ホームシック……あれ?
午前中はドールハウスの増設パーツ作ったりたまに来る患者さんに対応したり、午後はマルシェに出かけたり薬草採集に行ったり。
こんな生活サイクルで日々を過ごし、この町に来てから一ヶ月が経った。
町には半分だけど医師や薬師も戻って、最近の私は兵士さんか使用人さんくらいしか診察してない。
私が代官屋敷付きの臨時薬師なんだから、兵士さんや使用人さんは軽傷でも見るの当たり前だよ。
ただ、自分用に作ったアロエクリームがメイドさんたちの間で大好評で、もう作る材料が無い。アロエ、町の近くの森には生えてないんだよ。
一度精霊の森に戻って、量産してくるべきかもしれない。
ジョセさんに頼めば持ってきてくれるけど、精霊の森のみんなに会いたいんだよね。
人付き合いって、よほど信頼を置ける人以外はある程度警戒しなきゃいけない。
私は元人間だからそれが当たり前だったはずなのに、二年も精霊たちに囲まれて暮らしてたから、警戒心持ち続けるのが結構ストレスになってるみたい。
精霊って嘘言わないし、基本親切。楽しいこと大好き。
こんなみんなに囲まれて二年も暮らしてたら、警戒心無くなるって。
まあ親切にしてもらえるのは、私が渡り人だからかもしれないけど。
そんなわけで、ストレス耐性が激落ちな私は、ちょっとホームシックっぽい。
よく考えたら、ここに来た当初から気に入らない人には即座に反抗してた。
あれも、精霊と違って他者に嫌な思いをさせる人間が気に入らなくて、ストレス耐性も激減してたから速攻で反撃しちゃってたんだ。
私ってもう精霊なんだと、初めて実感したよ。
王都の騒ぎが収まって代官様や専属医師たちが帰って来るまではいようと思ってたけど、一度精霊の森に帰るかなぁ…。
……ごめん、訂正。
精霊って、嘘吐かないんじゃない。悪意ある嘘が嫌いなんだ。
ホームシックで精霊の森のこと思い出してたら、冗談を言われたことはあった。
『あのキノコは触ると爆発するから気をつけろ』と言われて驚きかけたところに『ウソウソ、菌を飛ばすだけ』とか『あの雲、時々人めがけて落ちてくるから気をつけなさい』と言われてびっくりしたら『そんなこと、あるわけないでしょ』とツッコミ入れられたり。
私が精霊たちの言うことを何でもホイホイ信じちゃうもんだから、精霊たちが心配して、騙されやすいから気をつけろって指摘されたの。
うん、さらに思い出したよ。前世でもそうだった。
学生時代、あまりにもコロッと騙される私を心配した父が、詐欺の手口や思考誘導、話の裏読みなんかを教えてくれた。何故か私の頭を撫でながら。
だけど父の教えを中途半端にしか身に着けられなかった私は、異常に鋭かったりころっと騙されたりするちぐはぐな大人に育った。
母は私をお馬鹿可愛いと言い、兄は私をポンコツ扱い。父は何も言わずによく頭を撫でてくる。
就職して一人住まいするまでは、実家でそんな扱いでした。
よくよく考えてみたら、私だってこの町に入る時に、田舎の薬師で薬を売りに来たって言ってる。
精霊、嘘吐けます。
精霊のみんなや前世の家族を懐かしんでいたら、何故か孤独感が無くなった。
なんでだろう? 普通家族や親しい人を思い出すと、孤独感強まってホームシックが加速するんじゃないの?
今の私、なんだか心がぽかぽかして、全然寂しくないんだけど?
このあたりが、兄が言うポンコツの所以なの?
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