好きだった異世界系ラノベの悪役に転生した しかし前世の記憶を思い出したと思ったらすでに「ざまぁ」された後でした それまでの悪行により国を追放されたので隣国で傭兵として成り上がります
栗坊
アレグレット傭兵団
騎竜(※戦闘用に訓練された小型の竜種)に乗り、三叉路の脇にある小高い丘の上に待機していた。
仲間たちが上手くやっていれば、そろそろ目標が見えてくるはずである。
やがて100メートルほど前方に逃げ惑う人間たちの姿が見えた。小汚い格好で手には剣や槍など、各々統一性のない武器を持っている。数は300程度。
彼らはこの辺り一帯を荒らし回る山賊たちだ。奴らを討伐するのが今回の任務である。
「全軍突撃」
ジンは後ろにいる部下たちに短く命令を下すと騎竜を走らせ、逃げ惑う山賊たちの中に切り込んだ。
槍で1人、また1人、突き上げていく。
山賊たちはジンの仲間たちからだまし討ちをされて逃げてきたせいか、隊列も組んでおらずバラバラだった。騎竜隊の突撃にはとても耐えられないだろう。
彼らは騎竜隊の突撃に浮き足立ち、騎竜隊が突撃してくる方向とは別方向へ逃げようとする。
しかし彼らが逃げようとした方角を歩兵部隊が塞いだ。仲間のゲンジョウとアリーの部隊だ。
山賊たちは南はジンの騎竜隊。北東、北西からはゲンジョウとアリーの隊の計3つの隊に挟撃される形となった。逃げ場をなくした山賊たちの足が止まる。
ジンは好機と見て足の止まった山賊たちを次々に打ち取っていった。
そんな中、山賊たちの中に一際派手な装飾を身につけた男を見つけた。
おそらく彼がこの山賊たちの
ジンはその頭を槍で後ろから突き上げた。
頭の身体が宙を舞い、ドシンと地面に落ちる。山賊の頭は心臓を一突きされ、絶命していた。
頭が殺されたのを確認した残りの山賊たちはもうダメだと悟ったのか、武器を捨てて降伏し「殺さないでくれ!」と懇願してきた。
ジンはゲンジョウ、アリーの部隊と協力し、降伏してきた山賊たちを全て捕縛した。
山賊たちはこの後、依頼者であるモデラート卿に引き渡す事になる。彼らがその後どうなるかはモデラート卿の采配による。
これで依頼は達成だった。
○○○
ジンはアレグレット傭兵団に所属している傭兵である。
アレグレット傭兵団とは【バレル・アレグレット】を団長とした傭兵団の事で、貴族や商人から依頼を請け負い、その報酬で生計を立てている戦争屋だ。
現在戦闘員が1000名。戦闘には参加せず、物資運搬や鍛冶師などの後方支援をする
ジンは4人いる部隊長の1人で、騎竜隊の指揮を任されていた。
今回の依頼はモデラート伯爵から領内で暴れている山賊たちを討伐して欲しいという内容だった。
モデラート伯領は広大なムジカ帝国の中で帝国東部と南部、そして中央部を繋ぐ重要な場所に位置し、帝国内ではかなり豊かな場所だった。
平野部が多く、人の通行が容易なのである。商人や旅行者が多く訪れ、物の売買が盛んに行われていた。
そこに目を付けられた。
賊が商人や旅行者を襲い、金品を奪うようになったのである。
伯爵も賊の報告を受け次第、騎士たちを派遣して対処に当たらせていた。
しかし中には少々頭の働く賊もいて、山に砦を築き、金品を奪ってはその中に立て篭もるようになったのだ。
山の砦に篭られては流石の騎士たちも対処に手を焼く。
なんせ騎士たちはその名の通り騎兵が主体だ。山の上にある砦を攻める上で騎兵は非常に不利だった。山道では騎兵自慢の機動力は発揮できず、竜に乗っている分面積が大きいので、矢のいい的になる。
ならば降りて戦えばいいと思うかもしれないが、彼らはプライドが高く、竜から降りる事を良しとしなかった。
仕方なく彼らは歩兵である自らの従者たちを突撃させたが、あえなく返り討ちにされた。
騎士たちが手を焼いているうちに賊は徐々に数を増やしていき、最初は数十人だった賊はその数を300人を優に超えるまで増やしていた。
騎士は利己的である。
帝国成立当初は主君のため勇猛果敢に敵に立ち向かっていた彼らも、時が経つにつれ堕落し、今や自らの権利は声高に主張するが、義務はあまり果たさない怠慢な集団と成り果てていた。
伯爵と主従の契約を結んでいるとは言っても、山塞に籠った300人もの賊を討伐するのは骨が折れる。自らが損をしかねない。
騎士たちの軍費は基本的に自腹だ。討伐に苦労すればするほど自分たちが損をする。
騎士たちは屁理屈をこねて段々伯爵の要請に従わなくなった。中には要請は受けたが山塞の前まで行ったのに何もせず、賊を討伐するフリをして報酬をねだった者もいるくらいである。
困った伯爵が頼ったのが傭兵だった。傭兵も金は取るが、騎士たちよりはまともに任務を遂行してくれる。
伯爵から依頼を受けた団長・バレルは4人の部隊長を集めて作戦会議を開いた。
伯爵の話によると山塞は要害化しており、食糧も数ヶ月分は貯えられているという。正攻法で落とそうとするとこちらもかなりの犠牲を払わなくてはならない。
なのでバレルは山賊たちを砦から誘き寄せる作戦を考えた。
その作戦はこうだ。
まず商隊に変装した1部隊が山塞近くの街道を通り、彼らを砦の外に誘き寄せる。
おそらく強欲な山賊たちはより多くの物品を奪うためにほぼ全軍で商隊を襲い、砦の中には最低限の守備兵しか残さないと思われる。
その山賊たちがほぼ出払っている隙に別の1部隊が砦を制圧するのだ。比較的容易に制圧できるはずだ。
次に商隊に変装した部隊は山賊と接触次第変装を解き、武器を抜いて山賊に応戦する。
山賊たちはここで自分たちが襲ったのはただの商隊ではない事に気が付き、砦に逃げ帰ろうとするだろう。
そこで近くに潜んでいたまた別の1部隊が山賊の逃げ道を塞ぐように立ちはだかる。山賊たちはパニックを起こし、兵のいない方向に逃げようと予測される。
その山賊たちが逃げるであろう方向に最後の1部隊を待機させておくのだ。3隊で山賊を挟み撃ちにし、壊滅させる。
作戦を説明し終えたバレルは各部隊長に役割を命じた。
まず商隊に変装するのは傭兵団の中では古株で経験豊かなアリーの隊に命じられた。かなり気を遣う役目が故のベテラン起用である。彼の部隊は基本的に弓隊だが、その気になれば歩兵にも転身もできた。
続いて山塞に突入する役割を4人の中で1番勇敢な歩兵隊長のアミールに、隠れて山賊の逃げ道を塞ぐ役割を同じく歩兵隊長のゲンジョウに命じた。
騎兵隊長のジンは最後に逃げてくる山賊を迎撃する役割をバレるから命じられた。
こうしてバレルの考えてた作戦は上手くいき、山賊たちは一網打尽となった。
頭は死に、残りの山賊たちは捕えた。山の上に築いた砦はアミールによってすでに破壊されているという。
依頼完了の報告をした後、モデラート伯爵は大喜びで団長のバレルに報酬金を手渡した。
「流石アレグレット傭兵団ですな。あなた方に依頼して正解だった」
バレルが金の入った重そうな袋をみんなの前に掲げる。傭兵団から歓声が上がった。
これがアレグレット傭兵団の日常だった。依頼を受けて報酬を貰い、みんなで分ける。
ジンは頭の中でこれで自分の貯金はいくらになっただろうかと計算を始めた。
◇◇◇
※当作品は「お試し連載」となります。1週間ほど連載して評判が良いようなら本格連載に入ります。
※投稿予定
10/5(土)~10/11(金)で1日2話、7時と19時に更新します。計14話。
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