「舌打ち」

低迷アクション

第1話

※下記体験は、あくまで、ひとつの見解、事象として、捉えていただきたい内容である。不快に思う方、特に動物愛護、動物と人の共生に尽力されている方には、嬉しくない話と言う事を留意して、読み進めていただければ、幸いである…


「猫が喋るなんて、気味が悪いし…良くないよ、絶対に…」 


身内と動物特集の番組を見た際の事だ。人の声を真似る? (ゴ・ハ・ン!や、にゃぁに?と言った鳴き声の延長戦のようなもの)


面白動物達のコーナーになった時、上記の言葉が出た。確かに物言わぬから可愛いと思える節もある。猫や犬が人間のように喋った時、果たして愛玩の情が湧くかどうかは、個人的には、自信がない。身内も同じかと聞くと、そうではないと言う。


以下は彼女の体験である…



 身内が結婚し、一軒家を購入した頃と言うから、相当の昔…この物件は、土地の権利を買うのに加え、始めから、ゴミ集積所の一部も購入する事が決まっていた。不動産屋によれば、集積所を買う事は、ゴミを出す権利を得る事と、同じであり、隣近所での見張り合いや、ゴミ出し違反、不法投棄を取り締まる狙いがあると言う。


現に先住のご近所達は、ゴミ出しのルールをしっかり守って、出していたし、その

おかげで、鳥や小動物が荒らす事もなかった。


最も、これは、2軒隣に住む高齢夫婦、Y夫妻の影響が大きかったと言える。


「あの子達だって、お腹が空いてるから」


そう言って彼等は、集積所近くの縁石に、野良猫や鳥用の餌場を作った。利用者の大部分は猫が占め、夜は猫会議状態だったり、花壇に粗相をしてしまう事もあったが、


夫婦の献身的活動で、近所との調和が図れていた。


そんな様子が日常になり、住人も、なんとなく許容し始めていた頃…Y氏の妻が、突然亡くなる。原因は心筋梗塞と、近所の噂で漏れ聞こえてきた。


夫のY氏は落ち込み、考えた末に、引っ越しを決める。身内や近所の人達は別れを惜しがったが、決意は固かった。最も、この引き止めは、彼がいなくなった場合、猫やカラスに餌をあげるのか?あげなかった場合に出る他のゴミ集積所のような被害が出た場合の片づけを誰が担当し、どうするかが?主な理由だった。


身内も正直な所、同じ考えがあり、餌を貰う猫達も同じ様子だった。相方もなく、憔悴しきったY氏の様子をジッと見詰め、餌場の近くから伺うように見える彼等は、どことなく不気味に見えた。普段は餌をもらう際にじゃれつく事もあったが、警戒するよう、Y氏に一切近づかなかったし、鳥達も電線の上に連なって、一声も鳴かずに、人間を眺めていた。


不穏な気配を身内、隣近所全てが感じていたが、全員が黙っていた。口を開けば、自身に責任が回ってくる、そんな雰囲気があったと言う。動物、人間、どちらも暗澹とした雰囲気を漂わせながら、訪れた、Y氏の引越し前、最後のゴミ出しの朝…


身内は、たまたま夫のY氏と居合わせた。次の転居先の事、これからの話をとりとめなく、当たり障りのない会話をしながら (実は、この時、彼女の頭に占めていたのは、引っ越し先が近ければ、餌場の世話を継続してほしいと言う、非常に打算的な目論見があったが、Y氏にその気持ちはないと言う事がわかり、落胆したと話している)


集積所前の道路に足を進めた時…


「あなた」


と言う声を一緒に聞く。それは、酷く嗄れていながら、何処か甲高い、不気味な声で、身内は慄いたと言う。


しかし、隣の氏は、声につられるように、足を前に踏み出した瞬間…


眼前を車が勢いよく走り抜ける。


呆然と座り込んだ氏の、真向かいの道には、数匹の猫が首を伸ばし、彼を凝視していた。


「多分、ゴミの中身を狙ったのよ。自分達に餌を与える者がいなくなるのを察して…最後の餌を目的に…Yさんを轢きかけた車が通りすぎた後、カラスたちが一気に飛び上がってね。連中、車の前に群れて、運転手の視界を悪くしてた。白状なモンだよ。餌をくれた恩人の…故人の声を真似て、殺そうとするなんて…


でも、あくまで、それは人間側の考え、向こうはなんとも思っちゃいないのかもしれない。だから、喋るなんて、変だし、しない方がいい。碌な事にならないから」


最後に、Y氏を狙った猫達は、呆然とする彼に背を向け、走り去っていく。足の爪をアスファルトに引っ掛け、鳴らす、それは、さながら人間の舌打ちのようだった…(終)

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