仮住居 2/2

「それはちょっと羨ましいかも」

「まあ、今回は人間に転生しちゃったんだから諦めろ。それと、俺は木の精霊だから、たとえ精霊の宿ってない普通の木でも切るわけにはいかない。だから木製品は自分で作れよ」

「そっか。…あれ? ツタは色々材料にしちゃったけどいいの」

「あれは俺たち樹木に寄生して、伸びると葉っぱが日光遮るからな。しかも根の近くの土の養分まで盗っていきやがるから敵認定だ」

「そうなんだ。あと、私が木を切るのはいいの?」

「人は生きるために木を切って使うんだろ。明らかに切りすぎじゃなきゃ、それは生きる糧みたいなものだからいいぞ」

「分かった。じゃあ魔法上手くなったら自分で作るよ」

「おう。それと金属製品もだ。俺は本体が傷付けられる可能性がある刃物とかは作りたくないからな。まあ、材料くらいは持ってきてやるよ」

「ありがとう。頑張って調理器具とかも作るよ」

「そうしてくれ。じゃあそろそろ魔素の実食べろ。一番魔素が薄いやつを選んでやる」

「うん、お願い。魔素の実食べたら寝た方がいいんだよね?」

「ああ。人や動物の場合、レベルアップは寝てるうちに細胞が取り込んだ魔素に適応するらしいからな。だがまだ昼にもなってないから、寝るのは夜でいいぞ。これが一番魔素量少ないから、これ一個食べろ」

「うん、そうする。……これ、ほとんど味がしないね」

「それはほとんど水分だし、含まれてる魔素にも味なんて無いからな」

「残念。リンゴがおいしかったから、これにも期待してたのに」

「あのリンゴは精霊樹のリンゴだから美味いんだ。普通のリンゴはもっと小さくて酸っぱいぞ」

「そうなんだ。……ねえ、食料って、しばらくは精霊の森の果実だよね?」

「アカリが動物狩れるようになるまではそうだぞ。ちゃんと毎日運んでやるから心配するな」

「いや、心配事は味なんだよ。おいしい果実ばっかり食べてたら、町や村に行った時に食事に不満が出そう」

「……分かった。なるべく普通の果実探して運んでやるよ」

「面倒ばっかりかけてごめんね?」

「精霊樹になってない果樹も生えてるから、さほど手間は変わらないぞ」

「そうなんだ。……でも、何でもかんでもフウタに頼んじゃってごめんね」

「昨日から謝りすぎだ。俺は渡り人に会ったの初めてだから、手伝いも初めてだ。色々初めてのことを体験できて、かなり楽しいんだぞ。だからもう謝んな。せっかくの楽しい気分がしぼんじまう」

「あ、そうなんだ。ごめ…じゃなくて、色々ありがとう」

「ああ、それでいい。ついでに言っとくが、精霊は人から頼まれごとしても、楽しそうじゃなきゃ手伝ったり助けたりしないからな。他の精霊に会っても、みんなそうだから気を付けろよ」

「うぅぅ。いっぱい助けてもらってるのに何も返せないと、私は謝りたくなるんだよ」

「『何も返せない』は、精霊にとっては確実に間違いだぞ。精霊は楽しいのが一番なんだ。だからちゃんと対価として『楽しい』をもらってるじゃないか」

「…精霊って『楽しい』が対価なの?」

「そうだぞ。精霊化した奴らは、みんな『楽しい』を求めておしゃべりしたりあちこち飛び回ったりしてるんだ。ここはほんとに重要だから、ちゃんと覚えとけよ」

「…それが精霊との付き合い方なんだ。分かった、楽しくなってもらえるように、色々頑張ってみるよ」

「それも間違いだろ。頑張るって、あかりは楽しいのか?」

「う~ん。頑張ってフウタが楽しくなってくれたら、私もうれしいよ?」

「そうなのか。じゃあ間違いじゃないかもな。精霊って、他者が痛い思いしたり苦しんでるのを見ると、楽しい気持ちがしぼんじゃうんだ。だからそこは気を付けろよ」

「うん、分かった」

「よし。じゃあこれから何するんだ?」

「そうだなぁ…。フウタって、私の居た世界のこと聞いたら楽しい?」

「おう。悲しかったり苦しかったりじゃなければ、かなり楽しそうだな」

「じゃあ、いっぱいお話しよう。私の住んでたところは日本っていう国の―――」


この後、私の前世の楽しかった思い出をいっぱい話した。

フウタの反応見てて思ったんだけど、楽しかったことやうれしかったことを話すと、かなり反応がいい。


それと意外なことに、フウタが知らないことにもかなりいい反応をするんだよ。

どうやら精霊は、プラスの感情や知らない知識が好みらしい。


いっぱい話してたら夕方になったので、フウタは機嫌よく帰って行った。

夜の精霊同士のおしゃべりが盛り上がるぞと、レッサーパンダの風貌なのに感情が読めるほどにこにこ顔だったよ。


……あんまり個人的な事話すと、精霊界で話が広まってしまいそう。

話題のチョイスには気を付けよう。


ひとりになっちゃったので、私は魔法の練習を始めました。

明り採りと換気口代わりに開けた窓みたいな穴から外に向け、色々魔法を使ってみます。


修行とかだと辛くて苦しいイメージあるからフウタに叱られそうだけど、前世では使えなかった魔法が使えるんだから、私自身楽しくって仕方ない。


昨日は命の危機的サバイバルだったからそんな余裕なかったけど、とりあえず住む場所と食糧は確保できた。

しかもレベルアップすることで、色々な魔法が使えるようになる未来まで見えてきた。

自由に空を飛べたりしたら、どれほど楽しいことか。

もう、ワクワクが止まらないよ。


しばらく魔法で遊びまくってたら、なんだか力が抜けてきた。

これ、魔力枯渇の前兆らしいから、そろそろ魔法で遊ぶの終わりにしよう。


日が暮れて室内は真っ暗なので、光球作ってリンゴで夕食。

精霊樹リンゴ、めちゃうま~♪


食後の歯磨きも、歯がきれいになるイメージで魔法使ったら、口の中がすっきり。魔法、便利。


でも、その後失敗に気付いた。

お風呂沸かす魔力残ってない。

…今日は早寝して、明日、朝風呂入ろう。


光球や歯磨きでさらに魔力使ってかなりだるくなってきたので、よろよろとハンモックに移動して寝ました。

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