マヌエラ 1/2
「お祖母様、お呼びと伺いましたが?」
「分かっているのでしょう。どういうことなの!?」
「アンジェリカは頑張っているでしょう?」
「頑張りで済む話ですか!? あの子はまだ五歳よ。公爵家で英才教育を受けているマーガレーテでも、五歳の頃にあのような会話は無理だったわ。それに、魔法の繊細さではアンジェリカが上を行っています。十二歳のマーガレーテよりもうまく人形を操るなんて、ありえないでしょう!?」
「ははは、やはりお気に入りの人形遊びを披露しましたか。ですがそれは、すべてアンジェリカの頑張りと判明しています」
「……それほどまでに頑張っているということなの?」
「確かに頑張ってはいますが、常軌を逸した頑張りではございませんよ。身体など壊さず、毎日が楽しそうです」
「あれほどのマナーや会話術、それに人形を違和感なく操る魔法まで身に付ける時間を過ごして、楽しそう?」
「そうなのです。ネタばらしをすれば、知識や技術を身に着けるのが楽しいことだと、実感させられているのです」
「させられている?……誰に、どのようにですか?」
「臨時にご滞在頂いている薬師殿によって、人形遊びでです」
「ますます疑問が増えました。ひとつずつ解消しましょう。まず第一に、“殿”付で呼んでいるのに、“ご滞在頂いている”? 言葉は間違っていないのですね?」
「はい。薬師殿は、ご自身が平民とおっしゃっています。ですが、ちぎれかけた腕を元通り繋ぎ、卒中で意識不明の者を快癒させ、溺死したはずの子どもを生き返らせる。そして原因不明の高熱で意識が保てないアンジェリカを、たった一時間ほどで原因を特定して微熱程度にまで回復させてしまう技能をお持ちです。もう敬ってしまうしかありませんよ」
「そんなこと、高名な医師ですら無理よ! 本当なの!? それほど高度な医療技術をお持ちなら、授爵が当然よ。なのに平民? しかも医師ではなく薬師を名乗る?」
「当人は医師ではなく薬師、それに平民だと言い張っておりますので」
「…あなたの言葉遣いがおかしかったのには納得したわ。だけど、なぜ薬師がアンジェリカと人形遊びをするの?」
「薬師殿の治療はほとんどが魔法でして、あまりに見事な魔法に、アンジェリカの魔法指導をお願いしました。そうしたらあの人形たちを作り、アンジェリカと人形遊びを始めたのです。結果、アンジェリカは一ヶ月ほどで、古参の魔法兵以上の魔法が使えるようになっています」
「古参の魔法兵よりも!? …あなた、わざと疑問が増えるように話していないかしら?」
「いいえ。薬師殿のことを語ると、ありえないことが次々と現実に起こっていますから、疑問が増えてしまうのも仕方がないかと」
「…分かりました。では、なぜ人形遊びが魔法の修練になるの?」
「魔法の習熟には、大きな魔法を使うより、小規模で繊細な魔法を使い続けることが最適だそうです。その結果が今のアンジェリカの実力です」
「まさか、その情報もその薬師様が?」
「ええ、簡単に教えてくれました。それとお祖母様、あくまで平民の薬師“殿”です」
「失礼したわね。ですがいくら素晴らしい薬師殿でも、レベル0の人間にあれ程魔法を使わせるのは無理です。薬師殿からの進言だったとしても、五歳の幼子を魔獣討伐に同行させるのは――」
「お言葉を遮って申し訳ありませんが、アンジェリカは魔獣討伐になど行っておりません。薬師殿が、秘技にてアンジェリカをレベルアップしております」
「魔獣を討伐せずにレベルアップですって!?」
「気は確かですよ。秘技とのことでしたので方法は教えていただけませんでしたが、アンジェリカは現在レベル4、もう数日でレベル5になり、魔法の講義は終了だそうです」
「…それでは引き止める理由が無くなってしまいますね。召し抱えることは無理かしら? 引き続きアンジェリカの魔法指導をお願いすることは?」
「両方とも無理でしょう。当初薬師として召し抱える話をしましたが、あくまで日雇いで臨時の薬師。しかも新薬の実験に同意した者しか治療しないことを条件に、何とか滞在いただきました」
「そのような条件を出すほど薬師として拘っているのね。しかも臨時の日雇いを条件にするなんて、本当は長居したくないけれど、医師や薬師不足だから仕方なく滞在するということですか。魔法指導の方は?」
「これ以上は危険かと。アンジェリカが、宮廷魔導師を超える強者になります」
「言い切りましたね。それほどですの?」
「今のアンジェリカに攻撃魔法を見せれば、たちまち使えるようになると」
「攻撃魔法なんて、誰も見せられないでしょうに」
「……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます