第24話 多すぎる違和感

ぼく達は洋子夫人の部屋を後にして、獣人に襲われた現場を確認するために西条さんに案内され、中庭へと向かっていた。どうしてすぐに案内されないのかは皆ずっと疑問に思っているけれど何故か言い出せない雰囲気が出ていた。

そしてぼく達は現場へと到着した。

「これは····」

「ひでぇ······」

大きなシートで覆われて全貌は見えないが、地面に大量に飛び散った血と思われるその液体は、既に土と混ざり、強烈な臭いを発している。これ以上言葉を発する事が躊躇われるような光景がそこには広がっていた。

「地元の警察がこの辺りを見回っていますが、今の所手がかりはありません。何かヒントとなる物が見つかりましたらすぐにお伝えします」

西条さんはそう言って屋敷へ戻ろうとゆっくりと身体をさせたと同時に、祐葉は遺体が覆われたシートをめくろうと手を伸ばした。


「いけません」


背後から西条さんの声が響き、祐葉は突然の事に驚いたのかビクッと身体を震わせ手を引っ込めた。布は一瞬だけはらりとめくれ、中からは歯車のような物が見えたが、すぐにその姿は隠れてしまった。他の皆は見えたのかな?

「申し訳ありませんが、例え討伐隊の方であろうと既に事切れた亡骸にはこの国の第三者には手を触れさせてはいけないと言われておりますので。何卒ご容赦ください」

西条さんはそう言うとまたゆっくりと足を進めて、ぼく達を屋敷へ一緒に来るように促した。

「この依頼、何か裏がありそうね····」

雪姉ぇのそんなつぶやきに、ぼく達はみんな頷いた。





屋敷へ戻り、西条さんはぼく達をこの国で過ごす上で借りる事になる客室へと案内してくれた。

客室へと移動する中、廊下にかかげられていた大きな2枚の肖像画がぼく達の目に入った。

1枚は先程の洋子夫人と思われる女性が赤ん坊を抱いている絵。

絵の下に『誕生』とタイトルが書かれていて、更にその下に 12月26日と書かれていた。この絵を書いた日なのか、この赤ん坊が産まれた日なのかは分からないけど、何かしらの記念日なのだろう。

もう1枚は10歳前後と思われる男の子の絵だった。こちらには作品名がついていて、「SAKUYA」と書かれていた。この男の子の名前なのだろうか····?こちらにも日付けが書かれてい──ない······?

11月までは書かれているが、その先は空白があり最後に「日」という漢字で締めくくられていた。

どうして日にちだけ空白なんだろう····?ぼくは何が何だか分からなかった。


「こちらで旅の疲れをゆっくりお取りください。では私はお茶の用意を致しますので、しばらく失礼します」

西条さんはぼく達を客室へ案内し終えると、先の言葉を残して部屋を後にした。

「ねぇねぇ、さっきのシート中見えた〜?」

「恵里菜、まさかお前見えたのか?あの時の中身」

「ううん。あたしは何も見えなかったから、誰か見えた人いないかな〜って思って聞いただけ〜」

「私は少なくとも一瞬過ぎて何も見えなかったわ。澁鬼は?」

「オレも何も見えなかった。そもそもめくったシートの丁度反対側にいたしな」

どうやらあの時のシートの中身が見えていたのはぼくだけのようだ。

「シートの中身ならぼく見えたよ。ちょっとだけだけど、歯車みたいなのが見えたよ」

「本当か佐斗葉!? つうか歯車? 何でそんなモンが····」

「分かんないけど、でも確かに見えたよ。手のひらに乗るぐらい小さめのだったけど····」

「佐斗葉の話が本当なら、私が感じた違和感にもちょっと納得が行くわ」

「何〜?雪姉ぇのその違和感って?」

「獣人は人間を喰らう時、骨すらも噛み砕き、内蔵も全てすすり、残るのは飛び散った血だけ。髪の毛一本足りとも残さず喰らう。私たちが襲われた時の村もそうだったでしょ? 死体なんて何一つ残ってなかった」

皆は目を下に向ける。正直ぼくはその時の様子や、獣人が襲ってきた後の事も何も思い出せない。でも雪姉ぇの言葉を誰も否定しないという事は、恐らくそういう事なのだろう。

澁鬼くんは父親が獣人に襲われて亡くなっているため、雪姉ぇの説明に納得したのか、「確かに····」と呟いた。

「オレの父さんもそうだった。獣人に襲われて、残っていたのは血にまみれた身分証明書だけ。さっきみたいに形が残る状態で放置されてるなんて変だ」

「そう。この事件はどこかおかしい。そして西条さんの対応や謎のクイズ、違和感が溢れかえってる。一筋縄じゃ行かなそうね」

雪姉ぇの言葉に神妙な空気が漂った。するとそれを破るかのようにドアがノックされ、洋子夫人が入ってきた。

「皆様どうぞここでゆっくりしてください。こんな部屋しかありませんが、どうか気の向くままにおくつろぎください」

「いえいえ、むしろ勿体ないぐらい立派なお部屋を提供してくれてありがとうございます。」

ぼくは洋子夫人に思わず礼をする。本当にすごく丁寧な方だ。

そこへぼくと同じく礼をした祐葉が前に出て、洋子夫人へ「ところで····」と話を変えた。

「洋子夫人。1つ聞きたい事があるんですが、あの肖像画で抱かれていたお子さんは今この屋敷にはいらっしゃるんですか?お話を聞いてみたくて」


祐葉の問いに対する洋子夫人はぼく達の予想もしないものだった。


「あの絵は私ではありません。そして私は子どもを産んだ事なんてありません。おかしな事を言うのはよしてください」


「────────えっ······?」


ぼく達の思考は停止した。


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