第19話 波音

○波音

 

 (あ、あれ・・・?俺、何だろう・・・?いま、すっげえイイ気持ち・・・)


 弥太郎は柔らかく”ホワホワ〜ン”とした感触に目を覚ます。


 「トライくん?起きたの?」


 ミクは弥太郎を覗き込んで”ニコリ”と笑う。


 「ミ、ミク・・・?お、俺・・・?」

 「うん。トライくん、お腹いっぱいで眠っちゃったの、ウフフ」

 ミクは笑顔で言う。


 「えっ・・・?俺・・・」

 弥太郎は目を開けて現在の状況に目を見張る。


 「えっ?俺っ?ミ、ミク~っ!?」


 弥太郎は”ガバッ”と起き上がるとミクを見つめて言う。


 「お、俺・・・いま、ミクの膝の上で・・・?」

 「うん」

 ミクは嬉しそうに頷く。


 「お、俺、いま・・・ミクに膝枕・・・?」


 (う、うおおおーーーっ、って、おいっ、俺ーーーーっ、メッチャ幸せじゃん・・・ミクに膝枕・・・ブホッ、マ、マジで・・・は、鼻血が・・・で、出る・・・)


 「どうしたの?トライくん・・・?」


 ミクは”キョトン”と弥太郎に首を傾げる。


 「あ、いや・・・その・・・あの・・・」

 「なあに~?トライくん?」


 「えっ?いや、その・・・お、重くなかった・・・?ミク・・・?」

 弥太郎はミクを気遣う素振りで言う。


 「ウフフ。ぜ~んぜん、重たくなんてなかったよ~?」

 「あ、そ、そうだったんだ・・・、よ、良かった〜・・・」

 弥太郎は胸を撫で下した。


 (フ、フウ~・・・セ、セーフ・・・だよな・・・?俺・・・?)


 ミクは弥太郎の手を取って言う。


 「エリさんもヤマトさんも、もう居ないよ?」

 「えっ?ネエさんは・・・?」

 「うん、スタジオに入りっぱなしなの」


 エリはこの住居を借りた際に、スタジオとして別棟も借りていた。別棟は防音工事も施してあり、音響も整えてあった。


 「ヤマトさんは、お仕事だから」

 「また夜勤の見回りか?」

 「うん、代わりに休ませてあげられるように、いつもの夜勤応援ね」

 「相変わらずのタフだなあ~、ヤマトさん」

 「うん、ヤマトさんらしい・・・」

 ミクは嬉しそうに笑う。


 「ミクは?俺のことをずっと待っててくれたわけ?」

 「うん、そうだよ?」

 「マ、マジ・・・?」

 「うん。だって、トライくん、”ミクは俺と二人きりになりたくないのか〜?”みたいな顔をしてたじゃない・・・?」

 「あ、うん・・・俺、・・・そう言えば・・・?」

 「わたしだって、トライくんと二人になりたいよ?」

 「そ、そうなのか~?ミク~?」

 「うん」

 ミクは頷くとトライの手にキスをする。


 「もっと、いっぱいして?トライくん?」

 「えっ?」

 「キス」

 「えっ?い、良いのか・・・?ミク・・・?」

 「うん」

 ミクは黙って頷く。


 (うおーーー、マ、マジかーーー。ミクってば、もう、超、超、超ーーー可愛いっ、お、俺、や、ヤバイっす・・・)

 弥太郎はミクを見つめる。


 「お、俺・・・」

 「何?トライくん?」


 弥太郎はミクの手を握り返す。


 「お、俺、こ、今夜は・・・離さない・・・」

 「うん、いいよ」

 ミクは弥太郎に微笑む。


 「ミ、ミクは・・・こ、ここで、良いのか?」

 「ベッドが好いの?トライくん?」

 

 (べ、ベッドーーーーっ、イ、良いのかよーーー?ミクーーーっ?)


 「お、俺、ま、まだ・・・ミクの部屋って入ったことが無いよな・・・?」

 弥太郎はミクを見つめる。


 「うん。初めてだよね?」

 「い、良いのかよ・・・?」

 「うん、いいよ」

 ミクは恥ずかしそうに照れた笑いを見せる。


 「か、可愛い・・・」

 「えっ?なあに~?トライくん・・・?」

 「えっ、い、いや~、べ、べっつに〜・・・」

 弥太郎はあまりの”ドキドキ”に挙動不審になる。


 「行こう?」

 「あ、うん、うん・・・」

 弥太郎はミクに手を引かれて廊下を歩いて行く。


 「ミ、ミク・・・?お、俺・・・?」

 「ん~?なあに~?」

 「シャ、シャワーとか・・・浴びなくて良いのかよ?」

 「ウフフ、だって、トライくん?海の時もシャワー浴びなかったよ?わたしたち・・・?」

 「えっ、あっ、そ、そうだったよな・・・アハハ」

 「それに、わたし・・・」

 「えっ?」

 「トライくんなら良いよ?シャワー浴びていなくっても?」

 ミクは部屋の襖を開ける。


 「はい」

 ミクは弥太郎を部屋へと招き入れる。


 「う、うわ~」

 弥太郎は、広々とした和室に驚きを見せる。


 「ごめんね、トライくん。ここは、和室だったからベッドじゃないの・・・」

 ミクは申し訳なさそうに言う。


 「えっ?ぜ、ぜんぜん・・・い、いいよ・・・俺・・・」


 (む、むしろ・・・も、燃えるーーーっ)


 弥太郎はガッツポーズを決め込む。


 「ウッシ」


 「トライくん・・・?」


 「あっ、い、いや・・・こ、こっちのこと・・・ア、アハハ・・・」

 「トライくん、面白いね?・・・可愛い」

 ミクは弥太郎の頬にキスをする。


 ”チュッ”


 (ミ、ミク・・・)


 「お、俺・・・可愛いって・・・俺、そう言う”キャラ”なのかよ~?」

 弥太郎は駄々をこねるように言う。


 「ミクにとって、俺って・・・子ども扱い・・・?俺のこと、一人の男として見てくれてる・・・?」

 弥太郎は泣きそうな顔で言う。


 「ウフフ。トライくんは、立派な男の子でしょう〜?」

 ミクは弥太郎の下半身に視線を落とす。


 「うわっ、お、俺っ、こ、これは・・・」

 「ウフフ」

 「は、恥ずかしいぞ・・・俺・・・」

 「立派な猛りでいいじゃない?」

 「ミ、ミク・・・?ミクってば・・・そ、そう云うことも言えちゃう・・・痴女系・・・だったわけ・・・?」

 「ウフフ。そんなわたしだったら、わたしのことも嫌いになる?トライくん?」

 「ん、んなわけないじゃん・・・」


 (オーライ、オーライ・・・むしろ・・・望むところじゃん・・・)


 弥太郎はミクの腰に手を廻す。


 「い、良いんだよな・・・?ミク・・・?」

 「うん・・・、して・・・?」

 「分かった・・・」


 弥太郎は部屋の灯りを消す。



 ”ザッザ~ン・・・”


  ”ザッザ~ン・・・”

   

   ”ザッザ~ン・・・”


 部屋の外からは波の音だけが聞こえてくる。


 「月明りで良いか?ミク?」

 「うん・・・」


 ミクはすでに目を閉じている。


 (優しく抱くからな・・・ミク・・・)


 弥太郎は障子に透ける月明かりの中でミクの唇にキスをした。

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