ドールハウスの効果

自分のポンコツ具合に悩んでたら、フランツ様からお茶のお誘いがきた。

アンジェリカ様のことで相談があるから、二人でお茶しようって。


承諾してメイドさんに案内されたのは、あの庭の大きなガゼボ。

密室じゃない場所チョイスは、相変わらず気を使ってもらってるな。


あれ? アンジェリカ様の専属侍女であるブリジットさんがいる。

この時間、アンジェリカ様もお茶してるんじゃないの? 離れてていいの?


「アカリ嬢、お茶への同席、感謝する。アンジェリカの件なのでブリジットも呼んだが、良いだろうか?」

「お誘いどうも。私はいいけど、アンジェリカ様の傍を離れて大丈夫?」

「お気遣いありがとうございます。お嬢様は現在、公爵家のお客様とお茶を楽しんでおられます」

「え、じゃあフランツ様もそっち行った方が良くない?」

「来ているのは私の祖母と姪だ。アンジェリカの両親が長くここを離れておるから寂しい思いをしているであろうと、祖母が姪を連れて会いに来てくれた。私は挨拶を済ませているし、夕食でまた会うから問題ない」

「ああ、女子会になってるのか。それは混ざりにくいね」

「…その通りだ。いい機会だから、アンジェリカのことを相談しようと思ってな」

「はいはい。どんな相談事?」

「単刀直入に聞くが、アンジェリカの魔法、おかしくないか?」

「え? 何かおかしい?」

「なぜここの魔法兵より、うまく魔法が使える?」

「そうなの? でもそれは、アンジェリカ様が頑張ってる証拠じゃない?」

「そうなのだが…。なぜ五歳のアンジェリカが、古参の魔法兵より大きな水球を作れるのだ?」

「あ~、それかぁ…。困ったな、理由は話せるけど、なぜそうなったかは、秘技に近いから話せない」

「秘技? 理由は何なのだ?」

「理由は、アンジェリカ様がレベルアップしてるから。だけどどうしてレベルアップしたかは話せないの」

「待ってくれ! アンジェリカは魔獣討伐などしていないぞ!! なぜそんな……ああ、すまん。秘技で話せないのだったな。魔獣を倒さずともレベルアップできるなど、確かにとんでもない秘技だ。おいそれと話せるものではないな」

「ご理解を感謝します。アンジェリカ様は現在レベル4。レベル5になったら上げるのは止めて、私の魔法講義は終了の予定よ」

「レベル5なら、貴族家の女性としては十分だな。普通は騎士団や兵団で守りながら魔獣討伐してレベルを上げるのだが、ご令嬢の中には嫌がって討伐に同行せぬ者も多いから…うん? 待て。比較した魔法兵はレベル6だぞ。なぜレベル4のアンジェリカが上回れる?」

「そこがアンジェリカ様の頑張りなのよ。魔素制御頑張ってるから魔素の掌握率が高くなって、魔法の発現規模が大きくなってるの」

「……その知識は秘技の一部ではないのか? 世の魔導師たちが、目の色を変えて欲しがりそうな情報だ」

「え? 魔素の動きををよく観察すれば、誰でも気付くと思うけど?」

「その情報も秘匿した方がいいぞ」

「そうなの? じゃあ、魔素制御力は小さくて繊細な魔法で鍛えられるっていうのは大丈夫?」

「それも秘匿した方がいい。……なるほど。アンジェリカの魔法がおかしいのに納得がいった。あの人形遊びで、魔素制御力が魔法兵より高くなっているということだったか」

「そうね。レベル6の人より水球が大きいなら、その人より四倍以上魔素の掌握率が上がってるわね。アンジェリカ様、頑張ってるなぁ」

「四倍以上っ? なぜそうなる!?」

「だって、レベルがふたつ違ったら、魔素の掌握範囲は四倍だよ。その人より水球が大きかったのなら、四分の一の範囲で同等以上の魔素を掌握したんだから、掌握率は四倍以上になってるじゃない。もっとも、お互いが全力で魔法を行使した場合の比較だけどね」

「……今の話も秘匿すべきだ。魔法については得心がいった。あとは言語能力と計算能力か。ブリジット」

「はい。アカリ様、人形遊びでお使いの数え歌、他の子達に教えてもよろしいでしょうか?」

「え、あんな適当な歌を? 恥ずかしいから私が作ったってバラさなかったら、お好きにどうぞ」

「ありがとうございます。ですがアカリ様のご認識が少々、いえ大きくズレておりますので訂正させてくださいませ。あの数え歌は掛け算を覚えるのに最適です。恥ずかしながら、私も覚えてしまって計算能力が向上いたしました」

「へぇ、そうなんだ。私が掛け算覚えるのに勝手に作った歌だから、そんな便利なものだとは思ってなかったよ」

「あの独特なリズムとテンポ。覚えようとしていなくても頭に入って来てしまうのです」

「あはは、認識は改めておくよ。だけど、言語能力って何のこと?」

「あのお人形遊びのセリフです。実際に街に出た時の人とのやり取りで、相手を不快にさせないような言い回しをお考えになっているようです」

「あ~、それはただの偶然だね。相手が可愛い動物の人形だから、無意識に傷付けたくないって思うのかも」

「さようでしたか。ですがお嬢様は話相手の気持ちをお察しするようになられましたので、会話能力や表現力が見違えるほど良くなっておられますよ。それに、マナーなどを覚えるのはお嫌いでしたのに、楽しく人形遊びするためにマナーを確認されたりするようにもなられました。お嬢様の専属侍女として、心から感謝いたしております」

「いやいや、ほんとただの偶然だから。頭下げられたら、心苦しくなっちゃうよ」

「ただの偶然がそれほどの効果を生むか。アンジェリカの成長をうれしく思うのは私も同じ。過剰なことはせんから、感謝の言葉くらいは贈らせてくれ」

「まあ、それなら受け取るよ。私だってアンジェリカ様が成長してくれるのはうれしいから、うれしい仲間としてね」

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