第2話 俺は死んでいた女の子に恋をした


 夏の夜に向けて追加の短編です。

「俺のバスケの先生は幽霊?」の裏バージョンです。


―――――

 

 俺は、中学校に入ってバスケ部が無かった事でどうすればいいか分からなかった。他の部活に入る気はない。


そんな時、


「君、桂崎祐也(かつらざきゆうや)君でしょ?」

「なんで俺の名前を?」

「私は、渡辺真由美(わたなべまゆみ)。入学した頃からずっと君を見ていたわ」

「それはありがたいけど…」


 渡辺真由美と名乗った女の子は中一にしては背が高く、長い艶やかな髪の毛が腰まで有り透き通るような色白で大きな目が特徴的でスレンダーな女の子だった。


 この時は、それだけで何で声を掛けて来たのか理解出来なかったけど、同じ中学校らしく、その後何かと普段から話す様になった。でも何処のクラスか教えてくれない。いずれ分かるからというだけだった。



 そんな時、俺と同じクラスの男子が、

「桂崎、お前一人で居る時、偶に誰かと話をしている様な事しているけど大丈夫か?」

「えっ、ああ何でもないよ」


 俺が渡辺さんと話をしている時の事を言っているのか。どうせ、羨ましがっているだけだろう。



 そして四月、五月、六月、七月と体育館の隅で一人で空気が少し抜けたボールで隅に片付けられたゴールポストにシュートの真似をしたりドリブルの真似をしている時、


「何しているの?」

「えっ、もう体育館閉まるよ」

「君だっているじゃない」

「それはそうだけど」

「じゃあ、私が相手してあげようか。でもそろそろ宿直の先生が来るわ。来週にしようか」


 そう言うといつの間にかいなくなっていた。そして次の週から土曜と日曜日夜になると現れて

「手伝ってあげる」


 とか言ってパスやドリブルの相手をしてくれた。と言ってもその子も特にバスケとかやっている訳ではなさそうなのでお互いのお遊びみたいなものだった。


 そしてあの人が現れてから渡辺真由美は現れなくなった。学校でも見かけなくなった。

 誰に聞いてもそんな子知らないという。おかしいな。揶揄われている訳ではなさそうなんだけど。



 そして中学卒業と同時に俺は親の仕事の関係で高校時代は東京で過ごす事になった。

 まだまだ下手だったけど、それでも俺の高校はバスケで全国大会に出る位の強豪だった。


 夏休みに入ってお盆の時、急に真由美に会いたくなって、随分前に彼女が教えてくれた家に行ってみた。


 電車で行けば楽に往復できる距離だ。駅から歩いて十五分。道路から少し下がった敷地に大きな家が建っていた。何も考えずにインターフォンを押すと直ぐに出た。


 間違いないあの時の渡辺真由美だった。腰まである長い髪の毛、透き通るような色白で大きな目に間違いはなかった。


 喫茶店でも行かないかと言っても玄関前の石門から出ようとしないのでその場で話をした。何故か昔の話ばかりだ。


 でも俺は住まいが東京なので、毎年夏休みお盆の時だけしか来れなかったけど彼女に会いに来て色々話した。


 食事や散歩に誘ったけど決して石門の外には出て来なかった。理由を聞いても頭を横に振るだけだ。



 俺は高校卒業後、USチームにスカウトされ日本でもニュースになる位活躍した。世界選手権が日本で開催される。


 当然俺は参加の意思表明をしたけど、丁度そんな時、中学時代の同窓会が地元で開かれるという事で文句なく参加した。


 でも彼女は参加していなかった。幹事に聞いても渡辺真由美という人は参加していない。一体誰だと聞かれた。


 そんな俺を桜井さんという子が話かけて来た。

「真由美は都合が悪いから来れない」

「でも、会いたいんだ」

「明日の夕方、午後五時に彼女の家に行けばいい」

 


 話が終わると周りの人が不思議そうな顔をして

「USで有名になると変な特技も出来るのね」

 とおかしな事を言われた。どういう意味だ?



 翌日、桜井さんに言われた午後五時に真由美の家を訪ねて見ると


……………。


 どういう事?


「ふふふっ、真由美に会いたかったんだよね」


 いきなり桜井さんが俺の後ろに現れた。俺は驚きながら

「桜井さん、これは」

「これが事実よ」


 俺の目の前に広がっているのは墓地だった。彼女が決して外に出なかった石門の中に在ったのはいくつもの墓石だ。


「これで分かった。真由美は中学時代、あなたを好きになった。でも重い病気でずっと病院に居た。彼女は時々意識が消える時が有った。あなたに会いに行ったんだと思う。

 そしてあなたが東京に行ってしまってもあなたが必ずこちらに戻って来る事をずっと願っていたわ。

 病気は重くなる一方で治る可能性はほとんどなかった。そんな時どうしても自宅に戻りたいという一心で医者に許可を貰って帰った。

 そして道路をお母さんと一緒に歩いた時、車にはねられて二人共死んだ」


「それって、いつの時?」

「あなたが、東京に行った直ぐ後よ」

「えっ、どういう事?俺は高校時代、毎年真由美に会いに来ていたよ?」

「知っているわ。近所の人が、お盆になるとお墓の石門の前で一人で話をしている人が居るって言っていたもの」

「……そういう事か。真由美を引き殺したのは誰?」

「ごめんなさい。私が悪いの」

「えっ?!」


 後ろを見た時、桜井さんはいなかった。いや消えていた。




 後から聞いた話では、真由美が一時帰宅した時、親と買い物途中だった彼女を同級生だった桜井さんの無免許運転によるハンドルミスで引き殺されたそうだ。


 桜井さんは直ぐに車を降りて真由美の生死を確認したが、頭から大量の血が流れ出て心臓が止まっていた事で気が動転したらしい。


 そして桜井さんは警察からの聴取を受け、一度自宅に帰った時、台所にあった包丁で首を切って死んだらしい。




 それを知った俺は線香と花を持って真由美の墓に行った。あの石門を超えて。


 彼女の墓を見つけると花を添えて線香をあげて


「真由美、ありがとう。俺の為に話してくれていたんだね。俺も好きだったよ。真由美の事。もうゆっくりと休んで」


 手を合わせ長くお祈りした後、石門を超えて帰ろうとした時、声が聞こえた。


 祐也。一番になって。


 後ろを振り返った時、見間違いの無いあの時の真由美が微笑んでいた。


 そして腕には可愛い赤ちゃんが抱かれていた。



 完

―――――

如何でしたか。真由美の腕に抱かれていた赤ちゃんについては読者様に想像の翼を広げて頂ければと思います。

夏も真っ盛り。暑い日が続きます。お体に気を付けて。


面白かったとか、何だこれと思われた読者様、ご評価頂けると夜中なの執筆が浮かばれます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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俺のバスケの先生は幽霊?裏バージョン俺は死んでいた女の子に恋をした @kana_01

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