天使様三姉妹
休暇最終日。
「ああ、今日できゃっきゃうふふな生活が終わってしまう。せめてアンジェリカを持って帰りたい」
「お姉様、朝から何をおっしゃてますの? まあ、気持ちは分かりますが…」
「アンジェリカ、分身しないかな」
「無茶を言わないでくださいまし」
「マーガレーテがぽやぽやしてない。つまんない」
「幼児退行してますの!? しっかりしてくださいまし!」
「私もつまんなーい。ぽやぽや姉様、可愛いのに」
「変な呼び名にしないで! その呼称は恥ずかしすぎですわ!」
「そんなこと言ってるけど、マーガレーテだってお布団出ようとしてないじゃん。ほら、正直になりなよ」
「…この状況、動く気になりませんわぁ」
「いつの間に私たちの間に来たのよ?」
「…夜中に目が覚めたらお姉様とアンジェリカが顔をくっつけるようにして眠っていたので、羨ましくなって割り込みました」
「それで両手に花状態なのね。腕、痺れてない?」
「痺れてます。でも、放したくありません」
「残念だけど、そろそろ起きなきゃダメみたい。コリンナとフィリーネがこっちに向かってるから」
「そんな…。早すぎですわ!」
「はいはい、起きようねー」
もそもそと起き出して身支度を整えてたら、コリンナとフィリーネが到着。
「そんな! もうマーガレーテ様がご起床されてる!?」
「コリンナ、残念だけど最近マーガレーテは寝起きにぽやぽやしなくなってるんだよ」
「…アカリ様、お恨み申し上げます」
「確かにあれは可愛いけど、本人は改善したがってたんだから許してよ。それに、領都に帰って忙しい生活に戻ると再発するかもだから、レアぽやぽやになるんじゃないかな」
「望みは絶たれていなかった!」
「何を言っていますの!? コリンナも、主の望みが叶ったのですから少しはよろこびなさい!」
「「「えー」」」
「ちょ、なぜアンジェリカやお姉様まで…」
「ごめん、ごめん。私たち自身マーガレーテのぽやぽやが大好きだから、残念な気持ちは隠せないんだよ。だけどマーガレーテが嫌がるからもう言わない。それで、二人とも予定よりずいぶん早いけど、何かあった?」
「あったと言えばありましたが、一番はコリンナと私が我慢できなかったからです」
「なにそれ、何か予定変更?」
「いえ、予定に変更はありません」
「我慢できないって、コリンナは分かるけど、フィリーネはどうしたの?」
「アカリ様のお世話がしたいです」
「…仕事中毒?」
「いえ、アカリ様成分が不足しています」
「なんじゃそら!?」
「「分かる!」」
「え!?」
「自覚がございませんのね。お姉様は喜怒哀楽がはっきりしているので、お姉様の『ありがとう』は本心から感謝している気持ちが伝わって来て、かなりの破壊力ですわ。使用人たちは仕えることを喜びとしていますから、気遣いに心から感謝されると、うれしさもひとしおかと。わたくしやアンジェリカでさえ、お姉様に『ありがとう』と言われるとうれしくなるのですから」
「うん。アカリ姉様の『ありがとう』は、聞くと幸せになるの」
「まじで?」
「お姉様はアンジェリカから『ありがとう』と言われたら、うれしくなりますわよね。それと同じですわ」
「いや、アンジェリカは私にとって天使だから当然だし」
「えー、アカリ姉様の方が天使様っぽいのに」
「アンジェリカの言う通りですわ。お姉様はわたくしとアンジェリカにとっては、天使様的存在なのです。しかも直に愛でられる天使様です」
「えー、そうかなぁ…」
「お三方ともですよ。私たち使用人にとっては、お三方は天使様三姉妹です」
「私もコリンナに同意です。お三方が笑い合ってると、天使様たちが戯れているのかと錯覚しそうです」
「…わたくしまで入りますの?」
「外せません。せっかくぽやぽやマーガレーテ様たちの寝起きを堪能しようと思ったのに…」
「ぽやぽやから離れてくださいまし!」
「ぽやぽや以外でも素晴らしいのです。マーガレーテ様は元々かなり整ったお顔立ちで、そこに少女から女性へと変わりつつある年代特有の可愛らしさと美しさが同居しています。さらに公爵家のご令嬢としての美しい所作が加わり、三位一体の素晴らしい魅力をお持ちなのです」
「それは分体のお姉様の方が上なのでは?」
「残念なことに、アカリ様は所作が可愛らしい方に傾いているのです。所作の美しさという点で、純度100%のお嬢様であるマーガレーテ様にはかないません」
「純度って…」
「しかもマーガレーテ様以外の貴族家のご令嬢で、新型魔導機器を製造できる方も、あれほど魔法を巧みに操られる方もいませんよ。大人顔負けの活躍で、まるで智天使様みたいじゃないですか」
「全てお姉様にお教えいただいたのですよ?」
「アカリ様は精霊様ですから論外です。すでにマーガレーテ様は、今のご年代のご令嬢としては最上位です」
「論外扱い!? まあマーガレーテが天使なのは同意だけど」
「マギー姉様、可愛くて優しくて頑張り屋さんだよ」
「そういうわけで、マーガレーテ様も含めて天使様三姉妹なのです。ご納得いただけましたか?」
「…専属侍女としてのひいき目ではないのですか?」
「私、パーティーなどで他家の侍女たちからマーガレーテ様の専属であることを羨ましがられるのです。いつも頬が緩みそうになるのを堪えるのが大変なんですよ」
「客観的に見て、マーガレーテがすばらしい貴族家のご令嬢なのは確かだよね」
「うん。私、マギー姉様みたいになりたいの」
「え、お姉様ではなくわたくしですの?」
「私は人だから、アカリ姉様みたいになるのは無理なの。だけど頑張って、マギー姉様みたいになりたいの」
「いつの間にか、わたくしがアンジェリカの目標になっていたなんて…。責任重大ですわね」
「そうでもないでしょ。アンジェリカは、今のマーガレーテが好きなんだから」
「うん。マギー姉様もアカリ姉様も大好き!」
「やはりアンジェリカが一番の天使様なのでは?」
「うん、異議なし」
「ご納得いただけたようですから、皆様のお世話に入らせていただきます」
「じゃあお願いするよ」
「「お任せください」」
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