第10話 暗闇の望楼

「さあ、入んな入んな!」

「え…」

「いいから!このババアに遠慮する必要なんて無いんだからね!」

「誰がババアじゃガキ!」

「ババアはババアだろババア!」


背中を押されながら「眠御亭ねむりごてい」と書いてある看板をくぐり、店に入る。


「…おお」


中は閑散とした雰囲気で、真ん中こたつしか無い。部屋の隅に置かれたブラウン管からは謎の音源がでているが、それは少年にとって理解できる言語だ。


「ここは?」

「あんた、夢はあるかい?」

「夢?」

「そう」


「…ある」


「それは?」

「……人を殺す」

「…は?」

「仇がいる。そいつを殺さないと、滅ぼさないと、崩壊は止まらない」


ブラウン管に映像が映る。が、ノイズでもやがかかって何が映っているのか、よくわからない。


「今、あんたが見てる景色がこのオンボロに映ってるってことさ」


おばさんは続ける。


「この店は、あんたの望みがそのまま具現化してあんたの視界に現れる」

「…」

「何が見える?言ってご覧」


魔性の声だ。言ってはダメなことでも言ってしまいそうになる。


「砂嵐…」

「あんた、龍の民だね」

「…なぜ…」


一瞬で見破られたことに少年は驚きを隠せない。


沈黙が、部屋の中に響いていた。

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滅ぼしの龍と甘い珈琲 ただし @TADASHIDACE

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