素制御はかなりのものだから」

「アンジェリカ様はまだ六歳なのに、私よりかなり制御力が上ですよね」

「……六歳でレベル14。しかも、精霊化し始めてるフィリーネより制御力が上なの?」

「アンジェリカはすごい努力屋さんだから、気付いたらああなっちゃってたの」

「マーガレーテ様もですよね」

「……その子は何歳なの?」

「十三歳。アンジェリカとマーガレーテは私を姉と慕ってくれて、私が教えた方法を、最善と信じてやり続けてるの」

「…魔法は何を教えたの?」

「アンジェリカは盾魔法までで、攻撃系は一切教えてない。マーガレーテは狙われる立場で実際何度も襲われてるから、光の矢と飛剣魔法教えた」

「……ぎりぎり、人間の最高峰で収まるかしら」

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