“巨”それとも“美”?

マウントを取り合い、変な連帯感が生まれたお茶会後、私は町に繰り出した。

別に用事があったわけじゃなく、なんとなく公爵家本家の人たちとの不意な遭遇を避けただけなので、目的もなく町をぷらぷら。


代官屋敷は石造りのザ・砦って感じなんだけど、さすがに一ヶ月もいると慣れてくる。

古城を改装したホテルに長期滞在してるような感覚です。


町にも何度か買い物や散策に出てはいたけど、何度来ても中世ヨーロッパ感がすごくて、こちらは来る度に楽しい。

遺跡とかじゃなくて、みんながその場所で実際に生活してるから、中世にタイムスリップしたような感覚になるの。


店先に並んでる商品にも変化があるし、遊んでる子どもたちの遊びも違う。

石造りの街並みが、ちゃんと生活空間として見えるの。


ただね、注意点がひとつ。

楽しくてきょろきょろあたりを見ながら歩くと、足首ひねる。

なんせ自然石をそのまま埋め込んだ石畳だから、結構でこぼこしてるんだよ。

ヒールの高い靴なんて、絶対捻挫するな。


楽しく歩いて広場のオープンカフェみたいな場所に来たら、なにやらおっちゃん同士が胸ぐら掴み合ってる。

罵り合ってるけど、料理を盗ったとか酒を飲まれたとか言ってるし。

お互い顔が赤いから、昼間から酔っ払ってるな。


周りの人たちも囃し立てて煽ってるから、今にも殴り合いになりそうな気配。

娯楽が少ないから人の喧嘩も一種の娯楽なんだろうけど、真っ昼間から子どももいる場所で喧嘩するのは止めろ。


二人に頭からバケツサイズの水球落としててやった。


一瞬にして騒ぎが静まり、皆が上を向いてる。

ははは、そんなでかい雨粒は無いぞ。今日、晴れてるし。

ずぶ濡れだから、喧嘩なんかしてないで、早く家に帰って着替えなさい。


広場を抜けて服屋さんの前に来たら、奥にディアンドルっぽい服発見!

服は紺色だけど、エプロンが白地に小さめの赤い水玉で、裾には赤のボーダー。腰のリボンも赤で大きめなので、すごく可愛い。


く、不覚!! 胸、盛りすぎた!

サイズが合いそうだったので試着したら、胸がきつくて押し上げられ、谷間が強調された。谷間どころか、上側にはみ○ちしとるがな!

私、セクシー路線は目指してないから!!


服屋のおねえさん、羨ましそうにしないで。私的にこれはアウトです。

精霊なのにサキュバス系はあかん!


でも着たい! こんなに可愛い服、こっちの世界じゃ早々お目にかかれないんだから見逃すわけにはいかない! 買って帰る!!


ベストに縦スリット入れてあて布するか? だけどおなかや腰が結構絞られたデザインだから、胸のデカさが強調されてしまう。

シルエット的にも、なんかエロい気がする。


お屋敷で用意してもらった服は、胸でサイズを合わせてるから他がだぼだぼ。

しかも最近移動は歩きだから、足元見えないと石畳や階段が怖い。


……削れってこと?


これはかなりのジレンマ。

前世“貧”だった私としては、お胸は欲しい。

だけど、最近邪魔だと思うこともしばしば。

そして、本体が成長しても分体と同サイズにならなかったらと、少々不安。


仕方無い。“巨”じゃなくて、“美”にしよう。


代官屋敷に戻り、客室に鍵かけてお風呂場に籠りました。

頑張って“美”にしなきゃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る